悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です ~前世は病弱、今世は物理最強。魔法もチートも私には勝てません~

みやもと春九堂@月館望男

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【第11部】トヨノクニ黄金狂時代(ジパング・ラプソディ) ~技術と筋肉の力技で、数百年分の文明開化を「強制執行」しますわ~

第123話 御前会議:井の中の蛙、宇宙(そら)を知る。……侍たちよ、刀を捨てて「電卓」を持て!

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 トヨノクニ平定から数ヶ月。
 オワリ城の大広間には、かつてない緊張感が漂っていた。
 上座には「天下食料管理長官」オダ・ノブナガと、その盟友であるわたし、レヴィーネ・ヴィータヴェン。
 そして下座に並ぶのは、この国の各地を治める有力大名たちである。

 東の要衝、カントウの覇者・ホウジョ・ウウジマサ。
 甲斐の虎、筋肉ダルマのタケダ・シンゲン。
 越後の龍、酒豪のウエスギ・ケンシン。
 西国の謀将、モウリ・モトナリ。
 南の戦闘民族、シマズ・ヨシヒサ。
 奥州の伊達男、ダテ・マサムネ。

 かつては覇を競い合った群雄たちが、今はノブナガの召集に応じ、顔を突き合わせている。
 もっとも、彼らが大人しく集まった理由はただ一つ。
 広間の四隅に控える、魔導外骨格を装着した「黒鉄隊」の威圧感と、上座の女が放つ「逆らうなら城ごと更地にするわよ」という無言の圧力のせいだが。

「……して、オダ殿。我らを集めて何事か」

 口火を切ったのは、モウリ・モトナリだった。老獪な瞳でノブナガを値踏みする。

「天下は定まった。将軍家は退き、貴殿が実権を握った。……これ以上、我らから何を奪おうというのか? 領地か? それとも首か?」

 殺気立つ大名たち。特に、戦闘狂のシマズなどは刀の鯉口を切らんばかりの勢いだ。
 だが、ノブナガはニカッと笑い、扇子で膝を叩いた。

「奪う? 勘違いするな。……余は貴様らに『世界』をくれてやろうと言うておるのだ」

「世界……?」

「リョウマ! ミリア! 始めよ!」

 ノブナガの合図で、サカモト・リョウマが大股で進み出た。
 彼は懐から巨大な和紙を取り出し、床にバサリと広げた。

「これは……地図か?」
「トヨノクニの地図ではないな……形が違う」

 大名たちが身を乗り出す。
 リョウマは不敵に笑い、指で地図の一点を突いた。

「こいつは『世界地図』じゃき。わしが船で回り、異国の商人から買い集めた最新のものじゃ。……そして、わしらが今おるトヨノクニは、ここじゃ」

 彼が指差したのは、地図の東の端にある、豆粒のような島国だった。
 その横には、途方もなく巨大な大陸や、無数の国々が描かれている。

「な、馬鹿な……!」
「我らの国が……こんなに小さいはずがない!」
「異人の戯言だ! 神国トヨノクニは世界の中心ぞ!」

 大名たちが激昂する。彼らにとってトヨノクニこそが全てであり、外の世界など「蛮族の住処」程度の認識しかなかったのだ。
 その狭い認識を、ミリアが進み出て冷徹に打ち砕いた。

「戯言ではありません。……数字と映像は嘘をつきませんから」

 ミリアが懐から「キューブ」を取り出し、魔力を流し込んだ。

「イリス。衛星映像ライブビュー、投影開始」

『了解、マスター』

 無機質な声と共に、広間の中央に巨大なホログラムが出現した。
 映し出されたのは――宇宙そらに浮かぶ、青く輝く球体。

「な……なんじゃありゃあ!?」
「玉……? いや、あれは海か!?」
「まさか……あれが我らの住む大地だというのか!?」

 絶句する大名たち。
 イリスの視点が急速にズームする。
 雲を抜け、海を越え、やがて見慣れたトヨノクニの地形が――まるで箱庭のように映し出された。
 さらにズーム。オワリ城。そして、今まさに会議をしているこの大広間の屋根が透け、自分たちの姿がリアルタイムで映し出される。

「ひぃぃぃッ!?」
「天から覗かれておる!」
「神の眼か!?」

 腰を抜かすタケダ。震えるウエスギ。引きこもりのホウジョウに至っては、泡を吹いて気絶寸前だ。

 わたしは玉座(持ち込み)から立ち上がり、優雅に告げた。

「ご覧の通りですわ。あなたたちが血眼になって奪い合っていた領地なんて、星全体から見れば『庭の砂場』のようなもの。……狭い井戸の中で殺し合って、何の意味がありますの?」

 圧倒的な現実。
 彼らが命懸けで守ってきた「国」や「誇り」が、物理的なスケールの前で相対化されていく。

「そ、それでは……我らは、なんと無意味なことを……」
 ダテ・マサムネが眼帯を押さえて膝をつく。

 空気が、絶望と虚無に沈みかけたその時。
 ノブナガが豪快に笑い飛ばした。

「カッカッカ! そう凹むな! 小さいということは、これから大きくなれるということよ!」

 ノブナガはホログラムの「外側」――広大な大陸や海を指差した。

「見ろ! 外にはこれだけの土地がある! 資源がある! そして……『客』がおる!」

「きゃ、客?」

「うむ。我らはもう、武力で土地を奪い合う『武士』ではない。……これからは、この広い世界を相手に商売をし、富を奪い合う『商人ビジネスマン』になるのじゃ!」

 ミリアが素早く補足する。

「計算書をご覧ください。……タケダ様の鉱山から出る魔石は、帝国では3倍の価格で売れます。ウエスギ様の酒は、寒冷地で飛ぶように売れるでしょう。シマズ様の魔獣素材は、南大陸の需要が爆発しています」

 大名たちの目に、新たな光が宿る。
 それは武人の殺気ではない。強欲な経営者の光だ。

「……ほう。わしの掘った金が、さらに増えるというのか?」
「……異人にわしの酒を飲ませてやりたいものよ」
「……世界相手に喧嘩商売ができるなら、退屈はせんな」

 それぞれの野心が、新しい方向へと向かい始める。

「そのための『旗印』が、これじゃ!」

 ノブナガが掲げたのは、新しい組織図だった。
 中央に『トヨノクニ・ホールディングス(HD)』。
 その下に、各藩が「支店」としてぶら下がり、V&C商会が物流と金融を握る巨大な経済圏構想。

「刀を捨てよ! これからは『魔導計算機電卓』と『商品』が武器じゃ! 全員で手を組み、世界中の富をこのトヨノクニにかっさらう! ……どうじゃ、天下統一より面白かろう?」

 一瞬の静寂。
 そして。

「……乗った!」
「やりましょうぞ、ノブナガ殿!」
「経済的な世界戦争か! 血が滾るわい!」

 大名たちが歓声を上げ、ノブナガと握手を交わす。
 井の中の蛙たちが、空の青さを知り、そして海を渡る翼を手に入れた瞬間だった。

 その光景を見ながら、わたしはアリスに耳打ちした。

「……チョロいわね、おじ様たち」
「夢を見せるのがうまいよね、ノブナガさんもレヴィちゃんも」

 こうして、トヨノクニは武士の国から、「商人と筋肉の国」へと劇的なジョブチェンジを果たしたのである。
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