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第14章
【ハロウィン界の過去】
しおりを挟む「…ありゃ、10年ぐらい前のことだった。
エイミーがこの世界に、初めて迷い込んだ時の話だ。」
峠の魔女はゆっくりと話し出した。
ーあの頃のハロウィン界には、住人達を支配する大きな大きな魔物が3匹いた。
食べ物を取り上げ、家を奪い、弱き者に手を上げ罵声を浴びせる……それはそれは邪悪で外道な魔物達だ。
でもその魔物達は、あたしが手違いで作り出してしまったものなんだ。
今でもあの過ちは鮮明に覚えているよ。
あたしゃ、大きな壺でいつものようにスープを作っていた。
毎朝朝食にスープを作るのが日課だったんだ。
あの恐ろしい出来事が起こったのは、その時だった。
手違いで棚にあった得体の知れない緑の液体の入った瓶が壺の中に落ちてしまったんだ。
あたしゃ、仰天したよ。
途端、スープがボコボコと泡立ち、あの大きな大きな魔物が3匹出来上がってしまったんだから。
その得体の知れない液体の入った瓶は、あたしの先祖が代々から受け継いで来たものだった。
あたしゃ、その液体の正体を知らなかった。
ただね、先祖が言っていた言葉は鮮明に覚えていたよ。
先祖はあたしにこう言い残したんだ。
「この瓶の液体は、おまえの命が本当に危ない時に使うんだ」
ーその恐ろしい出来事が起こる前まで、あたしゃ人間界にいた。
昔はハロウィン界の住人達も、仕事の関係や情報の収集で人間界に出ることが多々あった。
まだ、この世界の掟も緩かったんだ。
あたしの場合、1つの目的があって人間界に留まった。
…あたしの娘を探していたんだ。
あたしが子供を授かったのは、結構歳をとってからだった。
…娘の名前はベル。
あたしの夫はベルが生まれてすぐに病で亡くなった。
まだ物心もつかない幼いベルが、あまりにも人間界に行ってみたい、人間界の者を見てみたい、と好奇心から我儘を言うもんだから、少しだけだと約束してベルと共に人間界を散策したことがあった。
ベルは興味津々だった。
人間界の者をとても珍しがって、楽しそうにしていたよ。
でも、あたしが少し目を離したのがいけなかったんだ。
いつの間にかベルが消えていた。
どれだけ探し回っても見つからなかった。
誘拐されたのかもしれないし、迷子になったままどこかに行ってしまったのかもしれない。
もしかすると、ベルも魔女狩りに遭ってもう生きてはいないのかもしれない。
それでも長い年月、あたしゃ素性がバレて魔女狩りに遭いながらも人間界で娘を探し続けた。
そうしている間にもあたしゃどんどん足腰も弱くなり歳をとっていった。
身体にも心にも限界がきて、あたしゃ結局娘を見つけられ無いままハロウィン界に帰省したってわけさ。
今でも毎日生きていることを願っているよ。
生きていたとしたら、もうあたしが見ても分からないぐらい見てくれも変わって、とても大きくなっていることだろう。
あたしのことなど、もうすっかり忘れてしまっているに違いない。
それと、魔女狩りの話だ。
人間に見つからないようにしていても、やはり難しいものだったよ。
あたしゃ魔女狩りによって何度も死にかけた。
だけどね、あたしゃ人間界の者に危ない魔法を使うことは無かった。
…何故ならあたしには娘が見つからない苦しみの中出会った1人の人間に恩があるからだ。
日々、嫌われ疎まれ恐れられ気味悪がられ、呪われると言われ命を狙われているあたしの心を救ってくれた1人の人間がいたんだ。
それが、幼き日のエイミーだった。
エイミーは忘れてしまったのだろうけど、
あたしゃこのハロウィン界だけじゃなく、人間界でもエイミーに会ったことがあるんだよ。
娘を探し続けて、1、2年は経った頃だろう。
もうすっかりあたしの素性は人間界に知れ渡っていた。
だからあたしゃなるべく自分が魔女だということがバレないように変装しながら人間界の街を歩いていた。
「魔女が1匹うろついているらしいぞ」
「私も噂で聞いたわ。子供を外に出すのは危険ね」
「一体魔女なんてどこからやってきたんだろうな」
「気をつけろ。呪われるぞ。
見つけたら躊躇なく殺せ」
ところどころから噂話が聞こえる。
あたしゃそれにももう慣れていた。
途方に暮れながら歩くばかり。
そんな時だった。
ボロボロになっていたあたしに、まだ幼い子供が話しかけてきたんだ。
「おばさん、怪我してるじゃない!
大丈夫!?」
あたしゃ目を疑ったよ。
なんでかって?
その子供がベルにそっくりだったからだよ。
あたしゃ迷わず聞いたね。
「ベル…ベルなのかい?」
その子供は首を横に振って答えた。
「ベル…?いいえ、私はエイミーよ」
ベルを見つけたと思ったあたしは心底がっかりしたね。
あたしの願望からか、それでもその子供はベルと重なった。
その時、あたしのお腹が大きな音を立てて鳴った。
長いこと何も口にしていなかったからだ。
するとその子供はなにやら鞄からパンと絆創膏を取り出した。
「おばさん、お腹空いているんでしょう?
