【日曜更新】ライク・アン・エクリプス【完結】

幻奏堂

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2051年10月20日(金) 前奏

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♪♪♪♪

 午前1時過ぎ。海央の部屋。ダイニングテーブルの周りで寝ていた、5人と1匹。
 謎のデスボイスに飛び起きる。綜舞のエリスリンクから聞こえている。着信音のようだ。

綜舞「やべ、寝坊した」

博道「⋯⋯綜舞、いるか? 緊急事態だ」

 静かな部屋に、淡々とした博道の声が響く。唸るビンゴを美久がなだめる。

綜舞「わかってます。今から行くんで」

 今夜は皆既月食。日本中の新生児に魔の手が迫る日だ。
 LYCANは渋谷を中心とした関東近郊、SCAはその他全域の病院を回り、警戒・注意喚起にあたる。

博道「いやそれはいい。VAMPが54人侵入、現在本棟前にてSCA待機班と交戦中だ。人員が足りない。至急応援に向かってくれ」

綜舞「っ了解」

陸翔「おいまじかよ」

 室内が一気に慌ただしくなる。待機中に寝てしまったのか、みな既にユニフォーム姿だ。
 テーブルの上には、様々なボードゲームで遊んだ形跡が残っている。人狼ゲームのパッケージは人狼の文字が二重線で消され、『VAMP』に書き替えられている。

龙成「あっ、てか俺、今日薬飲んでないかも」

 早くも綜舞が部屋を出かけたところで、龙成が気まずそうに呟く。綜舞はいつでも戦えるよう、常に武器を携帯している。

綜舞「はあ? 朝確認したよな?」

龙成「ちょうど切らしちゃってて、あとでもらってすぐ飲もうと思ってたから⋯⋯」

綜舞「じゃあそう言えよ。なんで嘘ついた?」

 満月の日は獣化を抑える為に薬を飲まなければならない。綜舞は実兄のこともあり、全隊員への呼びかけを徹底している。

陸翔「大丈夫大丈夫、兄貴いっぱい持ってるから。俺もいつももらってるし」

 綜舞の脇をすり抜け、自室に武器を取りに戻る陸翔。

海央「いやそれが、俺も今日でちょうどなくなっちゃって⋯⋯」

 海央はUVグローブを装着しながら、申し訳なさそうに龙成を見やった。

綜舞「はぁ⋯⋯俺の部屋にあるから飲んでこい」

龙成「ありがとう、ごめん⋯⋯」

綜舞「行くぞ」

海央「おう」

 綜舞の声にビンゴも反応し、尻尾を振りながら玄関へと向かう。1人部屋に残され、思わず立ち上がる美久。

綜舞「美久はここにいろ。状況が悪い、慎重にいく」

美久「うん⋯⋯気を付けてね」

 美久は踏み出しかけた足を引っ込め、落ち着かない様子で立ち尽くす。
 オフショルの黒いスウェット、ワイドパンツのセットアップ。メタリックな宇宙柄が目を引く。

海央「大丈夫、すぐ帰ってくるから。いってきます!」

 海央の優しい笑顔に、少し気が楽になる美久。みなが無事に帰ってこられるよう、カーテンの隙間から見える、欠け始めた月に願うのだった。



「っ綜舞さん! よかった!」

 殿の前で途方に暮れていた青年。LYCANの一員のようだ。
 絶え間ない激しい銃撃音、金属音。時折、VAMPのものらしき奇声も聞こえてくる。
 陸翔がUVソードを片手に合流する。龙成の姿はまだ見えない。

綜舞「門澤かどさわ、いたのか。狩野はどうした」

 狩野——以前、天陽をシルクロに案内した新米隊員。門澤かどさわはそのバディのようだ。
 屈強な体躯、ベータらしい風格を漂わせている。銀髪ショート、大きな緑褐色の瞳が印象的だ。

