異世界結婚!?~妖怪に嫁いだ女~

咲 カヲル

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13話

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錦を1人で残したまま、さっきまで、不安だった林の中を稲荷と一緒に手を繋いで戻る。
歩き出してから、稲荷は、ずっと、黙ったままだった。
その背中は、怒っているようだが、決して責めない。
ちゃんと、話をしなければならない。
頭では、分かっていても、何から話せばいいか、分からない。
結局、稲荷に何も言えないまま、2人で、アパートまで戻ってくると、稲荷は、自分の部屋の鍵を開けた。
稲荷の部屋に、初めて入った。
手を引かれながら、部屋の中を見渡す。
余計な物は少なくて、必要最低限な物しない部屋に、稲荷らしさを感じる。
初めて入った事と稲荷の匂いがするへやに、ドキドキしていると、稲荷に引っ張られ、その腕の中に、閉じ込められた。

「…ばか…」

その呟きは、安心したような声色だった。
稲荷の背中に腕を回し、しっかりと、ぬくもりを感じる。

「ごめんなさい…」

稲荷の耳元で、囁くように謝ると、稲荷の腕に、少しだけ力が入った。
稲荷は、頬擦りし、頬と頬をくっ付けて、目を閉じて、ただ互いのぬくもりに身を寄せ合った。
しばらく、そのままでいたが、ゆっくりと、体を離した稲荷は、少し怖い顔をした。

「何故、何も言ってくれなかったんだ」

「ごめんなさい…でも、イナリを殺すって言われたら…どうしたらいいのか分からなくて…いっぱい悩んで…いっぱい考えて…私には、あれしか出来ないって思ったから…」

うつ向くと、額に稲荷の額が付けられ、その赤い瞳を見つめた。

「悩んでる時に言って欲しかった」

「でも、私が近付くと、イナリがケガするから…そんなのイヤだったの…心配させてごめんなさい」

稲荷の表情が、柔らかくなった。

「今日は、謝ってばっかだ」

優しい稲荷の声色に、そっと目を細めた。

「ホントだね」

「私も謝らなければな」

稲荷の表情が、少しだけ暗くなった。

「リンカの様子がおかしくなった時、なんか、あるんじゃないかとは思っていた」

驚いて、稲荷から離れようとしたが、大きな手が、それを拒んだ。

「でも、そんなに苦しんでいたとは、思わなかった」

くっ付けていた額が離れ、頬に、稲荷の頬が触れた。

「気付いてやれなくて、すまなかった」

耳元で囁くように、稲荷に謝られると、胸が苦しくなった。

「これからは、そんな苦しみを分けて欲しい」

また涙が、頬を伝い落ちる。

「これからも、喜びを2人で味わいたい」

流れる涙が、稲荷の頬を濡らす。

「リンカ」

頬から離れて、涙を手の甲で拭う稲荷を見つめると、自然と顔が近付き、ゆっくりと目を閉じた。
稲荷の唇と唇が重なり、触れ合うだけのキスをした。
1度離れて、稲荷が、小さく微笑むと、今度は、深くて甘いキスをされた。
初めての深いキスに、全身の力が抜け、その甘さに目眩を起こしそうになる。
それでも、稲荷にしがみつき、その唇を受け止めた。

「…ダメだ…」

唇を離し、そう呟いた稲荷の横顔が、真っ赤になっていた。

「イナリ、顔真っ赤」

「仕方ないだろ…こんなはずじゃ…なかったんだ」

首を傾げると、稲荷は、顔を隠すように、強く抱き締めた。

「嫁に来るまで、こんな事、絶対しないって、決めてたのに…」

残念そうな姿が、なんだか新鮮で、クスクスと笑うと、稲荷は、更に、拗ねたようになった。

「笑うな」

「ごめん…私、愛されてるなぁって思ったら、嬉しくて」

稲荷を見上げ、優しく微笑んだ。

「でも、もっと素直になってくれたら、もっと嬉しいな」

驚いた稲荷の頬に優しく、唇をくっ付けると、体が宙に浮き、次の瞬間には、稲荷のベットに押し倒され、また、深くて甘いキスをされた。

「本当にいいのか?」

「いいよ。イナリなら」

「…どうなっても知らん」

深く深く、甘い甘い口付けに、素肌を這う稲荷の手が、私を熱くする。
ちょっと、苦しいけど、稲荷の優しさは、変わらなかった。

「愛してる…リンカ…」

甘くて優しい稲荷の声色に、何度も名前を呼ばれる度に、愛しさが込み上げてくる。
甘い声を響かせ、体を震わせながら、稲荷との甘い時間を味わった。

「そう言えば、どうして、あの場所が分かったの?」

「ん?」

「いた場所」

「…あぁ」

稲荷の腕の中で、不意に、浮かんだ疑問を口にすると、視線を反らした。

「たまたま、リンカの後ろ姿が見えたから、気付かれないように、後を追ったんだ」

「ストーカー」

「違う。心配だったんだ」

「知ってるよ」

クスクスと笑うと、稲荷は、頭を掻いた。

「それより…」

覆い被さるように見下す稲荷は、意地悪な笑みを浮かべた。

「あのノックは、どうゆう意味なんた?」

「お花のお礼」

負けじと、意地悪な笑みを作ると、稲荷は、顔を近付けた。

「そんな事言っていいのか?」

稲荷は、脇の下に手を入れ、指を動かして擽った。

「や!!やめ!!いやぁ!!」

抵抗したが、負けてしまい、稲荷に擽られ、息苦しくなる程、笑っていた。

「もう…やめて…苦し」

「じゃ、本当の事言いなさい」

擽っていた手を止め、ニコニコと、
笑いながら、見下ろす稲荷に、手を伸ばし、抱き付いて、耳元に頬を寄せた。

「好きって意味」

「知ってる」

「意地悪」

「お互い様だ」

笑い合ってから、優しいキスをして、微笑み合って、頬擦りする。 

「イナリ。大好き」

囁きに、稲荷は、嬉しそうに笑う。
初恋が実り、花が開く。
それは、まるで、あの送られてきた花たちのように、それであって、決して、枯れる事のない色鮮やかに咲き誇る花だった。
それから5年後。
ドアに取り付けたベルが鳴り響く。

