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【第15部】大陸横断大工事編 ~神の雷を買い取り、断絶の壁をブチ抜いて、最愛(既読スルー男)に右ストレートを叩き込みますわ~
第160話 オアシスの決闘:砂漠の民よ、水を争うならリングに上がりなさい。勝者にはケバブを奢りますわ!
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西方連邦の首都を「吸収合併(物理)」してから数日後。
わたしたちの旅は、新たな局面を迎えていた。
目の前に広がるのは、見渡す限りの赤茶けた大地と、陽炎が揺らめく灼熱の砂漠地帯。
かつて1000年前は交易路として栄えたこの「西の砂海」も、魔素異常と干ばつにより、死のロードと化しているという。
普通なら、ここで足止めを食らうか、命がけの横断を強いられるところだ。
「……暑いですわね」
わたしは、『監督壱型』――帝国から鹵獲した多脚戦車タラスクを魔改造し、上部に日除けと指揮台を増設した特注の「玉座(重機)」に座りながら、優雅に氷入りのレモン水を口にした。
頭上には、巨大な日傘代わりの『天蓋都市』が浮かび、強力な冷房魔法を地上へ降り注いでいる。
おかげで、わたしの周囲半径50メートルは、避暑地のように快適な気温に保たれていた。
『おーい、姐さん! 路盤の転圧、順調だがね! 砂だろうがなんだろうが、ガチガチに固めてまったるでよぉ!』
先頭からは、ヒデヨシの元気な声が無線で飛んでくる。
わたしの目の前を走るのは、数日前に連邦軍から鹵獲し、魔改造された重機軍団だ。
『監督壱型』の姉妹機である『整地壱型』が、その巨体で岩を砕き、砂を押し固める。
パワードスーツ『ゴリアテ』改め『土木参型』を着込んだ元連邦兵士たちが、勤勉な蟻のようにアスファルトを敷設していく。
その後ろには、リョウマの『黒船屋』の物資を積んだ百台以上のトラックと、商売あがったりで暇になった西方の商人たちの馬車列が続く。
総勢、一万にも達するだろうか。
もはや「一行」ではない。「移動都市」だ。
わたしたちは、砂漠の真ん中に一本の「文明の道」を刻み込みながら、時速数十キロで爆走していた。
「……これ、旅の情緒もへったくれもありませんわね」
わたしが苦笑すると、隣で地図を広げていたミリアが眼鏡の位置を直した。
「ですが、効率的です、レヴィーネ様。時は金なり。このペースなら、予定より早く大陸中央の『大断裂帯』に到達できるでしょう。……ただ」
「ただ?」
「この先のエリアで、複数の生体反応が衝突しています。……現地部族の争いかと」
ミリアの言葉が終わるか終わらないかのうちに、前方の砂煙の中から、怒号と金属音が聞こえてきた。
◆◆◆
そこは、枯れかけたオアシスだった。
かつては豊かな水を湛えていたであろう泉は、今は泥水がわずかに湧くだけの水たまりとなっていた。
その周囲で、二つの集団が睨み合い、剣と槍を交えている。
片や、赤いターバンを巻き、湾刀を手にした『赤蠍族』。
片や、青い装束を纏い、長槍を構えた『蒼鷹族』。
いずれもも砂漠の遊牧民――タクラの民の末裔たちだ。
「この水は我ら赤蠍のものだ! 失せろ!」
「黙れ! 我らの羊が死にかけているのだ! 一滴たりとも渡さん!」
殺気立った怒号。血で血を洗う争い。
生きるための、切実な殺し合いだ。
だが。
「……邪魔ですわね」
わたしは、ため息をついた。
彼らが争っている場所は、わたしが引いた「道路予定地」のど真ん中なのだ。
工事の手が止まってしまうではないか。
「ヒデヨシ。全軍停止」
わたしが合図を送ると、ズズズズズ……と地響きを立てて、重機軍団が停止した。
突然現れた謎の巨大集団と、空を覆う天蓋都市の影に、争っていた部族たちが動きを止める。
