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【第16部】グランドフィナーレ・物理帝国編 ~神様、残業代(寿命)はいりません。この世界は最高に退屈しませんもの!~
第172話 結婚式(物理):誓いの署名は筋肉と鉄の香りがしますわ
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空気が、物理的な質量を伴って爆ぜていた。
大陸の中央、かつて世界を分断していた「大断裂帯」。
今やそこは傷跡ではない。古代技術と東方のからくり、そして「物理」が融合した人類の到達点、皇都アクシスだ。
今日、皇都の象徴である「国立競技場」を埋め尽くした数万の群衆は、理性のタガを完全に粉砕していた。
屋台からは、無料で振る舞われる特製「建国ちゃんこ鍋」の暴力的な香りが立ち込めている。
ヒューマン、獣人、エルフ、ドワーフ。本来交わるはずのなかった種族たちが、巨大な魔導スクリーンを見上げ、歴史が確定する瞬間を今か今かと煽り立てていた。
地鳴りのごとき歓声は、主役の登場を待たずして限界値を振り切っている。
「……素晴らしい轟音ですわね。まるで、これから世界を壊しにいく興行の前のようですわ」
窓ガラスがびりびりと震え続ける控室で、わたしは鏡を見つめた。
最高級の純白ドレス。だが、その布地を内側から押し留めているのは、鋼のごとき「筋肉」だ。
清楚な白が、ドレスの下に秘められた「ドス黒い暴力」を、皮肉にも鮮明に際立たせていた。
「はぁ……レヴィーネ様、最高です。最高に『映えて』います。ああ、やはりこの大胸筋の光沢、広背筋の隆起……私の計算通り、いえ、計算を遥かに超えた神々しさです……!」
背後で、冷徹な宰相面をパージしたミリアが、うっとりとした声を漏らす。プロの手つきで、ドレスの乱れを修正しながら。
「ちょっとミリア、鼻息が荒いわよ。……それに、さっきからドレスの裾を直しすぎじゃない?」
わたしが呆れて振り返ると、ミリアは狂信的な微笑みを浮かべた。
「当然です。今日のレヴィーネ様は、世界という市場における『究極の正解』なのですから。一ミリの乱れも、一ミクロンの損失も許されません。……ああ、アレクセイ様には勿体なすぎます。いっそこのまま、私とアリスさんでレヴィーネ様をどこかへ連れ去ってしまいたいくらいですよ」
「レヴィちゃん! わあ、すごい……本当にお姫様……いや、女帝様だね! レヴィーネ陛下、本日の意気込みを一言!」
いつの間にか隣に来ていたアリスが、聖女の杖をマイク代わりに差し出しながら笑った。彼女も最高礼装だが、中身は相変わらずだ。
「そういえばさ、レヴィちゃん。……アレクセイ殿下……あ、もう殿下じゃないんだっけ? あ、でもレヴィちゃんのお婿さんになるんだから王配殿下? そうなるとやっぱりアレクセイ殿下、でいいのかな……?」
「どちらでもいいんじゃない?……彼自身は『作業員』を自称しているけど。アレクセイ様、と呼べば間違いはないんじゃないかしら」
わたしが苦笑すると、ミリアはスッと眼鏡の位置を直し、本来の顔に戻った。
「アレクセイ殿下といえば……。レヴィーネ様……あの貴族院での、身勝手な追放劇からここまで、本当によく走ってきましたね」
ミリアの声に、戦友への深い情愛が混ざる。アリスもまた、わたしの手をギュッと握りしめた。
「うん。……全部、レヴィちゃんが椅子ひとつでブチ抜いてくれたおかげだね。私、レヴィちゃんに出会えて、本当によかったよ」
わたしは二人の顔を見て、ふっと笑みをこぼした。
この「黄金のトライアングル」の温度だけは、三人で帝国を出てから少しも変わっていない。
「……ええ。だけど、ここからが本番よ。さあ、わたしたちの『国』を、文字通り物理的に盤石なものにするわよ」
わたしは不敵に笑い、重厚な扉を、指先ひとつので押し開いた。
会場は、元天蓋都市の中枢ビル。
本来なら厳粛であるはずの式典会場だが、防音壁をも透過する数万の民衆の「熱」が、室内の空気を振動させている。
そこに座す大陸の支配者たち――「証人」たちもまた、その熱に浮かされ、獰猛な笑みを浮かべていた。
これは「平和条約」の調印式ではない。最強の猛者たちが同盟を結ぶ、血の誓いの儀式だ。
司式を務めるラノリア王ギルベルトが、外の轟音に負けない声を張り上げた。
「これより、婚姻の儀、および大陸共同体条約の調印を執り行う! ……証人たちよ、前へ! 民衆の叫びを聞け! その熱量に応え、其方らの意志を歴史に刻み込むのだッ!」
最初の証人が立ち上がる。ガルディア帝国第一皇女。
彼女が姿を現すと、スクリーン越しの民衆から「帝国万歳!」のコールが巻き起こる。
「おめでとうございます、レヴィーネ陛下。……アレク、皇籍を捨てると言い出した時はどうなるかと思ったけれど、今のあなたは誰よりも強く、雄々しい顔をしているわ」
彼女は万年筆を取り、わたしたちの前へ歩み寄った。
