悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です ~前世は病弱、今世は物理最強。魔法もチートも私には勝てません~

みやもと春九堂@月館望男

文字の大きさ
182 / 200
【外伝】ミリア・コーンフィールドの手記

【外伝】ミリア・コーンフィールドの手記 -2-

しおりを挟む
星暦1025年 某月某日 天気:荒波(船酔い:なし)
【本日の装備:リュック(総重量80kg) / 中身:ミソ、ショーユ、調理器具、あと愛】

 レヴィーネ様がラノリアへ「追放(という名の留学)」されることが決まりました。

 当然、私もついていきます。ですが、感情だけで動くのは素人のすること。私はプロの「信者ファン」として、身辺整理を完璧に行いました。


1.学業の決着

 まず、貴族院の教務課に乗り込み、「飛び級」と「早期修了試験」を申請しました。
 徹夜で3年分の単位を取得し、すべての試験で満点を叩き出しました。これで文句は言わせません。私はもう、いつでも卒業できる身です。

2.実家への根回し

 その足でコーンフィールド領へ一時帰宅し、家族会議を開きました。
 「私を救ってくださった恩人レヴィーネ様が追放されたので、その手足となってお役に立ちたい」
 そう正直に告げると、両親は驚くこともなく、深く頷いてくれました。
 「お前が決めたことなのだから、頑張りなさい」と。
 弟たちも「まぁ、姉ちゃんならなんとかなるかぁ」「クマくらいなら素手で倒せるしね」と、妙に軽いノリで背中を押してくれました。信頼されているようで何よりです。

3.コーンフィールド家のDNA

 しかし、タダで送り出すような家族ではありません。
 お母様は、実家の倉庫から「ミソ」と「ショーユ」の樽を転がしてきました。

 「せっかく外国に行くのだから、販路拡大のために持っていってみて。あわよくば向こうの王族に売り込んでくるのよ」

 ……さすがはお母様。この商魂、勉強になります。これは「サンプル」として持参します。
 お父様からは、「開発中の『農作業用魔導外骨格パワード・スーツ』を持っていくか?」と真顔で提案されました。
 「これがあれば、荒地も一瞬で耕せるぞ!」と仰っていましたが、丁重にお断りしました。
 お父様、娘はこれから密入国に近い形で旅立つのです。そんな鉄の塊を背負って歩いていたら、入国審査で捕まるどころか、軍事侵攻と勘違いされます。

4.旅立ちの装備

 結局、私のリュックの中身は以下の通りになりました。

 ・販路拡大用のミソ&ショーユ(樽ごと)
 ・実家領で採れた各種スパイス
 ・愛用の包丁セットと調理器具一式
 ・最新型・携帯用魔導コンロ

 総重量80kg。少し重いですが、農作業で鍛えた足腰なら問題ありません。
 レヴィーネ様に限ってそんなことはないかと思いますが、慣れない異国の食文化で、あの方がひもじい思いをされるなどあってはなりません! 食の兵站維持は私の義務です。

5.現在の状況

 資金の都合上、正規の客船チケットは買えませんでした。
 今、私は安価な「貨物船」の船倉にいます。

 色々交渉した結果ではありますが、ここでは私は背中のリュックごと「貨物」です。入国審査も貨物としてパスされる手はずです。
 周囲は木箱とネズミだらけ、揺れも酷いものです。
 ですが、問題ありません。計算通りです。

 待っていてください、レヴィーネ様。
 あなたの専属シェフ(兼・財布係)が、今、海を越えて参ります!