門澤かどさわ「それが駅で急にいなくなったんで、今探してて。一応戻ってみたんすけど、どこにもいないわ大変なことになってるわで⋯⋯、」

綜舞「わかった、あとは俺に任せろ。近くで待機しててくれ」

 綜舞は何かを察して一瞬顔をしかめたが、すぐに落ち着きを取り戻す。

門澤「っはい!」

綜舞「⋯⋯綜舞だ。シルクロが襲撃された。作戦は中止、即時帰還しろ」

 エリスリンクに向かって呼びかける綜舞。少し遅れて、その場にいるLYCANら3人のエリスリンクからこだまする。

海央「え、今⋯⋯」

 驚く海央に、綜舞は神妙な面持ちで頷く。門澤は青ざめた顔で遠くを見つめている。

綜舞「時間を稼げればいい、死ぬなよ」

 綜舞は海央と陸翔にそう声をかけると、UVアックスを両手に駆け出した。


陸翔「⋯⋯」

 大倉庫まで辿り着いたところで、陸翔の足が止まった。振り返る綜舞。

陸翔「っごめん、ちょっと結希の様子見てくる」

 思い詰めた表情でそう言うなり、病院の方へと走り出す陸翔。

綜舞「おい待て! ッ海央」

海央「わかった、すぐ戻る」

 単独行動を避ける為、海央が陸翔の後を追おうとしたその時——3つの影が空から舞い降りた。

「はーいストップゥ~! ワンワンの相手はウチらで~す★」

 その内の1人が陸翔の前に立ち塞がる。ピンク髪のVAMP、美久を探してコンビニ前に集まっていたVAMPの1人だ。
 赤いファーベスト、メタリックシルバーのロンT、黄色いチェック柄のスキニー。
 ラインストーンで派手に装飾された、ピンク色のハンドガンを手にしている。

「このヒョロモジャさえ殺れれば、カスクロ終了なんだよなぁ? 余裕だろ笑」

 そしてもう1人、綜舞を煽る筋肉質のVAMP。同じくコンビニ前で見た顔だ。左右で黒目の大きさの違う、威圧感のある風貌。
 鋼鉄製のグローブに巻きついた鎖と繋がる、刺々しい鈍器を引きずっている。
 素肌にスタッズだらけのレザーベスト、黒地に銀の唐草模様の袴パンツ、刺々しい赤い厚底ブーツ。

 その後方には金髪のVAMP。無感情に海央を見据えている。武器は持っていない。
 赤いミリタリージャケット・カーゴパンツのセットアップ。

「お、やっぱいんじゃん! ここまできたら猛獣狩りもしねーとなぁ?笑」

 上方からの声に綜舞が見上げると、倉庫の屋根に赤髪のVAMPが立っていた。美久の心臓を撃ち抜いたVAMPだ。
 背後に数人のVAMPが控えている。待ち伏せされていたようだ。

綜舞「⋯⋯どうやって入った」

赤髪のVAMP「ん? ああ、コレな」

 赤髪のVAMPがぐったりしている何者かを片手で持ち上げ、半ば引きずりながら投げ落とす。

綜舞「⋯⋯っ」

 素早くスライディングし、全身でそれを受け止める綜舞。強い衝撃に顔を歪める。

「す、いません⋯⋯お守り、忘れて⋯⋯⋯⋯尾けられ、てたみたいで⋯⋯っ」

 ——落ちてきたのは狩野だった。身体中に打撲痕があり、口や鼻の周りは乾いた血で汚れている。

綜舞「喋んな。おい、病院に」

門澤「はい! っお前⋯⋯っ」

 狩野が落ちてくるのを見て駆けつけていた門澤。変わり果てたバディの姿に言葉を失う。

赤髪のVAMP「ソレ、なかなかしぶとかったけどなぁ、ツレを殺るって脅したらすぐゲロったぜ。たった1匹の為に全滅選ぶとか、やっぱ犬畜生って馬鹿なんだなぁ?笑」

 シルクロへのホームに辿り着くには、指紋と暗証番号が必要だ。狩野がVAMPを招き入れてしまったらしい。
 おそらく元々目をつけられていて、シルクロの防御が手薄な今夜に狙われたのだろう。

綜舞「それを馬鹿としか思えないとか、VAMPって無価値のゴミなんだなぁ?」

 反射的にUVガンを構えようとした門澤を片手で抑え、綜舞が煽り返す。
 門澤は悔しそうに唇を噛みながらも、狩野を抱え上げ、その場から離れる。

赤髪のVAMP「ハッさすが犬畜生、ゴミみてーな価値観披露してくれてありがとうな?笑」

 そう言って天を仰ぐ赤髪のVAMP。月食が始まっており、月が赤く染まっている。
 VAMPからすると凶日のはずだ。しかし赤髪のVAMPはうっとりと月を見つめている。

