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12話
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次の日。
午前中には、舞子の家を出て、アパートに戻り、シャワーを浴びて、家事をしてから、バイトに向かった。
それからは、毎日、家事とバイトをして過ごし、新しい年になり、学校も始まると、学校とバイトに明け暮れ、気付けば、卒業まで1ヶ月を切った。
こんな時期になったのに、まだ決断出来ずにいた。
そんな中、学校中は、明後日に迫ったバレンタインの話題で持ち切りだった。
「明後日は、学校も休みだし、凜華も、バレンタインのお菓子あげなよ」
あげたいのは、山々だが、正直、どうしたらいいのか分からなかった。
あげてしまったら、稲荷が、危なくなるかもしれないと、丸一日、悩みに悩んで、ある決断をした。
次の日の朝。
鞄を持ったまま、1人で、司書室のドアをノックした。
しかし、反応がない。
すぐに図書室に向かった。
図書室に入り、探していた人を見付け、声を掛けた。
「大神さん」
ゆっくりと振り返った錦は、妖艶な笑みを浮かべていた。
「やっと、来ましたか」
1度だけ、深呼吸をしてから、錦を見つめた。
「お願いがあります」
「何ですか?」
「明日、1日だけ私に時間を下さい」
それまで笑っていた錦の顔が、無表情になった。
「明日1日で、全てを終わらせます。そしたら、アナタの言う通りにします。だから…お願いします」
頭を下げると、沈黙が流れ、頭の上で、大きな溜め息が吐き出された。
「分かった」
頭を上げると、錦は、頭を掻きながら、腰に手を当てた。
「明日は、君の自由にしていいよ」
「ありがとうございます」
「但し、日付が変わるまで。それ以上は認めない。いいね?」
頷くと、錦は、ニッコリと笑って、頭を優しく撫でて、すぐに背中を向けた。
頭を下げてから、図書室を出て、教室に向かいながら、携帯を取り出し、電話を掛け、バイトの休みを交換してもらい、そのまま、稲荷にメールした。
その日の放課後。
急いで学校を出て、スーパーに寄り、自転車を走らせ、バイトに向かい、アパートに帰ると、着替えもせずに、稲荷に渡す菓子を作った。
次の日。
ちょっとお洒落をして、昨日作ったお菓子をラッピングして、バックの中に丁寧に入れた。
待ち合わせの駅前に向かい、改札の前に稲荷の姿に、愛しさが込み上げる。
「イナリ」
近付いて呼び掛けると、稲荷は、ゆっくりと振り向き、優しく微笑んだ。
「お待たせ。行こう」
腕に自分の腕を絡ませると、稲荷は、驚いたように目に見開いたが、すぐにいつもの微笑みに戻った。
これだけでも、幸せを感じる。
それから、電車に乗り、少し離れた駅で降り、稲荷と並んで歩き出し、少し離れた所にある遊園地に入った。
賑やかな園内に足取りも軽くなり、稲荷の腕を引き、ジェットコースターやメリーゴーランドなどのアトラクションに乗った。
お昼には、休憩も兼ねて、園内のフードコードで、サンドイッチやパンケーキを食べて、ゆっくり話をした。
今度は、お化け屋敷や観覧車に乗り、太陽が沈み始める頃には、もう、ほとんどのアトラクションを堪能し、十分楽しんだ。
来た時と同じように、腕を組んで、遊園地を出て、最寄り駅まで戻ると、ある場所を目指し、手を繋いで歩いた。
幸彦に連れて来てもらった少し小高い所に、ある公園の外側を向くベンチの前に並んで立ち、黙ったまま、沈む夕日を見つめた。
「今日は、楽しかった。ありがと」
稲荷は、夕日を見つめた。
「私も、久々にリンカと過ごせて、楽しかった」
互い黙って、夕日を見つめる。
こんな時間が、ずっと続けば、どんなに幸せか。
だが、この幸せも、今日で終わりだ。
「ねぇイナリ」
「ん?」
「今まで、ありがとう」
「急に改まって、どうしたんだ?」
「なんとなく。ずっと、言ってなかったし」
「そうか」
静かな時間が、流れて夕日は、完全に沈み、辺りが真っ暗になると、家々の灯りが、キラキラと瞬きだし、空にも、星と月が顔を出した。
「そろそろ、帰ろうか」
「うん。でも、その前に…」
バックの中から、ラッピングした菓子を差し出した。
「感謝の気持ち。どうぞ」
「ありがとう。開けても…」
「帰ってから、ゆっくり食べて」
「…分かった」
稲荷は、じっと見つめてから、優しく微笑んだ。
稲荷と見つめ合うと、稲荷に、ゆっくりと頬を撫でられた。
これで最後ならと、稲荷の胸に、頬を寄せて、背中に腕を回した。
それに答えるように、稲荷も、腕を回してくれた。
稲荷の顔を見上げ、ゆっくり顔を近付けて、そっと、稲荷の唇に口付けした。
ただ、触れ合うだけの細やかなキスをして、稲荷を見つめ、ニッコリと笑った。
稲荷も、優しく、ニッコリと笑ってくれた。
「それじゃ。バイバイ」
稲荷は、驚いた顔になった。
そんな稲荷の横をすり抜けるように、歩き出した。
「ちょっと待て」
稲荷に腕を掴まれ、立ち止まった。
「どうしたんだ?何か変だぞ?」
背中を向けたまま、目を閉じて、首を振った。
「何でもない」
稲荷に振り返って、ニッコリと笑った。
「なんでもないから、気にしないで。一緒に帰ったら、疑われるから、別々に帰ろうね。それじゃ」
掴まれていた手を振り払い、背中を向け、足早に歩き出しながら、本心を呟いた。
「元気でね…サヨナラ…」
その呟きが、稲荷に聞こえたかは、分からなかった。
それを確認することなく、振り返らず、流れる涙をそのままに、真っ直ぐ、公園の出入口に向かい、2人で歩いた道を1人で戻った。
坂が終わる頃には、頬を濡らしていた涙は、消えていた。
住宅街に出て、街灯の下に人影が見え、街灯に近付いた。
「おかえりなさい」
何も言わず、ただ錦を見つめた。
「そんな顔しないで。さぁ。帰ろう」
