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【第11部】トヨノクニ黄金狂時代(ジパング・ラプソディ) ~技術と筋肉の力技で、数百年分の文明開化を「強制執行」しますわ~
第103話 【番外編:年末閑話】コタツと蜜柑と異世界ノブナガ論。……魔王もダメにする「結界」ですわ
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トヨノクニ、オワリ領の冬。
底冷えするこの国の冬を乗り切るため、わたし、レヴィーネ・ヴィータヴェンが開発を急がせた魔導具が、ついに完成した。
その名は『ホリ・ゴタツ』である。
床を四角く切り抜き、その中に熱源となる魔石を設置。上から布団をかけ、その上に天板を置く。
単純ながらも、一度入れば二度と出られない「魔の結界」だ。
「……あー、極楽ぅ……」
向かい側で、アリスがとろけた顔をして蜜柑の皮を剥いている。
その手つきは妙に手慣れていて、皮が綺麗な花の形に広がっていた。
「アリス、あなた意外と所帯じみているわよね。その剥き方といい」
わたしが冷やかしたお茶を啜りながら言うと、アリスはふふんと鼻を鳴らした。
「失礼ね。これでも前世じゃ、年末は大忙しだったんだから。大掃除して、お餅食べて、おせちの準備手伝って……紅白見ながら年越しそば食べるまでがセットだよ」
「へえ……。聖女様が、随分と庶民的な年末を過ごしていたのね」
「レヴィちゃんこそ。なんか優雅に海外で年越しとかしてそうなイメージだけど?」
「まさか。……わたし、前世はずっと病院だったから」
わたしは湯呑みの中で立つ茶柱をぼんやりと見つめた。
「年末年始もお盆も関係なく、白い天井を見上げていたわ。だから、あんまり家族で『ザ・年末年始』みたいな過ごし方をした記憶が少ないのよね。病院食にお餅は出ないし」
「あ……」
アリスが気まずそうに動きを止める。
わたしは笑って、蜜柑を一つ手に取った。
「だから、こういう空気はちょっと特別なのよ。なんてことない会話をして、暖を取り合って、無駄にカロリーを摂取する。……悪くないわ」
「……そっか。うん、そうだね! 今年は死ぬほどお餅食べようね!」
そう言うと、アリスは火鉢でこんがりと焼けた餅を醤油に浸し、海苔を巻いてパクリと頬張った。
海苔の香ばしい匂いがふわりと漂う。
「ん~! 美味しい! やっぱりお餅にはお醤油と海苔だよね。シンプルで最高!」
「トヨノクニの醤油は出来がいいものね。ミリアのご実家のももちろん美味しいけれど、さすが本家本元ってところかしら」
「やはり醸造設備や菌の違いですかねえ。でも、ご安心くださいレヴィーネ様! V&C商会のショーユもどんどんブラッシュアップして、よりレヴィーネ様の味覚を満足させるものにしていきますので!」
帳簿から顔を上げたミリアが自信満々に眼鏡を光らせた。
「それはありがたいけれど、わたしの味覚より市場のウケを狙いなさいね」
「でも……ああもう! ここにバターがあれば完璧なのになぁ!」
アリスが突然、悔しそうにコタツを叩く。
「お餅にバターとお醤油。これが至高の組み合わせなのに……! トヨノクニでは牛乳は薬扱いだし、バターなんてないし……!!」
「ないなら作ればいいじゃないの」
「それだ! レヴィちゃん私、決めたよ! 来年は絶対、究極のバターを作るよ!!」
「はいはい、期待してるわよ。……でも、太るわよそれ」
「ぐぐぐ! 痛いところを……!」
そんな他愛ない会話をしていると、ミリアが帳簿を畳んで会話に加わった。
「そういえばレヴィーネ様。先ほど、オダ・ノブナガ様から追加で大量のお餅と『ぽち袋』なるものが届きましたよ。配下の兵士たち全員に配っているとか」
「あら、マメねえ」
わたしは少し目を丸くした。
「そういえば、ノブナガさんが配下の人達にお餅配っていたのはびっくりしたよー」
「そうね、前世の人物像だと『宗教とか慣習なんぞ知ったことかー!』って神仏の像を焼き払ってそうなイメージだったけれど、こっちのノブナガは意外とそういうところしっかりしているのよね。元日は神社にお参りにもいくらしいわよ? 『初詣で武運長久を祈願じゃ!』って張り切ってたし」
「えー! 意外と信心深いんじゃん! 別世界だからかな? それとも、あのちょんまげの中に意外と常識が詰まってるのかな?」