赤髪のVAMP「これさぁ、縁起が悪いとかいわれてっけど、俺はそうは思わねぇ⋯⋯月が食われてんじゃねえ、むしろ食って赤くなってんだよ。お前らの返り血でな笑」

 赤い光を浴びながら、綜舞らを見下ろす赤髪のVAMP。ギラギラと光る金色の瞳。
 メタリックシルバーのフード付きパーカー、アイレットだらけのタンクトップ、黒い彼岸花柄のレッドデニム。
 この世のものとは思えない、異様なオーラを発している。

赤髪のVAMP「咲鬼さん殺ったの誰だ? 咲鬼さんはなぁ、お前らゴミが100億匹死んだって釣り合わねー逸材なんだよ。よほど死にてぇみてーだから、オレが直々に殺してやる」

 逸材とは、咲鬼がハーフであることを指しているのだろう。VAMPはハーフが殺されると必ず報復する。今夜はその為の襲撃らしい。

陸翔「ゴミでも殺れる逸材で草」

赤髪のVAMP「あ?」

 瞬時に陸翔の目の前に降り立つ赤髪のVAMP。狂気に満ちた大きな瞳が陸翔を捉える。

赤髪のVAMP「お前か? ちょーどいいわ笑。そのクソガキヅラ、捻り潰してぇと思ってたとこ」

陸翔「自己紹介にもほどがある笑」

 全く動じることなく、赤髪のVAMPを見据える陸翔。剣を握る手に力が入った。
 赤髪のVAMPはサバイバルナイフに似た刃物を手にしている。

 海央は金髪のVAMPと相対している。海央がグローブから刃を剥き出しにさせると、金髪のVAMPは手首を払い、ゆっくりと拳を握り締めた。

ピンク髪のVAMP「え~ウチの獲物だったのにぃ~~まぁいいや、一緒に殺ろっ★」

 そう言って筋肉質のVAMPにすり寄るピンク髪のVAMP。陸翔よりも淡い、黄緑色の目をしている。

筋肉質のVAMP「えー邪魔すんなよ?笑」

ピンク髪のVAMP「はぁ~? そっちこそそのキモ武器、絶対絶対っウチにぶつけないでよ??」

筋肉質のVAMP「え笑、そういうフリ?」

ピンク髪のVAMP「ち~が~う~!!!」

ガギィィン——!!

 突如、目にも止まらぬ速さで斧を振り下ろした綜舞。
 なんとかグローブの甲で受け止めた筋肉質のVAMPだったが、重い一撃に後退させられる。

綜舞「悪ぃけどお前らと違って忙しいんだわ。続きはあの世でやりな」

 見開かれたオッドアイに絶対的な殺意が宿る。「こわっ」とピンク髪のVAMP。

赤髪のVAMP「フゥ~~ッ!! いいねぇ、イキってる雑魚を黙らせんのがいっちゃんたのいからなぁ笑」

キィィィン!!

 今度は陸翔が赤髪のVAMPに斬りかかる。

陸翔「へえ、それは楽しみだ。そんなにあのクソ鬼が恋しいなら今すぐ会わせてやるよ、地獄でな笑」

 陸翔の攻撃を、難なくナイフで受け止めた赤髪のVAMP。陸翔の剣と同程度の大型のナイフだ。

赤髪のVAMP「おーおーこっちも楽しめそうだなぁ笑? お前は簡単には殺さねぇ、生き地獄ってもんを味わわせてやるよ。いつまでキャンキャン吠えてられるか見ものだな笑!!」

 赤髪のVAMPが陸翔の剣を弾き、すかさず何度も斬りかかる。剣を巧みに振るい、全て防ぎきる陸翔。激しい斬り合いが始まった。

金髪のVAMP「⋯⋯いくぞ」

 金髪のVAMPも海央に襲いかかる。1発目のパンチを避けた海央だったが、すかさず腹部を蹴りつけられ、後方に弾き飛ばされる。凄まじい威力だ。

海央「ぐ⋯⋯っ」

 しかしすぐに体勢を立て直し、金髪のVAMPに殴りかかる海央。4本のUV刃が金髪のVAMPの頬をかすめたが、捉えきれない。
 諦めずに追撃し続ける海央だったが、金髪のVAMPの柔軟な身のこなしに翻弄される。

海央「ぅぐ⋯⋯っ」

 そして一瞬の隙を見て繰り出される重い一撃が、少しずつ、だが着実に海央の体力を削っていく。

パァン! パァン!

