悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です ~前世は病弱、今世は物理最強。魔法もチートも私には勝てません~

みやもと春九堂@月館望男

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【第10部】東の島国・トヨノクニ開国(物理)編 ~悪役令嬢、黒船になる。鎖国? ならば「開国(物理)」して、美味しいお米と温泉をいただきます

第090話 蹂躙:南蛮の黒鬼、土俵に立つ。……横綱だろうが、物理演算の前では「飛ぶ物体」に過ぎません

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 大会当日。
 オワリ城の広場に設けられた特設アリーナは、異様な熱気に包まれていた。
 ノブナガが各地から集めた猛者たち、そして物見高い観客たちが、立錐の余地もないほど詰めかけている。
 その中には、痩せ細った農民たちの姿も多かった。彼らは皆、飢えを忘れ、目の前の「祭り」に救いを求めているようだった。

「東~! ナゴヤの星、テッポウ山~!」
「西~! 南蛮の黒鬼、レヴィーネ~!」

 呼び出しの声と共に、わたしが土俵に上がると、歓声とどよめきが入り混じった轟音が響いた。
 わたしの衣装は、ミリア特製の「和風バトルドレス(スパッツ仕様)」。動きやすく、かつエレガント。背中にはV&C商会のロゴが入っている。

「なんだあの格好は!?」
「女が土俵に上がっていいのか?」
「でも、すげぇ美人だぞ……!」

 観客たちの反応は様々だ。
 だが、対戦相手のテッポウ山は、以前の「体験入門」で投げ飛ばされた屈辱を晴らそうと、殺気立っていた。

「へっ、また会ったな嬢ちゃん! 今度は油断しねえぞ! 土俵の外まで弾き飛ばしてやる!」

 テッポウ山が四股を踏むと、ドスン! と土俵が揺れた。
 さすがはプロ。気迫が違う。さすがに今回は油断もないようだ。

「……ふふ。いい面構えね」

 わたしは悠然と仕切り線に立ち、手をついた。
(身体強化……出力二割)

「はっけよい、のこった!!」

 行司の軍配が返る。
 テッポウ山が弾丸のように突っ込んでくる。

「ぶちかましィッ!!」

 150キロの巨体が、トップスピードで激突する。普通の人間なら、内臓破裂で即死だ。
 だが。

 パンッ!

 わたしは一歩も引かず、正面からその巨体を「掌底」で受け止めた。
 左手一本で。

「な、にィッ!?」

 テッポウ山の突進が、完全に停止する。
 衝撃波がわたしの背後へ抜け、土俵の砂を巻き上げる。

「あら、ごめんなさい。……少し強すぎたかしら?」

 わたしはニッコリと笑い、半歩踏み込むと掌底を押し込んだ。

 ドォォォンッ!!!

 テッポウ山は悲鳴を上げる間もなく、わたしの腕力だけで吹き飛ばされた。
 巨体が宙を舞い、観客席の最前列(空けておいた砂かぶり席)へと落下する。

 ズザァッ……。

 砂埃の中、テッポウ山は白目を剥いて気絶していた。

 シーン……。

 一瞬の静寂の後、爆発的な歓声が上がった。

「す、すげぇぇぇぇッ!!」
「あんな巨体を片手で!?」
「黒鬼! 黒鬼!」

 わたしは優雅に手を振り、土俵を降りた。

「予選? ……準備運動にもならないわね」

 その後も、わたしの快進撃は止まらなかった。
 二回戦、三回戦。相手が誰であろうと、結果は同じ。
 張り手一発で回転させ、デコピンで弾き飛ばし、時には「ジャーマンスープレックス」で芸術的に沈めた。
 わたしの物理筋肉の前に、既存の相撲テクニックなど無意味だった。

 そして、ついに決勝戦。
 わたしの前に立ちはだかったのは、異様な姿をした力士だった。

◆◆◆

「東~! 公儀隠密部隊が生み出した最終兵器~! 機械化力士、コンゴウ山~!!」

 ズシン、ズシン、プシューッ!

