初恋の先へ

咲 カヲル

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賑やかだが、和やかな雰囲気のまま、過ごしていると、エルテル公爵が現れた。

「父上!?何故、ここに」

「用があって来たのだよ。それで?どうなんだ?」

「今は、だいぶ落ち着いてるみたいだ」

エルテル公爵に視線を向けられ、リリアンナは、コテンと首を傾げた。

「ふむ…一気に出たようだな。いつ頃だ?」

「分からん。この前、一緒に出掛けた時に分かったんだ」

「予兆は?」

「全くなかったよ。あったら、すぐに呼んださ」

「それもそうか」

「あの、父上、どうかしたんですか?」

「あぁ。公女の魔力が、突然、覚醒したらしい」

驚いた顔で、ローデンが、勢い良く振り向くと、リリアンナをジーッと見つめた。

「…公女、いつから魔力が?」

「さぁ?」

「あれ?お茶会の時くらいからじゃないの?」

一気に視線が集まり、アスベルトは、驚いて、ビクッと肩を揺らした。

「お茶会って、王城でのか?」

「そうだよ?あの時、リリの歌に合わせて、風が揺らいでたし、花の香りとか、鳥とか、色々活発化してたから…え?気付かなかったの?」

エルテル公爵とアルベル公爵が、額に手を当てると、ローデンとモーガンは、真剣な顔で首を振った。

「そもそも、予兆もなかったのに、どうして、突然、覚醒したんだか」

「予兆ってなに?」

「アスベルト殿下は、魔力が覚醒した時、耳鳴りや頭痛、体の中に痛みを感じなかったのか?」

「全く」

「周りで、魔力が覚醒した者は?」

「全く。そもそも、ウィルセンでは、誰しもが魔力を持って生まれるとされていて、それを扱えるようになるのは、体と精神が一致した時とされてるから、体に異常が現れることがないんだよ」

「どうやって分かるのだ」

「どうって、普通に接してれば分かるよ?自然の流れが変わったり、小動物が寄って来たりして…僕、何か間違ったこと言った?」

二人の公爵が、大きなため息をつくと、アスベルトは、不安そうに、瞳を揺らして、リリアンナに顔を向けた。

「違うよ。今まで、この国では、魔力の覚醒時は、体の異常を感じた子供からの進言で、親が判定することで確認されてたんだ。それが、リリアンナの場合、体の異常もなく、自然と覚醒したから、二人とも、困ってるんだよ」

モーガンの説明で、大きく頷いたアスベルトは、リリアンナに視線を向けた。

「とりあえず、覚醒自体は悪いことじゃないから、あまり深く考えないほうがいいよ?無理に抑え込むと、体に余計な負担が掛かるから」

「しかし、早く制御しないと、公女の体が」

「それだよ。制御しなきゃと思うから、体の負担が大きいんだ。抑えるんじゃなくて、全身に巡らせて、外に流すほうが、自然に出来るから楽だよ?」

「どうやって?」

「まぁ、説明されても難しいよね。リリ、ちょっと、手貸して?両手ね」

手のひらを上に向かせ、リリアンナの手を被うように、アスベルトが手を乗せた。

「魔力を扱うには、想像することが大事なんだ。例えば、僕の魔力は、服の色と同じ青で、リリの魔力は、分かりやすいように、赤にしようか。僕の右手から、リリの左手を伝って、青が流れ込む。青と赤が混ざって紫になる。紫が全身を巡って、リリの右手から、僕の左手に流れ出る」

アスベルトが、少しずつ魔力を流すと、リリアンナは、頬をほんのり赤くしながら、キラキラと瞳を輝かせた。

「…あったかい…」

「魔力は、生きてるなら、誰でも持ってるんだよ。草花や木々、大地や風、鳥や動物、虫でさえも持って生まれる。でも、そのどれもが、とても弱いんだ。それに比べて、人の魔力は、強大になりやすい。だから、僕らが、大地や風に魔力を巡らせると、実りが豊かになるし、水や草花に巡らせれば、魚や家畜がよく育つんだ」