筋肉質のVAMP「いってぇ! おい俺に当たってる!!」

 一方、綜舞の連撃をかわしながら巧みに鎖を操り、その先に繋がる鉄塊を振り回している筋肉質のVAMP。ピンク髪のVAMPの加勢が裏目に出る。

ピンク髪のVAMP「え~だってぇ~」

筋肉質のVAMP「もういいから黙って見てろ!!」

ピンク髪のVAMP「やだゆ~ん!!」

パァン——!

ピンク髪のVAMP「は⋯⋯?」

 ふざけ半分で撃った1発が空砲になり、唖然とするピンク髪のVAMP——銃を持った右腕と、頭部が空中に投げ出されていた。
 その背後で、綜舞の斧が地面に突き刺さる。2つの斧を繋ぐ鎖は、晚上との戦いで断ち切られたままだった。
 綜舞が投げつけた斧によって、早くも散るピンク髪のVAMP。

綜舞「よかったな、黙ったぞ」

筋肉質のVAMP「⋯⋯殺す」

 崩れ去る仲間の破片を浴び、豹変する筋肉質のVAMP。右目の点のような黒目が、深く抉るように綜舞を捉えた。

綜舞「⋯⋯っ!」

 ほとんど予備動作なしで、綜舞に鉄塊を叩きつける筋肉質のVAMP。明らかに先ほどまでとは動きが違う。
 綜舞は超人的な身のこなしでダメージを最小限に抑えたようだったが、次の瞬間には顔面を横殴りにされる。

 さすがに体勢を崩した綜舞に、再び鉄塊を振り落とす筋肉質のVAMP。
 綜舞の防御は間に合わない。まともに食らえばただでは済まないだろう——しかし寸前で、筋肉質のVAMPは回避に転じた。

キィィン!!

 紫の光の筋を、グローブで防御する筋肉質のVAMP。低い体勢から蹴り上げた綜舞——その靴底が発光している。晚上を追い詰めたUVアームズだ。

綜舞「へえ、仲間を殺られてキレたのか?」

 血を吐き捨て、笑みを浮かべる綜舞。攻撃を受けたのはわざとだったのか、まだまだ余裕がありそうだ。
 筋肉質のVAMPが苛立たしげに綜舞の足を振り払うと、綜舞は高く跳ね上がり、ピンク髪のVAMPを葬った斧を回収する。

綜舞「朗報だな。ゴミ掃除が趣味になりそうだ笑」

ガィン!!

 すかさず飛んでくる鉄塊を斧の柄の終わり、ハンマーで叩きのめす綜舞。鉄塊は変形し、地面にめり込んだ。

綜舞「まぁそんなもんか、お疲れ。じゃ、耐久スタートな」

 そう言うなり消える綜舞——次の瞬間には筋肉質のVAMPに飛びかかっていた。

 高速で四肢を駆使し、次々と繰り出す乱撃。斧先と靴底のUV光が、夜闇に複数の尾を引く。
 綜舞は一瞬も手を緩めず、反撃の隙を与えない。防御に徹する筋肉質のVAMPだったが、かなり険しい表情だ。
 VAMPは少しでもUVアームズによって負傷すると死に至る。時間の問題だろう。

