エイミーとマンホール下のハロウィン界

Haru

文字の大きさ
4 / 24
第4章

【止まった時計】

しおりを挟む

エイミーが塀を跨いだその先には、点々とオレンジの灯りが灯っていた。
ただ、空は相変わらず真っ暗だった。
誰もいない。
辺りを見渡すと、ところどころに店があるようだ。

「ここには、朝が来ないんだ」

ふと、ジャックが口を開く。

「そのようね。私がここに来てから随分と時間が経っているはずよ。
人間界にはもう朝が来ているのかしら?
今、何時なのかももう確かめようがないわ。ほら」

そう言ってエイミーはひび割れて動かなくなった腕の時計を残念そうにジャックに見せた。

「0時00分か……。
この辺りには時計屋がある。
人間界の時間が知りたいならそこの時計屋にその時計を修理して貰おう」

それを聞いてエイミーは目を輝かせた。

「それは助かるわ。早く修理して貰わないと……。
私、お婆ちゃんと2人暮らしなの。
きっと私を心配しているわ。
例え夢でも、心配させる訳にはいかないものね」

「ああ、じゃあまずは時計屋をナビゲートするよ」

そう言うとジャックはバサッと音を立て、翼を広げて先の方へ飛んで行った。

「あ、ちょっと待って!」

エイミーはその姿を追いかけ、走り出した。
しばらくジャックの姿を追いかけていると、ジャックが突然曲がり角を曲がったので、エイミーはその曲がり角を同じように曲がった。

ジャックは消えていた。
エイミーが見渡すと、そこにはぐにゃぐにゃの黒文字で《clock》と文字の書いた看板が掛かった怪しげな店があった。
きっとジャックはこの店の中に消えたのだろう。
ショーウインドウをのぞいてみると、見るからに古いボロボロの掛け時計や不思議な形の置き時計、腕時計など様々な時計が飾ってあった。
ただ、分厚い紫色のカーテンが掛かっており、店の中が全く見えない。

エイミーは意を決してカーテンのその先に入った。
その店の中は、天井が極端に低く、端から端までふかふかな紅色の絨毯が敷き詰められており、まるで迷路のような通路に沢山の掛け時計がチックタックと音を鳴らして掛かっていた。
外がとても寒かったので、店の中の暖かさにエイミーは思わずため息をついた。
そしてひそひそ声でジャックを呼んだ。

「ねえジャック、どこへ行ったの?
急に消えたらびっくりするじゃないの」

しかし、ジャックは姿を現さず、返事もしない。
もっと店の奥にいるのだろう。
エイミーは時計にぶつからないように慎重に店の奥に足を進める。
この店の主はどこにいるのだろうか。

「すみませーん、だれかいませんか?」

エイミーは少し声を大きくして、奥に向かって言った。

すると、

「……誰だね?」

店の奥から、しわがれた低い声が聞こえてきた。
エイミーは答えた。

「私、人間界の者です。修理してほしい時計があるのですが」

「……ちょいと、お待ちを」

低い声がまた聞こえ、
しばらくするとミシ、ミシ、と奥から誰かがやってくる音がした。
現れた時計屋の主は、背の小さい小太りのお爺さんだった。
この暖かい部屋の中、毛糸のマフラーに
ニット帽を被り、毛布にくるまっている。
ふさふさの白い髭を見て、エイミーはサンタクロースを連想した。
時計屋はゆっくりと丸い縁の眼鏡をずらすと上目遣いでエイミーをじろりと見た。

「……どこかで見た顔だね。
……まあいい。人間界の者よ。
時計が壊れたのかい?見せてみよ」

「ええ、ここに来る途中で強くぶつけてしまったみたいで」

エイミーは答えながら腕の時計を外し、時計屋に手渡した。
時計屋は目を細めてじっくりと時計を観察して、少し目を丸くして言った。

「おや?ちょうど、0時00分で動かなくなったのかい?」

「ええ…それが何か?」

「修理は可能だ。ただし時間がかかる。
そしてこの時計が動き出したその時は、ここに迷い込んだ記憶が全て消え、君は人間界に戻されることになる」

「……」

時計屋の言った言葉を聞いて、エイミーはふとさっきのジャックの言葉を思い出した。
…エイミー?あのエイミーなのか?…
…やっぱり、あのエイミーだ…

記憶?記憶が消える?
人間界に戻される?
ジャックはまるで以前から私を知っていたようだったわ。
ということは、私は以前にもここへ迷い込んだことがあるとでも……?
おかしいわね。そんなはずはないわ。
ほんとに複雑で、よくできた夢ね。

エイミーが考えを巡らせていると、頭上から聞き覚えのある声がした。

「おい、ロン。それなら修理はちょっと待ってくれないか?この娘をみんなに会わせたいんだ」

見上げると、ジャックだった。

「ジャック!どこにいたのよ!」

「さっきから君の頭の上を飛んでいた、そっちこそ何故気付かない」

ジャックは片目を歪めて怪訝そうに言った。

「そうなの?呼んだのに答えがなかったから気付かなかったわ、ごめんなさい」

エイミーは、謝りながらもツンとした表情でジャックに言った。
それを見ていた時計屋のロンが、割り込むように話し出した。

「まあまあお二人さん、よくお聞き……人間界の時計となると、修理するのにかなりの時間と労力がかかる。
それに急いで修理し出さないと、最悪完全に針が動かなくなって、その娘が人間界に戻れなくなる可能性もある。
わしゃ、今から修理し出すことをお勧めするよ。
時計の修理が終わるまでに、再びここに来てくれると約束しておくれ」

ジャックはエイミーの頭上で少しばかり不満気な表情をしていたが、エイミーは頷いた。

「わかったわ。でも、いつ頃終わるのかしら?合図みたいなものを作っておかないと」

エイミーが案を出すと、ロンは深く考えながら答えた。

「ああ、それじゃ、合図を決めよう。
予定だと多分……修理に丸五日ほどはかかるだろう。
この世界には朝が来ない。
だからこの世界では一日の区切りとして、毎日塔の鐘が一回鳴るんだ。
その鐘はどこにいても聞こえるから、それは大丈夫だ。
5度目の鐘が鳴る前には必ず戻って来ておくれ」

「ええありがとう。頼んだわ、ロン。
……それでジャック、私に会わせたいそのみんなって誰なの?少し興味があるわ」

エイミーが爛々とした目でジャックに問うと、ジャックは少し呆れた顔でエイミーに言った。

「君は昔から呆れるほどファンタジックなことが好きで好奇心旺盛なんだな……
やっぱりあのエイミーだ。
今からまたナビゲートを開始するからついて来な。ロン、時計のことは任せた」


エイミーとジャックは共に店から出ようとロンに背を向け歩き出した。
そして入り口のカーテンに手をかけた。
後ろからそれを見ていたロンが、静かにエイミーに聞いた。

「娘さんや、長くなってすまないね。
最後に確認の為もう一度、君の名を教えてくれないかい?」

エイミーはロンを振り返り、微笑みながら答えた。

「エイミー、よ」

「……エイミー、か。良い名だな」

ロンはエイミーに微笑み返した。
その表情はどことなく懐かしいものを見ているようだった。

エイミーはロンに一礼して再びカーテンに手をかけ、先に外に出て行ったジャックを追いかけ小走りに駆け出した。

時計屋のロンは、しばらくぼんやりと揺れるカーテンの先を見つめていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...