悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です ~前世は病弱、今世は物理最強。魔法もチートも私には勝てません~

みやもと春九堂@月館望男

文字の大きさ
23 / 200
【第3部】帝都貴族院・学園無双編 ~学園の洗脳騒ぎは「パイプ椅子」で解決します~

第023話 洗脳された生徒を盾に? ……甘いですわね、気絶させてしまえば「ただの荷物」です

しおりを挟む
 食堂での派手な宣戦布告から数日。学院内の空気は一変していた。

 わたしに対する恐怖は相変わらずだが、その質が変わっていた。単なる「暴力女」への恐怖から、「理不尽な暴力を破壊する、より強大な暴力」への畏怖と、歪んだ期待へと。
 ミリアを筆頭とする「親衛隊」のメンバーも日増しに増え、わたしの行く先々で勝手に掃除をしたり、道を清めたりしている。正直、歩きにくい。

 そんなある日の放課後。わたしの靴箱に、一通の手紙が入っていた。
 『放課後、旧校舎の裏庭にて待つ。貴様の知りたい「病」の根源について話がある』

 あまりにも古典的で、分かりやすい罠だ。

「……プッ、アハハハハ! 何よこれ、三流の恋愛小説だってもう少しマシな筋書きを用意するわよ?!」

 わたしは手紙をクシャクシャに丸めると、影の中に放り込んだ。
 分かりやすい罠。上等じゃないか。向こうがその気なら、喜んで飛び込んであげよう。

「レヴィーネ様! お出かけですか? お供します!」

 廊下の角から、ミリアが飛び出してきた。頭にバケツを被り、手にはモップを持っている。相変わらず意味がわからない。それってひょっとして武装だったりするの?

「来ないで。邪魔よ」

 わたしは冷たく突き放した。これから向かうのは戦場だ。一般人を巻き込むわけにはいかない。

「で、でも……なんだか嫌な予感がして……」
「わたしの強さを疑うの? 100年早いわよ」

 わたしは彼女の鼻先で鉄扇をパチンと鳴らし、威圧した。
 ミリアはシュンとして立ち止まったが、その瞳には「それでも心配です」という色が滲んでいた。

(……まったく。お節介な信者ファンね……)

 わたしは心の中で苦笑しつつ、一人で旧校舎へと向かった。

◆◆◆

 旧校舎は、現在はほとんど使われていない廃墟同然の建物だ。裏庭は雑草が生い茂り、人の気配は全くない。絶好の「犯行現場」だ。

「ごきげんよう。お呼び出しに応じましてよ、ネズミさん」

 わたしが裏庭の中央で立ち止まり、声をかけると。

 ザッ。

 背後の茂みから、男が姿を現した。先日、食堂で見かけたあの地味な教師だ。

「……よく来たな、ヴィータヴェン。まさか、これほど分かりやすい罠にノコノコとやってくるとは。案外、愚かな娘のようだ」

 教師――いや、工作員は、教師の仮面を脱ぎ捨て、冷酷な暗殺者の目でわたしを見据えた。その手には、毒々しい色をした短剣が握られている。

「あら、買いかぶりすぎですわ。わたくしはただ、退屈な日常に少し刺激が欲しかっただけですもの」

 わたしは優雅に鉄扇を開き、口元を隠した。

「それで――わたくしを『消す』おつもりですの?」

「理解が早くて助かる。貴様は少々、目障りすぎた。我々の計画の最大の障害だ」

 男が指を鳴らす。すると、周囲の廃墟の影から、ゆらりと数人の人影が現れた。
 彼らは学院の生徒たちだった。だが、その目は完全に光を失い、虚ろで、口からは涎を垂らしている。

(……ひどい。完全に理性を焼き切られている)

 彼らは、あの黒いモヤ――精神汚染魔法を限界まで強化され、自我を失った「使い捨ての駒」にされていたのだ。

「彼らは貴様を憎むように調整してある。貴様が彼らを傷つければ、それは『凶暴な令嬢が生徒を襲った』という動かぬ証拠になる。……さあ、どうする? 同級生を殺せるか?」

 工作員が下卑た笑みを浮かべる。生徒を盾にし、社会的にもわたしを抹殺しようという魂胆か。

 わたしのはらわたが、煮えくり返った。

「……三流ね」

 わたしは鉄扇をパチンと閉じ、静かに告げた。

「生徒を利用し、盾にする。それがアンタたちのやり方? ……反吐が出るわ。プロの仕事ですらない、ただの卑怯者の所業よ」

 わたしの体から、隠しきれない怒りの魔力が噴き出した。空気がビリビリと震える。

「――かかれッ! 奴を肉塊に変えろ!」

 工作員の号令で、洗脳された生徒たちが獣のような唸り声を上げて襲いかかってくる。魔法や武器をめちゃくちゃに振り回す、なりふり構わぬ暴行だ。

(……ごめんね。少し、結構、かなり痛いけど、我慢して!)