 海央はというと、金髪のVAMPの動きに慣れてきたのか、うまく攻撃をかわしながら戦えている。が、金髪のVAMPは特に回避能力が高いらしく、こう着状態が続いている。

赤髪のVAMP「はぁ、だる。作戦ヘンコー」

 赤髪のVAMPが大きくナイフを振るい、陸翔を遠ざける。こちらも両者一歩も譲らず、熾烈な剣戟が繰り広げられていた。

 倉庫の屋根上に待機しているVAMPに、合図を送る赤髪のVAMP。いやらしく笑い、頷いて見せるVAMP。
 するとVAMPが死角から何者かを連れてくる——結希だ。

 淡いグリーンの入院着姿、裸足で立ち尽くしている。虚ろな表情、その視線は陸翔を捉えているように見えた。

陸翔「っ結希!! おい離せ!!!」

 激しく取り乱す陸翔を見て、赤髪のVAMPが嬉しそうに目を見開く。

赤髪のVAMP「うわっ思い出したわ!! お前、アレとよく渋谷にいたよな? だから咲鬼さんを⋯⋯女取られて逆恨みしたってわけか!! ダッセー!!!笑笑」

 腹を抱えて爆笑する赤髪のVAMP。綜舞と海央は依然戦い続けながらも、気が気でない様子だ。

陸翔「結希を離せ」

赤髪のVAMP「ハッ元々オレらのもんだから。お前らが奪ったんだろ」
「まぁでもオレ優しーし? 交換してやってもいいぜ」

 赤髪のVAMPはわざとらしくそう言うと、鋭い目つきで陸翔を見据えた。

赤髪のVAMP「女VAMPを渡せ」

 LYCAN全員の表情が強張る。海央が隙をつかれ、金髪のVAMPにこめかみを殴られる。

赤髪のVAMP「いんだろ? どーせ見つけるまで帰る気ねーし、お前らからしてもメリットしかねーだろ」

 初めから美久狙いだったらしい。報復はついで程度だったのか。

 陸翔は長く息を吐くと、毅然と赤髪のVAMPに向き直る。

陸翔「あ? 女VAMPなんていねぇよ。お前らみてーな下等生物と一緒にすんな」

 陸翔の応えに、口角を上げる綜舞。海央の表情は硬いままだ。

赤髪のVAMP「ふーん。じゃ、死ね笑」
「ハイ注目~!! 今から1匹でも抵抗したら女を殺しま~す!! 1匹死ぬか3匹死ぬか、どっちがオトクか畜生にわかるかなぁ~?!」

 赤髪のVAMPが声を張り上げる。舌打ちをする綜舞、顔を歪める海央。

海央「ぐ⋯⋯っ!!」

 金髪のVAMPの足蹴をまともに食らい、海央は地面に体を擦りながら後方へと倒れ込む。

 綜舞は一旦、筋肉質のVAMPから離れたが、すぐに距離を詰められ、突き上げるように顎を殴られる。一瞬気絶しかけたのか倒れそうになり、片膝を折る綜舞。

赤髪のVAMP「おい、ソレ捨てろよ笑」

 まだ剣を構えていた陸翔だったが、結希を見やり、剣を手放す。ナイフを片手に、赤髪のVAMPが迫る——。

陸翔「ぐ⋯⋯っ」

 なぜか足を高く振り上げ、陸翔の頭部を横から蹴りつける赤髪のVAMP。蹴り倒された陸翔は、赤髪のVAMPを睨み上げる。

赤髪のVAMP「言っただろ? 簡単には殺さねぇって。あんな空っぽのゴミを欲しがるお前のせいで、全員死ぬんだよ。そこんとこよく考えながら死ね?笑」

 そう言って赤髪のVAMPはナイフを投げ捨て、陸翔に襲いかかった。


 そんな地獄絵図と化した戦場を倉庫裏から見守る人影——美久だ。じっとしていられず、出てきてしまったらしい。

 制服に着替えている。襟には青く光るウルフタグ。ポケットからはお守りとサン太がはみ出している。
 小柄のVAMPとの戦いでリュックが壊れた為、サン太のストラップもPA3に付けることにしたらしい。