体を横にする錦の隣に並び、色々な話に、適当に相づちを打ちながら歩いた。
本当は、錦の話など、頭に入ってこなかった。
頭の中には、今日1日、稲荷と過ごした楽しい時間、稲荷の笑顔、稲荷の姿を思い出していた。
会えなくても、話せなくても、今日までの思い出たちをしっかり、胸に抱いて生きようと決めた。
稲荷への思いを胸の中に仕舞い、稲荷と別れ、錦と共にアパートに戻ってきた。
階段の下、錦が立ち止まり、私に顔を向けた。
「気を付けて帰るんだよ」
小さく頷き、歩き出そうとすると、腕を掴まれ、視線を戻した。
錦は、ニッコリと笑っていた。
「帰る前に。その醜い印を上書きさせてもらうよ?いいね?」
稲荷との唯一繋がりの首筋の小さな痣に触れた錦から、視線を反らすように、うつ向いて、小さく頷いた。
錦の顔が近付き、痣の上に唇が触れ、チクリと小さな痛みが走り、これで、稲荷との繋がりが、完全に消えた。
「それじゃ、これで」
ニコニコと笑いながら、錦は、背中を向けて、暗闇の中に消えていった。
それを見送り、完全に見えなくなってから、走って階段を登り、玄関を乱暴に開けて、中に入ると、ドアに鍵とチェーンを掛け、肩で息をしながら、ゆっくりと部屋に入った。
部屋の中には、甘い香りが、まだ残っている。
その香りが、現実から引き離す。
台所に向かい、冷凍室を開けると、更に、香りが強まった。
菓子が乗ったトレーを見つめ、取り出した。
テーブルにトレーを置き、菓子を1つ、摘まみ上げて見つめる。
ブラックチョコをハート型にしたトリュフ。
そのチョコをホワイトチョコで、コーティングし、周りをイチゴチョコで縁取りしただけ。
摘まんだそのチョコを口に放り込む。
甘酸っぱくて、ほろ苦い。
それが、稲荷への精一杯の気持ちだった。
甘くて優しくて、楽しい時間の後に訪れる、苦しい時間をチョコで、表現したはずなのに、稲荷に別れを告げた今、そのチョコは、苦さが増し、しょっぱく感じる。
その味が、現実に引き戻す。
残りのチョコをトレーに乗せたまま、冷凍室に戻した。
気付けば、次々に、涙が溢れ、頬を濡らす。
着替えもせず、そのまま、ベットに倒れ込み、枕に顔を埋めて、泣きながら眠った。
次の日。
学校の準備をしながら、小さなラッピング袋に、残っていたチョコを分けると、紙袋に入れて、学校に持って行き、舞子たちに配った。
舞子たちは、その場でチョコを食べて、美味しいと騒いでいた。
それから、菓子作りはするようになったが、それを食べることがなくなった。
どんな菓子を作っても、全て、稲荷に渡したチョコと同じ味に感じる。
それどころか、他の食事すら、味気なく感じるようになっていた。
それでも、無理矢理、食事を胃に押し込み、バイトと学校の生活を送っていた。
あれ以外、錦と直接、会うことがなくなり、その代わりに、毎日、メールか電話をしてくるようになった。
『今は、会えないんだ』
錦のような蛇族には、婚礼の儀まで、1ヶ月間は、婚姻相手と会ってはならないと、古くからのしきたりがあって、卒業までの期間を考えると、今は会えないらしく、それでも、連絡を取り合うことは、許されていて、メールや電話だけをしていると教えられた。
そんな、古いしきたりを守る錦からの連絡は、途絶えることなく続き、錦に縛られているような状況の中、あっという間に、卒業を迎えた。
卒業式ということもあり、バイトは、休みだった。
制服に身を包み、空っぽの鞄を持って、アパートを出た。
途中で、舞子と幸彦が待っていて、2人と並んで、学校に向かう。
学校に近付くと、香奈と合流し、校門前では、紗英と友姫が待っていた。
5人と一緒に下駄箱に着くと、幸彦の友だちも一緒になって、教室に入ると、それぞれの机の上に、花飾り付けがあり、それを胸に着けた。
皆と雑談をしていると、アナウンスが流れ、体育館前で、整列しながら、入場した。
卒業生の家族や知り合いが、多くの来客席に着席していた。
卒業式が始まり、しばらくすると、啜り泣く声や鼻を啜る音が、体育館に響き始めた。
卒業証書授与の代表の生徒が、壇上から降りると、卒業代表の言葉で、名前を呼ばれた。
一礼してから、壇上に立ち、また頭を下げてから、マイクの前に進み、会場を見渡した。
先生たちのいる方に、稲荷の姿を見付けた瞬間、多くの感情が溢れ出し、声を詰まらせ、肩を震わせながら、代表としての言葉を述べた。
一礼してから、壇上から降りると、自分の席に足早に戻り、ハンカチで口元を押さえ、声を殺して泣いた。
式が終わり、舞子や周りの子に支えられ、フラフラとした足取りで、教室に戻った。
泣きながらも、皆と話をしていると、スーツに身を包んだ隆也が、教室に入ってきた。
「今日で、お前らも卒業だ。これからは、新しい生活に忙しくなると思うが、辛くなったり、会いたくなったら、いつでも来いよ」
涙目の隆也の話を聞いて、皆、素直に返事をした。
「んじゃ。何か、やり残した事はあるか?」
「はい!!」
舞子が手を挙げてから、鞄に手を突っ込むと、デジカメを取り出した。
「最後に写真撮りたい!!」
「よし。並べ」
机と椅子を後ろに寄せてから、黒板の前に集まる。
「どれ。貸せ」
「何言ってんの?皆で撮るんだから、隆也も並ぶんだし」
背中を押されて、隆也が隣に立った。
舞子は、デジカメのセルフタイマーをセットして、一番前の中央にある机に置いて、後ろに立った。
少し体をずらし、舞子と微笑み合うと、前に香奈と友姫、紗英が並んで屈み、隆也とは、逆の隣に幸彦が立った。
「じゃ、行くよ~!せーの!!」
「だいすきーー!!」
周りで、一斉に大好きと言ったのに笑った瞬間、デジカメのフラッシュが光り、シャッターが押された。
舞子のデジカメを覗くと、皆、目元を赤くしながらも、最高の笑顔で写っててた。
それをきっかけに、次々と、携帯やデジカメが取り出され、多くの生徒と一緒に写真を撮った。