それに傷がたくさんあるわ。
絆創膏を貼ってあげるから、じっとしてて」
その子供…エイミーはあたしの身体にいくつも絆創膏を張り出した。
身体中の傷は深く大きく、とても絆創膏では補えないものだった。
それにも気付かず黙々と絆創膏を貼るエイミーに、あたしは思わずクスクスと笑い出してしまったよ。
それを見て、何も知らないエイミーは嬉しそうに言った。
「おばさん、怪我は酷いけど元気そうね」
そしてさっき鞄から取り出したパンをあたしに渡した。
「これ、食べてちょうだい」
腹ペコのあたしはパンにかぶりついた。
すると、不覚にも涙が次から次へと溢れ出した。
エイミーはそれを見ると、慌てて鞄からハンカチを取り出して、あたしの涙を拭き出した。
そしてこう言って微笑んだ。
「初めて出会った筈なのに、おばさん、なんだか懐かしい感じがするわ」
それを聞いて、諦めきれずにあたしは再びエイミーに聞いたよ。
「ほんとうに、ベルじゃないのかい?
家はどこだい?無いんじゃないかい?」
エイミーはまたもや首を横に振った。
「ベルって、誰のこと?
私の名前はエイミーよ。
お家もあるわ。
生まれた時からお婆ちゃん達と暮らしているの」
それを聞いて、あたしゃ再び肩を落としたよ。
やっぱり、違う子供なんだと。
それでも少しだけ、その子供…エイミーにあたしゃ元気を貰った。
礼を言おうとすると、エイミーは遠くへ走って行ってしまっていた。
そして、なにやらエイミーは楽しそうにお婆さんと話しながら去って行った。
あたしゃ街の中、また1人ぼっちになった。
それからというもの、とにかくその子供…エイミーに恩返しをしたかったあたしは魔女狩りに遭っても戦わなかった。
さっきも言ったように、魔法で人間界の者を傷つけることはしなかった。
魔女であることが嫌で、魔法を使うことが億劫になっていた。
そして、何度も死にかけたよ。
そもそも、あたしは元から、幼い頃から魔法を使うのが苦手だった。
なぜかって?
あたしには1人、双子の姉がいる。
その姉は魔女の中でも上級者でとても魔法を使うのに手慣れていた。
姉はあたしのことが嫌いで、いつも魔法を使ってあたしをいじめていた。
例えば、あたしの宝物のぬいぐるみをガマガエルにしてしまったり、喋れないようにあたしの口をチャックにして、しばらく戻してくれないこともあった。
一方あたしは魔女らしく無い魔女だった。
魔法もろくに使わずに日々を過ごしていた。
とにかく魔法を使うことが苦手だった。
先祖は、恐らくそれを知ってその豪力な魔物を作り出す瓶を液体の正体を教えずにあたしに授けたんだ。
これなら、おまえの苦手な魔法を使わなくて済むだろうと。
さて、本題…ハロウィン界の話に戻るよ。
ーあたしの手違いで出来てしまった魔物達は、壺から出てくるなり止めようとするあたしを蹴散らし、峠から街へ出て行ってしまった。
魔法すら効かない、豪力な強い魔物達だ。
魔物達はどんどん住人を食べ巨大化し、暴走した。
住人達は身を縮めて日々を過ごしていた。
魔物に家を破壊された住人も、家族を殺された住人も沢山いた。
あたしゃ当然恨まれた。
心底申し訳ないと落ち込んだよ。
エイミーが初めてこの世界に迷い込んだのはその騒動の真っ只中だった。
まだ、9歳ぐらいだっただろう。
人間界での日付は10月31日。
あの時もエイミーは腕時計をつけていた。
時刻も今回と同じ…0時00分だった。
ジャック達は乗りかかった舟だとエイミーに懇願したそうだ。
人間界の者なら、あの憎い魔物達を倒してくれるだろうと。
ジャック達の話だと、勇敢なエイミーは授けられた剣を持ち幼いながらも魔物達と戦ったそうだ。
長いこと掛かったが、なんと、エイミーは勝利したらしい。
魔物達は泡となって消えていった。
そこに騒ぎを聞きつけたあたしが慌ててやってきた。
あたしゃエイミーを見て目を見開いたよ。
あの時の子供じゃないか!ってね。
あたしゃ大喜びでエイミーに礼を言い、恩返しをしたい、1つ、魔法で願いを叶えてあげようと申し出た。
しかしエイミーは首を横に振ったんだ。
いらないわ、私はアナベラ達に出会えたことが幸せよ、と。
その時、0時00分で止まった時計を修理していたロンが時計屋の方からエイミー達に大きな声で叫んだ。
時計が戻った!
エイミーは時計を受け取ると笑顔でジャック達、そしてあたしに礼を言った。
ありがとう、忘れないわと。
その時、あたしはそっとエイミーに魔法をかけた。
エイミーがこれから先も幸せに過ごせる、魔法だった。
コチッと時計の針が動いたと同時に、エイミーはあたし達の前から跡形もなく消えた…。
話し終えると、アナベラは立ち上がって言った。
「あたしゃ2度も、エイミーに助けられたんだ。
今、喜びを抑えきれない気分さ」
エイミーは全てを知って、少し混乱していた。
やはり、覚えの無いことばかりだ。
一旦頭を落ち着けると、エイミーはアナベラに心から礼を言った。
「アナベラ、全てを話してくれてありがとう。
だから皆、私のことを覚えていたのね。
まだ思い出せはしないけれど、納得がいったわ。
あと3度、鐘がなれば私は人間界に戻れるのだけど…記憶もまた無くなってしまうのよね。
それでも私は、お婆ちゃんの元へ帰らなければならない…。
本音を言うと、ずっとあなた達とおしゃべりしていたいぐらいだわ」
エイミーはそう言って皆に微笑んだ。
ジャックとフレディ、そしてイヴとドクロはそれを聞くと顔を見合わせて幸せそうに笑った。
しかし、アナベラはさっきから深刻な表情で落ち着かない様子だ。
「アナベラ、どうかしたの?」
「実は……」
エイミー達が首を傾げると、アナベラは青い顔をして、深刻な事実を語り出したのである。
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