エイミーとマンホール下のハロウィン界

Haru

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第3章

【ジャック】

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10月31日の0時00分。
腕の時計は動かなくなったままだ。
扉を開けた途端、ブワッと冷たい風がエイミーを包む。
エイミーは思わず身震いした。
さっきまでいたガラクタだらけの部屋とは違って、寒い。
それはまるで地上に戻されたかのような寒さだった。
どうやらここは「部屋」ではなく、「外」のようだ。
エイミーは紫色のパーカーにオレンジ色のジャンパーを羽織り、落ち葉色のスカートを穿いていた。
冷えゆく手を擦り合わせながら、エイミーは目を凝らした。
辺りは真っ暗で何も見えない。
「ロウソクを持って来るんだったわ」
エイミーはそう呟いて、ロウソクを取りに戻るため扉の方を振り返ろうとした。
その時だ。

ギギ…ギ…バタン!!!!

鉄の擦れる鈍い音が聞こえたと同時に、扉の閉まる大きな音が耳に響いた。

「まさか…」

エイミーは青ざめた表情ですぐさま扉に駆け寄り、さっきと同じよう力いっぱいに扉を引いた。
しかし、扉は固く閉ざされており、ガラクタだらけの暖かい部屋にはもう戻れないことをエイミーは悟った。

「もう…本当にいったい誰なのよ!こんなことをして面白がっているのは!!」

エイミーの嘆く声は暗闇にこだまして冷たい空気の中に消えた。

諦めたエイミーは冷えきった手に息をかけたり、擦り合わせたりして、寒さを防ぎながら目が暗がりに慣れるまで待った。
手がかりはまだ一つある。
薄れる意識の中で見た、あの謎の影だ。
確かにあの影はガラクタの部屋から消えさった。
どうやってあの部屋から出て行ったのだろう?
ここには、何かがいる。
何かが住んでいる。
根拠など無い。でもエイミーは確信していた。
だいたい、どう考えてもおかしいのだ。
エイミーは暗闇の先を睨みながら考えた。
マンホールの蓋が突然開いたことから始まり、下にはあんな部屋が存在し、扉を開けたらこんな場所に出るなんて。

しばらくすると、暗がりに目が慣れてきた。
どうやら、少し先に高い塀があるようだ。
手探り状態でエイミーは足をその塀の方へ進めた。
「……」
慎重に、左足、右足、左足、右足。
必死の思いでエイミーは塀の前にたどりついた。
ひた…と、塀に手をついてみる。
冷たく、レンガのような感触だった。
ところどころに蔓が絡まっている。
見上げると、この塀はかなり高い。
さっきと同様、ここを登るしかない。
エイミーは塀のでこぼこに足をかけた。

………

半分以上登ったところで、エイミーはそれに気付いた。
「……?」
どうやら、塀の向こうになにやら灯りがともっているのが分かったのだ。
再び、エイミーの胸に希望が宿った。
そして登って登って、やっと塀の終わりに手をかけた時だ。

「…おい、そこで何をしている」

低い声が頭上から聞こえた。
エイミーは驚き危うく足を踏み外しそうになったが、ここまできて落ちてたまるかと踏みとどまった。
そして声のした、頭上を見上げた。

そこにはコウモリのような羽を生やしたジャックオランタンが、はたはたと一定の場所を飛びながらこちらを見下ろし、睨んでいた。
エイミーは一呼吸置いて、それを見上げたまま冷静に呟いた。

「これは、夢なのかしら?」

「…何を言っている。君は人間か?」

「ええ、人間よ。マンホールの下に落ちて、ここへたどり着いてしまったの。
…それにしても、よくできた夢ね」

エイミーはあまりに非現実的な現状を、夢だとしか思わなかった。

「それ」は構わずエイミーに答えた。

「夢ではない。ここは実在するハロウィン界だ。
……オレの名はジャック。
いるんだよ、ごくたまに。この世界に迷い込むとろくさい人間が。
その人間を主にナビゲートするのがオレだ」

「私だって何がなんだかわからないのよ。
……私はエイミー。
元の世界に戻る方法を教えてほしいの。」

途端、ジャックの表情がガラリと変わった。

「エイミー…?
あのエイミーなのか?」

エイミーは不思議な顔をしてもう一度答える。

「私の名はエイミーよ。それがどうかしたの?」

ジャックは何かを確信したかのような目になって、エイミーに言った。

「ようこそエイミー、オレを覚えているか?
皆、また君に会いたがってる。峠の魔女なんか特に。さあ、早くゆこう」

このへんてこなジャックオランタンはいきなり何を言い出すのだろう?
何が言いたいのだろう?
ジャックが意味不明なことを言い出すので、エイミーは怪訝そうな顔をして言った。

「不気味なことを言うのね。
私、あなたと会うのは初めてのはずよ。
第一、私は人間の世界しか知らないの。
ハロウィン界だかなんだか私には分からないけれど、こんなところに迷い込んだのは初めてよ」

するとジャックは少し暗い表情になった。

「……忘れてしまったのか、それも仕方無いだろう。もう10年くらい前のことだ」

会話の意図が全く掴めない。
そんなことよりエイミーは今すぐにでもいつものようにシャワーを浴びて暖かいベッドで眠りたかった。
数時間前までは、その予定だった。
それが、当たり前だったのだから。
ただ、この世界に興味が無いわけでは無かった。
2度と、こんな場所には来られない気がしていたからだ。
少し覗いて見てもいいかもしれない。

エイミーはジャックに言った。

「とにかく、何時迄も塀につかまって話すのは辛いわ。
ジャック、あなたが言っていることは意味不明だけど、私は私で少しこの世界に興味があるの。
ナビゲートするのが役目だって言ってたわね。
少し、案内してくれない?

私、小さい頃からファンタジックなことが大好きでね。
……夢なら夢で、楽しみたいの」


エイミーはそう言って痺れる手足に再び力を入れ、塀をまたいだ。

すると、

「やっぱり、あのエイミーだ」

エイミーにはまたもや意味不明な言葉だったが、
ジャックの表情がその時初めて緩んだ気がした。

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