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【第11部】トヨノクニ黄金狂時代(ジパング・ラプソディ) ~技術と筋肉の力技で、数百年分の文明開化を「強制執行」しますわ~
第115話 【聖女のビジネス③】戦災孤児にシチューを。……効率も大事ですが、私が届けたいのは「温もり」です
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黒鉄領の牧場が開設されてから数週間。
順調に見えた「アリス乳業」に、最初の壁が立ちはだかっていた。
それは「鮮度」と「廃棄」の問題だ。
V&C商会オワリ本店、会議室。
部屋に入った瞬間、ツンとした酸っぱい臭いが鼻をついた。
「……臭うわね」
私が鼻をつまむと、部屋の隅でアリスが落ち込んでいた。目の前には、輸送中に劣化してしまった牛乳樽の山がある。
「うぅ……ごめんなさい……。遠くへ運ぼうとすると、どうしても傷んじゃうの……」
ミリアが報告する。
「気温の上昇に伴い、遠隔地への輸送ロスが深刻です。……現状、廃棄するしかありません。氷魔法で冷やし続けるにも、魔石のコストが掛かりすぎます」
「待ちなさい。捨てるなんて許さないわ」
私は樽の中を覗き込んだ。固形分と水分に分離しかけている。
「これは腐ってるんじゃない、発酵しかけてるのよ。……ミリア、これを分離して『チーズ』と『バター』に加工しなさい。煮詰めて固めて『蘇』みたいな保存食にすれば、日持ちするし、高値で売れるわ」
「なるほど。……では、残った水分は捨てますか? 酸っぱくて飲み物には適しませんが」
「馬鹿言わないで! そこが一番大事な『筋肉のエキス』よ!」
私は力説した。
「その水分を乾燥させて粉末にするの。それが『ホエイ・プロテイン』よ! 大豆のソイ・プロテインより吸収が早くて、筋肉が喜ぶ魔法の粉なんだから! 黒鉄隊の連中に飲ませなさい!」
こうして、廃棄寸前の牛乳は「加工食品(チーズ・バター)」と「ホエイプロテイン」に生まれ変わり、保存の問題は解決したかに見えた。
ミリアの計算によれば、利益率も上々だという。
だが、アリスの顔は晴れなかった。
彼女は完成したチーズの塊を指先でつつきながら、どこか遠い目をして呟いた。
「……違うんだよなぁ」
「何がですか、アリスさん? 味は濃厚で、保存性も完璧ですよ?」
ミリアが不思議そうに首を傾げる。
「うん、ミリアちゃんの言う通りだよ。チーズもバターもプロテインも素晴らしい商品だよ?……でもね、私が本当に届けたいのは『栄養』だけじゃないの」
アリスは顔を上げ、私とミリアを真っ直ぐに見つめた。
「私は……そう。『温もり』を届けたいんだよ」
「温もり?」
「うん! 私ね、前世でもこっちの牧場でも、冬の寒い朝に一番嬉しかったのは、おじいちゃんが作ってくれた『搾りたて牛乳のミルクシチュー』だったの!」
アリスが懐かしそうに目を細める。
「冷え切った体に、トロトロに煮込んだ熱々のシチューが染み渡るあの感覚……。ただお腹がいっぱいになるだけじゃない、心まで解けていくような安心感。あれはね、保存食のチーズをかじったり、粉を溶かしただけのスープじゃ絶対に再現できないの。あの『香り』と『湯気』こそが、凍えた子供たちにとって一番のご馳走なんだよ!」
アリスの熱弁に、ミリアは困ったように眉を下げた。
「お気持ちは分かりますが……物理的に不可能です。熱々のシチューを鍋ごと運べば冷めてしまいますし、現地で一から作るには設備も水も足りません。それに、生の牛乳を遠方まで運ぶリスクは変わりませんよ?」
「うん。だから……『運ぶ』んじゃなくて、『持って行っちゃえば』いいんだよ!」
「はい?」
アリスは身を乗り出し、机の上の地図を指差した。
「牛乳が傷むなら、傷む前に現地に着けばいい。料理が冷めるなら、目の前で作ればいい。だったら……『キッチン』と『冷蔵庫』を、車に乗せて走らせればいいんだよ!」
その言葉に、私はニヤリと笑った。
「なるほど。……移動販売車ね」
「そう! それも、ただの屋台じゃないよ! 遠くの寒村まで行くなら、悪路も走破できるパワーが必要だし、何より……子供たちが一目見ただけで『わぁっ!』って笑顔になるような、夢のような車じゃなきゃダメ!」
アリスは瞳をキラキラさせて両手を広げた。
「極彩色のライト! 腹に響く音楽! そして最高の料理! 美味しいご飯と一緒に『お祭り』を届けるの! それが、私がやりたい『アリス乳業』のサービスだよ!」
効率を突き詰めるミリアの提案に対し、アリスが出したのは「体験」を届けるというアイドルの発想。理屈じゃない。でも、だからこそ面白い。