「いらっしゃいま…」

「よっ」

「ヤッホー」

久々に見る舞子と幸彦は、あの頃から変わらない。
唯一、変わったのは、2人が付き合っていることだ。

「久しぶりだね?2人して、ちょっと太ったでしょ?」

「そんな事ないし」

「嘘つけ」

「うるさい!!」

変わりなく、言い合いを始める2人を見て、笑っていると、賑やかな声に気付いた稲荷が、奥から顔を出した。

「やけに、賑やかだと思ったら、2人だったか」

「あ!お久し振りで~す」

「いらっしゃい」

隣に並んで、稲荷も、ニッコリと笑う。
あれから、しばらく経ってから、稲荷を連れて、母たちに会いに行き、自分の気持ちを伝えた。
最初は、驚いていたが、真剣に話すのを見て、母も、あっさりと快諾した。
稲荷の元に嫁ぎ、専門学校の製菓学科を卒業して、夢だったパティシエとなり、昨年、父たちの店があった土地を買い取り、この場所で、父と同じように、自分の店を開業した。
友姫や紗英、香奈や多くの同級生が来てくれて、噂が噂を呼び、最近では、忙しくなり始め、稲荷は、保健医を辞めて、手伝ってくれていた。
そんな中、度々、錦が来ることもあったが、昔のような雰囲気は、全くなくなり、柔らかな雰囲気になっていた。
そんな錦が、つい先日、彼女を連れてきた。
それは、あの滝田だった。
どうゆう経緯かは、聞かなかったが、幸せそうな2人を見て、心の底から安心し、稲荷と平穏な日々を送っていた。

「それにしても、2人が結婚して、5年も経つんだ。早いねぇ」

「舞子たちは?」

「実はですねぇ…じゃん」

舞子が左手を見せると、その薬指に指輪が光っていた。

「婚約しましたぁ」

「そっか。おめでと」

「ありがとう。いやぁ~。ここまでが、長かったよぉ」

「仕方ねぇだろ。お前の父さん、全然、話聞いてくんねぇし」

「確かに、おじさん厳しいもんね」

「そうなんだよねぇ。話聞け!!って感じだったよ」

そんな話をして、笑っていると、舞子が、ショーケースの脇を見て驚いた。

「陽菜(ヒナ)。挨拶は?」

「…こんにちは」

陽菜は、稲荷の後ろに隠れながら、小さな声で挨拶をした。
その様子に2人は驚き、舞子は陽菜を指差した。

「まさか…?」

稲荷と交互に指差す舞子に、苦笑いした。

「そうだよ?」

「うそ!?」

「マジ!?」

「正真正銘、私とリンカの子だ」

驚いて大声を出した舞子と幸彦に、稲荷と2人で笑った。
その2人は、稲荷に抱っこされる陽菜を見て興奮した。

「そんなん分かるよ!!目元は、凜華に似てるし、金髪なんか、そのまんまだし」

「てか…いくつ?」

「3つ」

「なぬ!?」

「早っ!!」

「そう?」

「さぁ~」

舞子は、ガクッと肩を落とした。

「私なんか、やっと婚約したのに、凜華は、もう子どもいるって…なんか、淋しいんですけど」

「まぁ。2人も、その内出来るから」

「そんな問題じゃないよぉ~」

「仕方ねぇよ。俺らは、その前の段階で、もたついちまったから」

「う~。幸彦のせいだ」

「いやいや。どちらかと言えば、お前の親父のせいだから」

「その通りだから、何とも言えない」

項垂れる2人を見て、稲荷と苦笑いしていると、幸彦が、陽菜を見て優しく微笑んだ。

「抱っことか出来んの?」

「あ!私も抱っこしたい」

「あ~ムリ」

「え~。なんで?」

稲荷に抱っこされる陽菜は、2人に見つめられて、バッと顔を反らした。

「イナリが甘やかしまして…とてつもない人見知りなんだよね」

2人は、また項垂れた時、ベルの音がすると、隆也が入ってきた。

「おっす」

気だるそうな隆也の元に、稲荷の腕から飛び降りた陽菜が、走り寄ると、舞子は、更に項垂れ、幸彦が顔を歪めた。

「あんなオッサンの何処がいいんだよ」

「その理由は、多分アレ」

仲良く話してる稲荷と隆也を指差すと、2人共、納得したように頷いた。

「なるほどね」

「でも、なんか悔しい」

「大人になりきれねぇ、ガキにゃ、子守りなんて、出来ねぇよ」

陽菜を抱き上げ、勝ち誇ったような隆也に文句を言う舞子と幸彦を見ていると、高校生に戻ったようで、嬉しくて、微笑ましい。
更に、ベルが鳴り、多くの同級生たちが、店に入ってきて、店内は、一気に騒がしくなった。
同じ事を考えたらしく、稲荷は、表の看板を下げ、営業を終了すると、小さな同窓会となり、昔と変わらない笑顔に囲まれ、私は、幸せな時間を過ごした。
そして、多くの愛情に包まれながら、稲荷と幸福な家庭を築き、これから来る未来に夢を馳せて、幸せな時間を生きた。
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