「な、なんだ!?」
「怪物か!? いや、軍隊か!?」
呆然とする彼らの前に、わたしは『監督壱型』の指揮台からふわりと飛び降りた。
砂埃一つ立てず、優雅に着地する。
やはり、交渉事は相手と同じ目線に立ち、そして見下ろしてこそだ。
「ごきげんよう、砂漠の皆様。……少々、道を開けていただけなくて?」
わたしが鉄扇を開いて微笑むと、部族の長らしき二人の男が、警戒心を露わにして進み出てきた。
赤蠍族の長は、筋肉隆々の巨漢。蒼鷹族の長は、鋭い目つきの細身の男だ。
彼らにとって、強さこそが正義。突然現れた余所者に、縄張りを荒らされた怒りが向く。
「何者だ女! ここはこの一帯を統べる我ら部族の聖地! 余所者が土足で踏み入っていい場所ではない!」
「そうだ! それに、我らは今、存亡をかけた決闘の最中だ! 邪魔をするなら、貴様らも敵とみなすぞ!」
殺気が膨れ上がる。
二人の長が合図をすると、数百人の戦士たちが一斉にわたしへと武器を向けた。
なるほど。話し合いよりも、まずは力が欲しいと。
砂漠の流儀というわけか。
「……その流儀は嫌いではありませんが、淑女に向けるには少々野蛮ですわ」
わたしは鉄扇をパチンと閉じた。
その音が、開戦の合図となった。
襲いかかる刃。唸る槍。
だが、遅い。
「ッ!!」
わたしは構えることもなく、魔力で強化した「威圧」を叩きつけた。
ドォォォォォン……ッ!!
大気が軋むほどの重圧。
さらに、わたしは鉄扇を一閃させる。
真空の刃が砂を巻き上げ、彼らの足元の地面だけを正確に切り裂いた。
「ぬぉっ!?」
「バ、バカな!?」
ドサドサドサッ!
戦士たちがバランスを崩して倒れ込む。
わたしは、驚愕に固まる二人の族長の前に、音もなく移動していた。
彼らの首元に、鉄扇を突きつける。
「……お遊びは終わりですわ」
圧倒的な強者のオーラ。
生物としての格の違いを、肌で理解させる。
二人の族長は、脂汗を流しながら、ガクガクと膝を震わせて跪いた。
「こ、降参だ……!」
「我らの……負けだ……」
勝負あり。
わたしは鉄扇を引く。
「命を粗末にするのは感心しませんわ。……欲しいのは水でしょう? ならば、もっと『建設的』にやりなさい」
「だ、だが、水は限られている! 奪い合わねば……」
「足りないなら、掘ればよろしいのですわ。イリス、水源をスキャンなさい」
わたしはイヤーカフに指を当て、短く命じた。
『了解。衛星アルゴス、地質探査モード起動。……スキャン完了。地下50メートル地点に大規模な地下水脈を確認。ただし、硬度Aクラスの岩盤に阻まれています』
「場所は?」
『現在位置より北へ15メートル』
「ヒデヨシ! やりますわよ!」
『おうよ、姐さん! 「黒鉄組」、掘削始めたるでよぉ!』
わたしの号令で、巨大なドリルを装着した『土木弐型』部隊が躍り出る。
ガガガガガガッ!!
凄まじい轟音と共に、大地が穿たれていく。
呆気にとられる部族たちを尻目に、穴はどんどん深くなる。
だが、すぐに甲高い金属音が響いた。
『姐さん! 硬ぇ岩盤にぶち当たってまったがね! わしらのドリルじゃあ、えりゃあ時間がかかるでよぉ!』
「あら、そうですか。……ならば」
わたしはドレスの裾を翻し、足元の影に手を突っ込んだ。
影魔法『暗闇の間』。
そこから、ズヌゥッ……と異様な質量の「何か」を引きずり出す。
それは、ドワーフの秘法で強化された黒鋼製のパイプ椅子――『漆黒の玉座』。
日常使いの重機とは違う。これは、理不尽を粉砕するための「兵器」だ。
「どきなさい。……物理で、開通させますわ」
わたしは玉座を片手で持ち上げ、掘削された穴の底へと飛び降りた。
全身の魔力を循環させ、腕力と強化魔法を臨界点まで高める。
パイプ椅子が、不吉なほどに赤黒く輝く。
「――ふんッ!!」
ドゴォォォォォォォォォォンッッ!!!!!
