悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です ~前世は病弱、今世は物理最強。魔法もチートも私には勝てません~

みやもと春九堂@月館望男

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【外伝】ミリア・コーンフィールドの手記

【外伝】ミリア・コーンフィールドの手記 -10-

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星暦1028年 某月某日 天気:快晴(空挺降下日和)
【場所:天蓋都市『揺り籠』上空 / 案件:西方連邦への「訪問販売(物理)」】

1.戦争ではなく、大規模公共事業です

 本日未明、西方連邦より最後通牒が届きました。「天蓋都市を明け渡せ」「技術をよこせ」とのこと。彼らは古代兵器『ゴリアテ』を発掘し、さらに『神の雷』なるミサイルで脅しをかけてきました。
 市場調査不足も甚だしい。彼らは相手の戦力分析(主にレヴィーネ様の破壊力)を怠っています。

 オワリ城での軍議において、レヴィーネ様は仰いました。
 「戦火で大地を汚すのは三流のすること。……私たちは『道』を作りにいくのよ」

 作戦名は『黒鋼大回廊クロム・コリドー建設プロジェクト』。
 空からはレヴィーネ様が単身降下して指揮系統を物理的に「説得」。
 陸からはヒデヨシさん率いる「黒鉄組」が転移門で突入し、敵の要塞を道路の舗装材にリサイクル。
 海からはリョウマさんの船団が物資を運び込み、市場を制圧する。

 「敵を殺すな、雇用しろ」
 「砦を壊すな、道の駅にしろ」

 このスローガンの下、私たちは西方大陸へ進出しました。
 レヴィーネ様が高度8000メートルから『漆黒の玉座』と共にダイブする姿をモニター越しに見守りましたが……着地と同時に敵の司令部が半壊しました。

 イリスの計算によると、敵兵器の損耗率はゼロ。なぜなら、全員がその場で「黒鉄組・機甲土木小隊」として再就職が決まったからです。
 彼らの操るパワードスーツ、道路工事に最適ですね。アスファルトの転圧作業が捗ります。


◆◆◆


星暦1029年 某月某日 天気:砂嵐のち晴れ
【場所:アストライア砂漠・中央ルート / 案件:水利権争いの仲裁と宴会】

 連邦の首都を「吸収合併」し、私たちは東へ向かっています。
 目の前に広がるのは死の砂漠。ですが、私には「宝の山」に見えます。
 地下水脈さえ確保できれば、ここは広大な農地になり得ます。

 途中、枯れたオアシスで現地部族が争っていましたが、レヴィーネ様が『玉座』で地面をカチ割り、水脈を掘り当てたことで解決しました。
 「水がないなら掘ればいいじゃない」
 寓話に出てくるどこかの国の王妃さまも裸足で逃げ出す解決策です。

 その夜の宴会で振る舞われた羊肉の串焼き。クミンと唐辛子が効いていて絶品でした。
 すぐにレシピを解析し、V&C商会の新商品としてラインナップに加えました。
 部族の方々とも友好条約を締結。彼らには道路の警備と、羊毛の提供をお願いすることに。

 水と食料、そして安全を提供すれば、人は喜んで働いてくれます。これがトヨノクニで得た私たちのメソッド、「オダ家のODA」の真髄ですね。

 これで新規開拓したオアシスは二桁にのりました。
 このままなるべく定位置ごとに水脈開発と水路開発とを繰り返し、黒鋼大回廊クロム・コリドーの左右にはオアシス街と旅の停泊所を作っていきます。
 デメテルとアリスさんによる緑地化支援も順調です。
 死の砂漠を「生きた土地」へ。そして旅の安全を担保する物流の大動脈へ。

 誰にも邪魔されない、誰にも邪魔させない、文化と経済の大回廊の開通。
 レヴィーネ様が、いえ私達が望むものは、ただ一つ、その実現なのです。


◆◆◆


星暦1031年 某月某日 天気:快晴(建国日和)
【場所:大陸中央・大断裂帯 / 案件:物理的『お引越し』と国家樹立】

 ついにたどり着きました。大陸を東西に分断する巨大な傷跡、「大断裂帯」。
 深さ数百メートル、幅数キロの奈落。底には致死性の瘴気が溜まっています。
 普通ならここで工事はストップですが、私たちの辞書に「不可能」という文字はありません。

