悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です ~前世は病弱、今世は物理最強。魔法もチートも私には勝てません~

みやもと春九堂@月館望男

文字の大きさ
136 / 200
【第13部】天を衝く悪役令嬢編 ~空に道がないなら、番人をへし折って「お迎え」にすればよろしいのです~

第136話 翼の折れた夢:物理法則と採算性という名の、最も重い鎖について

しおりを挟む
 博覧会の喧騒が一段落した、オワリ城の地下ドック。
 そこには、トヨノクニが誇る最高の技術者たちが集結し、そして――絶望的な顔で頭を抱えていた。

「……無理だ。こいつはどうあがいても飛ばねえ」

 重い沈黙を破ったのは、鍛冶師ガンテツだった。
 彼は作業台に広げられた『古代の設計図アレクセイからの土産』に、愛用のハンマーをドンと置いた。

「構造は理解できた。空気を取り込み、圧縮し、爆発させて推進力を得る『ジェット機関』……理屈は通ってる。だがな、素材が話にならん」

 ガンテツが、設計図の隅に記された素材コードを指差す。

「この燃焼室の熱と圧力に耐えて、かつ紙みてぇに軽い金属なんざ、ミスリルを極限まで薄くしても無理だ。……イリスの嬢ちゃん、こりゃ何だ?」

 空中に投影されたホログラムの少女――古代知性体イリスが、無機質に答える。

『解析。該当素材コード:ヒヒイロカネ・カーボン複合材。……現在の技術レベルでの生成・加工は不可能です。代替素材としてミスリル合金、またはアダマンタイトを使用した場合、重量過多により離陸に必要な揚力を得られません』

「だ、そうだ」

 次に声を上げたのは、からくり技師のギエモンだ。彼はキセルをふかしながら、天井を仰いだ。

「仮に、だ。仮に機体を軽くできたとしても、今度は『積載量』の問題が出る。……これ、人間一人乗せるのが精一杯だぞ?」

 その言葉に、魔導計算機電卓を叩いていたミリアが、氷のような視線を上げた。

「……その通りです。試算が出ました」

 ミリアが黒板に、絶望的な数字を書き殴る。

「動力源となる高純度魔石のコスト。機体のメンテナンス費用。そしてパイロットの育成費。……これだけの予算を投じて、運べるのは『操縦士一人』と『サンドイッチの入ったバスケット一つ』だけです」

「うわぁ……コスパ最悪」

 隣で話を聞いていたアリスが、げんなりとした顔をした。

「それなら、高レベルの風魔法使いに『浮遊フライ』かけてもらって飛ぶか、私が収納魔法で荷物持って転移した方が百倍マシじゃん。……つまり、『飛ぶだけの贅沢品』ってこと?」

「結論が出ましたね」

 ミリアが設計図をパタンと閉じた。

「不採用です。こんな金食い虫を開発する予算があるなら、デコトラのサスペンションを改良するか、新しい養殖場を作った方がマシです。『飛ぶ意味がない』……それが結論です」

 技術的敗北。そして商業的失格。
 誰もが「解散」の空気を漂わせる中、一人だけ納得していない人物がいた。
 わたし、レヴィーネ・ヴィータヴェンだ。

「……つまり、この世界の空には『夢』も『ロマン』もない、ってこと?」

 わたしは不満げに腕を組み、地下ドックの天井を見上げた。
 天井の向こうにあるはずの蒼穹を睨みつけるように、わたしは言葉を継ぐ。

「ただ鳥と魔法使いが飛ぶだけの、退屈な空間だと? ……次は空だ、と意気込んでいたわたしの野望は、ここで座礁したってわけね」

「まあ、地球の飛行機は『大量輸送』ができるから革命だったわけで……。個人の移動手段なら魔法でいいもんね」

 アリスが慰めるように肩を叩く。
 だが、その言葉がわたしの脳裏に閃きを与えた。

「……大量輸送?」

 わたしは顔を上げ、ドックの窓の外を見た。
 そこには、メンテナンス中の我が愛船――『魔導戦艦ヴィータヴェン号』が鎮座している。
 クラーケンの骨格と、古代樹の大木、そして数多の魔導具で構成された、動く要塞。
 わたしは、ニヤリと笑った。

「なるほど。……小さな機体にちまちまと荷物を積もうとするから、採算が合わないのよ」

「は?」

 一同が動きを止める。
 わたしは鉄扇を開き、高らかに宣言した。

「空を飛ぶ『利』がないなら、『利』を作ればいい。……あの船ヴィータヴェン号を、そのまま空に上げるわよ」

「「「はあああああッ!?」」」

 ガンテツとギエモンが同時に叫んだ。

「た、大将、正気か!? あれは船っつーか、もはや『動く人工島』だぞ! 重量が何万トンあると思ってやがる!」
「構造材も持たん! 今は海に浮いてるから自重を支えられてるが、空中に持ち上げりゃ、自重でバキッと真っ二つだ! 物理的に不可能じゃ!」

