2 / 6
第二章 ノアとの出会い
しおりを挟む鍋パーティ当日…。
人見知りだと自覚しつつも、人と喋りたい由香は、期待と緊張が入り混じった気持ちで、夜の喫茶店に立ち寄った。
もうすでにほとんどの人が集まり、鍋の準備も整っており、むしろすでに食べられ始めており、にぎやかな雰囲気だった。どうやら今日はカレー鍋みたいだ。
レトルトにおじさん秘伝のスパイスを入れた逸品だ。良い匂いがする。急におなかがすいてきた。
ユカがちょこんと控えめに隅に座ると、おじさんが取り仕切ってくれて、自己紹介から始まった。
占いで生計を立てる人、バックパッカー、手品を披露してくれる人など、様々な人がいて、ワクワクした。
実際に占ってもらったり(今年の由香の運勢は、どうやらまあまあらしい)、鳩を出してもらったりした(カレー鍋食べてる最中だが…)。
こんな人たちが常連だったなんて、小学校の頃に気付くべきだったなと思った。
由香も、自分が転校してきた高校生であること、昔この喫茶店が行きつけであったこと、心おきなく話せる友達が欲しいことを告げた。
ワイワイと雑談で盛り上がる中、異質な存在感を放つのが、赤色で大きなバツが書かれたマスクを着用した、9歳くらいの女の子だった。
由香はギョッとした。いつのまにこの場にやって来たのだろう!
そして女の子は、ちょうど由香の隣の席に座ったため、自己紹介がてら由香から話しかけてみるも、応答がない。
表情も読めない。なんなんだ…この子は。
少し不気味に思っていると、おじさんから「その子はノアというんだ。ちょっと今はお話できないみたいだけど、みんなと仲良くなりたいみたいなんだ」と告げられた。
返事はないし、つまらない子だなと思ったけれど、喫茶店のみんながその子を受け入れている雰囲気があったので、由香もぞんざいに扱うことできなかった。
翌週も、由香は喫茶店を訪れた。するとノアがカウンター席に座っていて、同じくカウンター席が好きな由香は、気まずさを感じつつも仕方なく隣に座った。料理中のおじさんの様子が見えるから、この席がお気に入りなのだ。
「おじさん、今日はカレーにする」と由香が頼んで、
「はいよ」
と返事したおじさんがカレーを持ってすぐ出てきたと思ったら、それはノアの分だった。
思わず目が合ってしまい、バツが悪そうに「…そのカレー美味しいよね。私もよく食べるんだ」と由香が声をかけると、ノアはマスク越しでも分かる笑みを浮かべて頷いた。
あれ…意外と感情はある子なんだ、と先週の印象から一変した。
思ったよりも馴染める子なのかもしれない。
その後、由香は学校での修学旅行の班決めで余りのように扱われた時や、家庭で母親の機嫌が悪い時など、言いようもない寂しさやバツの悪さに襲われた。
…自分でも意見や気持ちを伝えていかないと、相手に歩み寄れないことは分かってはいる。
でも声をかけて嫌な顔をされると嫌だなぁ。
以前、学級委員を務めて、同級生に注意をしたら、露骨に嫌な顔をされた時の記憶が蘇る。
存在を消してたら、無駄に傷つくこともないよね。由香はそう自分に言い聞かせた。
しかし、どこか寂しい気持ちがぬぐえず、喫茶店に訪れた。
ノアは必ずカウンター席に座っていた。
初めて会ったときは、この子に話が通じているのかな...と不安になったが、ノアの表情やうなずきから、彼女が何を表現したいかは、なんとなく分かるようになっていった。
悲しい話を聞くときは、一緒に悲しそうにしてくれたし、この喫茶店のメニューが絶品だった話などをする時は、目を輝かせてくれた。
「ノアは最後まで話を聞いてくれる」という安心感すら芽生えた。
食べ物の好みが似ているのか、喫茶店で注文するメニューが被った時は、お互いに目配せして微笑んだ。
しだいに、いいことがあった時も悲しいことがあった時も、ノアに共有するようになった。まるで友達ができたかのようで、由香は放課後に喫茶店に足を運ぶことが楽しみとなった。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
フッてくれてありがとう
nanahi
恋愛
「子どもができたんだ」
ある冬の25日、突然、彼が私に告げた。
「誰の」
私の短い問いにあなたは、しばらく無言だった。
でも私は知っている。
大学生時代の元カノだ。
「じゃあ。元気で」
彼からは謝罪の一言さえなかった。
下を向き、私はひたすら涙を流した。
それから二年後、私は偶然、元彼と再会する。
過去とは全く変わった私と出会って、元彼はふたたび──
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
【完結】『左遷女官は風花の離宮で自分らしく咲く』 〜田舎育ちのおっとり女官は、氷の貴公子の心を溶かす〜
天音蝶子(あまねちょうこ)
キャラ文芸
宮中の桜が散るころ、梓乃は“帝に媚びた”という濡れ衣を着せられ、都を追われた。
行き先は、誰も訪れぬ〈風花の離宮〉。
けれど梓乃は、静かな時間の中で花を愛で、香を焚き、己の心を見つめなおしていく。
そんなある日、離宮の監察(監視)を命じられた、冷徹な青年・宗雅が現れる。
氷のように無表情な彼に、梓乃はいつも通りの微笑みを向けた。
「茶をお持ちいたしましょう」
それは、春の陽だまりのように柔らかい誘いだった——。
冷たい孤独を抱く男と、誰よりも穏やかに生きる女。
遠ざけられた地で、ふたりの心は少しずつ寄り添いはじめる。
そして、帝をめぐる陰謀の影がふたたび都から伸びてきたとき、
梓乃は自分の選んだ“幸せの形”を見つけることになる——。
香と花が彩る、しっとりとした雅な恋愛譚。
濡れ衣で左遷された女官の、静かで強い再生の物語。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる