思い出の喫茶店

りな

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第一章 喫茶店での再開

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高校二年生の由香は、両親の離婚により、母親と一緒に小学生の頃に住んでいた土地に戻ることになった。

進級したばかりの4月末に、父の浮気が発端した。
もともと仲良しの家族ではなかったので、いずれ離婚することにはなるだろうと、ある程度覚悟はしていた。

由香は昔から、寂しい家族の中を取り持つため、自分がこうしたいと思うことを発言するのを控えて、テストでいい点を取ったり、学級委員を務めたりした。

親が望む良い子を演じてがんばったつもりだったが、あまりうまく行かなかったな、と振り返った。

引っ越しが決まってから、引っ越し作業は淡々と行われた。
久しぶりに戻った田舎は、小学生時代の通学路こそ懐かしく感じてワクワクしたが、新しく編入した先の高校のクラスメイトとは、なかなか馴染めずにいた。
「急に都会から来た転校生」として距離を置かれ、どのグループにも所属することができず、よそよそしい会話やお弁当を一人で食べる日もあり、寂しさを抱えていた。

離婚後に、生活費を稼ぐために飲み屋で忙しく働きだした母親に対して、寂しさを打ち明けることもできず、たまにこっそり家で一人で泣いて過ごした。



そんなある日の下校中、見慣れたはずの雑居ビルの1Fに目に留まった。

なんと由香が小学5年生の頃に閉店したはずの喫茶店に明かりが灯っていたのだった!

喫茶店の外観の年季の入り方は変わっていない。
外に鉄製のゾウの置物が飾られていて、てっきりインド風のお店かと思いきや、内装は西洋風で、メニューとしてはサンドイッチや炒飯が出てきたりする。古びた漫画も置いてある。

その混沌とした雰囲気が好きで、この喫茶店は当時の行きつけとなっていた。

「そういえば両親が喧嘩して、家に居づらい時に、よく喫茶店のおじさんに愚痴を聞いてもらっていたなぁ~」
そんな懐かしい気持ちと少しの期待で入店すると、以前よりかなり年を取ったおじさんが笑顔で出てきた。

見た目で言うと、おじさんというより、もうおじいさんに近いかもしれなくて、切なさを覚えた。これが7年の歳月かぁとしみじみしつつも、おじさんの変わらない笑顔に、由香の心は温かくなった。
 
「おじさん久しぶり!私、由香だけど分かるかな?」

「おぉ分かるよ、もうすっかり一人前のレディになったな」

「レディって…まだガールだよ。このお店再開したんだね、嬉しい」

「ちょうど昨日から再開したんだよ」

「私、都心に住んでたけど、ちょうど先週戻ってきたんだよ。グッドタイミングだね」

「そうか。それじゃまたこのお店をごひいきにしてもらえるかな」

「もちろん!今日はいつものベーコンチーズサンドでお願い」
 
おじさんが厨房に入っている間、店内を見回した。大きく変わっていないように見えて、内装が少し綺麗になっている。これは外装で損してるなぁと思った。何よりも店内にいる人の活気が凄かった。

「あれ、こんなに賑やかなお店だったっけ」と思いつつもおじさんがテキパキ働くのを見て、繁盛していてよかったねと由香は思った。ほんの少しだけ、空いている頃の貸し切り状態のような雰囲気ではなくなった寂しさも感じた。
 
「はいよ、出来たよ。ベーコンチーズサンド」
トマトとベーコンとチーズが絶妙なハーモニーを奏でる逸品である。上手く食べないと、中身がこぼれてしまうほど、具が増し増しにされていた。

「…ありがとう」

「ユカ、もう高校生だろう? 高校進学のために田舎に戻ってきたのかい?」

「いや…えーと、うちの両親が離婚しちゃって、それで転校することになって戻ったの」

「おぉ、それは大変だったな。転校先では上手くやれてる?」

「うーん…それが、なんか寂しくて。なんとなく行き詰ってる感じ」

「ユカの今の人生の第一希望は何だい?」

「何だろう…学校でも友達と呼べるほどの友達はいないし、家でも、あんまりお母さんと仲がいい感じがしなくてさ。それを何とかしたいんだよね。ちゃんと人と繋がりたい。もっと自分に正直に人と話したい」

「そうか、これまでよく寂しさに耐えて頑張ったね。来週さ、常連の皆で鍋パーティする予定だけど、ユカも来たらいいよ。知り合いも増えるかもしれないし、気を遣う必要もないからさ」

「えっ…この店に、私以外にそんなたくさん常連いたんだ」

「おっと、それは失礼じゃない?」

「ごめんって。分かった。来週楽しみにしておくよ」

そう言い、由香はサンドイッチをほおばった。マヨネーズの加減が絶妙で、7年越しに食べても変わらない美味しさだった。涙が溢れそうになった。
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