 現れたのは、全身を黒光りする鉄の装甲で覆い、背中から蒸気を噴き出している、巨人のような男だった。
 いや、男ではない。人と機械を融合させた、サイボーグだ。
 妖刀の力と、ラノリアから流出した古代技術を悪用して作られた、殺戮マシーン。
 その体重は、優に500キロを超えているだろう。

「……なるほど。将軍家からの刺客、というわけね」

 わたしは目を細めた。
 観覧席の貴賓席には、ノブナガが身を乗り出してこちらを見ている。彼もまた、この刺客の存在を知りながら、あえてわたしにぶつけたのだ。「これくらい倒せなければ、手は組めん」とでも言うように。

「ターゲット確認。……排除スル」

 コンゴウ山の目が赤く光り、機械的な音声を発した。

(ちょっとは楽しめそうね……身体強化は最小限で!)

「はっけよい、のこった!!」

 ドォォォォォンッ!!!

 正面衝突。
 わたしとコンゴウ山が、土俵の中央で激突した。
 衝撃波が広がり、最前列の観客の髪が逆立つ。

「ぐっ……! さすがに、重いわね……!」

 わたしは歯を食いしばった。
 重い。単純な体重差だけではない。蒸気機関による推力が加わり、まるで走る列車を受け止めているようだ。
 足元の土俵がミシミシと悲鳴を上げ、わたしの足が土にめり込んでいく。

「圧力上昇。……粉砕スル」

 プシュァァァッ!!

 コンゴウ山の背中のパイプから蒸気が噴出され、さらに圧力が強まる。
 わたしはじりじりと後退させられる。土俵際、徳俵に足がかかる。

「キャーッ! レヴィちゃん!」
「負けないでください! 今夜のお米がかかっています!」
 アリスとミリアの悲痛な声援。

 お米。
 そう、お米だ。
 わたしは、あの「極上の米」を手に入れるためにここにいる。
 こんな鉄屑風情に、わたしの食卓を邪魔されてたまるか!

「……調子に乗るんじゃないわよ、ブリキ人形がッ!」

 わたしは踏ん張った。
 大腿四頭筋、ハムストリングス、広背筋、そして脊柱起立筋。
 全身の筋肉を連動させ、爆発的なパワーを生み出す。

「わたしの筋肉は……蒸気機関なんかより、熱くて強いのよッ!!」

 ドクンッ!!

 心臓が早鐘を打ち、気力が血管を駆け巡る。

「ぬんッ!!!」

 わたしはコンゴウ山の突進を正面から受け止め、逆に押し返した。
 鉄の装甲がミシミシと音を立てて歪む。

「警告。出力限界……警告……」
「限界? ……こちとら、限界なんてとっくに超えてんのよ!」

 わたしはコンゴウ山のまわし(鉄製ベルト)をガシッと掴んだ。
 そして、一気に体勢を低くし、相手の懐に潜り込む。

「見せてあげるわ。……物理と重力のマリアージュを!」

 わたしは500キロの鉄塊を、櫓を担ぐように垂直に引っこ抜いた。

「うおおおおおおおおっ!!」

 リフトアップ。
 観客が総立ちになる。ノブナガが杯を握り潰す。
 わたしはコンゴウ山を頭上に掲げたまま、一瞬静止してみせた。

「――『大陸粉砕コンチネンタル・パワーボム』ッッ!!!」

 ズドォォォォォォォォォォンッ!!!!!

 わたしは全身全霊を込めて、鉄塊を土俵に叩きつけた。
 凄まじい轟音と共に、土俵が爆発したかのように弾け飛び、地面が陥没する。
 衝撃でコンゴウ山の装甲が弾け飛び、蒸気が暴走して白い煙が立ち込めた。

 シーン……。

 煙が晴れると、そこにはバラバラになったコンゴウ山の残骸と、その中心で拳を突き上げるわたしの姿があった。

「勝負ありィッ!!」

 行司の声が響くと同時に、アリーナが揺れるほどの大歓声が爆発した。

「すげぇぇぇぇッ!」
「本当に勝っちまった!」
「クロオニ! クロオニ!」

 わたしは息を整え、貴賓席のノブナガを見上げた。
 彼は立ち上がり、ニカッと笑って拍手を送っていた。その目は、「合格だ」と語っている。

「……ふぅ。いい運動になったわ」

 わたしは鉄扇を取り出し、優雅に仰いだ。
 勝った。
 これで、米一俵はわたしのものだ。
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