◆◆◆


星暦1025年 某月某日 天気:晴れ
【本日のメニュー:ラノリア風ピリ辛スタミナミソちゃんこ / 効果:洗脳解除および胃袋の掌握】

 ラノリアの学園の男子生徒たちは、酷い有様でした。「清貧」という名の飢餓状態で、思考能力を奪われていたのです。
 成長期の男子に肉を食べさせないなど、万死に値します。

 しかし、この国は美食不毛の地。表参道の商店街はやる気のない観光客向けのパン屋ばかり。
 私はレヴィーネ様の「美味いものが食べたい(あと、あのヒョロガリどもに餌付けしたい)」というオーダーに応えるため、早朝から港のマルシェへと走りました。


1.スープの基礎開発

 マルシェで手に入れたのは、水分が抜けきって石のように硬い魚の干物と、浜辺に打ち上げられていたという、同じく乾燥した海藻。
 一見ゴミのようですが、レヴィーネ様はこれこそ探していたものだとばかりに目を輝かせていらっしゃいました。
 これらをハンマーで砕いて煮出し、そこに私が背負ってきた「ミソ」と「ショーユ」を投入。
 ……香りが立ちました。旨味が爆発したかのような香りが。この異国の地で、黄金色のスープが誕生したのです!

2.具材の選定(レヴィーネ様のオーダー:質より量!)

 レヴィーネ様は仰いました。

『とにかく野菜はたっぷりと、クズ野菜でもいいから底値でありったけ買いこんで煮込むのよ。肉は切り落とし肉で十分。あとは根菜の葉やキノコ類があれば完璧なんだけど……』

 私はその言葉を頼りに、マルシェの裏通りを奔走しました。
 現地の主婦たちがパスタに使うという「ニンニク」と「赤唐辛子」。これを大量に安価で確保。本来は香り付けに使うものですが、今回はスタミナ源としてガッツリ効かせます。この刺激こそが、弱った心身に活を入れるのです!

 そしてメインの肉。高い正肉は買えません。
 私は安値で売られている切り落とし肉と、「スープ用」として二束三文で売られていた「丸鶏(羽毛処理済み)」を買い占めました。
 調理場にて、実家で培った技術が火を吹きます。丸鶏を包丁の背と麺棒を使い、骨ごと叩いてミンチにしました。
 軟骨も髄もすべて栄養です。これに生姜とミソを混ぜ込み、「特製・骨太鶏団子」を作成。これで安価に大量のタンパク質を確保しました!

3.シメの革命(パスタの流用)

 最後に問題となったのが炭水化物です。この国では米は希少、パンはスープを吸いすぎてしまいます。
 そこで私が目をつけたのが、市場の隅で売られていた激安の乾燥パスタ(太麺)です。
 「これを煮込んでスープパスタにすればお腹にも溜まるのでは?」
 この閃きは、まさに天啓でした。

4.実食と勝利

 完成したのは、ニンニクと唐辛子の赤、キャベツとニラの緑、そしてミソの茶色が混然一体となった『ラノリア風ピリ辛スタミナちゃんこ』。
 大鍋の蓋を開けた瞬間、「ご飯ができましたよー!」と叫ぶと、生徒たちの目の色が変わりました。
 ゾンビのように群がる彼らの口に、熱々の鶏団子と、スープを吸ったパスタを放り込む。
 レヴィーネ様曰く、湯気と共に、彼らに取り憑いていた黒いモヤが霧散していくのが見えるとのことでした。

 そして、何より嬉しかったのは、レヴィーネ様のお言葉です。
 あの方は、ハフハフとパスタを啜り、最高の笑顔で仰いました。

『あら、パスタでも案外イケるものね。美味しいわよミリア。……これなら、世界中どこに行っても『ちゃんこ』は作れるわね』

 ああ、報われました!!
 安物のパスタも、クズ野菜も、あの方の笑顔の前では最高級のフルコースです。
 やはり「食」こそが正義。そして、あの方の胃袋を支えることこそが、私の天職なのです!

