悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です ~前世は病弱、今世は物理最強。魔法もチートも私には勝てません~

みやもと春九堂@月館望男

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【第11部】トヨノクニ黄金狂時代(ジパング・ラプソディ) ~技術と筋肉の力技で、数百年分の文明開化を「強制執行」しますわ~

第114話 【魔改造】走る天守閣(デコトラ)爆誕。……これ、兵器じゃなくて「キッチンカー」ですの?

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 ガンテツ率いるドワーフ技術団50名を乗せたヴィータヴェン号は、エンジンの出力を勝手に改造して倍増させながら(船長のリョウマが悲鳴を上げた)、予定よりも大幅に早くトヨノクニ・オワリの港へ帰還した。

 港には、レヴィーネ、ミリア、そしてノブナガが出迎えに来ていた。

「おう、戻ったぜよ! 土産は、騒がしいおっさんたちじゃ!」

 リョウマがゲッソリした顔でタラップを降りてくる。
 その後ろから、ドガガガッ! とけたたましい足音を立てて、ガンテツたちが降り立った。

「ここがトヨノクニか! 空気が美味いな! さっそく酒と鉄を持ってこい!」

 相変わらずの怒号。
 だが、その声を聞いたレヴィーネの顔に、心からの笑みが浮かんだ。
 彼女はドレスの裾を翻し、大股で歩み寄った。

「……相変わらず声が大きくて安心したわ。久しぶりね、ガンテツ親方!」

 その声に、ガンテツが足を止める。
 ゴーグルを上げ、髭もじゃの顔をくしゃりと歪めてニカッと笑った。

「ガハハハハ! 出迎えご苦労! ……またいい面構えになりやがって、この跳ねっ返り娘が!」

 ガンテツは遠慮なくレヴィーネの背中をバシィッ! と叩いた。常人なら背骨が折れる威力だ。
 レヴィーネはビクともせず、逆にガンテツの鋼のような腕をガシッと掴み返した。

「親方こそ。北の寒さで錆びついてないでしょうね?」
「はん! 俺を誰だと思ってやがる。……おい、まずは『アレ』を見せろ。俺の最高傑作は無事だろうな?」
「ええ。見ての通りよ」

 レヴィーネは足元の影に手を伸ばし、相棒を引き抜いた。

 ズヌゥッ……。

 現れたのは『漆黒の玉座オリジン』。
 かつてハニマル領の工房で、二人の魔力と技術を注ぎ込んで打ち直した鉄塊だ。
 数々の戦場を経て、その黒光りする表面には微細な傷がついているが、それが逆に凄味を増している。

「ほう……」

 ガンテツは愛おしそうに椅子の脚を撫で、指で弾いた。
 キィィィン……と、澄んだ音が響く。

「いい音だ。随分と血と魔力を吸わせたな。……打った時より強度が上がってやがる。大事に使ってくれてるじゃねえか」
「当たり前よ。わたしの魂の半身だもの」

 二人は顔を見合わせ、ニヤリと笑った。
 そこには、言葉以上の信頼――「作る者」と「使う者」の絶対的な絆があった。

「よし! 気に入った! この国でも一暴れしてやるぜ!」

 再会の儀式(筋肉的な挨拶)を終えたガンテツが吠える。
 そこで、後ろに控えていたミリアが、眼鏡の奥の瞳を鋭く光らせながら一歩前に出た。

「リョウマさん、お帰りなさい! ガンテツ親方、長旅お疲れ様でした! ……ですが、休んでいる暇はありませんよ?」

「あん? なんだ嬢ちゃん、生き急いでるな」

「時は金なり、鉄は熱いうちに打て、です! すでに工房と資材、そして『最高の相方』を用意してありますから!」

 ミリアは不敵に微笑み、港の一角に用意された「開発工房」へと彼らを案内した。

 ◆

 工房に入ると、そこには既に一人の男が待機していた。
 ボサボサの白髪頭に、油まみれの作業着。目にはルーペを装着し、手には精密な工具を握った老人。
 トヨノクニ随一の発明家、「からくり儀右衛門」ことタナカ・ギエモンだ。

「……なんじゃ、その毛むくじゃらは。わしの神聖な工房に土足で入りおって」

 ギエモンが不機嫌そうに呟く。
 彼は魔力を持たないが、歯車とバネだけで自動人形オートマタを動かすほどの超絶技巧を持つ職人だ。

「ああん? なんだその貧弱なジジイは。……俺たちはドワーフだ。魔導の扱いは天下一品だぞ」

 ガンテツも負けじと睨み返す。
 出会って5秒で、火花が散った。

「ふん、魔導などという不確定な力に頼るから、技術が進歩せんのじゃ。……見よ、この『歯車』の噛み合わせを! 0.01ミリの狂いもない!」
 ギエモンが自慢のからくり人形を見せる。ゼンマイ動力で茶を運ぶ人形だ。