もちろん、舞子や友姫、紗英や香奈とも撮ったが、幸彦や隆也とも、携帯で写真を撮った。
その時、多くの生徒から手紙やプレゼントを貰った。
お昼近くになり、解散となって、多くの荷物を持って、アパートに帰ってきた。
着替えをして、制服をハンガーに掛けて、手紙やプレゼントを開け、喜びに浸っていると、携帯のメール音が鳴り、メールを開くと、錦からだった。
〈卒業おめでとう。君に素敵なプレゼントを送ったから、ちゃんと、家にいるんだよ?届いたら、連絡して〉
その時、部屋に呼鈴が鳴り響き、玄関に向かいながら、ため息をつき、ドアを開けると、色鮮やかに咲き誇る花束を抱えた花屋の配達員が立っていた。
「寺西様のお宅ですか?」
「はい」
「稲川様より、お花のお届けです」
配達員さんは、ニッコリと笑って、花束を差し出した。
「あ…ありがとうございます」
「お受け取りのサインをお願いします」
伝票にサインをして、花束を受け取った。
「ありがとうございました」
玄関を閉めて、花束を抱え、部屋に戻り、花束を見つめた。
そっと、花に顔を寄せ、目を閉じて、香りを吸い込むと、稲荷に抱かれているようで、とても暖かで、優しい香りがした。
その香りに、心が落ち着いていく。
そっと、目を開けると、小さなメッセージカードが、花の間に、ひっそりとあった。
【卒業おめでとう。稲川】
メッセージカードを開くと、たった一言、稲荷の字で書かれていた。
それだけでも、嬉しくて、メッセージカードを胸に抱いた。
花の香りを楽しんでいると、しばらくして、また呼鈴が鳴り響いた。
花束をテーブルに置き、玄関に向かい、覗き穴から、宅配便のマークが付いた帽子が見え、玄関のドアを開けて、荷物を受け取った。
部屋に戻り、荷物を開けると、そこには、紫色のドレスが入っていた。
錦に荷物が届いた事をメールすると、すぐに、住所が書かれていて、そこにドレスを持って来いと返信が来た。
そのメールに返信せず、台所を漁り、コップに花束を入れ、日当たりのいい、窓近くのチェストの上に置いて、それから、部屋で花を見て過ごした。
その日の夜。
お茶漬けを食べながら、不意に、送られてきた花たちが、どんな名前で、何の意味を持つのかを知りたくなり、食器も片付けずに、携帯で検索してみた。
ガーベラや白のアネモネ、スイートピーやポピーに胡蝶蘭など、感謝や門出、祝福の花言葉を持つ花たち。
色んな意味を持つ花たちに微笑む。
《私の愛は生きています》
白のカーネーションを検索すると、携帯画面に映し出された花の持つ言葉に、一瞬、何も考えられずに固まり、よくよく、花たちを見ると、同じ花でも、色違いや他の花に紛れて違う花が、数本、混ざっている事に気付いた。
その花や色を指定し、花の意味を検索すると、さっきまでとは違う花言葉が、次々に浮かび上がる。
ピンクの胡蝶蘭、あなたを愛します。
スターチス、途絶えぬ記憶。
ベゴニア、幸福な日々。
赤のアネモネ、君を愛す。
青のヒヤシンス、変わらぬ愛。
最後に桔梗を検索すると、私の目から涙が溢れ出て、携帯の画面を濡らした。
《永遠の愛》
稲荷の悲痛な叫びのような、花たちの言葉が、胸に深く突き刺さる。
稲荷の部屋に面した壁に近付き、そっと額をくっ付ける。
「…アナタを守りたい…もう…失いたくないの…」
そんな時、メール音が鳴った携帯の画面を切り替えて、日時が書かれた錦のメールを確認すると、心が、壊れてしまいそうだった。
稲荷に想いを伝えずに、錦の元に行く。
その決断が、今になって、辛く哀しい。
だが、もう引き返せない。
〈わかりました〉
私は、錦のメールに、それだけ返信した。
それから、その日が来るまで、毎日、水を取り換え、話し掛け、咲き誇る花に優しく触れ、枯れないように、稲荷からの想いに答えるように、必死になって世話をした。
そんな想いに、花たちも応えるように、毎日、色鮮やかに咲き誇っていた。
だが、所詮は切り花。
時間が経てば経つ程、花は萎れていく。
それが苦しい。
それでも、時は止まらない。
そして、錦が指定した日。
最後の花が枯れ、全ての花の生命が終わった。
「ありがとう…」
稲荷の部屋に面した壁に近付き、そっと、頬を付けて、しばらく、そのままでいた。
目を開けて体を離してから、小さく2回、壁をノックして、錦からのドレスを詰めたバックを持って、アパートを出た。
多分、次に帰ってくる時は、荷物を片付けに来る時だけだ。
先日、錦から送られてきた封筒に入っていた乗車券を確認し、新幹線に乗り込んだ。
流れ行く景色を眺めながら、遠ざかるアパートを見つめ、これまでの事を思い出す。
初めて稲荷と出合い、毎日の生活が、少しずつ色付き始め、隆也の恋心に気付かされ、幸彦の告白に戸惑い、他者からの嫉妬に傷付き、稲荷の優しさに染まり、錦が現れ、本当の自分を知り、素直に自分と向き合い、幸彦と隆也を断り、友だちが増え、人の優しさに浸り、稲荷との時間に溺れた日々は、どれもが、尊くて、儚い思い出だった。
稲荷の優しい声も、稲荷の暖かな手も、稲荷の気高き姿も、その全てを鮮明に覚えている。
稲荷を思い描き、頬を一雫の涙が、伝い落ちる。
手の甲で、その筋を消して、錦の元に行く。
例え、隣に稲荷がいなくても、稲荷を想い続けて、生きていく。
気付けば、目的の駅に着き、新幹線を降りると、そこは、稲荷と来た時とは違い、とても冷たい風が吹き抜け、バックを抱えて、バスに乗り込んだ。
最寄りのバス停で降り、しっかりとした足取りで、かつての実家を目指し、途中、父と祖父の店だった建物を見て、稲荷と並び、中を覗いたのを思い出した。
泣きそうになるのを誤魔化すように、バックを抱え直しながら、足早に建物の前を通り過ぎた。
かつての実家が見え、そこから、林の中に入り、稲荷と来た時よりも、更に、奥へと歩みを進めると、次第に辺りが真っ暗になり、足元に気を付けながら、少しずつ進むと、大きな木が見えた。
