悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です ~前世は病弱、今世は物理最強。魔法もチートも私には勝てません~

みやもと春九堂@月館望男

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【第11部】トヨノクニ黄金狂時代(ジパング・ラプソディ) ~技術と筋肉の力技で、数百年分の文明開化を「強制執行」しますわ~

第116話 【聖女のビジネス④】デコトラ発進! 悪路も爆走する「走るレストラン」で、アツアツの笑顔を届けます

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 タケダ・シンゲンから買い付けた天然氷と、開発したばかりの魔導冷蔵ユニット。
 そして何より、アリスの「シチューへの執念」を乗せて、準備は整った。

 タケダ領の関所前。そこに鎮座するのは、昨晩の「魔改造パーティー」を経て誕生した、トヨノクニの歴史を(悪い方向に)塗り替える一台の怪物だ。

 ――魔導デコトラ・パレード壱号。

 極彩色に明滅するLED(魔石式)の電飾。フロントバンパーは攻城兵器のように鋭く突き出し、車体側面には『夜露死苦よろしく』と当て字された極太の筆文字が踊る。
 だが、何よりも目を引くのは、運転席キャビンの上にそびえ立つ構造物だろう。

 それは、黄金に輝く「天守閣」だった。

「見て見てレヴィちゃん! 昨日の夜、ヒデヨシさんとガンテツさんが徹夜で乗っけちゃった! 走る『一夜城』だよ!」

 アリスが興奮気味に、その狂気のデザインを解説する。
 昨晩の狂乱――ミリアの設計図をベースに、各分野のスペシャリストが暴走した結果がこれだ。

「外装とエンジンはガンテツさんのドワーフ・ワークス製! ミスリル合金の装甲板を張り合わせた『多重装甲』で、ドラゴンのブレスも弾き返すよ!」

 アリスがバンバンと車体を叩く。硬質な音が響く。これなら交通事故を起こしても、壊れるのは相手(城壁や魔物)の方だ。

「そして、この滑らかな変形機構ギミックを支えるのは、天才からくり師・ギエモンさんの技術! 油圧シリンダーじゃなくて、魔導ゼンマイと千個以上の歯車を組み込んで、スムーズな『ウィング展開』を実現してるの!」

「中身は私、ミリアの設計です。荷台の前半分は『冷蔵タンク室』、後ろ半分は排熱利用の『調理・保温室』。二層構造ゾーニングで、キンキンの牛乳とアツアツのシチューを同時輸送可能です」

 さらに彼女は、屋根の上の天守閣を指差した。

「極めつけは、ヒデヨシさんの『築城技術』! ただの飾りじゃないよ。あの天守閣の中に高性能な『魔導レーダー』と『音響管制室』が入ってるんだって!」

 移動販売車であり、装甲車であり、移動式の城。
 ミリアの商魂、ガンテツの鍛冶技術、ヒデヨシの城郭建築、ギエモンのからくり技術、そしてアリスの現代知識。
 それらが悪魔合体した結果、現代の災害派遣車両すら裸足で逃げ出すオーバースペック・キッチンカーが爆誕していた。

「……なるほどね。よくもまあ、一晩でここまで馬鹿なすごいモノを作ったわね」

 わたしは呆れを通り越して感心した。
 これなら、どんな僻地へ行こうとも、最高の状態で「食」と「エンタメ」を届けられる。

「ヒデヨシさん、音響最大! 圧力寸胴鍋のロックよし!」

 助手席で胃薬を握りしめていた男――普請奉行兼、この「走る城」の建設責任者ハシバ・ヒデヨシが、げっそりした顔で親指を立てた。

「お、おうよ……! 走りながら煮込むだなんて、ノブナガ様より無茶苦茶だわ……。 だが安心しな! 鍋の中身がこぼれんように、荷台の床には城の耐震技術を応用した『免震構造サスペンション』を組み込んどいたでよ! 悪路だろうが何だろうが、汁一滴こぼれせんがね!」

「ありがとうヒデヨシさん! アリス乳業、出発進行!」

 ズンドコ、ズンドコ……♪

 腹に響く重低音と共に、天守閣を載せたトラックが発進する。
 わたしと斥候のカエデ、そして護衛の黒鉄隊も別の車両で後に続く。聖女の巡業には、護衛が不可欠だろう。

 ◆数日後・ヒダの山村◆

 夜の闇を切り裂く、七色の光線レーザーと爆音。
 頭上に黄金の城を戴く巨大な鉄の塊が、山道を轟走してくる。
 村人たちが「ま、魔王の城が攻めてきたぞぉぉ!?」と半狂乱で武器を持って出てくる中、デコトラが広場で急停車した。

「ショータイムだよ、ヒデヨシさん!」

 運転席のアリスが叫ぶと、助手席のヒデヨシがやけくそ気味にレバーを引いた。

 プシュウゥゥゥ……ガシャン、ジャキキキンッ!

 蒸気の噴出音と共に、無数の歯車が噛み合う小気味よい音が響く。
 荷台の側面が、まるで生き物のように複雑にスライドし、翼のように大きく跳ね上がった。

 ――からくりウィング・オープン。

 そこに現れたのは、食材の山ではなく、眩いライトに照らされた「特設ステージ」だった。

「こんー! 豊穣の歌姫、アリスだよ~! みんな、寒かったでしょ? お腹空いたでしょ?」

 ステージ中央、真っ白なコックコートを着たアリスとミリアがポーズを決める。
 彼女たちが背後のコックを開くと、二つの蛇口から対照的な液体が注がれた。
 片方は、湯気を立てるトロトロの具沢山ホワイトシチュー。
 もう片方は、氷で冷やされた真っ白なフレッシュミルク。

「さあ並んで! 右手には温かいシチュー! 左手には冷たい牛乳! 交互に飲めば、身体の中が『整う』よ!」

 恐る恐る口にした子供が、目を見開いた。

「……あったけぇ……! 冷たくて甘い……! こんなご馳走、初めてだぁ!」

 その声が合図だった。
 飢えた村人たちが鍋に殺到する。
 保存食ではない。新鮮な牛乳と、温もりが伝わる「生きた料理」。
 それが、凍えた村人たちの体と心を解かしていく。

 わたしは少し離れた場所で、カエデと共にその光景を見守っていた。

「……いい顔をするわね」
「はい。レヴィーネ様が物理で守り、アリス様が心を満たす、とても平和な光景です。……ですが、あの車の変形機構からくりだけは、凄すぎて理解が追いつきません」

 カエデが変形した荷台の精緻な歯車を見上げて遠い目をする中、アリスがステージの上でマイクを握る。
 車上のスピーカーから、演歌のようなイントロが流れ始めた。

「よし! 食べた分だけ歌って踊るよ~! 食後のデザートは、私のライブだッ!!」

 こうして、アリス乳業の進撃が始まった。
 そのトラックは、ただの食料輸送車ではない。希望と熱狂、そして「異文化の衝撃」を運ぶ、走る城塞だったのだ。
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