「ケッ! ちまちました細工しやがって! 出力が足りねえんだよ! 俺の『魔導エンジン』なら、岩だって砕ける!」
 ガンテツが持ち込んだ試作エンジンを回す。爆音と共にピストンが動き、凄まじいパワーを発揮する。

「野蛮じゃ! 美しくない!」
「貧弱だ! パワーがねえ!」

 二人の職人が取っ組み合いの喧嘩を始めそうになる。
 レヴィーネが鉄扇で作業台を叩き割ろうとした、その時。

「――そこまでです。お二人とも、少しは建設的な議論をしませんか?」

 ミリアが二人の間に割って入り、作業台の上にドン! と大きな図面を広げた。
 それは、古代知性体人工知能イリスが作成した「魔導トラック」の設計図だ。

「これを見てください。私のパートナー、イリスが引いた設計図です」

 ガンテツとギエモンが、怪訝な顔で図面を覗き込む。

「……なんだこれ? 文字が細かすぎて読めねえぞ」
「構造が複雑怪奇じゃな。……この『内燃機関』とやらの理論、魔力回路と物理機構が混ざり合っておるが……」

 二人の天才職人が、首を捻る。
 イリスの設計図は高度すぎる上に、古代語や専門用語が多用されており、直感型の職人たちには理解しづらいのだ。

 ミリアは眼鏡をクイッと押し上げ、レンズに表示されるイリスからの膨大な補足データを、脳内で瞬時に咀嚼した。

(……なるほど。ドワーフのエンジンは『爆発力』はあるけど『回転への変換効率』が悪い。からくりは『伝達』は完璧だけど『初動トルク』が足りない。……イリスの設計は、その両方の欠点を互いの長所で埋め合わせる構造ね)

 ミリアは自信満々に顔を上げ、職人たちを見回した。

「ギエモンさん。あなたの歯車機構、素晴らしい精度ですが……ゼンマイの解放トルクでは、重量物を運ぶ際の『初速』が出ませんよね? 坂道発進なんて以ての外です」

「む……痛いところを突きおる。だが、魔導を使わずにはそれが限界じゃ」

「そこで、ガンテツ親方のエンジンです」

 ミリアは図面のエンジン部分を指差した。

「親方のエンジンは爆発的な出力がありますが、ピストンの往復運動を回転運動に変えるクランクシャフトの精度が甘い。だから振動が酷く、エネルギーロスが大きいんです。……違いますか?」

「ッ……! よく見てやがるな、嬢ちゃん」
 ガンテツが図星を突かれて唸る。

「だからこそ、融合させるんです! 親方のエンジンの爆発力を、ギエモンさんの超精密な『変速機トランスミッション』で受け止め、制御する! そうすれば……岩をも砕くパワーを、針の穴を通すような繊細さでタイヤに伝えることができる!」

 ミリアは二人の職人の目を真っ直ぐに見つめ、断言した。

「どちらが欠けても動きません。……この『鉄の馬』を走らせるには、お二人の技術が悪魔合体するしかないんですよ!」

 ミリアの的確かつ熱量のある言葉に、職人たちの表情が変わった。
 侮りや反発の色が消え、互いの技術を見る目に「敬意」と「対抗心」が宿る。

「……なるほど。暴れる魔力を、わしの歯車で飼いならせと言うか。……面白い」
 ギエモンの目が輝く。

「へへっ、そういうことかよ! 俺のパワーを、ジジイの細工が受け止めるってか! ……上等だ、耐えられるもんなら耐えてみな!」
 ガンテツがニヤリと笑う。

 ミリアの翻訳が、水と油だった二人の技術を「接着」したのだ。

「ふふん! イリスの設計は完璧なんです! そしてそれを現場レベルに落とし込むのが、マスターである私の役目ですから!」

 ミリアが胸を張る。
 レヴィーネは、そんなミリアを見て、愛おしそうに、そして誇らしげに目を細めた。

「……ふふ、流石ね。計算だけじゃない、頑固な職人たちの心まで『翻訳』して繋げてしまうなんて。……本当に、わたくし自慢の『右腕』よ」

 ◆

 そして、二人の職人が睨み合う工房の作業台には、もう一つ、重要な「古びた箱」が置かれていた。
 それは、レヴィーネがエド城の宝物庫から接収した、将軍家秘蔵の「最高級魔導通信機アーティファクト」だ。