「貴族院のサロンであなたと初めて出会った十年前。あの令嬢が、まさか世界を繋ぐ女帝となられるとは……。父上、兄上からも祝辞を預かっています。……ガルディア帝国は、貴女方二人を祝福いたします」
ペンが紙を走る。書き終わると同時、ドォォォォンッ!! とスタジアムが揺れる。
その余韻を切り裂き、豪快に椅子を鳴らして立ち上がったのは、我が祖父マラグだ。
「ガッハッハ! か細い声援などいらぬ! もっと叫べ、もっと喉を枯らせ! 今日は我が孫娘が、星の頂点に立つ日ぞ!」
マラグはアレクセイの肩を、並の戦士なら即死しかねない力で叩いた。アレクセイが顔色一つ変えずにそれを受け止めると、マラグはさらに破顔した。
「良い体幹だ、アレクセイ! お前が孫娘の『楔』になるというのなら、わしも武人として、一人の男としてお前を認めよう。存分にこの星を耕してこい! ……北のハニマルは、お前ら二人を祝福するぞッ!」
署名がなされるたび、歓声のボルテージは階段を登るように上がっていく。
続いて、ギルベルト自身も教皇としてのペンを執った。
「筋肉がもたらす揺るぎない力と、陛下がこの大陸に示した圧倒的な速度! それこそが、迷える衆生を導く新たな福音となるでしょう!」
彼はアレクセイの瞳を見つめ、力強く頷いた。
「アレクセイ殿、君が彼女を支えるその背に、聖なる加護があらんことを。……聖教国ラノリアは、貴女方二人を祝福いたします!」
四人目。不敵な笑みを隠そうともせずに歩み出たのは、トヨノクニの天下人、ノブナガだ。
彼がスクリーンに映った瞬間、東方の民たちから割れんばかりの歓声が上がる。
「カッカッカ! 良い熱気だ! この狂乱こそが、新しい時代の産声よ! 貴様が敷く鉄の路、余の天下を走らせるのが今から楽しみだ。古い理を轢き殺し、退屈な世界を物理で塗り替えろ!」
ノブナガは、軍記物に判を捺すかのような鋭さで署名を終えた。
「……トヨノクニは、お主ら二人を祝福しよう!」
そして最後の一人。大森林の女王エルウィンが、親友のアリスを伴って優雅にペンを取る。彼女はわたしの隣で、興奮を隠しきれない様子で囁いた。
「……アリスと共に、私も認めよう。おぬしらは、この大陸の緑を、そしてすべての命を繋ぐ『庇護者』じゃ。……それにしても、なんという熱狂じゃ。森では決して味わえぬ、命の奔流を感じるのう」
エルウィンは、署名をしながら、ふと鼻先を動かした。
「……ところでレヴィーネ、この凄まじい熱気の向こうから、あの『ずんだ』の香りがするのじゃが……気のせいか?」
わたしは、噴き出しそうになるのを必死で堪えた。
エルウィンは満足げに居住まいを正し、凛とした声で締めくくった。
「……エルフの里と大森林は、大世界樹とともに、貴女方二人を祝福しようぞ」
すべての署名が終わった。
部屋の温度はサウナのように上がり、外の歓声はもはや音ではなく、肌を叩く衝撃波となって空間を支配していた。
「最後に!! 当事者二名の署名をッ!!」
ギルベルトの叫びが、導火線に火をつけた。
わたしは、隣に立つアレクセイと視線を交わした。かつての帝国第二皇子。「現場監督」としてわたしの前に現れた男。
彼は静かに、わたしの前で片膝を突いた。その瞬間、民衆の叫びが一瞬だけ、さらに一段階跳ね上がる。
その動作は、騎士の礼というよりは、これから始まる果てしない「労働」への覚悟を秘めたものだった。
「……改めて誓おう、レヴィーネ。私は今日、帝国という殻を完全に脱ぎ捨て、君という女帝に仕える最も頑丈な『楔』になる。大陸の果てまで、君の覇道を支え続けるよ、陛下」
わたしは、漆黒の万年筆を手に取った。この一本のペン先が、今、大陸全ての「理不尽」を書き換えようとしている。
「……一生などという、生ぬるい言葉は不採用ですわ。わたくしがこの世界に飽きるまで、永遠に働きなさい。これは雇用契約であり、運命のタッグマッチ。逃げることは許しませんわよ?」
わたしは羊皮紙に、自らの名を力強く刻みつけた。ペン先が紙を削る音が、魔導マイクを通じて民衆の心臓を叩く。
「望むところだ、陛下」
アレクセイが、わたしの署名のすぐ隣に、自らの名を記した。
書き終えた、その刹那。
「「「レヴィーネ陛下万歳!!!! アレクセイ殿下万歳!!!!」」」
理性のタガも、計測器の針も、すべてが吹き飛んだ。
数万の民衆が一斉に拳を突き上げ、歓喜の叫びを上げている。それは祝福の声であると同時に、新しい時代の幕開けを告げる「ゴング」の音色であった。
わたしは、アレクセイの手を強引に引き、彼を立ち上がらせた。そして、カメラの向こう側にいるすべての民に向けて、不敵な笑みを浮かべて言い放った。
「連邦皇国国民諸君! よくぞ吠えました!! この国に足りなかった『優秀な政治家』は手に入れましたわ! これであなたたちの生活を支えるインフラ整備は、さらに加速しますわよ!!」
わたしは、高らかに鉄扇を開いた。