スーッと、アスベルトの魔力が落ち着くと、リリアンナは、自分の手を見つめた。

「リリって、どっか悪い?」

「そんなことないはず」

「じゃ、あまり体が強くない?」

「そうでもないけど」

「じゃ、何か薬でも飲まされた?」

「…え?」

アルベル公爵が慌てて、リリアンナのカップを持ち上げ、中身を確認した。

「今ではないかな。もっと小さい、母君のお腹の中、もしくは、生まれた時くらいかな」

「なんで?」

「ちょっとだけ、違和感があったんだ。多分、毒素じゃないかと思う」

リリアンナの瞳が、不安そうに揺れると、アスベルトは、瞳を細めて、優しく微笑んだ。

「そんな心配しなくても大丈夫だよ。少量なら、体調を崩すくらいだから。ただ、長期間とか、大量に飲むと、死んでしまうこともあるけど、しんっ!?」

アルベル公爵は、瞳を大きくして、アスベルトの肩を掴んだ。

「どんな毒だ」

「…へ?」

「だから、それは、どんな毒なんだ」

「いや、ちょっと、そこまでは。ほんのちょっとだったし、もう、だいぶ経ってるみたいだからって、え?あ、ちょ!」

アルベル公爵の体から力が抜け、項垂れるように、ガクンと膝を着いた。

「…何かあるの?」

「実は、私の実母が、私を生んですぐに亡くなったんだけど、健康な人だったらしくて」

「あ~なるほどね。リリを取り上げたのって産婆?」

「パパ?パパ?…もう!パパ!」

リリアンナが肩を揺らすと、放心状態だったアルベル公爵が、ハッとして顔を上げた。

「なんだ?どうした?」

アルベル公爵を見てから、視線を合わせて、二人は、大きなため息をついた。

「大事なこと聞いてたんだけど」

「一体何の」

「もう!しっかりしてよ。私が生まれた時って、産婆さんが来てたの?」

「いや…確か、神託のこともあったから、神殿から神官が派遣された」

「なるほど。これくらいの銀製の瓶に、水みたいなのを大量に持って来てた?」

「セバス」

アスベルトが、指で大きさを表すと、アルベル公爵は、執事に顔を向けた。

「はい。確かに、そんな物を大量に持ち込まれていました」

「原因は、それだね」

執事も、アルベル公爵と同じように、瞳を大きくさせて、驚いた顔をした。

「当時、銀製の容れ物に、神殿に湧いてる温水を入れていたらしいんだけど、その温水自体に、毒素があった上に、その容れ物が粗悪品だったらしくて、使用してた期間や量にもよるけど、体調を崩したと思ってから、少しずつ蝕まれるように弱まって、数日から一年以内には、亡くなる人が、続出したらしいよ。ウィルセンでも、一時期、出回ったんだけど、叔母上が亡くなった時に、父上が調べたんだって」

アスベルトは、執事に視線を向けた。

「叔母上は、義妹を妊娠してた時から使ってたみたいだけど、リリの母君は?」

「確か、お嬢様が、お生まれになってからだったと思います」

「だから、少しだったんだね」

「…そうか…そうゆう事だったのか…」

アルベル公爵が、指先で唇を撫でて、納得したように呟いた隣で、リリアンナは、首を傾げた。

「リリには、使われてなかったんだよ。母君が使った後、偶然、口元に付着したのが、何かの拍子に体内に入っちゃった感じだね。でも、そう考えると、おかしいんだよな」

「何が?」

「皇族の権限で、父上が、神殿に使用を禁止させたのが、義妹が一歳になるか、ならないかくらいだったから、約十三年くらい前で、それ以降は、持ち出しだけじゃなくて、その水源を埋め立てたはずだから、母君が、リリを妊娠する前には、この周辺の温水自体、枯れてなかったはず」

「なら、神官は、どうやって手に入れてたんだ」

「別の水源を見付けたか、それとも、枯れる前に汲み上げたか」

「なんなら、父上に聞いてみる?多分、何か分かると思うけど」

「今から手紙を送っても、返事が来るのは、早馬を使っても、十日は掛かるぞ?」

「そんな面倒な事しないで、直接聞けばいいよ」

「どうやって?」

アスベルトが、胸ポケットから二つの懐中時計のような物を取り出した。

「今の時間なら、母上と一緒だろうから、こっちのほうが早いかな」

〈カチン〉

アスベルトが蓋を開くと、時計の数字ではなく、円を描くように文字が描かれていた。

〈ウィーン〉

〈ザッザザッザッサーッ〉

アスベルトの手のひらの上で、文字が青白い光を放つと、イザベラ・ダルトン・ウィルセン皇后が、ガウンを着て、ハイグレーの瞳を薄く開き、黒髪を掻き上げる映像が、空中に浮かび上がった。

