悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です ~前世は病弱、今世は物理最強。魔法もチートも私には勝てません~

みやもと春九堂@月館望男

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【第15部】大陸横断大工事編 ~神の雷を買い取り、断絶の壁をブチ抜いて、最愛(既読スルー男)に右ストレートを叩き込みますわ~

第158話 黒き道の波紋:あるいは帝国と王国の掃除、そして子供たちの願い

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 レヴィーネ・ヴィータヴェンによる、西方連邦の電撃的な「吸収合併」。
 その報せは、風よりも速く、東方諸国の枢要へと届いていた。
 世界が、軋みを上げて動き出そうとしていた。

◆◆◆

 大陸東部、ガルディア帝国。皇城の奥深くにある「皇帝私室」。
 そこには、帝国を支える四人の皇族の姿があった。
 威厳に満ちた皇帝。
 病床から復帰し、精悍さを取り戻しつつある第一皇子(皇太子)。
 妖艶な美貌の裏に、母譲りの諜報部隊「宮家の影」を従える第一皇女アナスタシア。
 そして、冷徹な切れ者である第二皇子、アレクセイ。

「……わずか半月か。早すぎるな、あの娘は」

 皇帝が、報告書を卓上に置き、重々しく呟いた。
 その顔には、驚きと共に、隠しきれない焦燥の色が浮かんでいる。

「西方連邦は、腐っても大国だ。それを武力による破壊ではなく、経済とインフラで飲み込むとは……。これでは、我々帝国が『旧時代の遺物』になりかねん」

「はい、父上。……彼女の歩幅は、我々の想定を常に超えていきます」

 アレクセイが、静かに、しかし熱のこもった瞳で肯定した。
 彼は窓の外、西の空を見つめる。

「彼女は大陸を横断し、東西を繋ぐ『大回廊』を造ろうとしています。……もし、それを彼女単独の手で成し遂げられてしまえば、帝国の威信は地に落ちるでしょう。『ただ待っていただけの国』として。何より、私が許せません」

 その言葉に、第一皇子が深く頷いた。かつてスキルを奪われ、絶望の淵にあった彼を救ったのもまた、レヴィーネたちがもたらした「変革」の風だった。

「我々も変わらねばならない。……父上。私は、この『大陸横断道路』の建設事業を、帝国再生の象徴としたいと考えています。東側からのルートを開拓し、未開の樹海を切り開き、彼女を迎え入れる。……それは、帝国が新しい時代に適応したことを世界に示す、絶好の機会です」

 皇太子の力強い言葉に、皇帝は満足げに目を細めた。

「うむ。……それが成った暁には、私は退こう。新しい道には、新しい皇帝こそが相応しい」

 譲位の意志。
 それは、帝国の歴史が動く瞬間だった。
 だが、変革には痛みが伴う。光が強くなれば、影もまた濃くなるものだ。

「……ですが、兄上。国内には、それを面白く思わない『旧き血』も澱んでいますわ」

 第一皇女アナスタシアが、扇子で口元を隠しながら、冷ややかな声で指摘した。
 既得権益にしがみつく旧貴族たち。彼らはトヨノクニの台頭とレヴィーネの影響力を恐れ、裏で不穏な動きを見せている。改革を阻む、獅子身中の虫だ。

「彼らの情報は、すべて掌握済みです」

 アレクセイが、懐から分厚い書類の束を取り出した。
 そこには、旧貴族たちの横領、裏取引、そしてクーデター計画の証拠が網羅されている。

「兄上は、光の当たる場所で旗を振ってください。……影の掃除は、私とアナスタシア姉上が引き受けましょう」

「……頼めるか、アレクセイ。それにアナスタシアも」

「ええ、任せてくださいませ、兄上。……帝国の膿を出し切り、その財産をすべて『道路工事』の予算に組み替えて差し上げますわ」

 アナスタシアが妖艶に微笑み、アレクセイが不敵に口角を上げる。
 帝国は動き出す。内なる敵を喰らい、そのエネルギーを外への道に変えるために。

◆◆◆

 同時刻。聖教国ラノリア。
 王城の謁見の間は、物理的な「熱」に包まれていた。
 床には、豪奢な衣装を纏った数名の男たちが、白目を剥いて転がっている。
 かつて、第三王子であったギルベルトを蔑み、追放しようとした第一王子、第二王子を中心とする「旧体制派」の残党たちだ。

「……ふぅ。これで全員か」

 ラノリア国王、ギルベルトは、額の汗を拭いながら、大きく息を吐いた。
 彼の手には剣ではなく、トレーニング用のダンベルが握られている。
 周囲では、彼の腹心である「筋肉神官団」が、倒れた貴族たちを担架で運んでいるところだった。

