悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です ~前世は病弱、今世は物理最強。魔法もチートも私には勝てません~

みやもと春九堂@月館望男

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【外伝】ミリア・コーンフィールドの手記

【外伝】ミリア・コーンフィールドの手記 -6-

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星暦1026年 某月某日 天気:快晴(遭難日和)
【現在地:名もなき無人島 / 状況:魔力使用不可、文明圏外】

1.農家の娘の矜持、そして敗北

 クラーケンとの激闘の末、船は全壊。私たちは未知の無人島に漂着しました。
 目が覚めた時、口の中は砂だらけ、ドレスはボロボロ。最悪の目覚めでしたが、私の背中にある「命のリュック」――実家のお味噌と醤油、そして各種スパイスが入った巨大荷物――が無事だったことだけが救いです。これさえあれば、たとえ地獄でも食卓だけは守り抜いてみせます。

 ですが、深刻な問題が発生しました。この島には奇妙な磁場のようなものがあり、魔法が一切使えないのです。
 アリスさんは「魔法が……出ないよぉ……私のアイデンティティが……」と砂浜で膝を抱えて絶望しています。光魔法も生活魔法も使えない元聖女様は、ただのか弱い少女になってしまいました。

 しかし、私は違います。
 実家のコーンフィールド男爵領は、魔法などという便利なものとは無縁の貧困地帯。くわを振るい、火をおこし、泥水を啜って生きてきた私にとって、この不便な状況はむしろ「ホームグラウンド」です!

 「見ていてください、レヴィーネ様! 今こそ私のサバイバル技術をお見せする時です!」
 そう意気込んで、袖をまくった数分後でした。

 ズゴゴゴゴゴ……ッ!!!

 地響きと共に、信じられない光景が目の前に広がりました。
 レヴィーネ様が、直径1メートルはある巨木を「素手」で引き抜いていたのです。魔法による身体強化なしで、です。
 あの方は「あら、意外と脆いわね」と涼しい顔で仰り、手刀で枝を払って丸太に加工し、拳の摩擦熱(?)で火をおこし、あっという間に立派なログハウスを建ててしまわれました。

 「……とりあえず、屋根と壁は確保したわ。あとは温泉でも掘りましょうか」

 汗一つかいていない涼しいお顔。
 ……流石です、レヴィーネ様。私の出番(火おこし等の地味な作業)は秒で消滅しました。
 悔しいですが、初日から屋根のある快適な寝床があることに感謝します。魔法がなくとも物理があれば、人は文化的な生活ができるのですね。


◆◆◆


星暦1026年 某月某日 天気:晴れ
【本日の業務:食料調達と「孤島のグルメ」】

 住環境は整いましたが、人間が生きていく上で最も欠かせないものを確保せねばなりません。食料です。
 私は浜辺で貝やカニを探そうと計画しました。

 ですが、レヴィーネ様がまたしても規格外な解決策を講じられました。
 「お腹が空いたわね」
 そう仰ってジャングルへ消えたかと思うと、両手いっぱいに巨大なヤシガニ(魔獣化)や、川で獲れた大量のサワガニを抱えて戻ってこられたのです。

 「ミリア、調理は任せたわよ」

 熱した石の上で、獲れたての魔獣肉や魚介を焼く「石焼きバーベキュー」の始まりです。

 ジュワアアアアアッ!!!

 香ばしい匂いが立ち上ります。私はリュックから虎の子の「お味噌」を取り出し、即席のタレを作りました。

 「わあ! 美味しい! これぞサバイバルだね!」
 アリスさんが大はしゃぎで焼けた肉にかぶりつきます。
 レヴィーネ様も、「このワイルドな味……悪くないわね。白米が欲しくなるわ」とご満悦です。

 温かい家。美味しいご飯。そして頼れる仲間。
 ふと、考えてしまいました。実家での冬。隙間風が吹くボロ屋で、薄いスープを啜り、明日の借金に怯えていたあの日々。
 それに比べて、この無人島生活はどうでしょう。
 温泉付き(レヴィーネ様が素手で岩盤をくり抜いて掘り当てました)、オーシャンビュー、毎日が新鮮な食材食べ放題。

 「……遭難しているはずなのに、実家より裕福なのでは?」

 いいえ! 考えてはいけません! それはコーンフィールド家の尊厳に関わる問題です! 忘れましょう!



星暦1026年 某月某日 天気:快晴
【状況:魔法回復と遺跡探索ショッピング

 島の奥地にあった遺跡で、魔力を阻害していた「中和装置」をレヴィーネ様が物理的に粉砕したことで、魔法が使えるようになりました!
 アリスさんの植物魔法が復活です。

 私は、リュックの奥底から「あるもの」を取り出しました。
 サン・ルーチャを出る時、市場で買っておいた「野菜の種詰め合わせ」です。
 「こんな荷物になるものを」と笑われましたが、やはり私の判断は正しかった!