「腹を空かせて待っていなさい。私がすべての理不尽を轢き殺し、最高のご飯を届けて差し上げますわ! ――わたくしの支配する世界へ、ようこそ!」
熱狂の渦は留まることを知らない。祝福の鐘さえも歓声にかき消されそうだ。
鉄と筋肉、そして飽くなき食欲が支配する、新しい時代の「汽笛」が鳴り響いていた。
「……ふふ、陛下、完璧です。今のスピーチで、支持率がさらに跳ね上がりました。……さあ、レヴィーネ様。お仕事はおしまいです」
ミリアが、いつの間にかわたしの隣で、いたずらっぽく耳打ちしてきた。
「お祝いのちゃんこ、冷めないうちに平らげに行きましょう。ずんだも、これでもかってくらい用意させましたから……ずんだに埋もれたいというエルウィン様の願いも、厨房が叶えてくれるはずです」
「ええ。行きましょう。アレク、遅れないでくださいませ?」
わたしが振り返ると、アレクセイは苦笑しながら、しかし確かな信頼を瞳に宿して頷いた。
「ああ。君の覇道と食欲に追い付くのは大変そうだが、死ぬ気でついていくよ」
わたしたちは、証人たちの拍手と、民衆の絶叫に包まれながら、新時代の扉を物理的に押し開いて進む。
悪役令嬢レヴィーネ・ヴィータヴェンの、本当の意味での「建国」が、今ここに始まった。
◆◆◆
熱狂冷めやらぬまま、民衆が待つバルコニーへ向かおうとしたその時だった。
会場の空気が、不穏なアラート音によって切り裂かれた。
『――警告。緊急事態発生』
懐の通信機からイリスの声が響き、同時に会場のスピーカーからデメテルの補足アナウンスが流れる。
『重大な式の途中に申し訳ありません。東の方角にワイバーンの群れを検知しました。皇都アクシスの方向に向かってきています』
大回廊の敷設を終え、大断裂帯に蓋をしたとはいえ、世界から魔素が完全に消えたわけではない。いまだその残り香に引かれ、魔獣が現れることは珍しくなかった。
民衆の歓声が一瞬どよめきに変わるが、そこに悲壮感はない。「今度は何が起きるんだ?」という、更なる興奮への期待すら混じっている。
『周辺のキャラバンには重大な被害が出る可能性があります』
「やれやれ……。国というものは、都市を作っておしまいというわけではないのが厄介だね」
隣でアレクセイが、呆れたように、しかしどこか楽しげに肩をすくめた。
「今日という日くらい、『めでたしめでたし』で終わらせてくれてもいいと思うんだがね」
「ふふっ、私達らしくていいじゃありませんか?」
わたしはドレスの裾を翻し、ニヤリと笑った。退屈な式典の締めくくりには、極上のスパイスだ。
「イリス、デメテル、ワイバーンの情報の詳細を。――私が直接出ますわ」
その言葉に、会場にいた武闘派たちが即座に反応した。
「ガハハ! 待てレヴィーネ! 花嫁が動く必要はない! ワシがひと揉みで叩き落としてきてやる!」
祖父マラグが豪快に立ち上がり、拳を鳴らす。
「いいえ、私が! 筋肉神官団を待機させています! 姐さんの晴れ舞台を汚す害虫は、私が駆除します!」
ギルベルトもまた、上着を脱ぎ捨てて筋肉を誇示する。
だが、わたしは鉄扇をパチンと鳴らし、彼らを制した。
「お待ちになって。お祖父様も、ギルも、下がっていてくださいな」
「な、何故だ!? 遠慮はいらんぞ!」
「遠慮ではありませんわ。皆様は今日、『国賓』としてお招きしたのです。ゲストに頼るわけにはいきません」
わたしはバルコニーの向こう、なおも熱狂し続ける数万の民衆と、その中に混じる諸外国の商人たちの気配を感じながら、断言した。
「それに……今日というこの日に、国立競技場に集まっている国民達や諸外国の商人達に、わたくしたちという存在を改めて知らしめる必要がありますの」
わたしはアレクセイと視線を交わす。彼もまた、覚悟を決めた瞳で頷いた。
「この国は、誰の庇護も必要としない。……わたくしとアレクセイ、この二人が揃えば、どんな災厄も『物理』でねじ伏せられるのだと、証明しなくてはなりませんわ」
そう。これはただの迎撃ではない。建国最大の「デモンストレーション」なのだ。
世界最強の武力と、それを支える魔導。その両輪が揃っていることを世界に見せつける、絶好の機会(チャンス)。
「……ふむ。花を持たせる、というわけか。良いだろう、見ていてやる!」
マラグが満足げに座り直す。
わたしはイリスとデメテルに指示を飛ばした。
「イリス、デメテル! ばっちり生中継を頼むわよ! ……アレク、共同作業ですわよ!」
「ああ! ケーキ入刀の代わりには、少し大きすぎる相手だがね」
わたしたちは転移魔法の光に包まれ、一瞬にして上空へと跳躍した。
眼下には、皇都を狙って滑空するワイバーンの群れ。その数、およそ二十。
強風がドレスを煽るが、わたしは足元に展開された魔力の足場をヒールで踏み砕き、さらに加速した。
「ごきげんよう、招かれざるお客様! お祝い代わりの『一撃』、受け取っていただきますわよ!」
わたしは影から、愛用する「漆黒の玉座」を引き抜いた。
ズヌゥ……ッ!