「母上、聞こえる?母上?もしも~し。母上~。聞こえてますか~?」

『ん?あら。アス、どうしたの?何かあった?』

「ちょっとね。父上、そこにいる?」

『母よりも、父が恋しくなった?』

「違うよ。リリの母君のことで、ちょっと、父上に聞きたいことがあるんだ」

『リリって?』

「僕のお嫁さん」

〈ガタン〉

拳を握ったデュラベルが、アスベルトに向かおうとするのをローデンとモーガンが、必死に引き止めた。

『あらあら?もしかして、良い子でも見付けたの?』

「前に、先見の夢で見た子の話したことあるでしょ?」

『アレね。絶対、その子が良いって言って、探してた子でしょ?』

「そう。その子がいたんだよ。しかも、実物は、先見なんかよりも、凄く可愛いんだ」

ルンルンと嬉しそうに、アスベルトが笑うと、皇后は、鼻から、フっと小さくため息をつきながら、安心したように微笑んだ。

『そうなの?どんな子?』

「この子だよ」

アスベルトが、リリアンナをの肩を抱くように、引き寄せ、膝に乗せると、映像の皇后は、ニコッと笑った。

『ホント可愛い子ね。初めまして。リリちゃん。アスベルトの母のイザベラよ。よろしくね?』

「帝国の宿星なる」

「リリ、堅苦しいのは要らないよ?今の母上は、皇后じゃなくて、僕の母上だから」

『そうよ?今の私は、アスの母親であって、皇后じゃないから、普通にして?出来る?』

「あ…はい。えっと、リリアンナ・アルベルです。よろしくお願いします」

『ちゃんと対応出来るのね。偉いわ~』

皇后が嬉しそうに、ニコッと笑うと、リリアンナは、アスベルトを見上げた。

「どうしたの?」

「…なんでもない」

頬を赤くしながら、視線を反らしたリリアンナが、安心したように、小さく微笑むのを見つめて、皇后は、懐かしむように微笑んだ。

『可愛いわね~。アルベルって公爵家よね?リリちゃんも、私と同じなのね。嬉しいわ。アス、よくやったわ』

「でしょ?」

アスベルトは、ニカッと笑って、リリアンナの頭に、頬を寄せた。

「リリって、凄く賢いし、要領が良いんだ。それに、僕との魔力の相性も良いんだよ」

〈ドン〉

アスベルトが、リリアンナの頭に、スリスリと頬擦りをすると、アルベル公爵が、剣に手を掛けたが、エルテル公爵と執事に、押さえ込まれた。

『そうなの。それは、将来が楽しみね』

〈ザッザザッ〉

皇后も、ニコニコと笑っていると、一瞬、映像が乱れた。

『ベラ~?俺をほっといて、何してんだよ~』

大きな背中が、皇后に抱きつき、スリスリと頬擦りするのが見え、リリアンナは、何度も、パチパチと瞬きをした。

『何って、アスと話してたのよ?アスったら、例の子を見付けたんだって』

『ほぉ?どれ』

お揃いのガウンを着て、青髪を撫で付けながら、皇后の隣に座ったドルト・ダルトン・ウィルセン皇帝の映像が浮かび上がり、リリアンナを見ると、ルビーのような真っ赤な瞳が、優しく細められた。