「時間、ぴったりだね」
錦の声が聞こえ、辺りを見回したが、姿は見えなかった。
「こっちだよ」
木の下から声が聞こえ、一点を見つめ続けると、暗闇の中に、ぼんやりと錦の姿が浮かび、その近くに小屋も見えた。
「おいで」
ゆっくりと近付き、差し出された錦の手に、手を重ねると、引っ張り上げられ、抱き止められた。
バックを奪い取られると、夢で見た白い蛇たちが、バックを持って、小屋の中に消えていった。
「連れて行きたい所があるんだ。来て」
錦に手を引かれ、暗闇の中、恐る恐る、後をついていくと、小さな石が並んでいるのが見えた。
その前に来ると、錦は、肩を抱き寄せた。
「俺の両親の墓だ」
稲荷が、話していた事が蘇り、胸が痛む。
「君の学校が始まるまでの間、さっきの小屋で生活するから」
「そんな…バイト…」
「辞めてもらう」
「そしたら、学費が…」
「俺が出す」
「でも…」
「君は、俺の側にいればいい。本当は、学校も行かせたくないが、もう決まってしまった事は仕方ない。だが、それ以外で、外に出るのは、許さない。いつ、どこで、アイツに会うか、分からないからね」
錦の話に、ショックを受けた。
必死で、稲荷と距離を作り、離れたのに、それを錦は、認めようとしていない。
思いっきり殴られたような、目眩を感じ、今すぐにでも、錦から逃げたかった。
「逃げたらアイツを殺す」
うつ向くと、錦は、手を引いて、小屋の方に歩き出した。
グッと涙を堪えて、顔を上げると、小屋が見えた。
これで、終わりだと、唇を噛んでいると、小屋の横に光が見えた。
その光から逃げるように、足元を蛇たちが通り抜けて行くのに、驚きながらも、前を見つめた。
その光が近付き、やがて、光の中に影が浮かび上がり、更に、近付いてきた。
「何しに来た」
憎しみに顔を歪める錦が、低い声が響くと、光が小さくなり、稲荷の顔が、ハッキリと浮かび上がった。
「最後の話をしに来た」
稲荷は、パチンと指を鳴らすと、光が散らばり、その光が、小さな火の玉だと分かった。
「リンカ」
火の玉に気を取られていて、少し視線を反らした隙に、呼び掛けた稲荷に目掛けて、錦が走り出していた。
「やめて!!」
錦は、動きを止めて睨んだ。
頬を涙が伝うと、錦は、稲荷から離れた。
「大蛇の所に行くのか?」
頷くと、錦は、勝ち誇ったように、鼻を鳴らした。
「それは、お前が決めたのか?」
錦は、怒り任せに怒鳴った。
「まだ、そんな事を!!」
「大蛇が好きか?」
「貴様!!ふざけて…」
「黙れ」
地響きがする程の低い声に、錦が黙ると、稲荷は、真剣な顔をした。
「リンカが決めて、大蛇を好いているなら、それで構わない」
稲荷の言葉に、胸がチクリと痛む。
「そうなら、私も諦められる」
その言葉に、哀しくなる。
「だが、好いてもないヤツの元に行くなら、それ相応の理由を教えて欲しい」
少し強い稲荷の口調に、唇を噛んで、溢れそうな想いを抑え込んだ。
「最後になるなら、あのノックの理由を教えてくれ」
稲荷の真剣な顔で、見つめられ、その視線から逃れるように、うつ向いた。
「…好きよ…」
稲荷は、悲しそうに顔を歪め、錦は、稲荷をバカにしたような顔をした。
「好きよ…大好きよ…」
顔を上げ、頬を涙が流れた。
「イナリが大好きよ!!」
声が辺りに響くと、稲荷と錦は、驚いた顔をした。
もう、止まらなかった。
「でも!!いくら隣にいたくても!!いくら側にいたくても!!離れなきゃならない時もあるでしょ!?」
溜め込んでいた想いを吐き出すように、叫ぶのを見つめる稲荷は、哀しみに歪み、錦の表情が、怒りに歪んでいく。
「イナリと一緒にいれなくて辛い!!でも!!イナリが死んでしまったらもっと辛い!!なら!!私は!!イナリから離れても!!イナリが生きてるなら!!それでいい!!それだけでい…!!」
稲荷がパチンと指を鳴らすと、その腕の中にいた。
「もっと早く言って欲しかった。もっと早く聞きたかった」
稲荷に抱き締められると、涙が止まらなくなった。
「…ごめ…なさい…ごめん…なさい…ご…めん…なさ…い」
しゃくり上がり、声を詰まらせながら、稲荷にしがみつき、何度も何度も謝った。
「大丈夫。大丈夫。大丈夫だから、もう泣くな」
優しい声色と髪を撫でる手が、欲しかった稲荷のぬくもりが、壊れそうになっていた心を呼び戻す。
「貴様ら…俺をバカにして…許さん…許さん!!」
そう叫び、一気に距離が近付くと、稲荷が、錦に手のひらを向けた瞬間、散っていた火の玉が、錦を囲んだ。
錦が顔を歪め、動きを止めると、火の玉は、錦の周りを囲ったまま、その場に止まった。
「大蛇」
錦に体を向けると、稲荷は、背中を向けた。
「私が、お前にした事は、許されることではない。お前が望むなら、私は、喜んで、この命を差し出そうと思った」
稲荷の話に驚き、不安になり、その袖を掴むと、その手を稲荷の大きな手が掴み、強く握られた。
「リンカが望むならと思っていた。だが、リンカを泣かせるなら、私は、お前を許さない」
スッと稲荷が手を上げると、火の玉の1つが小屋の方に飛んで行き、ぶつかると、火柱を上げ、勢い良く燃え上がった。
振り返り、それを見上げる腕を火の玉が掠めると、錦の顔が歪み、膝を着いた。
「イナリ!!」
稲荷の腕を引くと、ゆっくりと視線を向けた。
「やめて…お願い」
稲荷の目が細められる。
その目を見つめ返すと、稲荷の腕が下ろされ、錦の周りを飛んでいた火の玉が消え、小屋の炎も鎮まった。
「今回は、このくらいにしてやる。だが、次にリンカを泣かせたら…覚悟していろ」
稲荷の鋭い目付きに、肩を震わせる錦に背中を向けると、手を引いて、歩き出し、来た道を戻った。
稲荷にバレないように、後ろを見ると、真っ黒に焦げた小屋を見上げる錦の背中は、淋しそうだった。