結婚式だからといって、純白にするつもりはない。このドス黒い鈍器こそが、わたしのアイデンティティ。
「アレク、逃がさないでくださいまし!」
「了解! 『氷結結界』!」
アレクセイが詠唱と共に手をかざすと、ワイバーンの群れの周囲の大気が一瞬で凍結し、見えない檻となって彼らの動きを阻害した。
逃げ場を失い、混乱する魔獣たち。その脳天に向けて、わたしは重力を味方につけたフルスイングを叩き込む。
「――消えなさいッッ!!」
ドゴォォォォォンッ!!!
鈍い音がした直後、生肉と鋼鉄が衝突する暴力的な衝撃音が響き渡った。
先頭を飛んでいたリーダー個体が、わたしの椅子の一撃を受けて、隕石のように垂直落下していく。
続けて、アレクセイの放った「焔創剣」が、残りの群れを正確に焼き払い、あるいは「氷壊槍」が翼を貫いた。
「ナイスアシストですわ、あなた!」
「君のインパクトも強烈だったよ。……さあ、仕上げだ!」
わたしたちの連携攻撃は、わずか数十秒で空の脅威を排除した。
黒煙を上げて荒野に落下していくワイバーンの山。それを見下ろしながら、わたしは満足げに椅子を肩に担いだ。
スクリーン越しに見ていたであろう民衆の歓声が、ここまで届くような気がした。
そして、数時間後。
国立競技場は、先程までの厳粛な式典会場から、巨大な「野外レストラン」へと変貌していた。
香ばしい肉の焼ける匂いと、食欲をそそるスパイスの香りが充満している。
「さあさあ、連邦皇国国民諸君! 祝いの膳です! 空からの恵み、心ゆくまで味わってくださいまし!」
わたしが高らかに宣言すると、屋台から次々と料理が振る舞われた。
メインディッシュは、もちろん先ほど撃墜されたばかりの新鮮なワイバーン肉だ。
資源の無駄遣いは許さない。襲ってきた敵は、美味しくいただくのがこの国の流儀だ。
「へいお待ち! 『ワイバーンのピリ辛スタミナちゃんこ鍋』だ!」
「こっちは『ワイバーンモモ肉のケバブ』だぞ! 焼きたてだ!」
「『ワイバーンカレー』に『タンドリーワイバーン』もあるぞ!」
アクシス国民と訪問客たちは、魔獣の肉というゲテモノへの恐怖など微塵もなく、「美味い!」「力が湧いてくる!」と貪り食っている。これも長年の啓蒙活動(物理)の成果だろう。
一方、肉を忌避するエルフ族のテーブルには、東の大回廊を通じてトヨノクニから緊急輸送された、色鮮やかな料理が並んでいた。
「おお……! これは『ずんだ餅』に『ずんだシェイク』! それに『豆乳ちゃんこ』に『ベジタリアンカレー』まであるぞ!」
森の女王エルウィンが、目を輝かせて震えている。その威厳ある表情は崩壊し、ただのスイーツ好きの乙女になり果てていた。
「これじゃ……! わらわが求めていたのは、この緑の宝珠じゃ!」
エルウィンをはじめとするエルフ族たちが、ずんだの甘みと豆乳のコクに骨抜きにされ、大満足の笑みを浮かべている。
その光景を見渡しながら、わたしは特製ちゃんこ(ワイバーン入り)をよそった椀を手に、アレクセイと乾杯した。
「……平和ですわね」
「ああ。君らしい、騒がしくて美味しい平和だ」
わたしたちは顔を見合わせ、笑い合った。
こうして、ヴィータヴェン・アクシス連邦皇国の歴史は、爆発と筋肉、そして世界中の人々を笑顔にする「美食」と共に、華々しく幕を開けたのだった。
大陸の中央、かつて世界を分断していた「大断裂帯」。
今やそこは傷跡ではない。古代技術と東方のからくり、そして「物理」が融合した人類の到達点、皇都アクシスだ。
今日、皇都の象徴である「国立競技場」を埋め尽くした数万の群衆は、理性のタガを完全に粉砕していた。
屋台からは、無料で振る舞われる特製「建国ちゃんこ鍋」の暴力的な香りが立ち込めている。
ヒューマン、獣人、エルフ、ドワーフ。本来交わるはずのなかった種族たちが、巨大な魔導スクリーンを見上げ、歴史が確定する瞬間を今か今かと煽り立てていた。
地鳴りのごとき歓声は、主役の登場を待たずして限界値を振り切っている。
「……素晴らしい轟音ですわね。まるで、これから世界を壊しにいく興行の前のようですわ」
窓ガラスがびりびりと震え続ける控室で、わたしは鏡を見つめた。
最高級の純白ドレス。だが、その布地を内側から押し留めているのは、鋼のごとき「筋肉」だ。
清楚な白が、ドレスの下に秘められた「ドス黒い暴力」を、皮肉にも鮮明に際立たせていた。
