悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です ~前世は病弱、今世は物理最強。魔法もチートも私には勝てません~

みやもと春九堂@月館望男

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【第3部】帝都貴族院・学園無双編 ~学園の洗脳騒ぎは「パイプ椅子」で解決します~

第017話 【悲報】熱血騎士から決闘を申し込まれました。相手は魔剣、こちらは「パイプ椅子」です

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 入学式が終了した直後。大講堂の外で、わたしは一人の少年に呼び止められた。

「待てッ! ヴィータヴェン辺境伯令嬢!」

 燃えるような赤髪に、意志の強そうな瞳。
 アラン・バーンズと名乗った彼は、公式の決闘用装備である白銀の全身鎧フルプレートを身に纏っていた。今朝、正門でわたしが「ご指導」したグレビル伯爵令息の従兄弟らしい。
 バーンズ家、ね。わたしはオルガ先生によって叩き込まれた貴族年鑑と最新の情報とを検索する。
 何人もの高名な騎士を輩出している、中央領地の貴族には珍しい「武」を重んじる家だ。確かにわたしと同年の子息がいたはずだ。貴族院騎士科の期待のホープ、目の前の彼がその人なのだろう。
 ただ、今朝の出来事と目の前の熱血正義漢の存在が妙に噛み合わない。グレビル伯爵令息からあることないこと吹き込まれて巻き込まれたのだろう。お気の毒なことだ。

「貴様の振る舞いは、騎士道精神に反する野蛮なものだ! その歪んだ性根、僕が公式の決闘で叩き直してやる! 申し出を受けろ!」

 入学式早々の決闘申し込み。しかも、相手は騎士科の期待の星。
 周囲の新入生や在校生たちが、色めき立たないはずがない。

 わたしは鉄扇で口元を隠し、ニヤリと笑った。

「あら、熱烈なアプローチですこと。野蛮なのはどちらかしら? ……でも、売られた喧嘩を買わないのは、辺境の流儀に反しますわね」

 わたしは鉄扇をパチンと閉じ、挑戦状を受け取った。

「お受けしますわ、バーンズ様。……場所は、闘技場でよろしくて?」

◆◆◆

 貴族院には、戦闘科目の実習の為、古代魔法文明の遺産を利用した巨大な円形闘技場が備わっている。

 観客席は、入学式から流れてきた生徒や教師たちで既に満員御礼だった。
 「辺境の野蛮な令嬢」対「騎士科のホープ」。最高の見世物だ。

 貴族院に在籍するのは子弟とはいえ面子を第一義にする貴族に連なるものだ。子弟間での衝突は避けようもなく、この闘技場はそうした揉め事を後腐れないようなるべく安全に解決するための設備でもある。

 闘技場の中央。わたしとアランは対峙していた。
 アランは全身鎧に身を包み、殺気立っている。対するわたしは、変わらず淑女のドレス姿のままだ。

「両者の合意があったため、あらゆる武器、命具、魔法の使用を許可する!」

 審判役の教師の声が、魔導マイクを通じて場内に響き渡る。

「ただし、生死に関わる負傷を避けるため、守護結界・防護結界を使用する! 結界の判定により『戦闘不能』と見なされた時点で決着とする!」

 こうしたお定まりのルール説明も、二年次・三年次の上級生達や教師達にとっては見慣れた光景なのだろう。彼らは退屈そうに、しかしこれから始まる「血を見ない殺し合い」への期待に目を輝かせていた。

 結界展開の完了と共に開始の合図が叫ばれる。同時に、アランが動いた。

「来い、我が魂の刃! ――『紅蓮の牙プロミネンス・エッジ』!!」

 彼が叫ぶと、その手に紅蓮の炎をまとった両手剣が顕現した。
 一年生にして既に「命具めいぐ」を、それもあれほど強力な属性剣を具現化しているとは。さすがは期待の星だ。

「うおおおおおっ! アラン様の本気だ!」
「あれが『紅蓮の牙』……! 鉄すら瞬時に溶解させるという魔剣か!」

 観客席がどよめく。単なる装飾ではない、確かな熱量と圧力が、結界越しにも伝わってくるようだった。
 彼の実力は本物だ。ただの温室育ちのボンボンとは一味違う。

「はぁぁぁッ!」

 アランが炎の軌跡を描きながら突っ込んでくる。熱波が肌を焦がす。
 中央の温室育ちにしては、なかなかの気迫だ。

(……なるほど。直撃すれば、さすがのわたしもタダでは済まないわね)

 わたしは身体強化も使わず、最小限のステップで紅蓮の刃を躱した。
 炎がドレスの裾をかすめる。オルガ先生直伝の体術がなければ、黒焦げになっていただろう。

「ちょこまかと……! なぜ武装を抜かない! 貴様の命具を見せてみろ!」

 アランがやや焦り、攻撃が激しさを増す。
 わたしはそれを優雅にいなしながら、闘技場の上空を見上げた。
 強力な防護結界が、ブォンブォンと低い唸りを上げている。

(……よし。あれなら、大丈夫そうね)

 それから目の前の赤毛の熱血漢を、改めて値踏みする。
 彼の目にも動きにも侮りは感じられない。未完成ながら正統派の騎士だ。身体強化も年齢を考えれば上出来な方だろう。鎧にも加護が付与されているのがわかる。
 わたしは内心で安堵のため息をついた。

 北の氷獄を出てから数ヵ月間、日々の鍛錬を欠かさず、また父や騎士達と共に常闇の森の魔獣駆除への参加をしていたわたしだが、武装は魔力で構成した命具……つまりは手加減用の「贋作フェイク」を、さらに弱体化させて使うしかなかった。
 ドワーフ謹製、わたしの魔力で焼き直した「本物オリジン」を抜こうものなら、東の辺境に棲まう魔獣とはいえ、素材がダメになるレベルで粉砕されてしまうからだ。
 わたしのとても頼りになる相棒は手加減が必要な場面では封印せざるを得なかった。

 けれど、ここは安全が保証された公式のリングだ。
 さらに相手の能力や装備にも安心材料がある。

(これなら、どんなに重くて硬い物理で殴っても、死にはしないわよね?)

 わたしは彼との距離を取り、立ち止まった。淑女の笑みを捨て、ヒールの顔になる。

「……良いでしょう。ご希望通り、わたしのとっておきの『相棒』を紹介して差し上げますわ」

 わたしは右手を、足元の濃い影の中へとゆっくりと沈めていった。
 アランが警戒して足を止める。観客席が固唾を飲んで見守る。

 わたしは、影の亜空間「暗闇の間」の最深部に鎮座する、絶対的な質量を鷲掴みにして――。

 そして、一気に引き抜いた。
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