午前中には、舞子の家を出て、アパートに戻り、シャワーを浴びて、家事をしてから、バイトに向かった。
それからは、毎日、家事とバイトをして過ごし、新しい年になり、学校も始まると、学校とバイトに明け暮れ、気付けば、卒業まで1ヶ月を切った。
こんな時期になったのに、まだ決断出来ずにいた。
そんな中、学校中は、明後日に迫ったバレンタインの話題で持ち切りだった。
「明後日は、学校も休みだし、凜華も、バレンタインのお菓子あげなよ」
あげたいのは、山々だが、正直、どうしたらいいのか分からなかった。
あげてしまったら、稲荷が、危なくなるかもしれないと、丸一日、悩みに悩んで、ある決断をした。
次の日の朝。
鞄を持ったまま、1人で、司書室のドアをノックした。
しかし、反応がない。
すぐに図書室に向かった。
図書室に入り、探していた人を見付け、声を掛けた。
「大神さん」
ゆっくりと振り返った錦は、妖艶な笑みを浮かべていた。
「やっと、来ましたか」
1度だけ、深呼吸をしてから、錦を見つめた。
「お願いがあります」
「何ですか?」
「明日、1日だけ私に時間を下さい」
それまで笑っていた錦の顔が、無表情になった。
「明日1日で、全てを終わらせます。そしたら、アナタの言う通りにします。だから…お願いします」
頭を下げると、沈黙が流れ、頭の上で、大きな溜め息が吐き出された。
「分かった」
頭を上げると、錦は、頭を掻きながら、腰に手を当てた。
「明日は、君の自由にしていいよ」
「ありがとうございます」
「但し、日付が変わるまで。それ以上は認めない。いいね?」
頷くと、錦は、ニッコリと笑って、頭を優しく撫でて、すぐに背中を向けた。
頭を下げてから、図書室を出て、教室に向かいながら、携帯を取り出し、電話を掛け、バイトの休みを交換してもらい、そのまま、稲荷にメールした。
その日の放課後。
急いで学校を出て、スーパーに寄り、自転車を走らせ、バイトに向かい、アパートに帰ると、着替えもせずに、稲荷に渡す菓子を作った。
次の日。
ちょっとお洒落をして、昨日作ったお菓子をラッピングして、バックの中に丁寧に入れた。
待ち合わせの駅前に向かい、改札の前に稲荷の姿に、愛しさが込み上げる。
「イナリ」
近付いて呼び掛けると、稲荷は、ゆっくりと振り向き、優しく微笑んだ。
「お待たせ。行こう」
腕に自分の腕を絡ませると、稲荷は、驚いたように目に見開いたが、すぐにいつもの微笑みに戻った。
これだけでも、幸せを感じる。
それから、電車に乗り、少し離れた駅で降り、稲荷と並んで歩き出し、少し離れた所にある遊園地に入った。
賑やかな園内に足取りも軽くなり、稲荷の腕を引き、ジェットコースターやメリーゴーランドなどのアトラクションに乗った。
お昼には、休憩も兼ねて、園内のフードコードで、サンドイッチやパンケーキを食べて、ゆっくり話をした。
今度は、お化け屋敷や観覧車に乗り、太陽が沈み始める頃には、もう、ほとんどのアトラクションを堪能し、十分楽しんだ。
来た時と同じように、腕を組んで、遊園地を出て、最寄り駅まで戻ると、ある場所を目指し、手を繋いで歩いた。
幸彦に連れて来てもらった少し小高い所に、ある公園の外側を向くベンチの前に並んで立ち、黙ったまま、沈む夕日を見つめた。
「今日は、楽しかった。ありがと」
稲荷は、夕日を見つめた。
「私も、久々にリンカと過ごせて、楽しかった」
互い黙って、夕日を見つめる。
こんな時間が、ずっと続けば、どんなに幸せか。
だが、この幸せも、今日で終わりだ。
「ねぇイナリ」
「ん?」
「今まで、ありがとう」
「急に改まって、どうしたんだ?」
「なんとなく。ずっと、言ってなかったし」
「そうか」
静かな時間が、流れて夕日は、完全に沈み、辺りが真っ暗になると、家々の灯りが、キラキラと瞬きだし、空にも、星と月が顔を出した。
「そろそろ、帰ろうか」
「うん。でも、その前に…」
バックの中から、ラッピングした菓子を差し出した。
「感謝の気持ち。どうぞ」
「ありがとう。開けても…」
「帰ってから、ゆっくり食べて」
「…分かった」
稲荷は、じっと見つめてから、優しく微笑んだ。
稲荷と見つめ合うと、稲荷に、ゆっくりと頬を撫でられた。
これで最後ならと、稲荷の胸に、頬を寄せて、背中に腕を回した。
それに答えるように、稲荷も、腕を回してくれた。
稲荷の顔を見上げ、ゆっくり顔を近付けて、そっと、稲荷の唇に口付けした。
ただ、触れ合うだけの細やかなキスをして、稲荷を見つめ、ニッコリと笑った。
稲荷も、優しく、ニッコリと笑ってくれた。
「それじゃ。バイバイ」
稲荷は、驚いた顔になった。
そんな稲荷の横をすり抜けるように、歩き出した。
「ちょっと待て」
稲荷に腕を掴まれ、立ち止まった。
「どうしたんだ?何か変だぞ?」
背中を向けたまま、目を閉じて、首を振った。
「何でもない」
稲荷に振り返って、ニッコリと笑った。
「なんでもないから、気にしないで。一緒に帰ったら、疑われるから、別々に帰ろうね。それじゃ」
掴まれていた手を振り払い、背中を向け、足早に歩き出しながら、本心を呟いた。
「元気でね…サヨナラ…」
その呟きが、稲荷に聞こえたかは、分からなかった。
それを確認することなく、振り返らず、流れる涙をそのままに、真っ直ぐ、公園の出入口に向かい、2人で歩いた道を1人で戻った。
坂が終わる頃には、頬を濡らしていた涙は、消えていた。
住宅街に出て、街灯の下に人影が見え、街灯に近付いた。
「おかえりなさい」
何も言わず、ただ錦を見つめた。
「そんな顔しないで。さぁ。帰ろう」
体を横にする錦の隣に並び、色々な話に、適当に相づちを打ちながら歩いた。
本当は、錦の話など、頭に入ってこなかった。
頭の中には、今日1日、稲荷と過ごした楽しい時間、稲荷の笑顔、稲荷の姿を思い出していた。
会えなくても、話せなくても、今日までの思い出たちをしっかり、胸に抱いて生きようと決めた。