『アスベルトの父のドルトだ』

「リリアンナ・アルベルです。よろしくお願いします」

『こちらこそ、よろしくな』

ニコッと笑うと、リリアンナも、ニコッと微笑み、皇帝は、嬉しそうに、何度も頷いた。

『賢い子だな。出会った頃のベラに、そっくりだ』

『私よりも若いわよ。リリちゃん、何歳?』

「十歳です」

『ほら~。私よりも、四つも若いじゃない』

『ベラは、若く見えるからな』

『それは、私が童顔だって言いたいの?』

『違うよ。ベラが、一番可愛いって言いたいんだよ』

『どうなんだか』

『そんな拗ねないで。ベラは、可愛いけど、色気もあるからさ』

『当たり前でしょ?今も変わらなかったら、あの化け物魔女と同じになっちゃうわよ』

『ベラなら、俺は、大歓迎だけどな』

「…お前、恥ずかしくないの?」

「何が?」

首を傾げたアスベルトを見て、デュラベルが、大きなため息をついた。

「自分の親が、人目も気にしないで、ベタベタしてたら、恥ずかしくなんだろ?ローデンなんか」

「お前!!」

デュラベルに向かって、拳を振り上げたローデンに抱き着き、モーガンが、引き止めながら、苦笑いを浮かべた。

「とりあえず、早めに、温水の話、聞いてもらえると、助かるかな」

「あ~そうだったね」

〈カタン〉

「父上、叔母上のことで、聞きたいことがあるんだけど」

アスベルトが、テーブルの上に、懐中時計みたいな物を置くと、映像が大きくなり、モーガン達にも、二人の姿が、ハッキリ見えるようになった。

『どっちのだ』

「メイア叔母上のほう」

『義姉上?…もしかして、神殿の温水の事か?』

「そう。リリの母君も、使ってたらしいんだけど、リリの年齢から考えると、父上が、水源を埋め立てた後でしょ?」

『確かに…枯れてなかっただけのような気もするが』

『でも、あの水源が、この辺での本水源だったはずよね?』

『そうだな…そうじゃなければ、クエトラ鉱山から採ってきたかだ』

「あそこは、ただの汚水でしょ?」

『そうなんだが、元々、クエトラ鉱山は、神の聖域だとされていたからな』

「それって、あの神話に出てくるやつでしょ?」

『あれは、おとぎ話じゃない』

『そうとも言い切れないんだよ。例えば、クエトラ鉱山付近の植物は、とても脆く、白いとか、そこに生息してる生物は、黒っぽくて、目が赤いとか』

『なるほど。お話に出てくる動植物が、そこにあるからってことね?』

『そう。だから、神殿からすれば、神話は、神の手記のような物になる』

「だからって、めちゃくちゃに掘り起こして、水銀が吹き出してる所が、聖域って、どうなの?しかも、崩落寸前の危険な所の温水を使うって」

『そうゆう奴らからすれば、人間が、神の聖域で罪を犯したと、偏った考えしか出来ないから、何をどう言おうが、聞き入れやしないさ。それに、見た目は、普通の水と変わらない。多少の浮遊物なら取り除けば良いし、その後ならば、運んでる内に冷えてしまったからと、温め直したり、何かの結晶とでもしてしまえば、どうとでもなる。汚水だとしても、聖なる温水だと言ってれば良いだけだ』

「それ、皇室冒涜に問えないの?」

『流石に、そこまで、暴君になりたくない』

「今更でしょ」

『…ねぇ、リリちゃんって、神殿と何か関わりある?』

皇帝の隣で、顎に指を添えて、黙っていた皇后が、視線を上げると、ローデンやエルテル公爵は、ビクッと肩を揺らし、モーガンとデュラベルが、気まずそうに視線を反らした。

「さぁ?なんで?」

アルベル公爵は、瞳を大きくさせたが、アスベルトは、一瞬、肩を抱く手に力を入れただけで、リリアンナの頭に、頭を寄せるように、首を傾げた。

『いやね?昔は、よく神託があったとか言って、やたら、縁談や婚約に介入してたのよ。私も、そうだったし』

「そうなんだ。でも、それと温水と、何の関係があるの?」

『実はね?その神託を受けるのって、大体が、王家や上位貴族だけだったのよ』

『なるほどな。王家と上位貴族に、神託と言って結婚させれば、血縁関係が狭くなるからな』

『それに、王家や公爵家に、神託だと言えば、たとえ、男爵家だとしても、婚約出来たみたいよ?』

「あ~そうゆうこと?じゃ、なに?神殿は、国を乗っ取るつもりだったわけ?」

『そうかもね。それに、王家と上位貴族の血縁が深まれば、徐々に、下の貴族も介入しやすくなるし』

「…そうなると、メイア叔母上が亡くなった理由って、母上と同じように、他国に嫁いだから?」

『そうなるな』

「それって、母上も、危なかったんじゃないの?」

『私は、ドルと一緒になったから、難しかったんじゃないかしら?姉上の相手は、小国の公爵家だったし』

「…ちょっと待ってね。ねぇ、最初に婚約してたのって、誰だか分かる?」

アスベルトが、視線を向けると、アルベル公爵が、首を傾げた。

「あれ?話聞いてなかった?」

「ママは、元々、候爵家の子息と婚約してたって、聞いたけど」

首を傾げるアルベル公爵の代わりに、リリアンナが答えると、アスベルトは、指先で唇を撫でた。

「母君の爵位は?」

「子爵だったって」

『なるほどな。どうやら、サイフィスの貴族統制は、崩壊寸前のようだな』

リリアンナが、瞳を大きくさせて、首を傾げると、二人の公爵は瞳を閉じた。

「やっぱり?」

「どうゆうこと?」

「普通に、貴族統制が取れてれば、候爵級、しかも子息なら、自分と同等、あるいは、一つ下と縁談をするのが望ましいんだよ。そうじゃないと、男爵級の令嬢が、伯爵級の子息とか、王家と結婚したら、令嬢を送り出した門家は、爵位なんて、関係なくなっちゃうからね」

『もちろん、例外はあるのよ?当人同士が、愛し合っていたり、両家に面識があったりって。でも、大体の門家は、デビュタントの時に、娘を爵位の高い門家に嫁がせる為に、色々と画策するのよ』

『爵位が低い子息も同じで、自分の門家よりも、良い所の令嬢を迎え入れれば、爵位を上げることも出来るようになる』

「つまり、下の貴族は、上位貴族との縁談で、その後の生活が一変するんだよ」

『だが、そうなると、貴族間で、様々な軋轢が生じてしまう。それを防ぐのに、上位貴族は、上手く縁談を取りまとめなきゃならない』

『王族ともなれば、もっと厄介なの。もし、男爵令嬢と王子が婚約したら、それこそ、天地がひっくり返る程、大変なことになるわ』

『そもそも、王家に生まれたら、貴族統制を考えて、縁談を決めなければならないから、男爵令嬢となれば、論外に等しいんだ』

「さて、ここで問題。サイフィスのように、王家と三大公爵家によって、国政を回しているような国で、貴族が、介入するには、どうするのが、一番確実だと思う?」

「…神託…結婚…子供…男児を得えて、爵位を得ること」

「そう。それが、一番早くて確実なんだ」

モーガンが、指で唇を撫でながら、頭の中に浮かんだことを口にすると、アスベルトは、リリアンナに頭を寄せた。

「更に、数少ない公爵家で、女児しかいなくて、後継者がいないような門家だったら、その子が嫁いで、当主が亡くなったら、爵位と財産は、国に返還される」

『その後、上位貴族の中から、新たな公爵家が誕生し、下の貴族も、爵位を上げられる可能が出てくる』

「つまり、サイフィスの貴族統制は、リリの母君の世代から、少しずつ崩れ始めてたんだよ。しかも、貴族が、神官を使って介入しようとしてたんじゃないか。っていうのが、父上と僕の見解ね?」