 アリスさんの魔法『超・光合成』で、種は数分で発芽し、成長し、瑞々しいレタスやトマトが実りました。
 数日ぶりの、生の野菜。
 ただちぎって、少しの塩と油をかけただけのサラダ。
 「シャキッ」という音と共に、口の中に広がる青い香りとしみ渡る水分。

 「美味しい……! 野菜って、こんなに美味しかったっけ……!」
 アリスさんが泣きながら食べています。
 レヴィーネ様も、「肉もいいけど、やっぱり野菜がないと筋肉の合成効率が落ちるものね」と、ボウル一杯のサラダを完食されました。

 そして、遺跡の奥で見つけたのは、古代文明の遺産の山でした。
 伝説の聖剣? 魔法の鎧? いいえ、もっと素晴らしいものです!
 『魔導冷蔵庫』! そして……『賢者アスケンの眼鏡』!

 この眼鏡、すごいです。食材を見ると、鮮度やカロリー、栄養価までもが数値化されて見えるのです! 一部の魔法使いにしか使えないという鑑定魔法が使えるようなもの! 素晴らしいアーティファクトです!

 「レヴィーネ様! これさえあれば、日々の摂取カロリーと筋肉量の相関関係を完璧に管理できます!」

 私が興奮して報告すると、レヴィーネ様は巨大な冷蔵庫を動力炉ごと引っこ抜いて担ぎ上げながら、ニヤリと笑いました。
 「でかしたわミリア。……ここにある家電、全部持って帰るわよ。『暗闇の間』全開でいくわよ!」

 遺跡探検が、いつの間にか家電量販店での爆買いツアーになっていました。
 ですが、これで今後の旅のQOL(生活の質)が劇的に向上すること間違いなしです。商会の備品としても計上しておきましょう。


◆◆◆


星暦1026年 某月某日 天気:嵐のち晴れ
【本日の業務:クラーケン討伐】

 私たちが魔法と快適な文明生活を取り戻した翌朝、あの巨大なイカ――クラーケンが再び襲ってきたのです。陸に上がってくるとは往生際の悪い。
 船を壊された恨み、そして何より私たちの「食卓」を邪魔しに来たことに対し、レヴィーネ様の怒りが爆発しました。

 「イカ焼きにするには大きすぎるけれど……丸焦げにしてあげるわ!」

 レヴィーネ様は、アリスさんの光魔法『極大聖光破斬』で目眩ましをし、私の計算した急所めがけて、上空から「漆黒の玉座(パイプ椅子)」と共に落下しました。
 必殺の「直火焼きプレス」。

 クラーケンは一撃で沈黙し、海には香ばしい匂いが漂いました。
 ……少し焼きすぎたかもしれませんが、勝利は勝利です。素材として墨袋は回収しました。特製塗料に使えそうです。



◆◆◆


星暦1026年 某月某日 天気:嵐のち晴れ
【本日の業務:出立】

 脱出用の筏というにはあまりにも大きな船を建造し始めて数日。
 本日は、いよいよ出航です。
 しかし、ここでレヴィーネ様が信じられないことを言い出しました。
 「せっかく作った家、置いていくのはもったいないわね」

 ズゴゴゴゴゴ……ッ!!!

 レヴィーネ様は、私たちが数日間過ごしたログハウス「ヴィータヴェン城(DX改)」を土台ごと持ち上げ、そのままイカダの上に「ドスン」と乗せてしまったのです。

 「……物理的な『お引越し』ですね」

 もう驚きません。驚くカロリーがもったいないです。
 クラーケンの墨と黒曜石を混ぜた特製塗料で真っ黒に塗られたイカダ。その上に建つログハウス。そして動力は古代遺跡から強奪した魔導エンジン。
 完成しました。魔導戦艦「ヴィータヴェン号」です。

 「さあ、行くわよ! 目指すは東の国、トヨノクニ!」

 レヴィーネ様の号令と共に、私たちは島を後にしました。
 リュックの中身は減るどころか、古代の家電と新種の野菜の種でさらに重くなりましたが、私の心は軽やかです。
 この先どんな国が待っていようと、私たちなら――いいえ、レヴィーネ様といれば、絶対に「美味しい」結末にたどり着けるはずですから。


【本日の収支】
支出:カニの殻(大量)、使用した魔力
収入:冷蔵庫、賢者の眼鏡、レヴィーネ様がダンジョンを含む島中から根こそぎ略奪した様々なもの、大量の乾物、そして無敵の自信
資産総額:プライスレス(※ただし換金すれば国家予算並み)
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