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【第7部】黄金の都・カジノ&地下闘技場編 ~借金1億? ならば筋肉とプロレスで倍返しですわ~
第058話 激闘:路地裏の達人と筋肉のダンス。最後は「投げっぱなしジャーマン」で美しく決めますわ
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デビュー戦での秒殺劇から、数日が過ぎた。
わたしは連日連夜、デカゴンのマットに上がり続けていた。
二日目、三日目。相手が誰であろうと、結果は同じだった。ゴングが鳴り、わたしが軽く手を出し、相手が吹き飛ぶ。
カジノの客たちは、「確実に勝つ」わたしへの賭けに殺到し、わたしの勝利に熱狂し始めていた。
だが、わたしの心はどこか冷めていた。
手応えがない。熱がない。このままでは、ただの「作業」だ。
そんなある日の昼下がり。
わたしは「カジノの気取った飯は肌に合わない」と、変装もせずにスラム街の屋台へ足を運んでいた。
喧騒とスパイスの匂い。こっちの方が性に合う。
「おやじさん、タコス3つ。一番辛いやつで」
わたしが注文して席に着くと、向かいに座っていた無精髭の男が、ニカッと笑いかけてきた。
「お嬢ちゃん、いい身体してるねぇ。……飾りじゃねえ、実戦の筋肉だ」
男は四十代半ばだろうか。ボサボサの髪に、着古したシャツ。
一見するとただの昼行灯だが、ジョッキを握るその指はごつごつと節くれ立ち、首の太さは常人の倍はある。
「あら、おじ様こそ。その指のタコ……ただの酔っ払いじゃありませんわね?」
「へっ、バレたか。昔取った杵柄さ」
男はゲイルと名乗った。
わたしたちは意気投合し、筋肉談義やトレーニング論で盛り上がった。
彼はわたしが話題の新人「レヴィーネ」であることに気づいているようだったが、あえて言及はしなかった。
「おじさまは何を使うの? 魔法? それとも武器?」
わたしが尋ねると、ゲイルはタコスを頬張りながら肩をすくめた。
「なにも? もっぱら素手喧嘩専門の無手勝流ってやつさ。嬢ちゃんこそ、相当『使う』だろう?」
「あら失敬ね。あそこではまだなにも見せていないわよ?」
「ハハッ! 違いない! いやぁ嬢ちゃんとやった連中には、おっさんが面倒見てる若ぇのもいたんだが、いやはや、ああも簡単に飛ばされちゃったんじゃあ、なんの為に面倒見てるんだか……」
ゲイルは苦笑しながら、ボリボリと後頭部をかいた。
「おじさまの弟子がいたの?」
わたしはここ数日で吹っ飛んでいった対戦相手達を思い出そうとしたが、目の前にいる「本物の使い手」の薫陶を受けているような骨のある闘士は、一人も思い浮かばなかった。
「まぁ弟子ってほどのもんじゃない。誰かに教えるってぇのがどうにも得手じゃないらしくてな。せいぜい簡単にくたばらんようにってくらいのもんだ」
彼は寂しげに笑い、ジョッキを煽った。
その横顔には、自分の技術を継がせることができないまま消費されていく若者たちへの、諦念のようなものが滲んでいた。
――そして、その夜。
デカゴンのリングで、わたしたちは再会した。
「……悪いな嬢ちゃん。上の命令でね」
対戦相手として現れたゲイルは、自嘲気味に笑った。
「今日は『粘ってから負ける』のが仕事なんだ。……おっさんは借金持ちの奴隷闘士なんでね」
「……つまらない顔ね。アンタほどの使い手が、そんな鎖に繋がれているなんて」
ゴングが鳴る。
瞬間、空気が変わった。
派手な殴り合いはない。静かな組み手争い。
わたしが手首を掴めば、ゲイルは重心移動だけで外し、逆にバックを取る。わたしが足を取りにいけば、ゲイルは回転して逃れ、ネックロックへ。
そこからの展開は、わたしの予測を遥かに超えていた。
ゲイルは狙いを首から肘関節へ、肘から肩へ、肩から手品のように足首を掴まれたと思えば、一瞬にして羽交い締めにされる。
わたしが『シャツを脱ぐように』体を滑らせて拘束を解き、手首を獲って投げれば、途端に下から大木のような両足で首を挟まれる。
わたしが前転しながら抜け出して同じように足を首で狙えば、ゲイルは蛇のように身体をしならせて逃げる。
まるで演舞のような、しかし一歩間違えれば骨が折れる、極限の技術戦。
(すごい……! 力じゃない、魔法でもない! 純粋な『理合い』だけでわたしの身体強化をいなしている! 獣の穴の師範代クラス……いいえ、組み技に関してはそれ以上!?)