『もし、リリちゃん自身も、神託を受けたなら、アルベル公爵家を潰して、自分達の爵位を上げようと目論んでる、候爵か伯爵級の人間も、関わってるかもしれないわね』

「そういえば、この前のお茶会で、リリを笑ってた奴らって、候爵だっけ?」

『…どうゆうこと?』

穏やかだった皇后の雰囲気が、禍々しくなると、アスベルトは、失敗したような顔をしながら、頭を掻いた。

『ちょっと、詳しく聞きたいわ~。ねぇ?アス?』

「え~っと、それは~」

アスベルトが、横目で視線を向けると、リリアンナは、コテンと首を傾げた。

『アスベルト?』

「リリの知り合いが、ちょっと会場から居なくなってたんだよね?リリは、それを探しに行こうとしてたんだけど、候爵令嬢達が、リリを囲って、小馬鹿にしてたんだ」

『そう。完全にナメてるわね。その馬鹿共は、ちゃんと潰したの?』

「まぁ、一応は」

『アス、そうゆうゴミ虫は、徹底的に叩き潰して、綺麗にしないと。なんなら、私がやってあげようか?』

「あの、そこまでして頂かなくても、私は大丈夫ですので」

リリアンナが、胸の前で、指を組んで、不安そうな顔で、黒い瞳を輝かせると、皇后は、瞳を少しずつ大きくさせて、驚いた顔で動きを止めた。

『…可愛いーーー!!』

映像から、ピョンピョンと、ハートマークが飛び出してきそうな程、皇后は、頬を赤くしながら、興奮したように、体をくねらせた。

『おっきくてクリクリしたお目々が可愛い!そのウルウルした感じも可愛い!もう全部可愛い!もう、なんて可愛いのかしら。そんな顔されたら、なんでもしてあげたくなっちゃうわ』

「母上、母上、落ち着いて?」

『もう、そんな馬鹿しかいないような国、ほっといて、さっさと、帝国ウチにいらっしゃいよ。ね?』

「母上~」

『アス、早く連れてきてよ~。もう、全部、持って来ても良いから。ね?』

『ベラ、少し落ち着こ?リリが、怖がってるよ』

皇后の勢いに驚いて、リリアンナは、アスベルトに、抱きつくように、体を寄せていた。

「大丈夫?」

「だ大丈夫…ちょっと、驚いただけだ、か…ら…」

顔を向けると、アスベルトの顔が、目の前に見え、リリアンナは、慌てて、離れようとしたが、両手で、しっかり抱えられて、全く動けない。

「あの、アス?ちょっと近い」

「そう?僕は、もっと近くても良いんだけど」

〈ガタンゴトンドン〉

「デュラベル…ローデン…お願いだから…落ち着いて…」

「旦那様…堪えて下さい…」

アスベルトが、更に、顔を近付けると、モーガンと執事が、暴れそうな勢いの三人をメイドや侍女達の手を借りて、それぞれで押さえ、エルテル公爵が、大きなため息をついた。

「三人が暴れる前に、少し離れて頂いても宜しいですか?」

エルテル公爵が、手を上げると、三人の体に蔦が絡んで、地面に膝を着けさせた。

『あらあら。ずいぶん、心の狭い人達ね?』

「そうなんだよね~。それに、凄く頭が固いんだ」

『ベラ、今回は、そのくらいにしておこうか。やり過ぎると、リリに嫌われてしまうからね?アスも、少しは我慢しないと逃げられるぞ?』

「は~い」

『ごめんね?リリちゃん。嫌わないでね?』

アスベルトは、肩は抱いたまま、顔を離し、皇后は、眉尻を下げて、困ったような、悲しいような、複雑な顔をした。

「いえ。だいじょ」

『リリアンナ、“大丈夫”というのは、赤の他人に使うのだよ?』

厳しくも優しい声に、リリアンナが視線を向けると、皇帝は、目尻を下げて、困ったように、優しく微笑んだ。

『人は、何かあれば、他人の前では、自身を奮い立たせる為に、そうでなくとも“大丈夫”と言う。だが、自分を大切にしてくれる者の前では、奮い立たせる必要はない。そんな者達と居る時は、“大丈夫”ではなく、素直に伝えれば良い。ありがとう、ごめん、楽しい、辛い、嬉しい、苦しい。そんな一言でも良い。もし、相手が自分の事で苦しんでるなら、一緒に戦うくらいの事を言ってあげなさい。自分が悲しいなら、悲しいんだと、泣き喚くくらい、素直になりなさい。人というのは、大切な人の事ならば、なんでも受け止めれるもんなんだよ』