全身全霊のスイング。
漆黒の玉座の一撃が、岩盤の中央に突き刺さる。
大気が震え、衝撃波が周囲の土砂を吹き飛ばした。
パキィィィィン……!!
硬質な破砕音。そして。
ドッパァァァァァァァッッ!!!!!
亀裂から、猛烈な勢いで地下水が噴き出した。
泥水混じりの水しぶきを頭から浴びながら、わたしは不敵に笑った。
「ふふ……! 大漁ですわね!」
わたしは穴の上を見上げた。
「アリス! 仕上げをお願い!」
地上で待機していたアリスが、軽い足取りで穴の縁に進み出た。
部族たちが固唾を飲んで見守る中、彼女はニカっと笑ってピースサインを送ってきた。
「おっけー! 任せてレヴィちゃん!」
軽い返事だが、杖を構えた瞬間に放たれる魔力の質は、本物だ。
こんなこの世の果てにまで着いてきてくれる最高の相棒。
わたしの「破壊」を、彼女が「再生」に変える。それがわたしたちの戦い方だ。
「清浄なる乙女の涙よ、穢れを雪ぎ、命の源となれ……『浄化』!」
聖なる光が降り注ぎ、水を包み込む。
わたしを濡らしていた茶色い泥水が、一瞬にして光り輝く透明な水へと変わった。
「さあ、ヒデヨシ! 水を逃すんじゃなくてよ!」
『おうよ! 野郎ども、カナートとサルドバの設置だ! 水路を引いて、この一帯を緑に変えるぞ!』
黒鉄組が、あらかじめ用意していたU字溝や冷却石を組み合わせていく。
これまでの旅で、幾度となく街道にオアシスを作ってきた経験が、ここで火を噴いた。
あっという間に、枯れたオアシスは、冷たく澄んだ水を湛える巨大な貯水池へと生まれ変わった。
さらにアリスがデメテルと共に品種改良した、砂漠緑化を推進させる様々な植物の苗や種を植えては光魔法で急激に成長させてゆく。
オアシスの周囲には牧草が豊かに繁り、葡萄や棗がその実をみのらせはじめた。
「あ、ありえん……神の御業だ……」
「伝説の……聖女だ……」
部族たちが、アリスに向かってひれ伏し、涙を流して拝んでいる。
アリスは少し恥ずかしそうに、けれど誇らしげに、水浸しで上がってきたわたしにタオルを差し出した。
「レヴィちゃん、風邪引いちゃうよ?」
「ありがとう、アリス。……ナイスアシストでしたわ」
わたしはタオルを受け取り、二人の族長に向き直った。
「水は確保しましたわ。……ですが、この水利権をどう配分するか。また殺し合いをしますの?」
「い、いや、それは……」
「殺し合いは禁止です。……ですが、優先順位は決めなければなりませんわね」
わたしは指を鳴らした。
黒鉄組が、手際よく四角いリングを組み上げる。
「これより『第一回・砂漠大一番』を開催しますわ! ルールは簡単。武器の使用は禁止。不殺のルールで、相手の両肩を地面につけた方が勝ち。……勝った部族が、最初に水を汲む権利を得る。それでよろしくて?」
「う、承知した……!」
もはや彼らに拒否権はない。
圧倒的な力と、恵みの水を前にして、彼らは素直にリングに上がった。
◆◆◆
カーン!