【本日の収支】
食材費:銀貨3枚(激安!)
生徒たちの回復率:120%
私の幸福度:測定不能(オーバーフロー)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

前世ブラックOLの私が転生したら悪役令嬢でした

タマ マコト
ファンタジー
過労で倒れたブラック企業勤めのOLは、目を覚ますと公爵令嬢アーデルハイトとして転生していた。しかも立場は“断罪予定の悪役令嬢”。だが彼女は恋愛や王子の愛を選ばず、社交界を「市場」と見抜く。王家の財政が危ういことを察知し、家の莫大な資産と金融知識を武器に“期限付き融資”という刃を突きつける。理想主義の王太子と衝突しながらも、彼女は決意する――破滅を回避するためではない。国家の金脈を握り、国そのものを立て直すために。悪役令嬢の経済戦争が、静かに幕を開ける。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

【完結】異世界で幽霊やってます!?

かずきりり
ファンタジー
目が覚めたら、豪華絢爛な寝室……に、浮かぶ俺。 死んだ……? まさかの幽霊……? 誰にも認識されず、悲しみと孤独が襲う中で、繰り広げられそうな修羅場。 せめて幽霊になるなら異世界とか止めてくれ!! 何故か部屋から逃げる事も出来ず……と思えば、悪役令嬢らしき女の子から離れる事が出来ない!? どうやら前世ハマっていたゲームの世界に転生したようだけど、既にシナリオとは違う事が起きている……。 そして何と!悪役令嬢は転生者! 俺は……転……死?幽霊……? どうなる!?悪役令嬢! ってか、どうなるの俺!? --------------------- ※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています。

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

王女殿下のモラトリアム

あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」 突然、怒鳴られたの。 見知らぬ男子生徒から。 それが余りにも突然で反応できなかったの。 この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの? わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。 先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。 お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって! 婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪ お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。 え? 違うの? ライバルって縦ロールなの? 世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。 わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら? この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。 ※設定はゆるんゆるん ※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。 ※明るいラブコメが書きたくて。 ※シャティエル王国シリーズ3作目! ※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、 『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。 上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。 ※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅! ※小説家になろうにも投稿しました。

【完】相手が宜しくないヤツだから、とりあえず婚約破棄したい(切実)

桜 鴬
恋愛
私は公爵家令嬢のエリザベート。弟と妹がおりますわ。嫡男の弟には隣国の姫君。妹には侯爵子息。私には皇太子様の婚約者がおります。勿論、政略結婚です。でもこればかりは仕方が有りません。貴族としての義務ですから。ですから私は私なりに、婚約者様の良い所を見つけようと努力をして参りました。尊敬し寄り添える様にと努力を重ねたのです。でも無理!ムリ!絶対に嫌!あからさまな変態加減。更には引きこもりの妹から明かされる真実?もう開いた口が塞がらない。 ヒロインに隠しキャラ?妹も私も悪役令嬢?ならそちらから婚約破棄して下さい。私だけなら国外追放喜んで!なのに何故か執着されてる。 ヒロイン!死ぬ気で攻略しろ! 勿論、やられたら倍返ししますけど。 (異世界転生者が登場しますが、主人公は異世界転生者では有りません。) 続編として【まだまだ宜しくないヤツだけど、とりあえず婚約破棄しない。】があります。

悪霊令嬢~死した聖女憎悪に染まりて呪いを成す~

女譜香あいす
ファンタジー
 数え切れない人々をその身に宿す奇跡の力で救ってきた少女、サヤ・パメラ・カグラバ。  聖女と称えられた彼女であったが陰謀の末に愛した者から婚約破棄を言い渡され、友人達からも裏切られ、最後には命を奪われてしまう。  だがそのとき感じた怒りと悲しみ、そして絶望によって彼女の心は黒く歪み、果てにサヤは悪霊として蘇った。  そして、そんな彼女と世を憎みながらもただ生きる事しかできていなかった一人の少女が巡り合う事で、世界に呪いが拡がり始める事となる。  これは誰よりも清らかだった乙女が、憎悪の化身となりすべての人間に復讐を果たす物語。 ※この作品は小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...