視線を合わせて、優しく微笑み合う二人を見て、リリアンナの肩から力が抜けた。

『家族や友、仲間や恋人など、大切な人の前では、ありのままのリリアンナで居て良いんだよ』

頭を寄せ合う皇帝と皇后を見て、リリアンナは、アスベルトを見上げた。
見つめられてるのに気付き、アスベルトは、ニコッと笑って、二人に視線を戻した。

『もちろん、俺らの前では、リリアンナ公女じゃなくて、アスが好いたリリのままで良い。それを皇族だから、貴族だからと、俺らは咎めないから』

「…はい。ありがとうございます」

『それに、アスが決めたなら、リリも、アルベル公爵も、俺の家族も同然だ。もう赤の他人じゃない』

二人が、ニコッと嬉しそうに笑うと、リリアンナは、頬を赤くしながらも、瞳を細めて輝かせた。

『まぁ、一番大事なのは、リリの気持ちだが。な?』

『そうね。ねぇ?リリちゃんは、アスの事、どう思う?』
 
「…はい?」

ルンルンと、楽しそうに笑う皇后と、ニコニコと笑ってる皇帝を見て、リリアンナは、不思議そうに、コテンと首を傾げた。

『あ~ダメ。何気ない仕草も全部可愛い。今すぐ抱きしめたい』

『表情が豊かなのも良いな…ちょっと突くか…』

「それは、やめていた」

『リリちゃん、私達の前では、普通に話して良いのよ?』

「えっと…そうゆうのは、やめて、ほしいな、お義父さん?」

アスベルトの耳打ちをリリアンナが、そのまま口に出すと、周囲は、シンと静まり返り、一瞬、凍り付いたように動きを止めたが、皇帝は、ゲラゲラと、大きな声で笑った。

『…アスベルト、今すぐ連れて来い』

「?!?ちょっと!ちゃんと言えば大丈夫って言ったじゃん!」

「大丈夫だったでしょ?これで、いつでも行けるようになったんだから」

「そうじゃないでしょ!」

『リリちゃ~ん、私には?』

「え?あ、えっと…っ!!もう言わない!!」

「なんで?」

「なんでじゃないでしょ!まだ何も解決して」

「父上だけ?それは、流石に可哀想じゃない?母上、泣いちゃうかもよ?」

ニコニコするアスベルトから、視線を反らして、リリアンナが顔を向けると、皇后は、悲しそうに目尻を下げて、瞳を潤ませながら、唇を尖らせた。

「ほら。拗ねちゃったよ?」

「でも」

『リリ、ちょっとで良いから、言ってやってくれないか?このままだと、後が大変なんだよ』

皇后の肩を抱いて、困った顔をする皇帝を見て、リリアンナは、グッと唇に力を入れてから、スーハーと深呼吸した。

「い今、色々、やらなきゃないことが、いっぱい、あるから、行けないんだ。ごめんね?お、お義母さん」

「よく出来ました」

リリアンナが、瞳を潤ませながら、真っ赤な頬を膨らませた顔を向けると、アスベルトは、頭を引き寄せて頬擦りした。

『とりあえず、リリの母君の事は、こちらでも、調べてみよう』

『そうね。姉上の時と同じなら、ウィルセンも、ほってはおけないわ』

『アス、そこに、サイフィスの王子と公爵達もいるんだろ?俺の通信鏡ツウシンキョウを貸してやれ。俺から通念させる』

「は~い」

〈ザザッ〉

「ってことで、モーガン殿下、アルベル公とエルテル公、これをどうぞ」

映像が乱れ、皇后の隣から皇帝が姿を消すと、アスベルトは、モーガンに、もう一方の通信鏡を手渡した。

「震え始めて、鏡の部分が点滅したら、横の突起部分を押すと、勝手に作動するから。ある程度の声は、向こうもこっちも聞こえるし、使用者の側にいれば、映像に映ることもできるから」

アスベルトの説明を受けて、モーガンの後ろに、二人の公爵が立つと、チカチカと、蓋の部分が点滅し始めた。

〈カチ…サーッ〉

『聞こえるか』

「はい。帝国の聖光なる父、ドルト・ダルトン・ウィルセン皇帝陛下に、ご挨拶申し上げます。モーガン・サイフィスと申します。右がキース・エルテル公爵、左がシューベルス・アルベル公爵でございます」