ゴングが鳴り、筋肉と筋肉がぶつかり合う音が響く。
殺伐とした殺し合いではない。スポーツとしての闘争。
観客席では、リョウマが振る舞うケバブと麦酒を手にした部族民たちが、熱狂的な声援を送っている。
「いいぞ赤蠍! バックドロップだ!」
「負けるな蒼鷹! そこでコブラツイストだ!」
平和で、野蛮で、最高に熱い夜。
その宴の席に、さらなる来訪者が現れた。
「……良い匂いだ。我らにも相伴させてもらいたいものだな」
北の岩場から現れたのは、屈強な獣人の一団と、優美な弓を背負ったエルフの一団だった。
獣人たちの先頭に立つ獅子の戦士が、恭しく頭を下げる。
「我らは北の獣王ガロン様の命により参った。……『あのトヨノクニの女が砂漠に道を造っていると聞いた。面白い、力自慢の若手を送るゆえ、存分に使ってくれ』とな」
続いて、エルフのリーダーが進み出る。
「我らはエルフの女王エルウィン様より派遣された緑化支援部隊です。……そちらにおわす聖女アリス様は、我が女王が見込んだ、次代の『緑』を担うお方。砂漠に緑を取り戻し、大断裂帯を浄化するその試練、我らもお手伝いしたく馳せ参じました」
獣人はわたしの力(暴力と土木)に惹かれ、エルフはアリスの徳(聖女の光)に惹かれてやってきたのだ。
わたしは満足げに頷いた。
「歓迎しますわ! 獣人の腕力、エルフの魔法、すべて『黒鋼大回廊』のための労働力として活用させていただきます!」
わたしはリョウマに目配せをした。
「リョウマ、彼らの食事を用意なさい。獣人たちには山盛りの肉を。……エルフの方々には、お肉を使わない、野菜たっぷりの『特製ちゃんこ』と『塩むすび』を!」
「合点承知の助ぜよ! デコトラ便でトヨノクニから新鮮な野菜が届いたばかりじゃき! 出汁も魚や鶏は使わず、昆布と椎茸でとった『精進出汁』で極上のに仕上げちゃる!」
エルフたちが目を輝かせる。
菜食主義の彼らにとって、旅先での食事は悩みの種だったはずだが、物流の王がそれを解決した。
芳醇な出汁の香りと、炊きたての銀シャリの甘い匂いがオアシスに広がる。
「おお……これが東方の『コメ』か。宝石のように輝いておる……」
「このスープも、体に染み渡るようだ。生命の味がする……」
獣人たちが肉に喰らいつき、エルフたちが塩むすびを噛み締めて涙する。
「勝負あった! 勝者、赤蠍族!」
リング上での決着がついた。
わたしは、へたり込む二人の族長に手を差し伸べ、立ち上がらせた。
「良い勝負でしたわ。……さあ、ノーサイドです。水は全員で分け合い、今夜は宴としましょう!」
わたしたちの旅は、新たな局面を迎えていた。
目の前に広がるのは、見渡す限りの赤茶けた大地と、陽炎が揺らめく灼熱の砂漠地帯。
かつて1000年前は交易路として栄えたこの「西の砂海」も、魔素異常と干ばつにより、死のロードと化しているという。
普通なら、ここで足止めを食らうか、命がけの横断を強いられるところだ。
「……暑いですわね」
わたしは、『監督壱型』――帝国から鹵獲した多脚戦車タラスクを魔改造し、上部に日除けと指揮台を増設した特注の「玉座(重機)」に座りながら、優雅に氷入りのレモン水を口にした。
頭上には、巨大な日傘代わりの『天蓋都市』が浮かび、強力な冷房魔法を地上へ降り注いでいる。
おかげで、わたしの周囲半径50メートルは、避暑地のように快適な気温に保たれていた。
『おーい、姐さん! 路盤の転圧、順調だがね! 砂だろうがなんだろうが、ガチガチに固めてまったるでよぉ!』
先頭からは、ヒデヨシの元気な声が無線で飛んでくる。
わたしの目の前を走るのは、数日前に連邦軍から鹵獲し、魔改造された重機軍団だ。
『監督壱型』の姉妹機である『整地壱型』が、その巨体で岩を砕き、砂を押し固める。
