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五
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通信鏡を受け取り、アスベルトが、胸ポケットにしまうと、モーガンは、嬉しそうに瞳を細めた。
「とりあえず、公爵達の力を借りて、神殿や神官を調べることになったんだ」
「あ~だから、タラス公も呼び出したのか。これから、大変だね」
「そうだね…婚約のこと、僕から父上に伝えてみるよ」
「本当!?」
キラキラと瞳を輝かせて、パーっと明るい笑顔を浮かべて、アスベルトが、顔を近付けると、モーガンは、苦笑いを浮かべながら、一歩後ろに下がった。
「ただ、破棄できるかは分からないよ?父上も母上も、リリアンナが、好きみたいだから」
「それなら仕方ないか。とりあえず、婚約式は、延期になるでしょ?」
「そうだね。ありがと」
嬉しそうに微笑むモーガンに、アスベルトも、瞳を細めて、優しく微笑むと、その肩に腕を回した。
「ところで、アルベル公は?」
「アルベル公なら、リリアンナの所だよ」
皇后と楽しそうに話してるリリアンナの向かいに座り、ニコニコと笑ってるアルベル公爵を肩越しに、チラッと見てから、アスベルトは、モーガンに顔を寄せた。
「あのさ、アルベル公って、何が好きとか分かる?」
「さぁ?」
頬をポリポリと掻きながら、モーガンが、困ったように笑うと、アスベルトは、乱暴に頭を掻いた。
「だよね。あの人、掴みどころがなくて、正直、なんにも分かんないんだよねぇ」
「それなら、二人に聞くほうが、いいんじゃないかな?」
モーガンが手で促すと、アスベルトは、目の前で、息子を抱える二人に視線を向けた。
「三人は、幼少期からの仲だから、二人の方が、僕よりも知ってるだろうし。それに、エルテル公は、こう見えても、女性の好みも熟知してるから」
「そうなの?」
「恋愛や女の事なら、キースに聞けば、大体は、なんとかなる。俺も、シューベルスも、その辺の事は、からっきしで、キース頼みだったからな」
「ご享受、お願いします」
アスベルトが頭を下げると、エルテル公爵は、フンと鼻を鳴らした。
「タダでは、教えられないね。とりあえず、殿下の知ってる帝国式魔法術、その魔法具の設計構成、帝国が所有している魔法具の詳細、それらを全て話してくれるなら、教えてもいいが」
「…それだけ?」
パチパチと、何度も瞬きをして、コテンと、不思議そうに、首を傾げたアスベルトを見て、エルテル公爵は、瞳を大きく開いた。
「本当に、それだけでいいの?」
「まぁ、とりあえずは。だが、無理にとは」
「無理でもなければ、普通に、全部開示出来るけど?」
エルテル公爵が、ポカンと、口を半開きにして固まると、アスベルトは、モーガンに視線を向けた。
「サイフィスでは、エルテル公が、言ってたことは、全て、国王の許可がないと、開示できないんだよ」
「そうなんだ。そうなると、開示するにも、手続きや選考なんかもあるんだね?」
「そう。エルテル公は、国王の許可が出た情報を開示するときに、書類選考や文章制作する大臣職に就いてるんだ」
「なるほどね」
「ついでに、タラス公は、サイフィスの五つある騎士団の全てをまとめる統括職で、アルベル公は、この国の宰相職なんだよ」
「あ…なんか、アルベル公に、バレた理由が分かった」
「皇太子殿下の本性なら、すぐに気付いてたよ」
「…タラス公も?」
表情も変えず、首を傾げたエルテル公爵から、アスベルトが、視線を移すと、タラス公爵は、困ったように、ニカッと笑った。
「悪いな。仕事柄、色んな奴見てきたからさ」
「そんな…上手くできてたと思ったのに」
「大丈夫だよ。父上は、どうか分からないけど、母上達は騙せてるから」
「僕の狙いはそこじゃないの!」
悔しそうに、地団駄を踏むアスベルトを見て、モーガンは、一瞬、驚いたように、瞳を大きく開いたが、ケタケタと、大きな声で笑った。
「本当の殿下は、凄く素直なんだね」
「まぁね」