「はぁ……レヴィーネ様、最高です。最高に『映えて』います。ああ、やはりこの大胸筋の光沢、広背筋の隆起……私の計算通り、いえ、計算を遥かに超えた神々しさです……!」
背後で、冷徹な宰相面をパージしたミリアが、うっとりとした声を漏らす。プロの手つきで、ドレスの乱れを修正しながら。
「ちょっとミリア、鼻息が荒いわよ。……それに、さっきからドレスの裾を直しすぎじゃない?」
わたしが呆れて振り返ると、ミリアは狂信的な微笑みを浮かべた。
「当然です。今日のレヴィーネ様は、世界という市場における『究極の正解』なのですから。一ミリの乱れも、一ミクロンの損失も許されません。……ああ、アレクセイ様には勿体なすぎます。いっそこのまま、私とアリスさんでレヴィーネ様をどこかへ連れ去ってしまいたいくらいですよ」
「レヴィちゃん! わあ、すごい……本当にお姫様……いや、女帝様だね! レヴィーネ陛下、本日の意気込みを一言!」
いつの間にか隣に来ていたアリスが、聖女の杖をマイク代わりに差し出しながら笑った。彼女も最高礼装だが、中身は相変わらずだ。
「そういえばさ、レヴィちゃん。……アレクセイ殿下……あ、もう殿下じゃないんだっけ? あ、でもレヴィちゃんのお婿さんになるんだから王配殿下? そうなるとやっぱりアレクセイ殿下、でいいのかな……?」
「どちらでもいいんじゃない?……彼自身は『作業員』を自称しているけど。アレクセイ様、と呼べば間違いはないんじゃないかしら」
わたしが苦笑すると、ミリアはスッと眼鏡の位置を直し、本来の顔に戻った。
「アレクセイ殿下といえば……。レヴィーネ様……あの貴族院での、身勝手な追放劇からここまで、本当によく走ってきましたね」
ミリアの声に、戦友への深い情愛が混ざる。アリスもまた、わたしの手をギュッと握りしめた。
「うん。……全部、レヴィちゃんが椅子ひとつでブチ抜いてくれたおかげだね。私、レヴィちゃんに出会えて、本当によかったよ」
わたしは二人の顔を見て、ふっと笑みをこぼした。
この「黄金のトライアングル」の温度だけは、三人で帝国を出てから少しも変わっていない。
「……ええ。だけど、ここからが本番よ。さあ、わたしたちの『国』を、文字通り物理的に盤石なものにするわよ」
わたしは不敵に笑い、重厚な扉を、指先ひとつので押し開いた。
会場は、元天蓋都市の中枢ビル。
本来なら厳粛であるはずの式典会場だが、防音壁をも透過する数万の民衆の「熱」が、室内の空気を振動させている。
そこに座す大陸の支配者たち――「証人」たちもまた、その熱に浮かされ、獰猛な笑みを浮かべていた。
これは「平和条約」の調印式ではない。最強の猛者たちが同盟を結ぶ、血の誓いの儀式だ。
司式を務めるラノリア王ギルベルトが、外の轟音に負けない声を張り上げた。
「これより、婚姻の儀、および大陸共同体条約の調印を執り行う! ……証人たちよ、前へ! 民衆の叫びを聞け! その熱量に応え、其方らの意志を歴史に刻み込むのだッ!」
最初の証人が立ち上がる。ガルディア帝国第一皇女。
彼女が姿を現すと、スクリーン越しの民衆から「帝国万歳!」のコールが巻き起こる。
「おめでとうございます、レヴィーネ陛下。……アレク、皇籍を捨てると言い出した時はどうなるかと思ったけれど、今のあなたは誰よりも強く、雄々しい顔をしているわ」
彼女は万年筆を取り、わたしたちの前へ歩み寄った。
「貴族院のサロンであなたと初めて出会った十年前。あの令嬢が、まさか世界を繋ぐ女帝となられるとは……。父上、兄上からも祝辞を預かっています。……ガルディア帝国は、貴女方二人を祝福いたします」
ペンが紙を走る。書き終わると同時、ドォォォォンッ!! とスタジアムが揺れる。
その余韻を切り裂き、豪快に椅子を鳴らして立ち上がったのは、我が祖父マラグだ。
「ガッハッハ! か細い声援などいらぬ! もっと叫べ、もっと喉を枯らせ! 今日は我が孫娘が、星の頂点に立つ日ぞ!」
マラグはアレクセイの肩を、並の戦士なら即死しかねない力で叩いた。アレクセイが顔色一つ変えずにそれを受け止めると、マラグはさらに破顔した。
「良い体幹だ、アレクセイ! お前が孫娘の『楔』になるというのなら、わしも武人として、一人の男としてお前を認めよう。存分にこの星を耕してこい! ……北のハニマルは、お前ら二人を祝福するぞッ!」
署名がなされるたび、歓声のボルテージは階段を登るように上がっていく。
続いて、ギルベルト自身も教皇としてのペンを執った。
