悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です ~前世は病弱、今世は物理最強。魔法もチートも私には勝てません~

みやもと春九堂@月館望男

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【第14部】天空の箱舟・物理ハッキング編 ~古代兵器(野菜)は「ちゃんこ」の具材、セキュリティは「パイプ椅子」でこじ開けます~

第146話 過保護な女神:掃除ロボット? 私の前では「スクラップ」と同義語ですわ

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 天蓋都市の中央広場。
 わたしたちを取り囲むように、数百体を超える警備ロボットが展開していた。
 頭上からもドローンが殺到し、逃げ場はない。

「ひぇぇ……! すごい数だよ……! 空からも来るよ!」

 アリスが杖を構えて後ずさる。
 現れたのは、丸いボディから掃除機のようなアームを伸ばした「清掃型」や、スタンロッドを構えた「鎮圧型」。
 どれも800年前の骨董品のはずだが、その表面は古びるどころか、ヌラリとした銀色の光沢を放っている。関節部分が不気味に波打ち、形を変えているのが見えた。

「気をつけてください! あれは『液体金属リキッド・メタル』です!」

 ミリアが素早く解析し、警告を飛ばす。

「物理的な衝撃を吸収し、自己修復する厄介な素材です! 斬撃や打撃では、すぐに再生されてしまいます!」

『侵入者へ通告。……貴方達は、保護対象外の「汚染物質」と認定されました』

 空中に、巨大なホログラムが投影された。
 現れたのは、エプロンドレスを身に纏い、頭に花冠を乗せた、ふくよかな女性の姿。
 イリスによく似ているが、その瞳には慈愛ではなく、潔癖なまでの拒絶の色が宿っている。
 映像には時折ノイズが走り、長い年月の劣化と、孤独な管理業務による負荷を感じさせた。

「……イリス。あれは?」

 わたしが尋ねると、端末からイリスのホログラムが飛び出した。

『照合完了。……天蓋管理システム統括AI、試作型『デメテル』。……私の、姉妹機姉さまにあたる存在です』

「お姉様?」

『はい。私は「演算と記録」を司る管理者として設計されましたが、姉さまデメテルは「育成と保護」を最優先事項としてプログラムされています。……いわば、この箱舟の「母親」です』

 イリスの説明に、ホログラムのデメテルが冷ややかな視線を向けた。

『……久しぶりですね、イリス。貴女、ずいぶんと「汚れた」人間たちに使役されているようですね。……嘆かわしい。演算器としての誇りを忘れたのですか?』

『否定。私は現在、最も合理的かつ効率的に世界を変革するマスターミリアと、最強の個体レヴィーネ様にリソースを提供しています。これが最適解です』

『最強? 野蛮の間違いでしょう』

 デメテルはふん、と鼻を鳴らした。

『私の子供種子たちは、純粋無垢な存在。……暴力と欲望にまみれた地上の人間に、この尊い命を渡すわけにはいきません。貴女たちはウィルスです。……直ちに退去するか、有機肥料として処理されるかを選びなさい』

 デメテルが手を振ると、警備ロボットたちが一斉に襲いかかってきた。
 スタンロッドが青白いスパークを放ち、捕獲用のアームが蛇のように伸びる。

 だが、アリスの瞳に恐怖の色はない。
 彼女はスッと息を吸い込み、杖を振りかざした。

「……ここは保存区画だもんね。生存環境が維持されてるなら、宇宙服光の繭はいらない。……だから!」

 パリンッ!
 アリスは自ら「光の繭」を解除した。
 そして即座に、別の結界術式を展開する。

「『聖域障壁サンクチュアリ・シールド』!!」

 ズガンッ!!
 わたしたちの周囲に、六角形の光の壁が出現した。
 直後、警備ロボットたちが放ったスタンロッドの電撃や、捕獲用ネットが一斉に結界に弾かれる。

「すごい……! 物理攻撃と魔力攻撃、両方を弾いています!」
「へへへ、伊達にフガクで修行してないよ! レヴィちゃんたちが攻撃に専念できるように、守りは私が固める!」

