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第三章 失恋をめぐるやりとり
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ノアと友達関係になり、喫茶店に居場所ができると、学校でも周囲と馴染めるようになってきた。
カースト制度の中の下くらいの女子グループに所属し、ついに同じクラスの木村君という彼氏もできた!
「ずっと前から好きでした」と言われ、有頂天になった由香は、考える余裕もなく
「はい、私もです」ととっさに応えてしまった。
自宅に帰った時に「…あの時は私も好きってとっさに言ってしまったけど、大丈夫かなぁ」と思いつつも、「相手が好きって言ってくれてるから、まぁいいかな」と思い直した。級友も、祝ってくれているし。
初めの1か月は、LINEで連絡し合う度に、ドキドキした。
恋に恋する状態というのはまさにこのことだろう。
しかし「相手は一体私のどこが好きなんだろう…」と思うと不安になった。
映画やご飯を食べにいくデートですら、自分の意見を出せなかった。
木村君がアクション映画を観たいと言えばアクション映画を見に行き、ハンバーグを食べたいと言えばハンバーグを食べに行った。
木村君が楽しいと思うことは私も楽しいと思うことにする。
それでうまく成り立っていると由香は思っていた。
ところが数か月後、「人に合わせるばかりで何を考えているか分からない」
と木村君から振られてしまった。
「本当は、もっと由香と仲良くなりたかった。でも、いつまで経っても距離があって、仲良くなれない気がして」
そう言われた。
「それじゃ」と去る木村君に何も言い返せず、「私は、どこで間違えてしまったんだろう。せっかく好意を寄せてもらったのに、無駄にしてしまった」と由香はネガティブな気持ちになった。
これから夏休みに入るというのに。楽しいイベントは木村君と過ごすことになるだろうと思っていたのに。
悲しさと惨めさを抱えながら、振られた帰り道に喫茶店の扉を開けると、コーヒーを飲んでいた奥のテーブル席の占い師のおばあさんと目が合った。
由香を見るなり「あんな男とは別れて正解だ、あんたにはもっといい男が居るよ」と声をかけてきた。
その直後には、自称イラストレーターのお兄さんが「南西の方角にこの絵を飾ると幸運が訪れるから…」とピカソ風のイラストを手渡してきた。
飾ったところで果たして私の部屋のインテリアと合うのだろうか。
しかしどうやらこれからの由香の幸運を祈ってくれているらしいということは分かった。
カウンターの隅では、手品師から手品を学び始めたおじさんが、練習で出した鳩に餌を与えている。これからこの鳩をペットとして買っていくつもりだろうか。
ツッコミどころは多かったものの、この人達は自分の時間や世界観を大切にしており、マイペースに私を励まそうとしてくれているのだなと由香は感じた。
それぞれの自由な佇まいに癒された。
「今日はおじさん、鳩の餌やりとかで忙しそうだから、ジュースだけ頼もうかなぁ」と由香が思っていると、
急にノアが後ろから現れて、隣の席に座った。いつも彼女は突然現れるので、ビックリする。まだ慣れない。
マスクに書かれている大きな赤字のバツ印は、いつの間にか消えていた。
そうだ!ノアならいつものように愚痴でも何でも、話を聞いてくれるだろう。
最近のノアは、身振り手振りだけではなく、筆談でコミュニケーションが取れるようになってきた。
「ねぇ、ノア聞いて。今日木村君に振られちゃったよ」と由香が告げると、
【ユカは、木村くんのどこがすきだったの?】とメモを渡してきた。
「えっと…どこがっていうか…そういわれると難しいけどさ」
【すきって言われることがすきだったの?】
「う…」
【木村くんが、ユカとつきあって感じた気持ちは、はじめてユカが私を見たときの気持ちと同じなんだよ】
「…」
ノアは不安と悲しみが混じった顔でじっと由香を見つめた。
この子、かなり鋭い。
由香は核心を突かれて黙った。
人に合わせてばかりで自分の主張をせず、木村君のなすがままになっていた自分は、「不気味でつまらない子」と思われても仕方がない。
それが木村君の本心だったのかもしれない。胸の中心をグサリと貫かれたような感覚がした。
何よりも、初対面のノアは当時の由香にとってはつまらない存在で、
元彼にとっては今の由香そのものというところまで、
ノアが由香のことを見抜いているのだということに、ユカは軽い恐怖すら覚えた。
「…ねぇ、ノアって何者なの?私、自分のことを話すばかりで、ノアのこと何も知らないから、教えてよ」
【それは、そのうちユカが自分で気づくよ】
ノアはメモを手渡すと、寂しそうに微笑んだ。
何かを諦めたような微笑み。
由香もどうにもならないことがあると、同じように微笑んでしまうな…とノアを見ながら思った。
カースト制度の中の下くらいの女子グループに所属し、ついに同じクラスの木村君という彼氏もできた!