 美久は踵を返すと、本棟の方へと走り去った。赤い月は、もう4分の1ほど欠けている。


陸翔「っう⋯⋯ぅぐ⋯⋯!」

 陸翔に馬乗りになり、何度も殴りつけている赤髪のVAMP。ふと手を止め、前方に視線を移す。

赤髪のVAMP「オイオイオイオ~イ!! ちょっとそこォ! 若干かわしてんのバレてっから!!!」

 視線の先には綜舞がいた。筋肉質のVAMPの攻撃を素直に受けているように見えるが、どうやらすんでのところで軽減しているらしい。

 海央は無抵抗で立ち尽くし、サンドバッグ状態だ。限界が近いように見える。

赤髪のVAMP「おい」

 冷たい表情で屋上を見上げる赤髪のVAMP。すると手下のVAMPが結希の首にナイフを突きつけ——その手を勢いよく引いた。

陸翔「結希!!!!!」

 鮮やかな血がほとばしった。血の量からして致命傷には至っていないように見えるが、陸翔にはそれで充分だった。

陸翔「うぁあぁぁあぁぁぁっっ!!!」

赤髪のVAMP「うおw」

 絶叫し、赤髪のVAMPを蹴り飛ばす陸翔。そのまま倉庫へ向かおうとしたところで、駆けつけた綜舞に羽交締めにされる。

綜舞「陸翔落ち着け!! 脅しだ、結希は無事だ!!」

陸翔「ウグァ!! グァアァァア!!」

 我を失っている陸翔——大きく開かれた口から、連なる犬歯が垣間見えた。獣化の兆候だ。

綜舞「ッ⋯⋯」

 綜舞はなんとか陸翔を座らせると、片手で陸翔を抑えながら、ベストのポケットから鎮静剤入りの注射器を取り出した。

!!

 しかし抵抗する陸翔の腕が手に当たり、注射器が弾き飛ばされてしまう。

バキ⋯⋯

筋肉質のVAMP「死ね」

 突如、綜舞の真後ろに現れた筋肉質のVAMP。その足下で注射器は真っ二つに割れている。

 筋肉質のVAMPが鉄塊を振り上げ、綜舞に殴りかかる。
 混乱した状況に綜舞の反応が遅れる——頭部に直撃を受ければ、確実に致命傷だ。

筋肉質のVAMP「?!」

 その手を、赤髪のVAMPが押しとどめた。

赤髪のVAMP「ちょっと待て、これ獣化ってやつじゃねーか?! おもしれ~~ガチの犬畜生ぶち殺してみてぇ笑!!」

 子供のようにはしゃぎながらしゃがみ込み、暴れる陸翔の顔を覗き込む赤髪のVAMP。陸翔は獣のように唸りながら、さらに激しく暴れ出す。

赤髪のVAMP「うーんまだ足りねぇ? もうアレ殺しちゃうか! おい⋯⋯」

「やめて!!」

 切り裂くような声に、その場にいる全員が振り返る——美久が立っていた。
 凛とした表情。そこに恐怖や不安は感じられない。

綜舞「っ美久!! 下がれ!!」

 聞こえているのかいないのか、まっすぐに赤髪のVAMPに向かって歩き始める美久。綜舞は陸翔から手を離せず、身動きがとれない。

海央「駄目だ美久!! ぐぁっ!!」

 美久に駆け寄ろうとした海央を、金髪のVAMPが殴り飛ばした。
 地面に突っ伏し、吐血する海央。内臓にまでダメージが達しているようだ。

美久「やめろって!!」

 低い声で金髪のVAMPを怒鳴りつける美久。すると金髪のVAMPは海央を片足で踏みつけ、両手を上げて見せた。これ以上はしない、という意思表示のようだ。

海央「行かないでくれ⋯⋯お願いだから⋯⋯」

 弱々しく声を絞り出す海央。必死の思いも、美久には届かない。

綜舞「美久、LYCANならアルファの命令は絶対だ。今すぐ止ま⋯⋯」

 もう目と鼻の先まで来ている美久にそう言いかけ、美久の襟にウルフタグが付いていないことに気付く綜舞。苦々しげに顔を歪めた。

美久「⋯⋯言う通りにするから、みんなを傷付けないで」

 腕を組んで仁王立ちしている赤髪のVAMPを見据え、力強く言い放つ美久。

赤髪のVAMP「さっすがVAMP。物分かりいーじゃん♪ よし、帰るぞテメーら!!」

「うぃーすっ」
「え、この女は吸い殺しちゃっていい感じ?」
「駄目だろ笑。ほら、めっちゃ睨まれてんぞ」

 屋根に立っているVAMP3人。美久の鋭い視線に、ヘラヘラと笑いながら結希から手を引く。結希は無表情でその場にへたり込んだ。

パァン! パァン! パァン!