ニカッと笑うアスベルトを見つめ、モーガンは、寂しそうに、瞳を細めながら、小さく微笑んだ。
「いつか、リリアンナのように、僕も、愛称で呼べたらいいな」
「別に、呼んでいいよ」
モーガンが、パチパチと、何度も瞬きをすると、アスベルトは、大きなため息をついた。
「ウィルセンだと、みんなして、僕のこと、坊っちゃんって呼ぶんだよ。それに比べたら、愛称で、呼ばれたほうが、まだいいよ」
「その年で坊っちゃん」
「ちと、キツイな」
「でしょ?やめろって言ってんのに、聞いてくれないし」
「でも、愛されてる感じがするね。僕なんか、ずっと、王子か殿下って呼ばれてるし」
「親は、愛称で呼んでくれるでしょ?」
「さぁ?記憶の中では、呼ばれたことないかな」
「まるで他人だね。二人は?流石に、屋敷だと呼ぶでしょ?」
「この国じゃ、男親は、ほとんど愛称を呼ばないし、男児になると、母親が、小さい時に使うくらいで、ある程度になったら、呼ばれねぇよ」
「そっか。だから、アルベル公も、リリのこと、愛称じゃなかったんだ…てか、モーガン殿下の愛称って、なに?」
「確か、ガンだったと思うけど」
「なら、これからは、ガンって呼ぶよ」
ニカッと笑ったアスベルトを見つめて、モーガンは、キラキラと瞳を輝かせた。
「ありがとう。アス」
互いに、ニコッと笑うのを見て、二人は、安心したように微笑んだ。
「んじゃ、俺らは、そろそろ、お暇するぞ。このバカ息子の事もあるからさ」
「モーガン殿下は、どうしますか?」
「僕は、もう少し居るよ。アスの義妹も見てみたいから」
「あまり、遅くならない内に、お帰り下さいね?」
「分かってるよ。ありがとう」
アスベルトとモーガンが、笑いながら、ガゼボに向かうのを見送り、エルテル公爵とタラス公爵は、それぞれ、ローデンとデュラベルを抱えたまま、馬車に向かった。
「あの年で、ありゃ相当だな」
「あぁ。かなりの修練を積んでるようだね。出来れば、敵に回したくない」
「あのまんま、仲良くやってくれんなら、万々歳なんだけどなぁ」
「それには、この子らをなんとかしなければ」
「それな。一番の問題が、自分の子供だなんて、なんだかぁ」
「仕方ないことさ」
「だな。んじゃ、またな」
「あぁ。気を付けて」
それぞれの馬車に乗り込み、ガタガタと揺られながら、公爵達は、屋敷に向かった。
『一番右側の紐で、他の紐をまとめるようにクルッとして、下から輪っかみたいになってる隙間に紐を入れて、詰めるようにして引いて。そうそう。そしたら、同じように、ずっと編んでいくのよ。上手ね』
「…これは、どうゆう状況?」
カップや皿に混ざり、色鮮やかな紐や鉱石、小瓶や小さな蓋付きの容器、更には、シルクやレース、リボンや刺繍セットなど、様々な物が散乱していた。
「殿下の母君のおかげだよ」
疲れたように額に触れ、アルベル公爵が、皇后に視線を向けると、アスベルトは、大きなため息をついた。
「母上。これは、一体、どうゆうこと?」
『あら。もう戻ったの?早かったのね』
「アス、おかえりなさい」
パーっと明るい笑顔を向けたリリアンナに、アスベルトは、眉間にシワを寄せながら、目尻を下げて、怒ったような、困ったような、複雑な顔をした。
「この通信鏡って、すごいのね?小さな物なら、すぐ相手に届くなんて」
「魔力が使えればね。教えてなかったよね?」
「お義母さんに、教えてもらったの」
「そう。ちゃんと送れた?」
「リボンやコサージュなら、送れるようになったわ」
〈チョキン〉
紐編みを作り上げると、リリアンナは、通信鏡の上に置いて、包むように触れた。
スーッと光を放つと、通信鏡の中に、出来上がった紐編みが吸い込まれ、静かに光が消えた。
「どうです?」
『リリちゃん、凄く上手よ。これなら、贈り物にしても、恥ずかしくないわよ』
「やった」
『ちょっと、教えただけなのに。ホント凄いわね』
「ありがとうございます」
リリアンナが、嬉しそうに笑ってるのを見て、アルベル公爵は、眉尻を下げながらも、嬉しそうに微笑んだ。
「リリ、そろそろ、終わりにしないかい?」
『そうね。そろそろ、暗くなるものね』
「…まだ、やりたいです」