稲荷への思いを胸の中に仕舞い、稲荷と別れ、錦と共にアパートに戻ってきた。
階段の下、錦が立ち止まり、私に顔を向けた。
「気を付けて帰るんだよ」
小さく頷き、歩き出そうとすると、腕を掴まれ、視線を戻した。
錦は、ニッコリと笑っていた。
「帰る前に。その醜い印を上書きさせてもらうよ?いいね?」
稲荷との唯一繋がりの首筋の小さな痣に触れた錦から、視線を反らすように、うつ向いて、小さく頷いた。
錦の顔が近付き、痣の上に唇が触れ、チクリと小さな痛みが走り、これで、稲荷との繋がりが、完全に消えた。
「それじゃ、これで」
ニコニコと笑いながら、錦は、背中を向けて、暗闇の中に消えていった。
それを見送り、完全に見えなくなってから、走って階段を登り、玄関を乱暴に開けて、中に入ると、ドアに鍵とチェーンを掛け、肩で息をしながら、ゆっくりと部屋に入った。
部屋の中には、甘い香りが、まだ残っている。
その香りが、現実から引き離す。
台所に向かい、冷凍室を開けると、更に、香りが強まった。
菓子が乗ったトレーを見つめ、取り出した。
テーブルにトレーを置き、菓子を1つ、摘まみ上げて見つめる。
ブラックチョコをハート型にしたトリュフ。
そのチョコをホワイトチョコで、コーティングし、周りをイチゴチョコで縁取りしただけ。
摘まんだそのチョコを口に放り込む。
甘酸っぱくて、ほろ苦い。
それが、稲荷への精一杯の気持ちだった。
甘くて優しくて、楽しい時間の後に訪れる、苦しい時間をチョコで、表現したはずなのに、稲荷に別れを告げた今、そのチョコは、苦さが増し、しょっぱく感じる。
その味が、現実に引き戻す。
残りのチョコをトレーに乗せたまま、冷凍室に戻した。
気付けば、次々に、涙が溢れ、頬を濡らす。
着替えもせず、そのまま、ベットに倒れ込み、枕に顔を埋めて、泣きながら眠った。
次の日。
学校の準備をしながら、小さなラッピング袋に、残っていたチョコを分けると、紙袋に入れて、学校に持って行き、舞子たちに配った。
舞子たちは、その場でチョコを食べて、美味しいと騒いでいた。
それから、菓子作りはするようになったが、それを食べることがなくなった。
どんな菓子を作っても、全て、稲荷に渡したチョコと同じ味に感じる。
それどころか、他の食事すら、味気なく感じるようになっていた。
それでも、無理矢理、食事を胃に押し込み、バイトと学校の生活を送っていた。
あれ以外、錦と直接、会うことがなくなり、その代わりに、毎日、メールか電話をしてくるようになった。
『今は、会えないんだ』
錦のような蛇族には、婚礼の儀まで、1ヶ月間は、婚姻相手と会ってはならないと、古くからのしきたりがあって、卒業までの期間を考えると、今は会えないらしく、それでも、連絡を取り合うことは、許されていて、メールや電話だけをしていると教えられた。
そんな、古いしきたりを守る錦からの連絡は、途絶えることなく続き、錦に縛られているような状況の中、あっという間に、卒業を迎えた。
卒業式ということもあり、バイトは、休みだった。
制服に身を包み、空っぽの鞄を持って、アパートを出た。
途中で、舞子と幸彦が待っていて、2人と並んで、学校に向かう。
学校に近付くと、香奈と合流し、校門前では、紗英と友姫が待っていた。
5人と一緒に下駄箱に着くと、幸彦の友だちも一緒になって、教室に入ると、それぞれの机の上に、花飾り付けがあり、それを胸に着けた。
皆と雑談をしていると、アナウンスが流れ、体育館前で、整列しながら、入場した。
卒業生の家族や知り合いが、多くの来客席に着席していた。
卒業式が始まり、しばらくすると、啜り泣く声や鼻を啜る音が、体育館に響き始めた。
卒業証書授与の代表の生徒が、壇上から降りると、卒業代表の言葉で、名前を呼ばれた。
一礼してから、壇上に立ち、また頭を下げてから、マイクの前に進み、会場を見渡した。
先生たちのいる方に、稲荷の姿を見付けた瞬間、多くの感情が溢れ出し、声を詰まらせ、肩を震わせながら、代表としての言葉を述べた。
一礼してから、壇上から降りると、自分の席に足早に戻り、ハンカチで口元を押さえ、声を殺して泣いた。
式が終わり、舞子や周りの子に支えられ、フラフラとした足取りで、教室に戻った。
泣きながらも、皆と話をしていると、スーツに身を包んだ隆也が、教室に入ってきた。
「今日で、お前らも卒業だ。これからは、新しい生活に忙しくなると思うが、辛くなったり、会いたくなったら、いつでも来いよ」
涙目の隆也の話を聞いて、皆、素直に返事をした。
「んじゃ。何か、やり残した事はあるか?」
「はい!!」
舞子が手を挙げてから、鞄に手を突っ込むと、デジカメを取り出した。
「最後に写真撮りたい!!」
「よし。並べ」
机と椅子を後ろに寄せてから、黒板の前に集まる。
「どれ。貸せ」
「何言ってんの?皆で撮るんだから、隆也も並ぶんだし」
背中を押されて、隆也が隣に立った。
舞子は、デジカメのセルフタイマーをセットして、一番前の中央にある机に置いて、後ろに立った。
少し体をずらし、舞子と微笑み合うと、前に香奈と友姫、紗英が並んで屈み、隆也とは、逆の隣に幸彦が立った。
「じゃ、行くよ~!せーの!!」
「だいすきーー!!」
周りで、一斉に大好きと言ったのに笑った瞬間、デジカメのフラッシュが光り、シャッターが押された。
舞子のデジカメを覗くと、皆、目元を赤くしながらも、最高の笑顔で写っててた。
それをきっかけに、次々と、携帯やデジカメが取り出され、多くの生徒と一緒に写真を撮った。
もちろん、舞子や友姫、紗英や香奈とも撮ったが、幸彦や隆也とも、携帯で写真を撮った。
その時、多くの生徒から手紙やプレゼントを貰った。
お昼近くになり、解散となって、多くの荷物を持って、アパートに帰ってきた。