パワードスーツ『ゴリアテ』改め『土木参型』を着込んだ元連邦兵士たちが、勤勉な蟻のようにアスファルトを敷設していく。
その後ろには、リョウマの『黒船屋』の物資を積んだ百台以上のトラックと、商売あがったりで暇になった西方の商人たちの馬車列が続く。
総勢、一万にも達するだろうか。
もはや「一行」ではない。「移動都市」だ。
わたしたちは、砂漠の真ん中に一本の「文明の道」を刻み込みながら、時速数十キロで爆走していた。
「……これ、旅の情緒もへったくれもありませんわね」
わたしが苦笑すると、隣で地図を広げていたミリアが眼鏡の位置を直した。
「ですが、効率的です、レヴィーネ様。時は金なり。このペースなら、予定より早く大陸中央の『大断裂帯』に到達できるでしょう。……ただ」
「ただ?」
「この先のエリアで、複数の生体反応が衝突しています。……現地部族の争いかと」
ミリアの言葉が終わるか終わらないかのうちに、前方の砂煙の中から、怒号と金属音が聞こえてきた。
◆◆◆
そこは、枯れかけたオアシスだった。
かつては豊かな水を湛えていたであろう泉は、今は泥水がわずかに湧くだけの水たまりとなっていた。
その周囲で、二つの集団が睨み合い、剣と槍を交えている。
片や、赤いターバンを巻き、湾刀を手にした『赤蠍族』。
片や、青い装束を纏い、長槍を構えた『蒼鷹族』。
いずれもも砂漠の遊牧民――タクラの民の末裔たちだ。
「この水は我ら赤蠍のものだ! 失せろ!」
「黙れ! 我らの羊が死にかけているのだ! 一滴たりとも渡さん!」
殺気立った怒号。血で血を洗う争い。
生きるための、切実な殺し合いだ。
だが。
「……邪魔ですわね」
わたしは、ため息をついた。
彼らが争っている場所は、わたしが引いた「道路予定地」のど真ん中なのだ。
工事の手が止まってしまうではないか。
「ヒデヨシ。全軍停止」
わたしが合図を送ると、ズズズズズ……と地響きを立てて、重機軍団が停止した。
突然現れた謎の巨大集団と、空を覆う天蓋都市の影に、争っていた部族たちが動きを止める。
「な、なんだ!?」
「怪物か!? いや、軍隊か!?」
呆然とする彼らの前に、わたしは『監督壱型』の指揮台からふわりと飛び降りた。
砂埃一つ立てず、優雅に着地する。
やはり、交渉事は相手と同じ目線に立ち、そして見下ろしてこそだ。
「ごきげんよう、砂漠の皆様。……少々、道を開けていただけなくて?」
わたしが鉄扇を開いて微笑むと、部族の長らしき二人の男が、警戒心を露わにして進み出てきた。
赤蠍族の長は、筋肉隆々の巨漢。蒼鷹族の長は、鋭い目つきの細身の男だ。
彼らにとって、強さこそが正義。突然現れた余所者に、縄張りを荒らされた怒りが向く。
「何者だ女! ここはこの一帯を統べる我ら部族の聖地! 余所者が土足で踏み入っていい場所ではない!」
「そうだ! それに、我らは今、存亡をかけた決闘の最中だ! 邪魔をするなら、貴様らも敵とみなすぞ!」
殺気が膨れ上がる。
二人の長が合図をすると、数百人の戦士たちが一斉にわたしへと武器を向けた。
なるほど。話し合いよりも、まずは力が欲しいと。
砂漠の流儀というわけか。
「……その流儀は嫌いではありませんが、淑女に向けるには少々野蛮ですわ」
わたしは鉄扇をパチンと閉じた。
その音が、開戦の合図となった。
襲いかかる刃。唸る槍。
だが、遅い。
「ッ!!」
わたしは構えることもなく、魔力で強化した「威圧」を叩きつけた。
ドォォォォォン……ッ!!
大気が軋むほどの重圧。
さらに、わたしは鉄扇を一閃させる。
真空の刃が砂を巻き上げ、彼らの足元の地面だけを正確に切り裂いた。
「ぬぉっ!?」
「バ、バカな!?」
ドサドサドサッ!