「筋肉がもたらす揺るぎない力と、陛下がこの大陸に示した圧倒的な速度! それこそが、迷える衆生を導く新たな福音となるでしょう!」
彼はアレクセイの瞳を見つめ、力強く頷いた。
「アレクセイ殿、君が彼女を支えるその背に、聖なる加護があらんことを。……聖教国ラノリアは、貴女方二人を祝福いたします!」
四人目。不敵な笑みを隠そうともせずに歩み出たのは、トヨノクニの天下人、ノブナガだ。
彼がスクリーンに映った瞬間、東方の民たちから割れんばかりの歓声が上がる。
「カッカッカ! 良い熱気だ! この狂乱こそが、新しい時代の産声よ! 貴様が敷く鉄の路、余の天下を走らせるのが今から楽しみだ。古い理を轢き殺し、退屈な世界を物理で塗り替えろ!」
ノブナガは、軍記物に判を捺すかのような鋭さで署名を終えた。
「……トヨノクニは、お主ら二人を祝福しよう!」
そして最後の一人。大森林の女王エルウィンが、親友のアリスを伴って優雅にペンを取る。彼女はわたしの隣で、興奮を隠しきれない様子で囁いた。
「……アリスと共に、私も認めよう。おぬしらは、この大陸の緑を、そしてすべての命を繋ぐ『庇護者』じゃ。……それにしても、なんという熱狂じゃ。森では決して味わえぬ、命の奔流を感じるのう」
エルウィンは、署名をしながら、ふと鼻先を動かした。
「……ところでレヴィーネ、この凄まじい熱気の向こうから、あの『ずんだ』の香りがするのじゃが……気のせいか?」
わたしは、噴き出しそうになるのを必死で堪えた。
エルウィンは満足げに居住まいを正し、凛とした声で締めくくった。
「……エルフの里と大森林は、大世界樹とともに、貴女方二人を祝福しようぞ」
すべての署名が終わった。
部屋の温度はサウナのように上がり、外の歓声はもはや音ではなく、肌を叩く衝撃波となって空間を支配していた。
「最後に!! 当事者二名の署名をッ!!」
ギルベルトの叫びが、導火線に火をつけた。
わたしは、隣に立つアレクセイと視線を交わした。かつての帝国第二皇子。「現場監督」としてわたしの前に現れた男。
彼は静かに、わたしの前で片膝を突いた。その瞬間、民衆の叫びが一瞬だけ、さらに一段階跳ね上がる。
その動作は、騎士の礼というよりは、これから始まる果てしない「労働」への覚悟を秘めたものだった。
「……改めて誓おう、レヴィーネ。私は今日、帝国という殻を完全に脱ぎ捨て、君という女帝に仕える最も頑丈な『楔』になる。大陸の果てまで、君の覇道を支え続けるよ、陛下」
わたしは、漆黒の万年筆を手に取った。この一本のペン先が、今、大陸全ての「理不尽」を書き換えようとしている。
「……一生などという、生ぬるい言葉は不採用ですわ。わたくしがこの世界に飽きるまで、永遠に働きなさい。これは雇用契約であり、運命のタッグマッチ。逃げることは許しませんわよ?」
わたしは羊皮紙に、自らの名を力強く刻みつけた。ペン先が紙を削る音が、魔導マイクを通じて民衆の心臓を叩く。
「望むところだ、陛下」
アレクセイが、わたしの署名のすぐ隣に、自らの名を記した。
書き終えた、その刹那。
「「「レヴィーネ陛下万歳!!!! アレクセイ殿下万歳!!!!」」」
理性のタガも、計測器の針も、すべてが吹き飛んだ。
数万の民衆が一斉に拳を突き上げ、歓喜の叫びを上げている。それは祝福の声であると同時に、新しい時代の幕開けを告げる「ゴング」の音色であった。
わたしは、アレクセイの手を強引に引き、彼を立ち上がらせた。そして、カメラの向こう側にいるすべての民に向けて、不敵な笑みを浮かべて言い放った。
「連邦皇国国民諸君! よくぞ吠えました!! この国に足りなかった『優秀な政治家』は手に入れましたわ! これであなたたちの生活を支えるインフラ整備は、さらに加速しますわよ!!」
わたしは、高らかに鉄扇を開いた。
「腹を空かせて待っていなさい。私がすべての理不尽を轢き殺し、最高のご飯を届けて差し上げますわ! ――わたくしの支配する世界へ、ようこそ!」
熱狂の渦は留まることを知らない。祝福の鐘さえも歓声にかき消されそうだ。
鉄と筋肉、そして飽くなき食欲が支配する、新しい時代の「汽笛」が鳴り響いていた。
「……ふふ、陛下、完璧です。今のスピーチで、支持率がさらに跳ね上がりました。……さあ、レヴィーネ様。お仕事はおしまいです」
ミリアが、いつの間にかわたしの隣で、いたずらっぽく耳打ちしてきた。