「ずっと前から好きでした」と言われ、有頂天になった由香は、考える余裕もなく
「はい、私もです」ととっさに応えてしまった。
自宅に帰った時に「…あの時は私も好きってとっさに言ってしまったけど、大丈夫かなぁ」と思いつつも、「相手が好きって言ってくれてるから、まぁいいかな」と思い直した。級友も、祝ってくれているし。
初めの1か月は、LINEで連絡し合う度に、ドキドキした。
恋に恋する状態というのはまさにこのことだろう。
しかし「相手は一体私のどこが好きなんだろう…」と思うと不安になった。
映画やご飯を食べにいくデートですら、自分の意見を出せなかった。
木村君がアクション映画を観たいと言えばアクション映画を見に行き、ハンバーグを食べたいと言えばハンバーグを食べに行った。
木村君が楽しいと思うことは私も楽しいと思うことにする。
それでうまく成り立っていると由香は思っていた。
ところが数か月後、「人に合わせるばかりで何を考えているか分からない」
と木村君から振られてしまった。
「本当は、もっと由香と仲良くなりたかった。でも、いつまで経っても距離があって、仲良くなれない気がして」
そう言われた。
「それじゃ」と去る木村君に何も言い返せず、「私は、どこで間違えてしまったんだろう。せっかく好意を寄せてもらったのに、無駄にしてしまった」と由香はネガティブな気持ちになった。
これから夏休みに入るというのに。楽しいイベントは木村君と過ごすことになるだろうと思っていたのに。
悲しさと惨めさを抱えながら、振られた帰り道に喫茶店の扉を開けると、コーヒーを飲んでいた奥のテーブル席の占い師のおばあさんと目が合った。
由香を見るなり「あんな男とは別れて正解だ、あんたにはもっといい男が居るよ」と声をかけてきた。
その直後には、自称イラストレーターのお兄さんが「南西の方角にこの絵を飾ると幸運が訪れるから…」とピカソ風のイラストを手渡してきた。
飾ったところで果たして私の部屋のインテリアと合うのだろうか。
しかしどうやらこれからの由香の幸運を祈ってくれているらしいということは分かった。
カウンターの隅では、手品師から手品を学び始めたおじさんが、練習で出した鳩に餌を与えている。これからこの鳩をペットとして買っていくつもりだろうか。
ツッコミどころは多かったものの、この人達は自分の時間や世界観を大切にしており、マイペースに私を励まそうとしてくれているのだなと由香は感じた。
それぞれの自由な佇まいに癒された。
「今日はおじさん、鳩の餌やりとかで忙しそうだから、ジュースだけ頼もうかなぁ」と由香が思っていると、
急にノアが後ろから現れて、隣の席に座った。いつも彼女は突然現れるので、ビックリする。まだ慣れない。
マスクに書かれている大きな赤字のバツ印は、いつの間にか消えていた。
そうだ!ノアならいつものように愚痴でも何でも、話を聞いてくれるだろう。
最近のノアは、身振り手振りだけではなく、筆談でコミュニケーションが取れるようになってきた。
「ねぇ、ノア聞いて。今日木村君に振られちゃったよ」と由香が告げると、
【ユカは、木村くんのどこがすきだったの?】とメモを渡してきた。
「えっと…どこがっていうか…そういわれると難しいけどさ」
【すきって言われることがすきだったの?】
「う…」
【木村くんが、ユカとつきあって感じた気持ちは、はじめてユカが私を見たときの気持ちと同じなんだよ】
「…」
ノアは不安と悲しみが混じった顔でじっと由香を見つめた。
この子、かなり鋭い。
由香は核心を突かれて黙った。
人に合わせてばかりで自分の主張をせず、木村君のなすがままになっていた自分は、「不気味でつまらない子」と思われても仕方がない。
それが木村君の本心だったのかもしれない。胸の中心をグサリと貫かれたような感覚がした。
何よりも、初対面のノアは当時の由香にとってはつまらない存在で、
元彼にとっては今の由香そのものというところまで、
ノアが由香のことを見抜いているのだということに、ユカは軽い恐怖すら覚えた。
「…ねぇ、ノアって何者なの?私、自分のことを話すばかりで、ノアのこと何も知らないから、教えてよ」
【それは、そのうちユカが自分で気づくよ】
ノアはメモを手渡すと、寂しそうに微笑んだ。
何かを諦めたような微笑み。
由香もどうにもならないことがあると、同じように微笑んでしまうな…とノアを見ながら思った。
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