 技術者たちの悲鳴を、わたしは鼻で笑い飛ばした。

「あら。それこそ前世の『空飛ぶ島ラピュタ』のお話みたいなスケールで素敵じゃない?」
「うわ出た、ラピュタ理論!」

 アリスが頭を抱える。

物語フィクションとはいえ、空に島を浮かべる発想はあったわけじゃない。……で、どうなの? アリス、この世界にはないの? そういう伝説や伝承は」

「えーっと……お伽噺レベルなら『天かける船』とかあった気がするけど……」
「わしらドワーフはそもそもが穴ぐらのもんじゃからな。そういうもんは知らん」
「コーンフィールド領にもそういうおとぎ話はないですねぇ」
「トヨノクニにゃアメノトリフネなんてもんの話があるが、ありゃあ神話のもんじゃな」

 八方塞がりだ。
 技術も無理。伝説も曖昧。
 煮詰まった空気が場を支配する。

「……はぁ。ダメね。頭が糖分を欲しているわ」

 わたしは椅子から立ち上がった。

「休憩にしましょう。……ダテの『ずんだシェイク』でも飲まないと、やってられないわ」

 どうにもならない煮詰まりを感じたわたし達は地下ドックを後にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

前世ブラックOLの私が転生したら悪役令嬢でした

タマ マコト
ファンタジー
過労で倒れたブラック企業勤めのOLは、目を覚ますと公爵令嬢アーデルハイトとして転生していた。しかも立場は“断罪予定の悪役令嬢”。だが彼女は恋愛や王子の愛を選ばず、社交界を「市場」と見抜く。王家の財政が危ういことを察知し、家の莫大な資産と金融知識を武器に“期限付き融資”という刃を突きつける。理想主義の王太子と衝突しながらも、彼女は決意する――破滅を回避するためではない。国家の金脈を握り、国そのものを立て直すために。悪役令嬢の経済戦争が、静かに幕を開ける。

【完結】異世界で幽霊やってます!?

かずきりり
ファンタジー
目が覚めたら、豪華絢爛な寝室……に、浮かぶ俺。 死んだ……? まさかの幽霊……? 誰にも認識されず、悲しみと孤独が襲う中で、繰り広げられそうな修羅場。 せめて幽霊になるなら異世界とか止めてくれ!! 何故か部屋から逃げる事も出来ず……と思えば、悪役令嬢らしき女の子から離れる事が出来ない!? どうやら前世ハマっていたゲームの世界に転生したようだけど、既にシナリオとは違う事が起きている……。 そして何と!悪役令嬢は転生者! 俺は……転……死?幽霊……? どうなる!?悪役令嬢! ってか、どうなるの俺!? --------------------- ※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました

東野あさひ
ファンタジー
無能の烙印、婚約破棄、そして辺境追放――。でもそれ、全部“勘違い”でした。 王国随一の名門貴族令嬢ノクティア・エルヴァーンは、魔力がないと断定され、婚約を破棄されて辺境へと追放された。 だが、誰も知らなかった――彼女が「古代魔術」の適性を持つ唯一の魔導士であることを。 行き着いた先は魔物の脅威に晒されるグランツ砦。 冷徹な司令官カイラスとの出会いをきっかけに、彼女の眠っていた力が次第に目を覚まし始める。 無能令嬢と嘲笑された少女が、辺境で覚醒し、最強へと駆け上がる――! 王都の者たちよ、見ていなさい。今度は私が、あなたたちを見下ろす番です。 これは、“追放令嬢”が辺境から世界を変える、痛快ざまぁ×覚醒ファンタジー。

王女殿下のモラトリアム

あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」 突然、怒鳴られたの。 見知らぬ男子生徒から。 それが余りにも突然で反応できなかったの。 この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの? わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。 先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。 お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって! 婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪ お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。 え? 違うの? ライバルって縦ロールなの? 世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。 わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら? この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。 ※設定はゆるんゆるん ※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。 ※明るいラブコメが書きたくて。 ※シャティエル王国シリーズ3作目! ※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、 『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。 上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。 ※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅! ※小説家になろうにも投稿しました。

【完】相手が宜しくないヤツだから、とりあえず婚約破棄したい(切実)

桜 鴬
恋愛
私は公爵家令嬢のエリザベート。弟と妹がおりますわ。嫡男の弟には隣国の姫君。妹には侯爵子息。私には皇太子様の婚約者がおります。勿論、政略結婚です。でもこればかりは仕方が有りません。貴族としての義務ですから。ですから私は私なりに、婚約者様の良い所を見つけようと努力をして参りました。尊敬し寄り添える様にと努力を重ねたのです。でも無理!ムリ!絶対に嫌!あからさまな変態加減。更には引きこもりの妹から明かされる真実?もう開いた口が塞がらない。 ヒロインに隠しキャラ?妹も私も悪役令嬢?ならそちらから婚約破棄して下さい。私だけなら国外追放喜んで!なのに何故か執着されてる。 ヒロイン!死ぬ気で攻略しろ! 勿論、やられたら倍返ししますけど。 (異世界転生者が登場しますが、主人公は異世界転生者では有りません。) 続編として【まだまだ宜しくないヤツだけど、とりあえず婚約破棄しない。】があります。

処理中です...