悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です ~前世は病弱、今世は物理最強。魔法もチートも私には勝てません~

みやもと春九堂@月館望男

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【第7部】黄金の都・カジノ&地下闘技場編 ~借金1億? ならば筋肉とプロレスで倍返しですわ~

第055話 黄金の都:スロットで大当たり? いいえ、チンピラをデコピンで壁に埋めて「大儲け」です

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 ゴールド・ベガス。
 大陸最大のカジノ都市であり、欲望と金が渦巻く眠らない街。

 港に降り立ったわたしたちは、まずは港湾エリアにそびえ立つ最高級ホテル「ロイヤル・オーシャン」へとチェックインを済ませた。
 ……といっても、荷物を部屋に放り込んだだけだ。
 なぜなら、わたしの可愛い仲間たちの目が、窓の外に広がる魔導ネオンの海を見て、ギラギラと輝いてしまっていたからだ。

「レヴィちゃん! 行こう! 善は急げだよ!」
「時は金なり、です! 市場調査は鮮度が命!」

「はいはい、わかったわよ」

 わたしはコンシェルジュに手配させた、ホテル専用の「VIP送迎馬車」に乗り込んだ。
 漆塗りの車体に、金細工の装飾。牽引するのは白馬ではなく、魔力で駆動する最新鋭の「魔導馬」だ。
 無駄に派手で、成金趣味全開だが、この街にはよく似合っている。

 馬車は整備された大通りを滑るように走り、街の最奥、最も巨大で煌びやかな建物――カジノホテル「グランド・パレス」の正面玄関へと横付けされた。

「……ほう。これはなかなかのものね」

 一歩足を踏み入れると、そこは別世界だった。
 吹き抜けの巨大なホールは、昼間のように明るい魔導照明で照らされ、何千人もの人々でごった返している。
 右を見れば、無数のスロットマシンやカードテーブルが並ぶ遊戯エリア。
 左を見れば、高級酒や軽食を提供する屋台やラウンジが軒を連ねる飲食エリア。
 バニーガールのような衣装を着た給仕たちがカクテルを運び、勝利の歓声と敗北の悲鳴が音楽のように混じり合う。

 まさに、大人のための「終わらないお祭り」だ。

「うわぁ……! 見て見てレヴィちゃん! あのスロット、台の傾き加減と魔力放出の波長が最高だよ!」
 アリスが、獲物を見つけた猛獣のような目つきになる。

「レヴィーネ様! あちらの飲食エリア、富裕層向けの屋台が並んでいますが……『決定的な何か』が足りません! お金の匂いがプンプンしますよ!」
 ミリアもまた、電卓を片手に鼻をひくつかせている。

 ……やれやれ。わたしの従者たちは頼もしい限りだわ。

「好きになさい。……ただし、あまり羽目を外しすぎないようにね」

「はーい!」
「御意に!」

 二人は弾丸のように、それぞれの戦場――カジノフロアと飲食フロア――へと消えていった。
 わたしは一人、優雅に鉄扇を開き、この喧騒の海を泳ぐことにした。

 ――数時間後。

 わたしは、ロビーでとんでもない光景を目にしていた。

 カジノフロアの一角が、異様な熱狂に包まれている。
 その中心にいるのは、アリスだ。

「来る……来るよ! 確率変動の波が!」

 彼女はスロットマシンの前で、何やらブツブツと呪文のようなもの(乱数調整の計算式らしい)を唱えながらレバーを叩いていた。

 ガシャコン! キュインキュインキュイーン!!!

 派手な音と共に、コインが滝のように溢れ出す。
 ジャックポットだ。しかも、今日に入って十回目らしい。

「すげぇ……あの姉ちゃん、また当てやがった!」
「スロットの女神だ!」

 周囲のギャンブラーたちが拝み始めている。
 アリスは山積みのコインを前に、「ふふん、前世の廃課金兵をナメないでよね!」とドヤ顔をしている。

 一方、ラウンジの方からは香ばしい匂いが漂ってくる。

「さあさあ! 紳士淑女の皆様! これぞ東洋の神秘、『黄金のペーストミソ』を使ったディップですよ!」

 ミリアだ。
 彼女はカジノの厨房を借り(どうやったのよ)、即席の屋台を開いていた。
 提供しているのは、スティック野菜に特製ミソ・ディップを添えたもの。

「おお! なんだこの深いコクは!」
「塩辛いのに甘みがある……酒が進むぞ!」

 富裕層たちが、見たこともない調味料に舌鼓を打ち、次々と高額なチップを置いていく。
 ミリアは魔導計算機電卓を片手に、不敵な笑みを浮かべている。

「……たくましいわね、本当に」

 わたしはため息をつきつつ、騒ぎの中心から離れようと歩き出した。
 その時。

「おい、そこの姉ちゃん。いい体してるじゃねぇか」

 道を塞ぐように、柄の悪そうな男たちが数人、ニヤニヤしながら立ちはだかった。
 肩には刺青、腰にはナイフ。典型的なカジノのゴロツキだ。

「俺たちと遊ばないか? 金ならあるぜ?」

 男の一人が、馴れ馴れしくわたしの肩に手を伸ばそうとする。

(……ああ、やっぱり。治安が悪いって素晴らしいわね)

 わたしは鉄扇を閉じたまま、一歩も動かずにため息をついた。

「遊びたいなら、命をチップにしてから出直していらっしゃい」

「あぁ? なめた口を……」

 男が腕を掴もうとした瞬間。

 パチンッ。

 乾いた音がした。
 わたしが男の額に、デコピンを一閃した音だ。

「あ……?」

 ドォォォォン!!!

 男の体が、砲弾のように吹き飛んだ。
 そのままカジノの壁に激突し、綺麗に人型の穴を開けて埋まる。

「「「ヒィッ!?」」」

 残りの男たちが腰を抜かす。
 わたしは鉄扇で口元を隠し、冷ややかに見下ろした。

「……あら、失礼。虫が止まっていたもので」

 カジノ内が静まり返る。
 だが、その静寂を破るように、ゆっくりとした拍手が響いた。

「――素晴らしい。実に、素晴らしい暴力だ」

 カジノの奥、VIPエリアへと続く階段から、葉巻をくわえた一人の男が降りてきた。
 仕立ての良いスーツ。指には高価な魔石の指輪。そして、その目には底知れぬ欲の光が宿っている。

 男は不敵な笑みを浮かべ、カジノのオーナー、ドン・ゴルドーと名乗った。

「カジノ荒らしの女神に、謎の調味料売り。そして、素手で人を壁に埋める怪力美女……。面白い客人が来たものだ」

 ゴルドーはわたしたち三人を順に見渡し、にんまりと笑った。

「どうだね。私の部屋で、少し『ビジネス』の話をしないか?」

 アリスとミリアがわたしの後ろに集まる。
 二人のポケットはコインと札束でパンパンだ。

「レヴィちゃん、どうする? なんかラスボスっぽいのが来たよ」
「レヴィーネ様、あの指輪……高いです。お金の匂いがします!」

 わたしはゴルドーを見返し、ニヤリと笑った。

「ええ、いいでしょう。……ちょうど、退屈していたところですもの」

 黄金の都での最初の夜。
 わたしたちは、自ら虎穴へと足を踏み入れた。
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