悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です ~前世は病弱、今世は物理最強。魔法もチートも私には勝てません~

みやもと春九堂@月館望男

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【外伝】ミリア・コーンフィールドの手記

【外伝】ミリア・コーンフィールドの手記 -7-

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星暦1026年 某月某日 天気:快晴(ただし土壌は最悪)
【現在地:トヨノクニ・名もなき寒村】
【本日の業務:緊急品種改良および「最強の米」の開発】

1.無理難題と、ふたりの距離

 レヴィーネ様が、またしても常識外れのオーダーを出されました。

 「美味しくて、活力が湧いて、病気にも強くて、呪いに負けない生命力があって、なおかつ今すぐ収穫できる最強の新品種を作れ」と。

 目の前には、レヴィーネ様が「暗闇の間」からぶちまけた、世界中の希少素材の山。マンドラゴラに魔獣の骨、古代の成長促進剤……。

 私は『賢者アスケンの眼鏡』をかけ、目の前の種籾(トヨノクニの痩せた在来種)を睨みつけました。
 レンズに浮かぶ数値は絶望的です。

『対象:稲(トヨノクニ在来種・劣化)。生命力:E-。栄養価:測定不能。状態:呪いによる壊死進行中』

 「……酷い数値です。これでは普通の肥料を与えたところで、吸収する前に枯れてしまいます」

 私が溜息をつくと、隣で杖を構えていたアリスさんが、不安そうに私を見つめました。

 「ねえミリアちゃん、どうすればいい? 私、お祈りパワー全開にするけど、種が耐えられなかったら爆発しちゃうよ?」

 アリスさん。元聖女にして、レヴィーネ様の「相棒」。
 正直に言えば、私は彼女に対して少し複雑な思いを抱いていました。私より後に合流したのに、レヴィーネ様と対等に「レヴィちゃん」なんて呼び合って。その無邪気さと距離の近さが、羨ましくもあり、少しだけ疎ましくもありました。

 ですが、今はそんな感傷に浸っている場合ではありません。
 レヴィーネ様が「食べたい」と仰っているのです。失敗は許されません。


2.科学と魔法のセッション

 私は意識を切り替え、指示を飛ばしました。

 「アリスさん、爆発させないための『器』を私が作ります! 貴女は私が合図したら、限界まで魔力を注ぎ込んでください!」
 「了解! 任せて!」

 私はすり鉢で魔獣の骨粉とマンドラゴラを調合し、古代の薬液を一滴垂らしました。眼鏡が最適な調合比率を弾き出します。
 『調合成功:超・活性化触媒』。
 これを種籾にまぶし、遺伝子レベルでの強化を促す。

 「今です、アリスさん! 聖女の『光』を! 死にかけた細胞を無理やり叩き起こしてください!」
 「うん! 聖なる光よ、命を育め! 『超・光合成(ハイパー・グロウ)』ッ!!」

 カッ!

 アリスさんの杖から、目が眩むような光が溢れ出しました。
 私は眼鏡のフィルターごしに、種籾のステータスが激しく変動するのを凝視します。

『生命力:E → C → B……上昇中。警告:成長速度過多。茎の強度が追いつきません!』

 「ストップ! アリスさん、一度止めて! このままじゃ自重で折れます!」
 「ええっ!? ど、どうすれば!?」
 「サン・ルーチャで採取した『再生の蔦』の繊維を編み込みます! これを根のベースにして……よし、物理耐久値向上! アリスさん、次は『守り』の加護を重ねがけして!」
 「わかった! 『聖域結界』を種の内側に圧縮して……こう!?」

 アリスさんが、汗だくになりながら魔力をコントロールしています。
 普段は能天気に見える彼女の瞳が、今は真剣そのものです。

 「……絶対に成功させる。レヴィちゃんに、美味しいご飯を食べさせてあげるんだから……!」

 その呟きを聞いた時、私の中で何かがカチリとハマりました。
 ああ、そうです。彼女もまた、私と同じ。
 「レヴィーネ様の笑顔が見たい」。その一点だけで、この無茶苦茶な状況に食らいついているのです。

 私の胸の奥にあったわだかまりが、熱い連帯感へと変わっていきました。


3.黄金の輝き

 作業は深夜に及びました。
 何度も失敗し、何度も配合を変え、魔法の波長を調整する。

 「ミリアちゃん、魔力が切れそう……」
 「まだです! ここで止めたら全て水泡に帰します! ……これを飲んでください!」

 私はリュックから虎の子の「特製スタミナドリンク(激マズ)」を彼女の口に突っ込みました。

 「んぐっ!? ……うわぁマズい! けど力が湧いてきたぁ!」

 「行きますよ、アリスさん! これが最後の配合です! ……目標ステータス、オールS!」
 「おうよ! いっけぇぇぇぇッ!!」

 二人の絶叫と共に、最後の魔力と技術が種籾に注ぎ込まれました。

 ボンッ!!

 小さな爆発音と共に、種籾が弾け――そして、見るも鮮やかな黄金色の光を放ち始めました。

 私は震える手で眼鏡を抑え、ステータスを確認しました。

『対象:新品種。生命力:SSS。耐病性:極大。魔素変換効率:最大。……食味値:測定不能(天上の甘み)』

 「……できました」
 「できた……の?」

 泥と煤で汚れた顔を見合わせ、私たちはへなへなと座り込みました。
 そして、次の瞬間、お互いの手を取り合って叫びました。

 「「やったぁぁぁぁぁッ!!」」

 アリスさんが私に抱きついてきます。私も、思わず彼女の背中を叩いていました。

 「すごいよミリアちゃん! ミリアちゃんの計算通りだよ!」
 「アリスさんの魔力がなければ形になりませんでした! ……私たち、やりましたね!」

 そこにはもう、遠慮も壁もありませんでした。
 あるのは、一つの偉業を成し遂げた「戦友」としての絆だけ。


4.タカニシキの味

 その後、レヴィーネ様が水路を一瞬で開通させ、収穫されたお米。
 「タカニシキ」と名付けられたそのおにぎりを食べた時、レヴィーネ様が涙を流されました。

 前世の記憶。食べられなかった過去。
 その告白を聞いた時、私は全てを理解しました。

 そして、アリスさんもまた、同じような過去(前世)を持っていたことを知りました。
 私だけが知らなかった、二人の秘密。
 けれど、不思議と疎外感はありませんでした。
 だって、このお米を作ったのは、私とアリスさんの「二人」なのですから。

 レヴィーネ様の過去(タカノ)を癒やし、未来(ニシキ)を作る。
 その作業を、アリスさんと共有できたことが、何よりも誇らしい。

 「……ねえ、ミリアちゃん」

 おにぎりを頬張りながら、アリスさんが笑いかけてきました。

 「私たち、いいコンビになれそうだね」

 私は眼鏡の位置を直し、ふふっと笑い返しました。

 「そうですね。……計算と直感。意外と悪くない組み合わせかもしれません」

 レヴィーネ様。
 貴女が切り拓く道を、私が舗装し、アリスさんが花を添える。
 この「トライアングル」なら、きっとどこまでだって行けます。

 さあ、忙しくなりますよ。
 この「タカニシキ」を武器に、トヨノクニを、そして世界中の胃袋を制圧するのですから!

【本日の成果】
開発品種:タカニシキ(奇跡の米)
獲得した称号:マッドサイエンティスト(不本意です)
深まった絆:プライスレス(アリスさんとの連携率+120%)
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