「……はぁ、はぁ。楽しいねえ。こんなに熱くなったのは何年ぶりだか」
「ええ。最高のダンスよ」
互いに汗だくになりながら、グラウンドで膠着状態になる。
観客からは「なんだよ地味だなー!」「殴れよ!」と野次が飛ぶが、わたしたちの耳には届いていない。二人は、ただ目の前の攻防に没頭し、笑い合っていた。
「さて……もっと楽しみたいが客が焦れる。それにおっさんはそろそろ体力の限界なんでね」
ゲイルが小声で囁き、あえて隙を作った。
「……最後は派手に決めてくれよ、悪役さん」
わたしはその意図を汲み、一瞬の寂しさを感じつつも、プロとして応えた。
「――ええ。極上のやつを!」
わたしはバックを取り、出力一割ながらも身体強化フルパワーで彼を持ち上
「投げッ……ぱなしッッ!!!」
ゲイルは美しい弧を描いてマットに沈み、満足げに目を閉じた。
翌日。
再び屋台で会ったゲイルは、首に包帯を巻いていた。
「あらおじさま、昨夜は素敵なダンスをどうも――かなうなら鎖のない場所で、もっと踊りたかったわ」
わたしが声をかけると、ゲイルは苦笑しながら包帯をさすった。
「よせやい。最後はスタミナ切れで俺の負けさ。……しかし、あの投げの威力とキレ。尋常じゃねえな」
ゲイルは真剣な眼差しでわたしを見た。
「嬢ちゃん、どこでそんな技を覚えた? ……まさか、『北』か?」
「ええ。ハニマル領の『獣の穴』よ」
「まいったな! よりにもよって『獣の穴』出身かよ!!」
ゲイルは大仰に天を仰いだ。
「どうりで化け物じみてるわけだ。……あそこの総帥とは、昔一度だけ手合わせしたことがあるが、岩盤に叩きつけられて三日三晩動けなかったぜ」
「ここにくる前は何をしていたの?」
「そうだな、西にも東にも南にもいったよ。どこに行ったって腕っ節で飯を喰ってきたが、まあ通じない相手だっているってことさ」
ゲイルは遠い目をした。
「特に『南』の連中は凄かったな。あそこじゃあ、派手なマスクを被って空を飛ぶような奴らが、英雄として崇められてるんだ」
「マスク……?」
(もしかして、ルチャ・リブレ……?)