『話を聞こう』

「はい。では、ます、アルベルより、お話させて頂きたます」

「シューベルス・アルベル、帝国の聖光なる父、ドルト皇帝陛下に申し上げます。今より十年前、私の妻、アンナ・アルベルは」

「…本当に皇帝なのね…」

ガウンを脱ぎ、ワイシャツを着た皇帝の映像が、浮かび上がると、自然と膝を着いた三人を見て、リリアンナが呟き、アスベルトは、得意げな顔をした。

「そうだよ。普段の父上は、家族思いで、優しいけど、国交や問題事があれば、ウィルセンの皇帝になるんだ。母上も、公務を行う時は、ウィルセンの皇后になるけど、普段は、凄く優しいんだよ」

皇后が、手を振るのを見て、リリアンナは、嬉しそうに微笑んだ。

「アスの家族は、とても暖かくて素敵ね」

「リリも、家族になるんだよ?」

「まだ分からないじゃない」

「なるよ。リリは、僕のお嫁さんになって、父上と母上の義娘になって、みんなで、笑って暮らすんだ」

パーっと明るい笑顔を浮かべるアスベルトを見つめて、リリアンナは、恥ずかしそうだが、安心したように微笑んだ。

「アスが言うと、本当に、そうなるような気がするわね」

「まぁ、その前に、目の前の堅物達をどうにかしないとだけどね」

無表情のデュラベルとローデンが、それぞれ、剣と杖を手に持ち、アスベルトを睨み付けていた。

「仕方ない。ちょっと付き合ってくるよ。リリは、母上の相手してて」

アスベルトは、立ち上がりながら、リリアンナを座っていた椅子に下ろした。

「え!?待って、ここには、訓練所みたいなところが」

「大丈夫だよ。荒らさないようにするから」

〈ザザッ〉

「ちょ!これは!?どうする」

アスベルトが、二人に向かって歩き始めると、リリアンナは、アタフタと慌てて、通信鏡と背中を交互に見るように、顔を動かした。

『大丈夫よ。私からの通念に切り替えたから、リリちゃんは、そのままでいいわ』

クスクスと笑った皇后に向かって、リリアンナは、不安そうに目尻を下げて、視線だけを動かした。

「でも」

『大丈夫だから、落ち着いて?』

「でも、怪我でもしたら」

『その時は、リリちゃんが、手当してあげてね?まぁ、あの二人が相手なら、アス一人でも充分よ』

アスベルトが剣を抜き、二人に剣先を向けると、三人を囲うように、足元に円状の文字が浮かび上がった。

「とりあえず、これくらいかな」

アスベルトが、剣先を空に向かって掲げると、三人を乗せて、足元の文字が浮上した。

「とりあえず、手加減はするけど、負ける気はないからね?」

空に浮く三人を見つめて、リリアンナは、パチパチと、何度も瞬きをした。

『凄いでしょ?』

「…はい。とても」

『あれでも、一応、ドルの息子で、皇太子だからね』

グラスの水を飲む皇后を見て、リリアンナも、カップを傾けた。
ふぅ~と息を吐き、落ち着いたリリアンナを見つめて、皇后は、優しく瞳を細めた。

『アスが魔力覚醒した時、あの子、泣きながら、“僕のお嫁さんが死んじゃう”って言ったの。最初は、ただの夢だと思ってたんだけどね?その内容が、“貴族達のせいで、内政が傾いた国で、僕のお嫁さんが、陰謀に巻き込まれて死んじゃう”って、妙に現実的だったから、ドルと一緒に調べてみたの。そしたら、サイフィスの国政が傾き始めてて、一人の女の子が巻き込まれてるのが分かったの』

視線を向けた皇后が、小さく微笑むと、リリアンナは、グッと唇に力を入れた。

『このままでは、ルアンダと同じになってしまう。ドルも私も、そうなる前に、帝国の属国にしようと思ってたんだけど、アスに、“彼女の故郷を奪いたくない”って言われちゃったのよ』

リリアンナが、瞳を大きくさせると、皇后は、悲しそうに瞳を細めた。

『ルアンダはね?存続しているけど、ウィルセンの属国になってるの。一応、王室は残っているけど、国政が、完全に崩壊してしまってたから、皇室が爵位を剥奪して、全く機能してないのよ。故郷が消えた辛さは、私達が、一番よく知ってるわ。それなら、リリちゃんの故郷は、残してあげなきゃって思ったの』