「……ふん。さすがは古代の遺物じゃな。中身の魔力回路は焼き切れておるが、構造は見事じゃ」

 ギエモンがルーペで中身を覗き込み、感心したように、しかし悔しげに唸る。

 この世界には、古代文明の遺産としての通信機がわずかながら現存している。
 王侯貴族や大商人が持つそれは、魔力を込めることで遠く離れた相手と声を交わせる魔法の道具だ。
 しかし、欠点は多い。
 第一に、デカイ。リュック一つ分はある。
 第二に、希少すぎる。遺跡から発掘される「完成品」しか存在せず、修理もままならない。
 第三に、出力の問題だ。地上の魔力波に乗せる方式のため、山や海を越えると急激に感度が落ちる。

「こいつを手のひらサイズにしろってか? 無茶を言うな! 魔石の炉がデカすぎるし、排熱が追いつかねえぞ」
 ガンテツが難色を示す。

「いや、小さくするだけなら可能じゃが……アンテナの強度が持たん。持ち運ぶたびに折れるわい」
 ギエモンも腕を組む。

 ミリアは再び眼鏡を光らせ、イリスの演算結果を表示させた。

『マスター。当該デバイスのダウンサイジングには、筐体の分割と折りたたみ機構による保護、および魔力回路の積層化が必須です。また、使用時のみ展開することで、アンテナの破損リスクを98%低減可能です』

「……なるほど。合理的かつ、美学がありますね」

 ミリアはニヤリと笑い、二人に提案した。

「親方、ギエモンさん。……『折りたたみ』ましょう」

「はぁ? 魔力回路を真ん中で折ったら断線するだろうが!」

「いえ、ヒンジ部分にギエモンさんの『多重接点端子』を使えば、開閉しても導通は保てます。そして親方、排熱問題は、筐体全体を放熱板ヒートシンクとして使う『ドワーフの黒鋼加工技術』があれば解決できませんか?」

 ミリアの具体的な提案に、二人が唸る。

「……できなくはねえが……面倒な細工だぞ」
「ふむ……。しかし、使う時だけパカッと開く構造か。……確かに、理にかなっておるな」

 そこでミリアは、最後に一番重要な「要素」を付け加えた。

「それに! この『パカッ』という音と感触! 通話が終わった後に、手首のスナップを効かせて閉じる仕草! ……これが最高に『粋』だと思いませんか? 機能美とは、使う姿も美しくあるべきです!」

 技術的な課題解決と、職人の琴線に触れる「ロマン」の提示。
 これには、二人も抗えなかった。

「……パカッ、か。……ふむ、わしの特製蝶番なら、極上の手応えを出せるかもしれん」
「ケッ! だったら俺は、閉じた瞬間に通信が切れるスイッチを魔力回路に組み込んでやるぜ! その方が粋ってもんだろ!」

 二人の職人が、ニヤリと笑い合う。
 ドワーフの素材加工技術と、からくり師の精密機構。
 そこに、古代知性体人工知能イリスの理論をミリアが的確に「翻訳」して伝えることで、不可能が可能になっていく。

 ◆数ヶ月後◆

 工房の机の上に、手のひらに収まるサイズの、黒い金属製の小箱が置かれていた。
 表面は滑らかに磨き上げられ、V&C商会のロゴが刻印されている。

「……できたか」

 ガンテツとギエモンが、煤だらけの顔で息を呑む。
 レヴィーネがその小箱を手に取った。

 親指で軽く弾く。

 パカッ。

 小気味よい音、指先に伝わる絶妙な抵抗感と共に、二つ折りの筐体が開き、液晶(魔導スクリーン)が淡く光った。
 世界初の折りたたみ式魔導通信機、通称「魔導ガラケー」の誕生だ。

「……いい音ね。この『パカッ』という感触、合格よ」

 レヴィーネは満足げに頷き、ボタンを押した。
 通話先は、海の上にいるリョウマだ。

『……お、おお? 聞こえるかえ? 姐さん!』

 クリアな音声が、スピーカーから響く。

「大成功ですね、レヴィーネ様! イリスも『計算通りです』ってドヤ顔してますよ(脳内で)!」

 ミリアが眼鏡の位置を直し、胸を張る。
 彼女は技術者ではない。だが、彼女がいなければ、この二つの異なる技術が交わることはなかっただろう。
 彼女は、人と技術と知性を繋ぐ、最強の「ハブ」なのだ。