着替えをして、制服をハンガーに掛けて、手紙やプレゼントを開け、喜びに浸っていると、携帯のメール音が鳴り、メールを開くと、錦からだった。
〈卒業おめでとう。君に素敵なプレゼントを送ったから、ちゃんと、家にいるんだよ?届いたら、連絡して〉
その時、部屋に呼鈴が鳴り響き、玄関に向かいながら、ため息をつき、ドアを開けると、色鮮やかに咲き誇る花束を抱えた花屋の配達員が立っていた。
「寺西様のお宅ですか?」
「はい」
「稲川様より、お花のお届けです」
配達員さんは、ニッコリと笑って、花束を差し出した。
「あ…ありがとうございます」
「お受け取りのサインをお願いします」
伝票にサインをして、花束を受け取った。
「ありがとうございました」
玄関を閉めて、花束を抱え、部屋に戻り、花束を見つめた。
そっと、花に顔を寄せ、目を閉じて、香りを吸い込むと、稲荷に抱かれているようで、とても暖かで、優しい香りがした。
その香りに、心が落ち着いていく。
そっと、目を開けると、小さなメッセージカードが、花の間に、ひっそりとあった。
【卒業おめでとう。稲川】
メッセージカードを開くと、たった一言、稲荷の字で書かれていた。
それだけでも、嬉しくて、メッセージカードを胸に抱いた。
花の香りを楽しんでいると、しばらくして、また呼鈴が鳴り響いた。
花束をテーブルに置き、玄関に向かい、覗き穴から、宅配便のマークが付いた帽子が見え、玄関のドアを開けて、荷物を受け取った。
部屋に戻り、荷物を開けると、そこには、紫色のドレスが入っていた。
錦に荷物が届いた事をメールすると、すぐに、住所が書かれていて、そこにドレスを持って来いと返信が来た。
そのメールに返信せず、台所を漁り、コップに花束を入れ、日当たりのいい、窓近くのチェストの上に置いて、それから、部屋で花を見て過ごした。
その日の夜。
お茶漬けを食べながら、不意に、送られてきた花たちが、どんな名前で、何の意味を持つのかを知りたくなり、食器も片付けずに、携帯で検索してみた。
ガーベラや白のアネモネ、スイートピーやポピーに胡蝶蘭など、感謝や門出、祝福の花言葉を持つ花たち。
色んな意味を持つ花たちに微笑む。
《私の愛は生きています》
白のカーネーションを検索すると、携帯画面に映し出された花の持つ言葉に、一瞬、何も考えられずに固まり、よくよく、花たちを見ると、同じ花でも、色違いや他の花に紛れて違う花が、数本、混ざっている事に気付いた。
その花や色を指定し、花の意味を検索すると、さっきまでとは違う花言葉が、次々に浮かび上がる。
ピンクの胡蝶蘭、あなたを愛します。
スターチス、途絶えぬ記憶。
ベゴニア、幸福な日々。
赤のアネモネ、君を愛す。
青のヒヤシンス、変わらぬ愛。
最後に桔梗を検索すると、私の目から涙が溢れ出て、携帯の画面を濡らした。
《永遠の愛》
稲荷の悲痛な叫びのような、花たちの言葉が、胸に深く突き刺さる。
稲荷の部屋に面した壁に近付き、そっと額をくっ付ける。
「…アナタを守りたい…もう…失いたくないの…」
そんな時、メール音が鳴った携帯の画面を切り替えて、日時が書かれた錦のメールを確認すると、心が、壊れてしまいそうだった。
稲荷に想いを伝えずに、錦の元に行く。
その決断が、今になって、辛く哀しい。
だが、もう引き返せない。
〈わかりました〉
私は、錦のメールに、それだけ返信した。
それから、その日が来るまで、毎日、水を取り換え、話し掛け、咲き誇る花に優しく触れ、枯れないように、稲荷からの想いに答えるように、必死になって世話をした。
そんな想いに、花たちも応えるように、毎日、色鮮やかに咲き誇っていた。
だが、所詮は切り花。
時間が経てば経つ程、花は萎れていく。
それが苦しい。
それでも、時は止まらない。
そして、錦が指定した日。
最後の花が枯れ、全ての花の生命が終わった。
「ありがとう…」
稲荷の部屋に面した壁に近付き、そっと、頬を付けて、しばらく、そのままでいた。
目を開けて体を離してから、小さく2回、壁をノックして、錦からのドレスを詰めたバックを持って、アパートを出た。
多分、次に帰ってくる時は、荷物を片付けに来る時だけだ。
先日、錦から送られてきた封筒に入っていた乗車券を確認し、新幹線に乗り込んだ。
流れ行く景色を眺めながら、遠ざかるアパートを見つめ、これまでの事を思い出す。
初めて稲荷と出合い、毎日の生活が、少しずつ色付き始め、隆也の恋心に気付かされ、幸彦の告白に戸惑い、他者からの嫉妬に傷付き、稲荷の優しさに染まり、錦が現れ、本当の自分を知り、素直に自分と向き合い、幸彦と隆也を断り、友だちが増え、人の優しさに浸り、稲荷との時間に溺れた日々は、どれもが、尊くて、儚い思い出だった。
稲荷の優しい声も、稲荷の暖かな手も、稲荷の気高き姿も、その全てを鮮明に覚えている。
稲荷を思い描き、頬を一雫の涙が、伝い落ちる。
手の甲で、その筋を消して、錦の元に行く。
例え、隣に稲荷がいなくても、稲荷を想い続けて、生きていく。
気付けば、目的の駅に着き、新幹線を降りると、そこは、稲荷と来た時とは違い、とても冷たい風が吹き抜け、バックを抱えて、バスに乗り込んだ。
最寄りのバス停で降り、しっかりとした足取りで、かつての実家を目指し、途中、父と祖父の店だった建物を見て、稲荷と並び、中を覗いたのを思い出した。
泣きそうになるのを誤魔化すように、バックを抱え直しながら、足早に建物の前を通り過ぎた。
かつての実家が見え、そこから、林の中に入り、稲荷と来た時よりも、更に、奥へと歩みを進めると、次第に辺りが真っ暗になり、足元に気を付けながら、少しずつ進むと、大きな木が見えた。
「時間、ぴったりだね」
錦の声が聞こえ、辺りを見回したが、姿は見えなかった。
「こっちだよ」
木の下から声が聞こえ、一点を見つめ続けると、暗闇の中に、ぼんやりと錦の姿が浮かび、その近くに小屋も見えた。
「おいで」