「陛下。……通信が入っています。トヨノクニの『ミリア様』からです」

 側近の言葉に、ギルベルトは表情を引き締め、通信機を受け取った。

「……ギルベルトだ。どうした、ミリア殿」

『お疲れ様です、ギルベルト陛下。……いえ、ここは敢えて「さすがは私の『弟弟子』です!」と言うべきでしょうか?』

 通信機の向こうから、こちらを気遣うように柔らかな声が響く。
 レヴィーネの最側近にして、V&C商会の金庫番、ミリア・コーンフィールドだ。

 その声色は、いつもの事務的なものではなく、かつてラノリアの「ちゃんこ道場」で共に汗を流した頃の、親愛と茶目っ気を含んだものだった。

『イリスからの報告によれば、国内の不穏分子……旧王族派の鎮圧が完了したようですね。手際が良いです』

「……耳が早いな。たった今、終わったところだよ」

 ギルベルトは苦笑した。その表情は、王としての硬さが抜け、一人の武人に戻っていた。

『……本当にお疲れ様でした。イリスの分析では、この粛清によるラノリアの国力低下は見られないとのことですが……。とはいえ、かつての兄弟や親族を手にかけるというのは、お辛かったでしょう?』

 不意に、声色が柔らかくなる。
 事務的な報告の裏に滲む、彼女なりの労り。
 ギルベルトは、ふと窓の外を見た。

「……なに、殺してはいないさ」

 彼は、運び出されていくかつての兄たちを見下ろした。

「彼らの財も、彼らの私兵も、これからは大事な『工事力』になるのだからな。……殺してしまっては、筋肉リソースの無駄遣いだ」

『……ふふ。言うようになりましたね』

 ミリアが笑う。ギルベルトもまた、確信を持って続ける。

「それに……姐さんレヴィーネへの合力を阻む者が、このラノリアにあってはならない。この国は、彼女に救われたのだから」

 ギルベルトの声には、迷いのない信念が宿っていた。
 かつて『運営』の洗脳に囚われ、絶望していた自分と国を、物理的に叩き直してくれた恩人。
 彼女の行く道を塞ぐ小石があるなら、王として、弟弟子として、取り除くのが道理だ。

『……ええ。その言葉、レヴィーネ様も喜ぶと思います。……では、後の始末資産の没収と再分配については、こちらでプランを送りますね。無理をなさいませんように』

「ああ。……そちらもな、ミリア殿」

 通信が切れる。ギルベルトは、少しだけ軽くなった心で、ダンベルを握り直した。
 国内の憂いは絶った。あとは、東への道を切り拓くだけだ。

◆◆◆

 そして、トヨノクニ、オワリ城。
 大広間には、小さな訪問者たちの姿があった。

「ノブナガ様! お願いします! 私たちも連れて行ってください!」

 必死の形相で頭を下げているのは、十歳にも満たない子供たち。
 アリスが滞在中に育て上げた「巫女連」の子供たちだ。その先頭には、代表格の少女、スズがいる。
 彼女たちの後ろには、ヒデヨシが率いていった本隊に入れなかった、トヨノクニ残留組の「黒鉄組」の男たちも控えていた。彼らもまた、顔に「行きたい」と書いてある。

「……ならぬ」

 上座に座るオダ・ノブナガは、短く、しかし厳しく告げた。

「西への道は、物見遊山ものみゆさんではない。あやつらからの報告によれば、その先には広大な砂漠と、魔物が跋扈する荒野が広がっておる。……お主らのような子供が行って、生きて帰れる保証はない」

「でも! お師匠アリス様が、砂漠でお水を出す魔法を使ってるって聞きました!」

 スズが食い下がる。

「私たちは、お師匠様に魔法を教わりました! 植物を育てる魔法も、お水をきれいにする魔法も使えます! ……絶対に、お師匠様とレヴィーネ様のお役に立てます!」

「俺たちだってそうです! 現場仕事なら誰にも負けねぇっす!」

 子供たちの純粋な瞳。職人たちの熱意。
 それは、レヴィーネとアリスがこの国に撒いた「種」が、確実に芽吹いている証拠だった。
 ノブナガは、扇子で口元を隠し、内心で舌を巻いた。

(やれやれ。レヴィーネよ、お主らが残していった者達は、お主らが思うよりずっと、お主に合力したがっておるぞ……)

 だが、為政者として、安易に許可を出すわけにはいかない。
 彼らは国の宝だ。無駄死にさせるわけにはいかないのだ。

「……気持ちは分かった。だが、今は時期尚早じゃ」

 ノブナガは、声を少しだけ和らげて諭した。

「兵站の船に乗せれば、西海岸までは行けるじゃろう。だが、そこから先の内陸は戦場(現場)じゃ。……お主らがどうしても行きたいと言うなら、まずは己を鍛えよ。そして、機が熟すのを待て」

「うぅ……」

「……はい」

 スズたちは、悔しそうに唇を噛み締め、すごすごと引き下がった。
 その小さな背中を見送りながら、ノブナガは独りごちた。

「……機が熟す、か。まあ、そう遠い話でもないかもしれんがな」

 ノブナガは、手元の書状に視線を落とした。
 そこには、東方諸国の首脳たちとの「緊急回線」の準備が整ったとの報告があった。

 もし、世界中が動くなら。

 あの子供たちを安全に送り届ける「護衛(エルフや帝国の軍勢)」も、確保できるかもしれない。

「さて、どう口説いてやろうかのう」

 魔王はニヤリと笑い、通信機のスイッチに手を伸ばした。
 それぞれの国で、それぞれの想いが動き出す。
 それらが一つに繋がる「サミット」の幕開けは、もう目の前だった。
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