わたしたちが首を傾げていると、ミリアが不思議そうに尋ねてきた。
「あの……お二人の会話を聞いていると、まるで前世の世界にもノブナガ様がいらっしゃったように聞こえるのですが?」
「ああ、違うのよミリア。わたしたちが生きた時代よりずっと前に、同じ名前の同じような人がいたっていう……わたしたちが貴族院で帝国の歴史を習うような、そんな勉強をする時間があったの」
「なるほどー。異世界にも英雄がいらしたのですね。そちらのノブナガ様も、やはりカブキ者で、派手好きで、ちゃんこ鍋がお好きだったのですか?」
「どうだろ……?」
わたしは記憶の糸を手繰り寄せた。
病室のベッドで読んだ歴史漫画の知識は、だいぶ曖昧になっている。
「えっとね、確か……『是非もなし』って言って、燃えるお寺で踊ったんじゃなかったっけ……?」
「えっ、レヴィちゃんの記憶もだいぶ怪しいね。確か『ホトトギスを殺してしまえ』っていう短気な人じゃなかったっけ? あと、草履を懐で温めるのが趣味だったとか」
「それはサルの人じゃない? ええと、確か南蛮渡来のものが好きで、地球儀とかワインとか集めてて……あ、コンペイトウが好きだったはずよ」
「あ、それは可愛い。じゃあこっちのノブナガさんにもコンペイトウあげたら喜ぶかな?」
「今度作ってみましょうか。……でも、史実の最期ってどうだったかしら。確か、部下に裏切られて……」
「あー、本能寺だっけ? なんかそこで、囲碁をしてたんだっけ?」
「いや、お茶会じゃなかった? で、茶器と一緒に爆死した……これは違う人かなー?」
「ええっ、爆死!? サムライなのに!?」
アリスが驚愕の声を上げる。
横で聞いていたミリアが、真剣な顔でメモを取り始めた。
「異世界のノブナガ様は、燃えるお寺で踊り、茶器と共に自爆する……。メモしておきます」
「待ってミリア、それは多分間違ってる。書かないで」
わたしは慌ててミリアのペンを止めた。
曖昧な知識で歴史を語るのは危険だ。こんなトンチキ話でも後で歴史警察に怒られる気がする。
「まあ、こっちのノブナガさんは自爆しそうにないし、大丈夫よ。何より、今は平和だもの」
「そうね。……あ、レヴィちゃん、そろそろお餅焼けたんじゃない?」
「はいはい」
わたしは、のんびりと過ぎていく年の瀬の空気を吸い込み、ふっと笑った。
来年は、もっと忙しく、もっと美味しい一年になりそうだ。
底冷えするこの国の冬を乗り切るため、わたし、レヴィーネ・ヴィータヴェンが開発を急がせた魔導具が、ついに完成した。
その名は『ホリ・ゴタツ』である。
床を四角く切り抜き、その中に熱源となる魔石を設置。上から布団をかけ、その上に天板を置く。
単純ながらも、一度入れば二度と出られない「魔の結界」だ。
「……あー、極楽ぅ……」
向かい側で、アリスがとろけた顔をして蜜柑の皮を剥いている。
その手つきは妙に手慣れていて、皮が綺麗な花の形に広がっていた。
「アリス、あなた意外と所帯じみているわよね。その剥き方といい」
わたしが冷やかしたお茶を啜りながら言うと、アリスはふふんと鼻を鳴らした。
「失礼ね。これでも前世じゃ、年末は大忙しだったんだから。大掃除して、お餅食べて、おせちの準備手伝って……紅白見ながら年越しそば食べるまでがセットだよ」
「へえ……。聖女様が、随分と庶民的な年末を過ごしていたのね」
「レヴィちゃんこそ。なんか優雅に海外で年越しとかしてそうなイメージだけど?」
「まさか。……わたし、前世はずっと病院だったから」
わたしは湯呑みの中で立つ茶柱をぼんやりと見つめた。
「年末年始もお盆も関係なく、白い天井を見上げていたわ。だから、あんまり家族で『ザ・年末年始』みたいな過ごし方をした記憶が少ないのよね。病院食にお餅は出ないし」
「あ……」
アリスが気まずそうに動きを止める。
わたしは笑って、蜜柑を一つ手に取った。
「だから、こういう空気はちょっと特別なのよ。なんてことない会話をして、暖を取り合って、無駄にカロリーを摂取する。……悪くないわ」
「……そっか。うん、そうだね! 今年は死ぬほどお餅食べようね!」
そう言うと、アリスは火鉢でこんがりと焼けた餅を醤油に浸し、海苔を巻いてパクリと頬張った。
海苔の香ばしい匂いがふわりと漂う。
「ん~! 美味しい! やっぱりお餅にはお醤油と海苔だよね。シンプルで最高!」