 「橋が架けられないなら、穴を塞げばよろしいのです」

 レヴィーネ様の号令の下、前代未聞の作戦が決行されました。
 上空に待機させていた『天蓋都市』の基部を、そのまま断裂帯に「落とす」。
 都市そのものを「栓」にして、大地を繋ぐのです。

 アリスさんが『ソル・レヴィーネ(魔素吸収ヒマワリ)』の種を何億個もばら撒き、一斉に開花させて瘴気を浄化。
 ヒデヨシさん率いる黒鉄組が次々と谷底へと懸垂降下してゆき、天蓋都市の基底部を受け入れる掘削作業を開始します。

 そして――ズズズズンッ……!!
 世界が揺れるほどの衝撃と共に、天空の城が大地に根を下ろしました。

 その瞬間、私は震えました。
 地図が、そして歴史が変わったのです。
 分断されていた世界が、物理的に一つになったのです。
 我が主ながら、レヴィーネ様は、本当にとんでもないことをしているのだと改めて実感した瞬間でした。

 ノブナガ様からは「そこでお主らの国を作れ」とのお言葉を頂きました。
 本日より、ここは『ヴィータヴェン・アクシス連邦皇国』。
 レヴィーネ様は初代女帝(兼・現場監督)に。
 そして私は……僭越ながら、宰相に任命されました。

 「あすなろ領・女伯爵」の爵位まで頂いてしまい、恐縮です。
 ですが、感傷に浸っている暇はありません。新しい国には、新しい税制と流通システムが必要です! イリス、残業ですよ!


◆◆◆


星暦1034年 某月某日 天気:快晴
【場所:東部樹海・最終工事区画 / 案件:『神代の岩盤』破砕と再会】

 建国から3年。私たちは東へ東へと道を延ばしてきました。
 そして今日、最後の難関である『神代の岩盤』を突破しました。
 神話の時代に星に突き刺さったとされる、硬度測定不能の結晶体。

 レヴィーネ様は、ノブナガさまより建国祝いにいただいた十字鍬『天魔・伐折羅砕き』を振るい、単身で数キロのトンネルを掘り抜きました。
 ここ数ヶ月のレヴィーネ様のモチベーションを要約すると「愛しい人に会いに行くのに、壁なんて邪魔ですわ!」という焦れた感情がフルパワーで唸りを上げた成果なのですが、その背中は、鬼神のようでした。

 そして、壁が砕けたその向こう側。
 朝日と共に現れたのは、東側から道を拓いてきた「帝国道路公団」の男たち。
 泥だらけのソレン様(すっかり逞しくなられました!)。
 そして、アレクセイ皇子殿下。

 待たされた乙女の可愛らしい鉄拳制裁(レヴィーネ様が本気で殴ったらアレクセイ皇子殿下は跡形も残りません。本当によく手加減なさったと思います!)の後、瓦礫の上で抱き合う二人を見て、私は目頭が熱くなりました。
 3年前、通信が途絶えた時はどうなることかと思いましたが……殿下もまた、泥にまみれて道を造っていたのですね。
 それでもレヴィーネ様に直接連絡はなさった方がよかったと思います。

 ですが、こんなエピソードも、いつかは笑い話になるのでしょう。
 レヴィーネ様の左手の薬指には、アレクセイ皇子殿下が自ら作り、贈った無骨な指輪が光っていました。

 この瞬間、大陸を横断する『黒鋼大回廊』が完成しました。
 物流の革命です。
 西のスパイスが東へ、東の米が西へ。
 私の頭の中の電卓が、弾き出される莫大な経済効果にオーバーヒートしそうです。


 追記:
 ラノリアのギルベルト国王からも、お祝いの通信が入りました。
 「これで、いつでも会いに行けるな」と。
 ……不器用な方です。でも、その言葉が、どんな宝石よりも嬉しいと感じてしまう自分がいます。
 私の人生の収支決算、彼に預けてみてもいいかもしれません。
 もちろん、V&C商会の経営権は手放しませんけれど!

 さあ、これから祝賀会です。
 メニューは東西の食材を融合させた「カレーライス」。
 西方のスパイスと東方の出汁とコメの融合。それはまさに、私たちが繋げた世界の味です!


【収支】
支出:天蓋都市の落下エネルギー(プライスレス)、十字鍬の修理費
収入:大陸横断道路の通行料、物流の支配権、そして「繋がった世界」
資産総額:測定不能(国家予算数千年分+愛)
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