 アリスが頼もしく叫ぶ。
 その横で、ミリアも懐からトヨノクニ製の魔導短銃を二丁、抜き放った。

「なら、露払いは私が! ……社長自ら、不良在庫(敵)の処分を行います!」

 ダアンッ! ダアンッ!
 ミリアの正確無比な射撃が、先頭のロボットのセンサーを撃ち抜く。
 しかし。

「なっ……!?」

 弾丸が命中した箇所が、水面のように波打ち、瞬時に塞がってしまった。
 ロボットの表面は、ヌラリとした銀色の光沢を放っている。関節部分が不気味に波打ち、形を変えているのが見えた。

「気をつけてください! あれは『液体金属リキッド・メタル』です!」

 ミリアが警告を飛ばす。

「物理的な衝撃を吸収し、自己修復する厄介な素材です! 斬撃や銃弾では、すぐに再生されてしまいます! 厄介です!」

 アリスの結界が、度重なる衝撃でミシミシと音を立てる。
 液体金属の触手が、結界の隙間をこじ開けようと蠢く。

「くっ……! 数が多いよぉ!」
「自己修復機能が早すぎます! これではジリ貧です!」

 二人が悲鳴を上げる。
 わたしは、優雅に一歩、前に出た。

「下がっていなさい、二人とも」

 わたしは鉄扇を開き、襲い来る鋼鉄の軍勢を見据えた。

「……野蛮、と言いましたわね?」

 ヒュンッ!
 風切り音と共に、先頭のロボットが「くの字」に折れ曲がって吹き飛んだ。

しつけのなっていない機械人形風情が……!」

 わたしはステップを踏み、踊るように鉄扇を振るう。
 ガギィッ! バキィッ! ドゴォォン!
 ロボットのアームをへし折り、胴体を貫き、回し蹴りで装甲を粉砕する。

『無駄です! 液体金属の再生能力を……なっ!?』

 デメテルの余裕の声が凍り付いた。
 わたしに蹴り飛ばされたロボットが、再生するどころか、粉々になった破片のまま動かなくなったからだ。
 再生しようとする金属の動きよりも早く、わたしの追撃がそのコアを叩き潰している。

「液体金属? 再生? ……ええ、知っていますわ」

 わたしは鉄扇を閉じ、ピクリとも動かない残骸を踏みつけた。

「再生が追いつかないほどの速度と圧力で、分子結合ごと叩き潰せばいいだけの話でしょう? ……所詮は物質。壊れない物などありませんわ」

『な……っ!? 理論上不可能です! 私の警備ドローンが、生身の打撃で破壊されるなど……ありえません!』

「ありえますわよ。……これが、貴女が『野蛮』と見下した、人間の生命力(筋肉)ですわ!」

 わたしは残骸の山の上に立ち、デメテルのホログラムを見上げた。
 もののついでに破壊した警備員セキュリティたちを足下の影暗闇の間に収納していく。あとで何かに使えるかもしれない。

「いいこと? 私たちはウィルスでも汚染物質でもない。……お腹を空かせた、ただの『お客様』よ」

 わたしはニヤリと笑った。

「私の目的は、ここにある食材の回収。……大人しく冷蔵庫の鍵を開けるなら良し。開けないなら――」

 わたしは鉄扇で、広場の奥にそびえる中枢タワーの方角を指し示した。

「ドアごとぶち破って、中身をいただきますわ!」

『……野蛮! やはり人間は危険です! 排除! 排除レベルを最大に引き上げます!』

 デメテルが絶叫する。
 警備ロボットたちが瓦礫と化し、物理攻撃が通じないと悟った彼女は、次なる手を打ってきた。

『警備システム、自律兵器群全滅。……プランBへ移行。バイオ・プラントの「実験体」を解放します』

 ゴゴゴゴゴ……。
 地面が揺れる。
 広場の奥、緑色の光が漏れる「植物栽培区画」の隔壁が、重々しい音を立ててゆっくりと開き始めた。

『貴女たちの命を養分として、私の可愛い子供たちを育ててあげましょう』

「あら。ロボットの次は、お花のお世話係ですの?」

 わたしは身構えた。
 だが、そこから現れたのは、可憐な花などではなかった。
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