戦士たちがバランスを崩して倒れ込む。
わたしは、驚愕に固まる二人の族長の前に、音もなく移動していた。
彼らの首元に、鉄扇を突きつける。
「……お遊びは終わりですわ」
圧倒的な強者のオーラ。
生物としての格の違いを、肌で理解させる。
二人の族長は、脂汗を流しながら、ガクガクと膝を震わせて跪いた。
「こ、降参だ……!」
「我らの……負けだ……」
勝負あり。
わたしは鉄扇を引く。
「命を粗末にするのは感心しませんわ。……欲しいのは水でしょう? ならば、もっと『建設的』にやりなさい」
「だ、だが、水は限られている! 奪い合わねば……」
「足りないなら、掘ればよろしいのですわ。イリス、水源をスキャンなさい」
わたしはイヤーカフに指を当て、短く命じた。
『了解。衛星アルゴス、地質探査モード起動。……スキャン完了。地下50メートル地点に大規模な地下水脈を確認。ただし、硬度Aクラスの岩盤に阻まれています』
「場所は?」
『現在位置より北へ15メートル』
「ヒデヨシ! やりますわよ!」
『おうよ、姐さん! 「黒鉄組」、掘削始めたるでよぉ!』
わたしの号令で、巨大なドリルを装着した『土木弐型』部隊が躍り出る。
ガガガガガガッ!!
凄まじい轟音と共に、大地が穿たれていく。
呆気にとられる部族たちを尻目に、穴はどんどん深くなる。
だが、すぐに甲高い金属音が響いた。
『姐さん! 硬ぇ岩盤にぶち当たってまったがね! わしらのドリルじゃあ、えりゃあ時間がかかるでよぉ!』
「あら、そうですか。……ならば」
わたしはドレスの裾を翻し、足元の影に手を突っ込んだ。
影魔法『暗闇の間』。
そこから、ズヌゥッ……と異様な質量の「何か」を引きずり出す。
それは、ドワーフの秘法で強化された黒鋼製のパイプ椅子――『漆黒の玉座』。
日常使いの重機とは違う。これは、理不尽を粉砕するための「兵器」だ。
「どきなさい。……物理で、開通させますわ」
わたしは玉座を片手で持ち上げ、掘削された穴の底へと飛び降りた。
全身の魔力を循環させ、腕力と強化魔法を臨界点まで高める。
パイプ椅子が、不吉なほどに赤黒く輝く。
「――ふんッ!!」
ドゴォォォォォォォォォォンッッ!!!!!
全身全霊のスイング。
漆黒の玉座の一撃が、岩盤の中央に突き刺さる。
大気が震え、衝撃波が周囲の土砂を吹き飛ばした。
パキィィィィン……!!
硬質な破砕音。そして。
ドッパァァァァァァァッッ!!!!!
亀裂から、猛烈な勢いで地下水が噴き出した。
泥水混じりの水しぶきを頭から浴びながら、わたしは不敵に笑った。
「ふふ……! 大漁ですわね!」
わたしは穴の上を見上げた。
「アリス! 仕上げをお願い!」
地上で待機していたアリスが、軽い足取りで穴の縁に進み出た。
部族たちが固唾を飲んで見守る中、彼女はニカっと笑ってピースサインを送ってきた。
「おっけー! 任せてレヴィちゃん!」
軽い返事だが、杖を構えた瞬間に放たれる魔力の質は、本物だ。
こんなこの世の果てにまで着いてきてくれる最高の相棒。
わたしの「破壊」を、彼女が「再生」に変える。それがわたしたちの戦い方だ。
「清浄なる乙女の涙よ、穢れを雪ぎ、命の源となれ……『浄化』!」
聖なる光が降り注ぎ、水を包み込む。
わたしを濡らしていた茶色い泥水が、一瞬にして光り輝く透明な水へと変わった。
「さあ、ヒデヨシ! 水を逃すんじゃなくてよ!」
『おうよ! 野郎ども、カナートとサルドバの設置だ! 水路を引いて、この一帯を緑に変えるぞ!』
黒鉄組が、あらかじめ用意していたU字溝や冷却石を組み合わせていく。
これまでの旅で、幾度となく街道にオアシスを作ってきた経験が、ここで火を噴いた。
あっという間に、枯れたオアシスは、冷たく澄んだ水を湛える巨大な貯水池へと生まれ変わった。
さらにアリスがデメテルと共に品種改良した、砂漠緑化を推進させる様々な植物の苗や種を植えては光魔法で急激に成長させてゆく。
オアシスの周囲には牧草が豊かに繁り、葡萄や棗がその実をみのらせはじめた。
「あ、ありえん……神の御業だ……」
「伝説の……聖女だ……」