「お祝いのちゃんこ、冷めないうちに平らげに行きましょう。ずんだも、これでもかってくらい用意させましたから……ずんだに埋もれたいというエルウィン様の願いも、厨房が叶えてくれるはずです」
「ええ。行きましょう。アレク、遅れないでくださいませ?」
わたしが振り返ると、アレクセイは苦笑しながら、しかし確かな信頼を瞳に宿して頷いた。
「ああ。君の覇道と食欲に追い付くのは大変そうだが、死ぬ気でついていくよ」
わたしたちは、証人たちの拍手と、民衆の絶叫に包まれながら、新時代の扉を物理的に押し開いて進む。
悪役令嬢レヴィーネ・ヴィータヴェンの、本当の意味での「建国」が、今ここに始まった。
◆◆◆
熱狂冷めやらぬまま、民衆が待つバルコニーへ向かおうとしたその時だった。
会場の空気が、不穏なアラート音によって切り裂かれた。
『――警告。緊急事態発生』
懐の通信機からイリスの声が響き、同時に会場のスピーカーからデメテルの補足アナウンスが流れる。
『重大な式の途中に申し訳ありません。東の方角にワイバーンの群れを検知しました。皇都アクシスの方向に向かってきています』
大回廊の敷設を終え、大断裂帯に蓋をしたとはいえ、世界から魔素が完全に消えたわけではない。いまだその残り香に引かれ、魔獣が現れることは珍しくなかった。
民衆の歓声が一瞬どよめきに変わるが、そこに悲壮感はない。「今度は何が起きるんだ?」という、更なる興奮への期待すら混じっている。
『周辺のキャラバンには重大な被害が出る可能性があります』
「やれやれ……。国というものは、都市を作っておしまいというわけではないのが厄介だね」
隣でアレクセイが、呆れたように、しかしどこか楽しげに肩をすくめた。
「今日という日くらい、『めでたしめでたし』で終わらせてくれてもいいと思うんだがね」
「ふふっ、私達らしくていいじゃありませんか?」
わたしはドレスの裾を翻し、ニヤリと笑った。退屈な式典の締めくくりには、極上のスパイスだ。
「イリス、デメテル、ワイバーンの情報の詳細を。――私が直接出ますわ」
その言葉に、会場にいた武闘派たちが即座に反応した。
「ガハハ! 待てレヴィーネ! 花嫁が動く必要はない! ワシがひと揉みで叩き落としてきてやる!」
祖父マラグが豪快に立ち上がり、拳を鳴らす。
「いいえ、私が! 筋肉神官団を待機させています! 姐さんの晴れ舞台を汚す害虫は、私が駆除します!」
ギルベルトもまた、上着を脱ぎ捨てて筋肉を誇示する。
だが、わたしは鉄扇をパチンと鳴らし、彼らを制した。
「お待ちになって。お祖父様も、ギルも、下がっていてくださいな」
「な、何故だ!? 遠慮はいらんぞ!」
「遠慮ではありませんわ。皆様は今日、『国賓』としてお招きしたのです。ゲストに頼るわけにはいきません」
わたしはバルコニーの向こう、なおも熱狂し続ける数万の民衆と、その中に混じる諸外国の商人たちの気配を感じながら、断言した。
「それに……今日というこの日に、国立競技場に集まっている国民達や諸外国の商人達に、わたくしたちという存在を改めて知らしめる必要がありますの」
わたしはアレクセイと視線を交わす。彼もまた、覚悟を決めた瞳で頷いた。
「この国は、誰の庇護も必要としない。……わたくしとアレクセイ、この二人が揃えば、どんな災厄も『物理』でねじ伏せられるのだと、証明しなくてはなりませんわ」
そう。これはただの迎撃ではない。建国最大の「デモンストレーション」なのだ。
世界最強の武力と、それを支える魔導。その両輪が揃っていることを世界に見せつける、絶好の機会(チャンス)。
「……ふむ。花を持たせる、というわけか。良いだろう、見ていてやる!」
マラグが満足げに座り直す。
わたしはイリスとデメテルに指示を飛ばした。
「イリス、デメテル! ばっちり生中継を頼むわよ! ……アレク、共同作業ですわよ!」
「ああ! ケーキ入刀の代わりには、少し大きすぎる相手だがね」
わたしたちは転移魔法の光に包まれ、一瞬にして上空へと跳躍した。
眼下には、皇都を狙って滑空するワイバーンの群れ。その数、およそ二十。
強風がドレスを煽るが、わたしは足元に展開された魔力の足場をヒールで踏み砕き、さらに加速した。
「ごきげんよう、招かれざるお客様! お祝い代わりの『一撃』、受け取っていただきますわよ!」
わたしは影から、愛用する「漆黒の玉座」を引き抜いた。
ズヌゥ……ッ!