「トヨノクニの醤油は出来がいいものね。ミリアのご実家のももちろん美味しいけれど、さすが本家本元ってところかしら」
「やはり醸造設備や菌の違いですかねえ。でも、ご安心くださいレヴィーネ様! V&C商会のショーユもどんどんブラッシュアップして、よりレヴィーネ様の味覚を満足させるものにしていきますので!」
帳簿から顔を上げたミリアが自信満々に眼鏡を光らせた。
「それはありがたいけれど、わたしの味覚より市場のウケを狙いなさいね」
「でも……ああもう! ここにバターがあれば完璧なのになぁ!」
アリスが突然、悔しそうにコタツを叩く。
「お餅にバターとお醤油。これが至高の組み合わせなのに……! トヨノクニでは牛乳は薬扱いだし、バターなんてないし……!!」
「ないなら作ればいいじゃないの」
「それだ! レヴィちゃん私、決めたよ! 来年は絶対、究極のバターを作るよ!!」
「はいはい、期待してるわよ。……でも、太るわよそれ」
「ぐぐぐ! 痛いところを……!」
そんな他愛ない会話をしていると、ミリアが帳簿を畳んで会話に加わった。
「そういえばレヴィーネ様。先ほど、オダ・ノブナガ様から追加で大量のお餅と『ぽち袋』なるものが届きましたよ。配下の兵士たち全員に配っているとか」
「あら、マメねえ」
わたしは少し目を丸くした。
「そういえば、ノブナガさんが配下の人達にお餅配っていたのはびっくりしたよー」
「そうね、前世の人物像だと『宗教とか慣習なんぞ知ったことかー!』って神仏の像を焼き払ってそうなイメージだったけれど、こっちのノブナガは意外とそういうところしっかりしているのよね。元日は神社にお参りにもいくらしいわよ? 『初詣で武運長久を祈願じゃ!』って張り切ってたし」
「えー! 意外と信心深いんじゃん! 別世界だからかな? それとも、あのちょんまげの中に意外と常識が詰まってるのかな?」
わたしたちが首を傾げていると、ミリアが不思議そうに尋ねてきた。
「あの……お二人の会話を聞いていると、まるで前世の世界にもノブナガ様がいらっしゃったように聞こえるのですが?」
「ああ、違うのよミリア。わたしたちが生きた時代よりずっと前に、同じ名前の同じような人がいたっていう……わたしたちが貴族院で帝国の歴史を習うような、そんな勉強をする時間があったの」
「なるほどー。異世界にも英雄がいらしたのですね。そちらのノブナガ様も、やはりカブキ者で、派手好きで、ちゃんこ鍋がお好きだったのですか?」
「どうだろ……?」
わたしは記憶の糸を手繰り寄せた。
病室のベッドで読んだ歴史漫画の知識は、だいぶ曖昧になっている。
「えっとね、確か……『是非もなし』って言って、燃えるお寺で踊ったんじゃなかったっけ……?」
「えっ、レヴィちゃんの記憶もだいぶ怪しいね。確か『ホトトギスを殺してしまえ』っていう短気な人じゃなかったっけ? あと、草履を懐で温めるのが趣味だったとか」
「それはサルの人じゃない? ええと、確か南蛮渡来のものが好きで、地球儀とかワインとか集めてて……あ、コンペイトウが好きだったはずよ」
「あ、それは可愛い。じゃあこっちのノブナガさんにもコンペイトウあげたら喜ぶかな?」
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「あー、本能寺だっけ? なんかそこで、囲碁をしてたんだっけ?」
「いや、お茶会じゃなかった? で、茶器と一緒に爆死した……これは違う人かなー?」
「ええっ、爆死!? サムライなのに!?」
アリスが驚愕の声を上げる。
横で聞いていたミリアが、真剣な顔でメモを取り始めた。
「異世界のノブナガ様は、燃えるお寺で踊り、茶器と共に自爆する……。メモしておきます」
「待ってミリア、それは多分間違ってる。書かないで」
わたしは慌ててミリアのペンを止めた。
曖昧な知識で歴史を語るのは危険だ。こんなトンチキ話でも後で歴史警察に怒られる気がする。
「まあ、こっちのノブナガさんは自爆しそうにないし、大丈夫よ。何より、今は平和だもの」
「そうね。……あ、レヴィちゃん、そろそろお餅焼けたんじゃない?」
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わたしは、のんびりと過ぎていく年の瀬の空気を吸い込み、ふっと笑った。
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