「ええ。よくやったわ、ミリア。……あんたたちもね」

 レヴィーネの賞賛に、ガンテツとギエモンは「ふん、当然だ」「まだまだじゃ」と照れ隠しにそっぽを向いたが、その顔は満足げだった。

 ◆さらに数ヶ月後◆

 魔導トラック(試作一号機)が完成した。
 オワリの工房前には、むき出しの鉄のフレームとエンジンだけで構成された、武骨な車両が鎮座していた。

「おう、どうだ嬢ちゃん! これが俺たちの最高傑作だ!」
「速いぞ! 重い荷物も運べるぞ! 見た目はただの鉄の箱じゃがな!」

 ガンテツとギエモンが、油まみれの顔で胸を張る。
 だが、それを見たアリスは、腕組みをして渋い顔をしていた。

「う~ん……。すごいけどさぁ……」

 アリスは車両の周りをぐるりと回り、ビシッと言い放った。

「地味だよ!!」

「あぁん!?」
「なんじゃと!?」

 職人二人が色めき立つが、アリスは引かない。

「機能美は認めるよ? でもね、私が欲しいのは『荷物を運ぶ車』じゃないの! 『夢と希望と爆音を運ぶステージ』なの!」

 アリスは懐から、ミリアと夜なべして書き上げた「移動式野外炊具車両(デコトラ)」の設計図と、その運用計画書を取り出した。

「いい? このエンジンがあれば、電気魔力も使い放題なんでしょ? だったら……もっと光らせられるじゃん! スピーカーも積めるじゃん! 荷台がウィング車みたいに展開して、そのままライブステージになれば最高じゃん!」

 アリスの熱弁に、通りがかったヒデヨシが食いついた。

「おおっ! アリス嬢ちゃん、いいこと言うでねえか! わしも思っとったんだわ、あの鉄の塊じゃあ『華』がねえってな!」

 ヒデヨシは建築の天才だ。彼の目には既に、トラックの荷台に築かれるべき「城」が見えていた。

「ガンテツの旦那! この車台シャーシの耐荷重はなんぼだ?」
「あ? 30トンまでは余裕だが……」
「十分だ! なら、わしがこの上に『走る天守閣』を建ててやるわ!」

「なっ、天守閣だとォ!? 空気抵抗を考えろバカヤロウ!」
「うるせえ! 速さよりインパクトだろ!」

 職人たちの喧嘩が始まるかと思いきや、それを止めたのはレヴィーネだった。

「あら、いいじゃない。やってみなさいよ」

 彼女は面白そうに笑い、ポケットマネー(金貨袋)をドンと置いた。

「『V&C商会』の宣伝カーも兼ねるなら、目立ったもの勝ちよ。……ガンテツ、ギエモン。あんたたちの技術で、あの『無茶な城』を時速100キロで走らせることはできないの?」

 挑発的な言葉。
 それに乗らない職人はいない。

「……ケッ! ナメんじゃねえぞ!」
「ふん、わしのギア比調整を甘く見るなよ!」

 炎が点いた。
 そこからは、地獄の徹夜作業(魔改造パーティ)の始まりだった。
 ガンテツがエンジンの出力を限界までチューンナップし、ギエモンが変形機構とサスペンションを強化する。
 ヒデヨシが荷台に絢爛豪華な装飾とステージを組み上げ、アリスが照明と音響の魔導回路を配線する。
 そしてミリアが、予算の計算を放棄して白目を剥く。

 ◆そして、夜◆

 オワリ城下のメインストリート。
 静まり返った闇を切り裂いて、腹の底に響くような重低音が轟いた。

 ズンドコ、ズンドコ、ズンドコ……♪

「な、なんだ!?」
「地震か!?」

 住民たちが窓を開ける。
 彼らの目に飛び込んできたのは、夜の街を真昼のように照らす、極彩色の光の塊だった。

 『パラララララッ!!(魔導ホーンの音)』

 爆音と共に現れたのは、もはやトラックの原型を留めていない怪物だ。
 フロントには巨大なV字のバンパー。屋根には黄金のシャチホコ。側面には『夜露死苦よろしく』『天下布武』『筋肉万歳』と光る文字が流れ、荷台には極彩色の箱絵(レヴィーネとアリスの肖像画)が描かれている。
 そしてマフラーからは、七色の魔力光(アフターファイア)が噴き出している。

 その運転席から、アリスがマイクで叫ぶ。

「ハロー、オワリのみんな! お待たせ! 『魔導デコトラ・パレード壱号』の発進だよーッ!!」

 荷台がウィング状に展開し、即席のステージが現れる。
 そこでは、なぜかノリノリで太鼓を叩くレヴィーネと、死んだ目でタンバリンを振るミリアの姿があった。

「さあ、試運転! 朝まで走り回るよーッ!」

 ブォォォォォォォォォンッ!!!

 ドワーフ製エンジンの暴力的な加速で、光る城が街道を爆走する。
 それは、トヨノクニの物流とエンタメの常識が、音を立てて崩れ去った瞬間だった。
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