わたしの前世の記憶が刺激される。
南の国、マスクマン、空中殺法。間違いない。
「だが、おっさんはここで足を止めちまった。……『獣王ガルフ』にな」
ゲイルの顔が曇る。
「あいつはこの地下闘技場の絶対王者だ。俺も何度も挑んだが、あのタフネスと馬鹿力には勝てなかった。……若ぇもんの面倒をみたりしているうちに、何度か大きい怪我もしてな。あとはあれよあれよという間に鎖のついた借金奴隷落ちさ」
「……そう」
わたしは拳を握りしめた。
この男ほどの使い手が、理不尽なシステムと暴力によって消費され、飼い殺しにされている。
許せない。
「つまんねぇ話しちまったな。このまま行きゃあ嬢ちゃんは遠くないうちにアイツと当たるだろ。健闘を祈るぜ……死ぬなよ」
ゲイルは残った酒を飲み干し、席を立った。
その背中を見送りながら、わたしは決意を固めた。
(待っていなさい、おじさま。……貴方が勝てなかった壁も、貴方を縛る鎖も、わたしが全部へし折ってあげる)
わたしの中に、明確な目的が生まれた。
単なる金稼ぎではない。ここにある理不尽を粉砕し、彼らを解放する。
それが、最強の悪役令嬢の仕事だ。
わたしは連日連夜、デカゴンのマットに上がり続けていた。
二日目、三日目。相手が誰であろうと、結果は同じだった。ゴングが鳴り、わたしが軽く手を出し、相手が吹き飛ぶ。
カジノの客たちは、「確実に勝つ」わたしへの賭けに殺到し、わたしの勝利に熱狂し始めていた。
だが、わたしの心はどこか冷めていた。
手応えがない。熱がない。このままでは、ただの「作業」だ。
そんなある日の昼下がり。
わたしは「カジノの気取った飯は肌に合わない」と、変装もせずにスラム街の屋台へ足を運んでいた。
喧騒とスパイスの匂い。こっちの方が性に合う。
「おやじさん、タコス3つ。一番辛いやつで」
わたしが注文して席に着くと、向かいに座っていた無精髭の男が、ニカッと笑いかけてきた。
「お嬢ちゃん、いい身体してるねぇ。……飾りじゃねえ、実戦の筋肉だ」
男は四十代半ばだろうか。ボサボサの髪に、着古したシャツ。
一見するとただの昼行灯だが、ジョッキを握るその指はごつごつと節くれ立ち、首の太さは常人の倍はある。
「あら、おじ様こそ。その指のタコ……ただの酔っ払いじゃありませんわね?」
「へっ、バレたか。昔取った杵柄さ」
男はゲイルと名乗った。
わたしたちは意気投合し、筋肉談義やトレーニング論で盛り上がった。
彼はわたしが話題の新人「レヴィーネ」であることに気づいているようだったが、あえて言及はしなかった。
「おじさまは何を使うの? 魔法? それとも武器?」
わたしが尋ねると、ゲイルはタコスを頬張りながら肩をすくめた。
「なにも? もっぱら素手喧嘩専門の無手勝流ってやつさ。嬢ちゃんこそ、相当『使う』だろう?」
「あら失敬ね。あそこではまだなにも見せていないわよ?」
「ハハッ! 違いない! いやぁ嬢ちゃんとやった連中には、おっさんが面倒見てる若ぇのもいたんだが、いやはや、ああも簡単に飛ばされちゃったんじゃあ、なんの為に面倒見てるんだか……」
ゲイルは苦笑しながら、ボリボリと後頭部をかいた。
「おじさまの弟子がいたの?」
わたしはここ数日で吹っ飛んでいった対戦相手達を思い出そうとしたが、目の前にいる「本物の使い手」の薫陶を受けているような骨のある闘士は、一人も思い浮かばなかった。
「まぁ弟子ってほどのもんじゃない。誰かに教えるってぇのがどうにも得手じゃないらしくてな。せいぜい簡単にくたばらんようにってくらいのもんだ」
彼は寂しげに笑い、ジョッキを煽った。
その横顔には、自分の技術を継がせることができないまま消費されていく若者たちへの、諦念のようなものが滲んでいた。
――そして、その夜。
デカゴンのリングで、わたしたちは再会した。
「……悪いな嬢ちゃん。上の命令でね」
対戦相手として現れたゲイルは、自嘲気味に笑った。
「今日は『粘ってから負ける』のが仕事なんだ。……おっさんは借金持ちの奴隷闘士なんでね」
「……つまらない顔ね。アンタほどの使い手が、そんな鎖に繋がれているなんて」
ゴングが鳴る。
瞬間、空気が変わった。
派手な殴り合いはない。静かな組み手争い。
わたしが手首を掴めば、ゲイルは重心移動だけで外し、逆にバックを取る。わたしが足を取りにいけば、ゲイルは回転して逃れ、ネックロックへ。
そこからの展開は、わたしの予測を遥かに超えていた。
ゲイルは狙いを首から肘関節へ、肘から肩へ、肩から手品のように足首を掴まれたと思えば、一瞬にして羽交い締めにされる。
わたしが『シャツを脱ぐように』体を滑らせて拘束を解き、手首を獲って投げれば、途端に下から大木のような両足で首を挟まれる。
わたしが前転しながら抜け出して同じように足を首で狙えば、ゲイルは蛇のように身体をしならせて逃げる。
まるで演舞のような、しかし一歩間違えれば骨が折れる、極限の技術戦。
(すごい……! 力じゃない、魔法でもない! 純粋な『理合い』だけでわたしの身体強化をいなしている! 獣の穴の師範代クラス……いいえ、組み技に関してはそれ以上!?)