 その時、連続して銃声が響き、光る射線が3人の頭部を貫いた。その背後から現れる人影——門澤だ。

 脱力し、屋根から落下する3人。それらは着地する前に全て灰と化し、辺りに死の雪を降らせる。赤い月と相まって、異様な空気に包まれる。

 門澤は赤髪のVAMPを冷たく一瞥すると、しゃがんで結希に肩を貸す。

赤髪のVAMP「ってめぇ!!」

美久「やめて」

 反撃に向かおうとした赤髪のVAMPを美久が制止する。赤髪のVAMPは舌打ちをすると、無言で駅の方へと歩き始めた。

 憎々しげに綜舞を見下ろしていた筋肉質のVAMPも、渋々それに続く。
 そして金髪のVAMPやその他VAMPに紛れ、美久も歩き出した。

綜舞「待て美久!! 人質は無事だ、あとは俺に任せろ!!」

 美久は綜舞を振り返ったが、微笑んで「ありがとう」とだけ呟いて踵を返す。唇を噛む綜舞。

 実際のところ、陸翔も海央も戦闘不能の今、2人を庇いながらVAMP全員を相手にするのは、さすがの綜舞でも難しいように思えた。
 加えて攻撃を軽減できていたとはいえ、綜舞もかなり消耗している。

——?!

 突如、移動するVAMPの群れに向かって、黒い影が落下する。大きくはためく長いマント、グレーのマッシュヘア。

赤髪のVAMP「晚上さん!?」

 晚上は着地するなり美久の頭を殴打し、倒れ込む美久を軽々と担ぎ上げた。
 あの大鎌は見当たらない。綜舞に破壊され、そのままのようだ。
 そして高く跳ね上がると、シルクロの高い壁を駆け上り——その向こうへと消えた。

 一瞬の出来事に、呆然とするVAMP一同。

赤髪のVAMP「は⋯⋯? え、何?」

「手柄横取り⋯⋯って感じすかね?」

赤髪のVAMP「いや晚上さんに限ってそれはねぇ。あの女とグル? いやそれも⋯⋯っとにかく追うしかねぇ、行くぞ!!」

 赤髪のVAMPを先頭に、みな駅へと駆け出す。晚上のように壁を上ることはできないらしい。

綜舞「晚上⋯⋯なんのつもりだ⋯⋯?」

陸翔「ッアゥヴァアァァ!!!」

 門澤に連れられ、結希が視界から消えそうになると、幾分か落ち着いたように見えていた陸翔が再び暴れ出す。

綜舞「門澤!! 鎮静剤!!」

門澤「はい!!」

 門澤が一旦結希から離れ、後方へと消える。陸翔の勢いがまた少し弱まった。
 海央を見やる綜舞。うつ伏せになったまま、動かない。気を失っているようだ。


綜舞「みんなを頼む、殺れるだけ殺ってくる。全員戻ったら緊急ミーティングだ」

門澤「了解です!」

 門澤から受け取った鎮静剤を陸翔に打つと、綜舞は斧を両手に駅に向かって走り出す。

綜舞「あーこちら現場。しばらく電車止めて」

 エリスリンクで通話する綜舞。どうやら駅で電車を待っているであろうVAMPらを急襲するつもりらしい。
 本棟前のVAMPも撤退したらしく、辺りは嘘のように静まり返っている。



綜舞「龙成っいんのか?!」

 自室のドアを勢いよく開ける綜舞。汚部屋でゴミを掘り起こしていた龙成が顔を上げる。

龙成「っごめん、まだ見つからなくて⋯⋯」

 あれからずっと獣化を防ぐ薬を探していたらしい龙成。ため息混じりで首の凝りをほぐす。

綜舞「あぁ? 枕の下に決まってんだろ」

龙成「いやわかるかい」

 龙成がゴミをかき分けてベッドに辿り着き、枕の下をまさぐる。

綜舞「とにかくこれから緊急ミーティングだから。早く来いよ」

龙成「緊急って、何かあったの?」

綜舞「美久が晚上に攫われた。じゃ、先行くから」

 そう言うなりすぐに出て行く綜舞。新たな怪我を負っている様子はない。
 駅のVAMPは殺せたのだろうか。経過時間からして深追いはしなかったのだろう。

龙成「美久ちゃんが⋯⋯?」

 龙成は青いカプセルが詰まった薬瓶に目を落とし、壁にかかっているフード付きコートをちらりと見やると——何かを決意したような表情で目線を上げた。



海央「う⋯⋯うぅ⋯⋯」

 暗い病室でうなされている海央。全身が痣や包帯だらけで痛々しい。
 隣のベッドには陸翔の姿がある。症状は落ち着いたようで、心配そうに海央を見守っている。

海央「美久⋯⋯駄目だ⋯⋯」

「行かないで⋯⋯母さん⋯⋯」




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