「それで、お茶会に参加を?」

『そう。本当は、私が行こうと思ってたんだけどね?ドルが、ダメってばかりで、離してくれないし、アスも、自分が行くって騒ぐしで、大変だったのよ』

その風景が頭の中に浮かび、リリアンナは、クスっと笑った。

『やっと笑ってくれたわね』

「あ、すみません」

『謝らないで?悪い事じゃないのだから。ありのままで居られる時は、思いっきり笑って?そしたら、いっぱい幸せになれるから』

パーっと明るい笑顔を浮かべた皇后を見つめ、リリアンナも、頬を赤くして、ニコッと笑った。

『ねぇ、リリちゃん、実際は、アスの事どう思ってるの?』

「今日、初めて会ったので、どうって言われても」

『そうなの?この前のお茶会で、会ってないの?』

「私、途中で帰っちゃったので」

『そっか。さっきのアスの話だと、当たり前よね』

「ところで、その瓶って、ハナバナのエッセンスですよね?」

『あら。分かる?これ、ちょっとでも、凄く味と香りがあるから、お水に入れても美味しいのよ』

「果物に掛けるのもいいですよね?」

『あと、紅茶に入れてもいいわよね?』

二人で、フフッと声を出しながら、楽しそうに笑うリリアンナを見て、アスベルトは、嬉しそうに微笑んだ。

「…んとに、頭に来る、ヤツ、だな」

無傷のアスベルトを睨んだデュラベルは、肩で息をしながらも、ヨロヨロと立ち上がった。

「そろそろやめない?もう限界でしょ」

「まだやれる」

「そう?かなりボロボロじゃん?」

腕や太ももの裂けた服の隙間から、素肌が見え、頬にも、微かに血が滲んでいるが、デュラベルは、剣を握り直して、アスベルトに向かって走った。

〈キン!〉

甲高い音を響かせながら、デュラベルの振るう剣を弾き、アスベルトも、剣を振るった。

「どうしたの?さっきより遅いし、力が抜けてるよ?」

「うるせぇ!ローデン!」

フラフラしながらも、ローデンが、杖を振ると、デュラベルの体が青白い光を放った。

「そんな何回も、助力魔法を使ってたら、体壊すよ?もっと、基礎を鍛えないと」

速さと力が増したはずが、デュラベルの剣を簡単に弾いて、アスベルトは、足を引っ掛けて転がした。

「君も、魔力が、ほとんどないのに、魔法を使ってたら死ぬよ?」

「大きな、お世話、です」

ローデンが、炎の玉や風の刃を放つが、アスベルトは、剣で弾いて振るい、空から氷柱を落とした。

「制御しようするから、限られた魔法しか使えないんだよ?」

「これが、僕、の、やり方、です」

結界を張って、氷柱を防いでも、砕けるのと同時に壊れてしまい、ローデンに、光の粒が降り掛かる。

「とりあえず、二人は、もう少し、自分を客観的に見たほうがいいね」

「うるせぇ!うるせぇ!うるせぇ!」

デュラベルが、めちゃくちゃに剣を振るうと、ローデンも杖を振って、魔法を使うが、アスベルトは、それらを全て防ぎながら、大きなため息をつき、一瞬、チラッと下を見た。

「…仕方ないなぁ」

アスベルトは、後ろに飛び退くと、剣を立て、胸の前に持ち、静かに瞳を閉じた。
デュラベルと同じように、青白い光を放ち始め、薄い膜で、全身を包むように、光を纏わせた。
二人は、ただ真っ直ぐ見つめ、スーッと、瞳を開いたアスベルトが、剣を振り抜いた。

〈ヒュン〉

〈キン!カン!キン!〉

一瞬、風が止んだと思えば、突風が、二人に向かい、アスベルトが、一足動いただけで、目の前に現れた。

「何が為に剣を振るい、何が為に力を燃やす」

アスベルトが、水が流れるように、デュラベルの持つ剣を叩きながら、風を吹かせるように、次々に、火の玉や氷柱をローデンに向かわせると、二人は、顔を歪めながら、剣を振り、結界を張って、それらを必死に防いだ。

「お前達が守ろうとしてるのは、ちっぽけな理想でしかない。そんな空っぽの剣技では、僕を切ることはできない」

〈カキン!!〉

剣が弾かれると、デュラベルの体が後ろに傾いた。

「そんな空っぽの魔法では、僕には届かない」

〈パキン!!〉

結界が砕け散ると、ローデンの体が前に傾いた。

「大事なことを知ろうとしなければ、何も得ることは出来ない」

足元の文字が消えると、三人は、空から落ちた。

「人の命を軽んじてるお前達じゃ、僕の足元にも及ばないよ」

〈パチン〉

アスベルトが指を鳴らすと、二人の体が、ゆっくりと、それぞれの公爵の腕に寝かされた。

「…結構、無理させたけど、そんな傷は、付けてないからね?」

「殿下の配慮に感謝します」

フワリと、降り立ったアスベルトに向かって、二人が頭を下げた。

「デュラベルだけなら、もっと、やってくれても、よかったがな」

頭を上げて、ニカッと笑うタラス公爵を見て、アスベルトは、剣を鞘に収めながら、首を振った。

「いやだね。猪突猛進すぎて、骨折っちゃいそうだったし」

「骨の一本や二本、折ってくれても構わねぇよ。じゃなきゃ、言う事聞かねぇから」

「騎士の血統なのに、案外、順応性があるよね」

「まぁな。俺は、国や門家よりも、友や家族が一番だからよ。ありがとな」

「そう。てか、父上との話は終わったの?」

「大体はね」

アスベルトに近付きながら、モーガンは、持っていた通信鏡を差し出した。
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