「いいわね。……ミルクシチュー。そこにタケダから巻き上げた鶏肉と、黒鉄領の野菜を入れる……道中で買い付けるのもいいわね。最高の御馳走じゃない」
私は立ち上がり、宣言した。
「やりましょう。採算度外視、鮮度至上主義。『運ぶ』だけじゃない。『作る』機能と『夢』を詰め込んだ、最強のキッチンカーを作るのよ!」
順調に見えた「アリス乳業」に、最初の壁が立ちはだかっていた。
それは「鮮度」と「廃棄」の問題だ。
V&C商会オワリ本店、会議室。
部屋に入った瞬間、ツンとした酸っぱい臭いが鼻をついた。
「……臭うわね」
私が鼻をつまむと、部屋の隅でアリスが落ち込んでいた。目の前には、輸送中に劣化してしまった牛乳樽の山がある。
「うぅ……ごめんなさい……。遠くへ運ぼうとすると、どうしても傷んじゃうの……」
ミリアが報告する。
「気温の上昇に伴い、遠隔地への輸送ロスが深刻です。……現状、廃棄するしかありません。氷魔法で冷やし続けるにも、魔石のコストが掛かりすぎます」
「待ちなさい。捨てるなんて許さないわ」
私は樽の中を覗き込んだ。固形分と水分に分離しかけている。
「これは腐ってるんじゃない、発酵しかけてるのよ。……ミリア、これを分離して『チーズ』と『バター』に加工しなさい。煮詰めて固めて『蘇』みたいな保存食にすれば、日持ちするし、高値で売れるわ」
「なるほど。……では、残った水分は捨てますか? 酸っぱくて飲み物には適しませんが」
「馬鹿言わないで! そこが一番大事な『筋肉のエキス』よ!」
私は力説した。
「その水分を乾燥させて粉末にするの。それが『ホエイ・プロテイン』よ! 大豆のソイ・プロテインより吸収が早くて、筋肉が喜ぶ魔法の粉なんだから! 黒鉄隊の連中に飲ませなさい!」
こうして、廃棄寸前の牛乳は「加工食品(チーズ・バター)」と「ホエイプロテイン」に生まれ変わり、保存の問題は解決したかに見えた。
ミリアの計算によれば、利益率も上々だという。
だが、アリスの顔は晴れなかった。
彼女は完成したチーズの塊を指先でつつきながら、どこか遠い目をして呟いた。
「……違うんだよなぁ」
「何がですか、アリスさん? 味は濃厚で、保存性も完璧ですよ?」
ミリアが不思議そうに首を傾げる。
「うん、ミリアちゃんの言う通りだよ。チーズもバターもプロテインも素晴らしい商品だよ?……でもね、私が本当に届けたいのは『栄養』だけじゃないの」
アリスは顔を上げ、私とミリアを真っ直ぐに見つめた。
「私は……そう。『温もり』を届けたいんだよ」
「温もり?」
「うん! 私ね、前世でもこっちの牧場でも、冬の寒い朝に一番嬉しかったのは、おじいちゃんが作ってくれた『搾りたて牛乳のミルクシチュー』だったの!」
アリスが懐かしそうに目を細める。
「冷え切った体に、トロトロに煮込んだ熱々のシチューが染み渡るあの感覚……。ただお腹がいっぱいになるだけじゃない、心まで解けていくような安心感。あれはね、保存食のチーズをかじったり、粉を溶かしただけのスープじゃ絶対に再現できないの。あの『香り』と『湯気』こそが、凍えた子供たちにとって一番のご馳走なんだよ!」
アリスの熱弁に、ミリアは困ったように眉を下げた。
「お気持ちは分かりますが……物理的に不可能です。熱々のシチューを鍋ごと運べば冷めてしまいますし、現地で一から作るには設備も水も足りません。それに、生の牛乳を遠方まで運ぶリスクは変わりませんよ?」
「うん。だから……『運ぶ』んじゃなくて、『持って行っちゃえば』いいんだよ!」
「はい?」
アリスは身を乗り出し、机の上の地図を指差した。
「牛乳が傷むなら、傷む前に現地に着けばいい。料理が冷めるなら、目の前で作ればいい。だったら……『キッチン』と『冷蔵庫』を、車に乗せて走らせればいいんだよ!」
その言葉に、私はニヤリと笑った。
「なるほど。……移動販売車ね」
「そう! それも、ただの屋台じゃないよ! 遠くの寒村まで行くなら、悪路も走破できるパワーが必要だし、何より……子供たちが一目見ただけで『わぁっ!』って笑顔になるような、夢のような車じゃなきゃダメ!」
アリスは瞳をキラキラさせて両手を広げた。
「極彩色のライト! 腹に響く音楽! そして最高の料理! 美味しいご飯と一緒に『お祭り』を届けるの! それが、私がやりたい『アリス乳業』のサービスだよ!」
効率を突き詰めるミリアの提案に対し、アリスが出したのは「体験」を届けるというアイドルの発想。理屈じゃない。でも、だからこそ面白い。
「いいわね。……ミルクシチュー。そこにタケダから巻き上げた鶏肉と、黒鉄領の野菜を入れる……道中で買い付けるのもいいわね。最高の御馳走じゃない」
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