 わたしは身体強化を発動し、生徒たちの攻撃を紙一重で躱していく。
 そして、すれ違いざまに、彼らの影に干渉した。

「――『影縫かげぬい・連』!」

 わたしの影から無数の黒い棘が伸び、生徒たちの影を地面に縫い付けた。

「ガァッ!?」「ウグゥッ……!」

 足止めされた生徒たちが転倒する。わたしは彼らをなるべく過剰に傷つけないよう慎重にしかし迅速に無力化していく。
 今は黒いモヤをはらっている暇はない。実体化した棘を持つ影が彼らの身体に突き刺さり、全身を拘束した。

「なっ……!? 影魔法の使い手だと!? しかも、これほどの同時制御を……!」

 工作員が驚愕に目を見開く。情報になかったのだろう。ザマァ見なさい。

「さあ、邪魔者はいなくなったわよ。……次はアンタの番ね、三流脚本家さん!」

 わたしは工作員に向き直り、右手を掲げた。

手加減オモチャは無しよ。……アンタには、とびきりの『本物』を味わわせてあげる!」

 わたしは足元の影に、深く深く、手を沈めた。

 ズヌゥッ……。

 影の底から、絶対的な質量と硬度を誇る、ドワーフ謹製の物理最強鈍器――「漆黒の玉座オリジン」が、その威容を現した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

前世ブラックOLの私が転生したら悪役令嬢でした

タマ マコト
ファンタジー
過労で倒れたブラック企業勤めのOLは、目を覚ますと公爵令嬢アーデルハイトとして転生していた。しかも立場は“断罪予定の悪役令嬢”。だが彼女は恋愛や王子の愛を選ばず、社交界を「市場」と見抜く。王家の財政が危ういことを察知し、家の莫大な資産と金融知識を武器に“期限付き融資”という刃を突きつける。理想主義の王太子と衝突しながらも、彼女は決意する――破滅を回避するためではない。国家の金脈を握り、国そのものを立て直すために。悪役令嬢の経済戦争が、静かに幕を開ける。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

【完結】異世界で幽霊やってます!?

かずきりり
ファンタジー
目が覚めたら、豪華絢爛な寝室……に、浮かぶ俺。 死んだ……? まさかの幽霊……? 誰にも認識されず、悲しみと孤独が襲う中で、繰り広げられそうな修羅場。 せめて幽霊になるなら異世界とか止めてくれ!! 何故か部屋から逃げる事も出来ず……と思えば、悪役令嬢らしき女の子から離れる事が出来ない!? どうやら前世ハマっていたゲームの世界に転生したようだけど、既にシナリオとは違う事が起きている……。 そして何と!悪役令嬢は転生者! 俺は……転……死?幽霊……? どうなる!?悪役令嬢! ってか、どうなるの俺!? --------------------- ※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています。

王女殿下のモラトリアム

あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」 突然、怒鳴られたの。 見知らぬ男子生徒から。 それが余りにも突然で反応できなかったの。 この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの? わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。 先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。 お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって! 婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪ お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。 え? 違うの? ライバルって縦ロールなの? 世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。 わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら? この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。 ※設定はゆるんゆるん ※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。 ※明るいラブコメが書きたくて。 ※シャティエル王国シリーズ3作目! ※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、 『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。 上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。 ※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅! ※小説家になろうにも投稿しました。

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

【完】相手が宜しくないヤツだから、とりあえず婚約破棄したい(切実)

桜 鴬
恋愛
私は公爵家令嬢のエリザベート。弟と妹がおりますわ。嫡男の弟には隣国の姫君。妹には侯爵子息。私には皇太子様の婚約者がおります。勿論、政略結婚です。でもこればかりは仕方が有りません。貴族としての義務ですから。ですから私は私なりに、婚約者様の良い所を見つけようと努力をして参りました。尊敬し寄り添える様にと努力を重ねたのです。でも無理!ムリ!絶対に嫌!あからさまな変態加減。更には引きこもりの妹から明かされる真実?もう開いた口が塞がらない。 ヒロインに隠しキャラ?妹も私も悪役令嬢?ならそちらから婚約破棄して下さい。私だけなら国外追放喜んで!なのに何故か執着されてる。 ヒロイン!死ぬ気で攻略しろ! 勿論、やられたら倍返ししますけど。 (異世界転生者が登場しますが、主人公は異世界転生者では有りません。) 続編として【まだまだ宜しくないヤツだけど、とりあえず婚約破棄しない。】があります。

悪霊令嬢~死した聖女憎悪に染まりて呪いを成す~

女譜香あいす
ファンタジー
 数え切れない人々をその身に宿す奇跡の力で救ってきた少女、サヤ・パメラ・カグラバ。  聖女と称えられた彼女であったが陰謀の末に愛した者から婚約破棄を言い渡され、友人達からも裏切られ、最後には命を奪われてしまう。  だがそのとき感じた怒りと悲しみ、そして絶望によって彼女の心は黒く歪み、果てにサヤは悪霊として蘇った。  そして、そんな彼女と世を憎みながらもただ生きる事しかできていなかった一人の少女が巡り合う事で、世界に呪いが拡がり始める事となる。  これは誰よりも清らかだった乙女が、憎悪の化身となりすべての人間に復讐を果たす物語。 ※この作品は小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...