結婚式だからといって、純白にするつもりはない。このドス黒い鈍器こそが、わたしのアイデンティティ。
「アレク、逃がさないでくださいまし!」
「了解! 『氷結結界』!」
アレクセイが詠唱と共に手をかざすと、ワイバーンの群れの周囲の大気が一瞬で凍結し、見えない檻となって彼らの動きを阻害した。
逃げ場を失い、混乱する魔獣たち。その脳天に向けて、わたしは重力を味方につけたフルスイングを叩き込む。
「――消えなさいッッ!!」
ドゴォォォォォンッ!!!
鈍い音がした直後、生肉と鋼鉄が衝突する暴力的な衝撃音が響き渡った。
先頭を飛んでいたリーダー個体が、わたしの椅子の一撃を受けて、隕石のように垂直落下していく。
続けて、アレクセイの放った「焔創剣」が、残りの群れを正確に焼き払い、あるいは「氷壊槍」が翼を貫いた。
「ナイスアシストですわ、あなた!」
「君のインパクトも強烈だったよ。……さあ、仕上げだ!」
わたしたちの連携攻撃は、わずか数十秒で空の脅威を排除した。
黒煙を上げて荒野に落下していくワイバーンの山。それを見下ろしながら、わたしは満足げに椅子を肩に担いだ。
スクリーン越しに見ていたであろう民衆の歓声が、ここまで届くような気がした。
そして、数時間後。
国立競技場は、先程までの厳粛な式典会場から、巨大な「野外レストラン」へと変貌していた。
香ばしい肉の焼ける匂いと、食欲をそそるスパイスの香りが充満している。
「さあさあ、連邦皇国国民諸君! 祝いの膳です! 空からの恵み、心ゆくまで味わってくださいまし!」
わたしが高らかに宣言すると、屋台から次々と料理が振る舞われた。
メインディッシュは、もちろん先ほど撃墜されたばかりの新鮮なワイバーン肉だ。
資源の無駄遣いは許さない。襲ってきた敵は、美味しくいただくのがこの国の流儀だ。
「へいお待ち! 『ワイバーンのピリ辛スタミナちゃんこ鍋』だ!」
「こっちは『ワイバーンモモ肉のケバブ』だぞ! 焼きたてだ!」
「『ワイバーンカレー』に『タンドリーワイバーン』もあるぞ!」
アクシス国民と訪問客たちは、魔獣の肉というゲテモノへの恐怖など微塵もなく、「美味い!」「力が湧いてくる!」と貪り食っている。これも長年の啓蒙活動(物理)の成果だろう。
一方、肉を忌避するエルフ族のテーブルには、東の大回廊を通じてトヨノクニから緊急輸送された、色鮮やかな料理が並んでいた。
「おお……! これは『ずんだ餅』に『ずんだシェイク』! それに『豆乳ちゃんこ』に『ベジタリアンカレー』まであるぞ!」
森の女王エルウィンが、目を輝かせて震えている。その威厳ある表情は崩壊し、ただのスイーツ好きの乙女になり果てていた。
「これじゃ……! わらわが求めていたのは、この緑の宝珠じゃ!」
エルウィンをはじめとするエルフ族たちが、ずんだの甘みと豆乳のコクに骨抜きにされ、大満足の笑みを浮かべている。
その光景を見渡しながら、わたしは特製ちゃんこ(ワイバーン入り)をよそった椀を手に、アレクセイと乾杯した。
「……平和ですわね」
「ああ。君らしい、騒がしくて美味しい平和だ」
わたしたちは顔を見合わせ、笑い合った。
こうして、ヴィータヴェン・アクシス連邦皇国の歴史は、爆発と筋肉、そして世界中の人々を笑顔にする「美食」と共に、華々しく幕を開けたのだった。
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