ゆっくりと近付き、差し出された錦の手に、手を重ねると、引っ張り上げられ、抱き止められた。
バックを奪い取られると、夢で見た白い蛇たちが、バックを持って、小屋の中に消えていった。
「連れて行きたい所があるんだ。来て」
錦に手を引かれ、暗闇の中、恐る恐る、後をついていくと、小さな石が並んでいるのが見えた。
その前に来ると、錦は、肩を抱き寄せた。
「俺の両親の墓だ」
稲荷が、話していた事が蘇り、胸が痛む。
「君の学校が始まるまでの間、さっきの小屋で生活するから」
「そんな…バイト…」
「辞めてもらう」
「そしたら、学費が…」
「俺が出す」
「でも…」
「君は、俺の側にいればいい。本当は、学校も行かせたくないが、もう決まってしまった事は仕方ない。だが、それ以外で、外に出るのは、許さない。いつ、どこで、アイツに会うか、分からないからね」
錦の話に、ショックを受けた。
必死で、稲荷と距離を作り、離れたのに、それを錦は、認めようとしていない。
思いっきり殴られたような、目眩を感じ、今すぐにでも、錦から逃げたかった。
「逃げたらアイツを殺す」
うつ向くと、錦は、手を引いて、小屋の方に歩き出した。
グッと涙を堪えて、顔を上げると、小屋が見えた。
これで、終わりだと、唇を噛んでいると、小屋の横に光が見えた。
その光から逃げるように、足元を蛇たちが通り抜けて行くのに、驚きながらも、前を見つめた。
その光が近付き、やがて、光の中に影が浮かび上がり、更に、近付いてきた。
「何しに来た」
憎しみに顔を歪める錦が、低い声が響くと、光が小さくなり、稲荷の顔が、ハッキリと浮かび上がった。
「最後の話をしに来た」
稲荷は、パチンと指を鳴らすと、光が散らばり、その光が、小さな火の玉だと分かった。
「リンカ」
火の玉に気を取られていて、少し視線を反らした隙に、呼び掛けた稲荷に目掛けて、錦が走り出していた。
「やめて!!」
錦は、動きを止めて睨んだ。
頬を涙が伝うと、錦は、稲荷から離れた。
「大蛇の所に行くのか?」
頷くと、錦は、勝ち誇ったように、鼻を鳴らした。
「それは、お前が決めたのか?」
錦は、怒り任せに怒鳴った。
「まだ、そんな事を!!」
「大蛇が好きか?」
「貴様!!ふざけて…」
「黙れ」
地響きがする程の低い声に、錦が黙ると、稲荷は、真剣な顔をした。
「リンカが決めて、大蛇を好いているなら、それで構わない」
稲荷の言葉に、胸がチクリと痛む。
「そうなら、私も諦められる」
その言葉に、哀しくなる。
「だが、好いてもないヤツの元に行くなら、それ相応の理由を教えて欲しい」
少し強い稲荷の口調に、唇を噛んで、溢れそうな想いを抑え込んだ。
「最後になるなら、あのノックの理由を教えてくれ」
稲荷の真剣な顔で、見つめられ、その視線から逃れるように、うつ向いた。
「…好きよ…」
稲荷は、悲しそうに顔を歪め、錦は、稲荷をバカにしたような顔をした。
「好きよ…大好きよ…」
顔を上げ、頬を涙が流れた。
「イナリが大好きよ!!」
声が辺りに響くと、稲荷と錦は、驚いた顔をした。
もう、止まらなかった。
「でも!!いくら隣にいたくても!!いくら側にいたくても!!離れなきゃならない時もあるでしょ!?」
溜め込んでいた想いを吐き出すように、叫ぶのを見つめる稲荷は、哀しみに歪み、錦の表情が、怒りに歪んでいく。
「イナリと一緒にいれなくて辛い!!でも!!イナリが死んでしまったらもっと辛い!!なら!!私は!!イナリから離れても!!イナリが生きてるなら!!それでいい!!それだけでい…!!」
稲荷がパチンと指を鳴らすと、その腕の中にいた。
「もっと早く言って欲しかった。もっと早く聞きたかった」
稲荷に抱き締められると、涙が止まらなくなった。
「…ごめ…なさい…ごめん…なさい…ご…めん…なさ…い」
しゃくり上がり、声を詰まらせながら、稲荷にしがみつき、何度も何度も謝った。
「大丈夫。大丈夫。大丈夫だから、もう泣くな」
優しい声色と髪を撫でる手が、欲しかった稲荷のぬくもりが、壊れそうになっていた心を呼び戻す。
「貴様ら…俺をバカにして…許さん…許さん!!」
そう叫び、一気に距離が近付くと、稲荷が、錦に手のひらを向けた瞬間、散っていた火の玉が、錦を囲んだ。
錦が顔を歪め、動きを止めると、火の玉は、錦の周りを囲ったまま、その場に止まった。
「大蛇」
錦に体を向けると、稲荷は、背中を向けた。
「私が、お前にした事は、許されることではない。お前が望むなら、私は、喜んで、この命を差し出そうと思った」
稲荷の話に驚き、不安になり、その袖を掴むと、その手を稲荷の大きな手が掴み、強く握られた。
「リンカが望むならと思っていた。だが、リンカを泣かせるなら、私は、お前を許さない」
スッと稲荷が手を上げると、火の玉の1つが小屋の方に飛んで行き、ぶつかると、火柱を上げ、勢い良く燃え上がった。
振り返り、それを見上げる腕を火の玉が掠めると、錦の顔が歪み、膝を着いた。
「イナリ!!」
稲荷の腕を引くと、ゆっくりと視線を向けた。
「やめて…お願い」
稲荷の目が細められる。
その目を見つめ返すと、稲荷の腕が下ろされ、錦の周りを飛んでいた火の玉が消え、小屋の炎も鎮まった。
「今回は、このくらいにしてやる。だが、次にリンカを泣かせたら…覚悟していろ」
稲荷の鋭い目付きに、肩を震わせる錦に背中を向けると、手を引いて、歩き出し、来た道を戻った。
稲荷にバレないように、後ろを見ると、真っ黒に焦げた小屋を見上げる錦の背中は、淋しそうだった。
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毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
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