部族たちが、アリスに向かってひれ伏し、涙を流して拝んでいる。
アリスは少し恥ずかしそうに、けれど誇らしげに、水浸しで上がってきたわたしにタオルを差し出した。
「レヴィちゃん、風邪引いちゃうよ?」
「ありがとう、アリス。……ナイスアシストでしたわ」
わたしはタオルを受け取り、二人の族長に向き直った。
「水は確保しましたわ。……ですが、この水利権をどう配分するか。また殺し合いをしますの?」
「い、いや、それは……」
「殺し合いは禁止です。……ですが、優先順位は決めなければなりませんわね」
わたしは指を鳴らした。
黒鉄組が、手際よく四角いリングを組み上げる。
「これより『第一回・砂漠大一番』を開催しますわ! ルールは簡単。武器の使用は禁止。不殺のルールで、相手の両肩を地面につけた方が勝ち。……勝った部族が、最初に水を汲む権利を得る。それでよろしくて?」
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もはや彼らに拒否権はない。
圧倒的な力と、恵みの水を前にして、彼らは素直にリングに上がった。
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カーン!
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殺伐とした殺し合いではない。スポーツとしての闘争。
観客席では、リョウマが振る舞うケバブと麦酒を手にした部族民たちが、熱狂的な声援を送っている。
「いいぞ赤蠍! バックドロップだ!」
「負けるな蒼鷹! そこでコブラツイストだ!」
平和で、野蛮で、最高に熱い夜。
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「……良い匂いだ。我らにも相伴させてもらいたいものだな」
北の岩場から現れたのは、屈強な獣人の一団と、優美な弓を背負ったエルフの一団だった。
獣人たちの先頭に立つ獅子の戦士が、恭しく頭を下げる。
「我らは北の獣王ガロン様の命により参った。……『あのトヨノクニの女が砂漠に道を造っていると聞いた。面白い、力自慢の若手を送るゆえ、存分に使ってくれ』とな」
続いて、エルフのリーダーが進み出る。
「我らはエルフの女王エルウィン様より派遣された緑化支援部隊です。……そちらにおわす聖女アリス様は、我が女王が見込んだ、次代の『緑』を担うお方。砂漠に緑を取り戻し、大断裂帯を浄化するその試練、我らもお手伝いしたく馳せ参じました」
獣人はわたしの力(暴力と土木)に惹かれ、エルフはアリスの徳(聖女の光)に惹かれてやってきたのだ。
わたしは満足げに頷いた。
「歓迎しますわ! 獣人の腕力、エルフの魔法、すべて『黒鋼大回廊』のための労働力として活用させていただきます!」
わたしはリョウマに目配せをした。
「リョウマ、彼らの食事を用意なさい。獣人たちには山盛りの肉を。……エルフの方々には、お肉を使わない、野菜たっぷりの『特製ちゃんこ』と『塩むすび』を!」
「合点承知の助ぜよ! デコトラ便でトヨノクニから新鮮な野菜が届いたばかりじゃき! 出汁も魚や鶏は使わず、昆布と椎茸でとった『精進出汁』で極上のに仕上げちゃる!」
エルフたちが目を輝かせる。
菜食主義の彼らにとって、旅先での食事は悩みの種だったはずだが、物流の王がそれを解決した。
芳醇な出汁の香りと、炊きたての銀シャリの甘い匂いがオアシスに広がる。
「おお……これが東方の『コメ』か。宝石のように輝いておる……」
「このスープも、体に染み渡るようだ。生命の味がする……」
獣人たちが肉に喰らいつき、エルフたちが塩むすびを噛み締めて涙する。
「勝負あった! 勝者、赤蠍族!」
リング上での決着がついた。
わたしは、へたり込む二人の族長に手を差し伸べ、立ち上がらせた。
「良い勝負でしたわ。……さあ、ノーサイドです。水は全員で分け合い、今夜は宴としましょう!」
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