悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です ~前世は病弱、今世は物理最強。魔法もチートも私には勝てません~

みやもと春九堂@月館望男

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【第10部】東の島国・トヨノクニ開国(物理)編 ~悪役令嬢、黒船になる。鎖国? ならば「開国(物理)」して、美味しいお米と温泉をいただきます

第091話 同盟結成:美味い米と味噌汁があれば、天下だって取れますわよね?(赤味噌の誓い)

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 大相撲大会の興奮が冷めやらぬ夜。
 オワリ城の大広間では、盛大な祝勝会が開かれていた。
 主役はもちろん、優勝者であるわたし、レヴィーネ・ヴィータヴェンだ。

「ガハハハハ! 痛快、痛快! まさかコンゴウ山をあそこまで完膚なきまでにガラクタにするとはな! あの決まり手『大陸粉砕・パワーボム』といったか? 余も真似してみたいものよ!」


 上座に座るオダ・ノブナガが、盃を片手に豪快に笑う。
 彼の周りには、屈強な家臣たちが控えているが、皆一様にわたしを警戒し、あるいは畏怖の目で見つめている。無理もない。わたしは彼らにとって、得体の知れない「南蛮の妖怪」なのだから。

「お褒めに預かり光栄ですわ。……さて、約束の品を頂けるかしら?」

 わたしは単刀直入に切り出した。
 名誉も地位もいらない。欲しいのは、あの「極上の米」だ。

「うむ。約束は守る。……だがその前に、貴様らからも『もてなし』を受けるとしようか」

 ノブナガが指差したのは、広間の中央に運び込まれた巨大な鍋だった。
 ミリアが指揮を執り、アリスが魔導コンロの火加減を調節している、V&C商会特製のちゃんこ鍋だ。
 ただし、今回はいつもの塩味や醤油味ではない。

 グツグツグツ……。

 鍋の中で煮えたぎっているのは、赤黒く濃厚なスープ。
 そこから立ち上る香りは、鼻腔を強く刺激する、大豆の熟成された旨味と渋味。

「……ほう。この匂い、オワリ名物の赤味噌ではないか」

「ええ。この領地で採れた赤味噌と、わたしの仲間が作った味を融合させた、特製『赤味噌スタミナちゃんこ』ですわ」

 ミリアが蓋を開ける。
 湯気と共に、強烈な香りが広間に充満する。ニンニク、ショウガ、そして唐辛子のスパイシーな香りが、赤味噌のどっしりとした風味と混ざり合う。

「食ってみよ、ということか。……よかろう!」

 ノブナガは椀を受け取ると、具材ごとスープを豪快に啜った。
 豚肉、油揚げ、ゴボウ、そして煮崩れ寸前の豆腐。それらが濃厚な味噌スープを吸い込んでいる。

 ズズッ……ガツガツッ!

 ノブナガの動きが止まる。
 家臣たちが固唾を飲んで見守る。

「……くっ、ぅぅ……!」

 ノブナガが唸り、そしてテーブルをバンッ! と叩いた。

「美味いッ!! なんだこの暴力的な味は! 舌を殴りつけるような味噌のコク! そして後から押し寄せる野菜の甘み! 全身の血が滾るわ!」

「でしょう? 白いご飯にかけても最高よ」

 わたしも茶碗にタカニシキ(新米)をよそい、その上から赤味噌ちゃんこをぶっかけた「猫まんまスタイル」で頬張る。
 口の中で、銀シャリの甘みと赤味噌の塩気が爆発的な化学反応を起こす。
 美味い。美味すぎる。これはもう、飲み物だ。

「気に入った! レヴィーネよ、貴様やはり只者ではない!」

 ノブナガは立ち上がり、わたしに盃を差し出した。

「どうだ、余と手を組まんか? 貴様の力と知恵、そしてこの『食』があれば、腐りきったトヨノクニを洗濯できる!」

 同盟の申し出。
 願ってもないことだ。この国を変えるには、強力な後ろ盾と、実行部隊が必要だ。

「ええ、喜んで。……ただし、条件がありますわ」

「申してみよ」

「わたしたちの商会活動の自由、そして……この国の人々が腹一杯食べられる世の中を作ること。それがわたしの『野望』です」

「ガハハハ! 小さい、小さい! だが、最高に貪欲だ!」

 ノブナガが笑い飛ばしたその時だった。

「殿! お待ちくだされ!」

 家臣団の中から、一人の古株らしき老臣が進み出てきた。

「どこの馬の骨とも知れぬ異人を、あまつさえ南蛮の女を同盟相手になど、オダ家の恥でございます! しかも、将軍家に弓引くような真似を……!」

「……サクマか。貴様、まだそんな古臭いことを言っておるのか」

 ノブナガが不機嫌そうに目を細める。
 だが、老臣サクマは止まらない。周囲の保守的な家臣たちも、「そうだそうだ」と声を上げる。

「この女は危険です! 妖術を使い、相撲の神聖な土俵を汚した! 直ちに斬り捨てるべきです!」

 サクマが抜刀しようと刀に手をかける。
 場の空気が一瞬で凍りつく。
 せっかくの食事が台無しだ。

 わたしは、箸を静かに置いた。
 そして、サクマを冷ややかに見下ろした。

「……食事中に騒ぐのは、マナー違反よ」

 わたしは席を立ち、ゆっくりとサクマに歩み寄った。
 私の足が畳を鳴らす音だけが響く。

「な、なんだ貴様! 近寄るな!」

「あなた、相撲の土俵を汚したと言ったわね? ならば……」

 わたしは鉄扇を開き、口元を隠してニヤリと笑った。

「文句があるなら、今ここで勝負なさい。この場を『リング土俵』に見立てて、わたしを倒してみせればいいわ」

「おのれ、女だと思って……!」

 サクマが刀を抜き、斬りかかってくる。
 遅い。止まって見える。
 わたしは避けることすらせず、抜かれた刀の峰を、人差し指と親指でパシッと挟んで止めた。

「なっ……!?」

「真剣白刃取り・指先バージョン。……この程度の剣でお米を守れると思って?」

 パキンッ。

 指先に力を込めると、鋼鉄の刀身が飴細工のようにへし折れた。

「ひぃッ!?」

 腰を抜かしたサクマの鼻先に、わたしはデコピンの構えを突きつけた。

「古い慣習、偏見、そして諦め。……それらがこの国を腐らせているのよ。消えなさい」

 バチンッ!

 風圧だけのデコピン。
 それだけでサクマのまげがほどけ、彼は白目を剥いて気絶した。

「……他に、文句のある方は?」

 わたしが家臣団を見回すと、全員が青ざめて首を横に振った。
 完全制圧。

「見事だ……!」

 ノブナガが立ち上がり、拍手をした。

「レヴィーネよ。貴様のその強さ、そして揺るぎない信念エゴ。まさに鋼の如しだ」

 彼は懐から、一枚の書き付けと、豪勢な短刀を取り出した。

「貴様に新たな名を与えよう。……『黒鉄くろがね』。オダ家の客将として、そして余の盟友として、その名を名乗るがよい!」

 黒鉄レヴィーネ。
 悪くない響きだ。わたしのドレスと、相棒(玉座)の色だ。

「ありがたく頂戴しますわ。……さあ、冷めないうちにちゃんこの続きをしましょう?」

 こうして、オワリのうつけ者と、南蛮の悪役令嬢による、最強にして最凶の同盟が結成された。
 赤味噌とちゃんこの湯気の向こうで、この国の歴史が大きく動こうとしていた。
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