「……はぁ、はぁ。楽しいねえ。こんなに熱くなったのは何年ぶりだか」
「ええ。最高のダンスよ」
互いに汗だくになりながら、グラウンドで膠着状態になる。
観客からは「なんだよ地味だなー!」「殴れよ!」と野次が飛ぶが、わたしたちの耳には届いていない。二人は、ただ目の前の攻防に没頭し、笑い合っていた。
「さて……もっと楽しみたいが客が焦れる。それにおっさんはそろそろ体力の限界なんでね」
ゲイルが小声で囁き、あえて隙を作った。
「……最後は派手に決めてくれよ、悪役さん」
わたしはその意図を汲み、一瞬の寂しさを感じつつも、プロとして応えた。
「――ええ。極上のやつを!」
わたしはバックを取り、出力一割ながらも身体強化フルパワーで彼を持ち上
「投げッ……ぱなしッッ!!!」
ゲイルは美しい弧を描いてマットに沈み、満足げに目を閉じた。
翌日。
再び屋台で会ったゲイルは、首に包帯を巻いていた。
「あらおじさま、昨夜は素敵なダンスをどうも――かなうなら鎖のない場所で、もっと踊りたかったわ」
わたしが声をかけると、ゲイルは苦笑しながら包帯をさすった。
「よせやい。最後はスタミナ切れで俺の負けさ。……しかし、あの投げの威力とキレ。尋常じゃねえな」
ゲイルは真剣な眼差しでわたしを見た。
「嬢ちゃん、どこでそんな技を覚えた? ……まさか、『北』か?」
「ええ。ハニマル領の『獣の穴』よ」
「まいったな! よりにもよって『獣の穴』出身かよ!!」
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「ここにくる前は何をしていたの?」
「そうだな、西にも東にも南にもいったよ。どこに行ったって腕っ節で飯を喰ってきたが、まあ通じない相手だっているってことさ」
ゲイルは遠い目をした。
「特に『南』の連中は凄かったな。あそこじゃあ、派手なマスクを被って空を飛ぶような奴らが、英雄として崇められてるんだ」
「マスク……?」
(もしかして、ルチャ・リブレ……?)
わたしの前世の記憶が刺激される。
南の国、マスクマン、空中殺法。間違いない。
「だが、おっさんはここで足を止めちまった。……『獣王ガルフ』にな」
ゲイルの顔が曇る。
「あいつはこの地下闘技場の絶対王者だ。俺も何度も挑んだが、あのタフネスと馬鹿力には勝てなかった。……若ぇもんの面倒をみたりしているうちに、何度か大きい怪我もしてな。あとはあれよあれよという間に鎖のついた借金奴隷落ちさ」
「……そう」
わたしは拳を握りしめた。
この男ほどの使い手が、理不尽なシステムと暴力によって消費され、飼い殺しにされている。
許せない。
「つまんねぇ話しちまったな。このまま行きゃあ嬢ちゃんは遠くないうちにアイツと当たるだろ。健闘を祈るぜ……死ぬなよ」
ゲイルは残った酒を飲み干し、席を立った。
その背中を見送りながら、わたしは決意を固めた。
(待っていなさい、おじさま。……貴方が勝てなかった壁も、貴方を縛る鎖も、わたしが全部へし折ってあげる)
わたしの中に、明確な目的が生まれた。
単なる金稼ぎではない。ここにある理不尽を粉砕し、彼らを解放する。
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