「リリアンナ、アスも、そろそろ、離宮に戻らないと、色々と問題になっちゃうから」
プクッと頬を膨らませて、唇を尖らせたリリアンナを見て、モーガンも、ポリポリと、頬を掻きながら、困ったような、嬉しいような微笑みを浮かべた。
「リリ、覚醒したばかりの魔力で、何回も、通信鏡に物を通してたら、明日が辛くなるよ?」
「どうして?」
「覚醒したばかりの魔力は、とても不安定なんだ。何回も使ってたら、体に負担が掛かるんだよ」
『アス、リリちゃんを甘くみない方がいいわよ?魔力、かなり安定してるから』
「…確かに」
ジーッと見つめ、納得したようだが、不思議そうに首を傾げたアスベルトに、リリアンナは、不安そうでありながら、安心したような、複雑な顔で、首を傾げた。
「本当?」
「本当だよ?さっきまで、かなり乱れてたのに…何かしたの?」
「アスが教えてくれたみたいに、手じゃなくて、足元から、拾って、回して、流してっしてみたの」
リリアンナが、嬉しそうに、瞳を細めて、優しい微笑みを浮かべると、アスベルトと皇后は、驚いて、瞳を大きく開いた。
「そしたら、ずっと、体があったかくて、羽が生えたみたいに、軽くなって、なんだか、元気になったの。だから、もっと色んなこと、教えてほしいなって。もっと、色んなことしたいって、思ったの」
リリアンナが、花が咲いたような笑顔を見せると、アスベルトは、薄っすらと、頬を赤くしながら、困ったように微笑んだ。
「リリは、本当に凄いね」
『ホントね。リリちゃんなら、通面鏡も使えるかもしれないわね』
リリアンナが首を傾げると、皇后は、ニコッと笑った。
『通面鏡を使えたら、好きな時に、好きなだけ、ウィルセンに来れるわよぉ?』
リリアンナの瞳が、一段とキラキラと輝き、三人は、視線を合わせて、小さく微笑みながら、フッと、鼻で小さなため息をついた。
「母上。それは、アルベル公の了承も必要でしょ?」
『大丈夫よ。リリちゃんのお願いなら、アルベル公爵だって、断れないでしょ』
「パパ」
リリアンナが、キラキラと輝く瞳で、真っ直ぐ見つめると、アルベル公爵は、両手を上げて、苦笑いを浮かべた。
「リリの好きにしなさい」
「ありがとう!パパ大好き!」
胸の前で指を組み、本当に嬉しそうに笑うリリアンナを見て、アルベル公爵は、ほんのり頬を赤くして、小さく頷いた。
『リリちゃんが欲しいなら、送ってあげるわよ?』
「欲しいです」
『いいわよぉん。後で、アスの所に送るから、頃合いを見て設置してあげてね?』
「分かったよ。ところで、通面鏡って、結構大きいけど、置けそうな場所ある?」
リリアンナが首を傾げると、アスベルトは、座りながら、眉尻を下げて、困ったように微笑んだ。
「姿見よりも大きいんだ。公爵とリリが、並んでも大丈夫なくらいあるかな。実寸が知りたいなら、今、僕が使わせてもらってる離宮にもあるから、見に来る?」
「いつの間に?」
「持って来たんだ」
「あ~だから、あんな大荷物だったんだね?」
「そう。城だったら、どうしようかなって、ちょっと悩んだけど、離宮に通されたから、普通に使ってるよ」
「…もしかして、行き来してる?」
「そうだけど?」
モーガンとアルベル公爵が、一瞬、キョトンと、間の抜けた顔をしたが、ハハハと、同時に、声を出して笑った。
「なるほどね」
「余程、リリに会いたかったようだな」
リリアンナと視線を合わせて、アスベルトが首を傾げると、二人は、ふぅ~と息を吐き出してから、静かに微笑んだ。
「アルベル公、出来れば、力を貸して欲しいんだけど」
「出来る限り、ご協力しますが、こればかりは、殿下が、どうにかしなくて頂かないと、私だけでは、なんともなりませんよ」
「そうだね…できるかな?」
「今から弱気になっていては、出来ることも出来なくなりますよ」
「そうだね。ありがとう、アルベル公」
「いえ。申し訳ございません、モーガン殿下」
視線を合わせて、クククッと、小さく笑う二人を見て、アスベルトとリリアンナは、首を傾げた。
『…ママ~?クッキー焼いてみたんだけど。あれ?パパは?』
『今、調べ物中よ。そうだ。キア、ちょっと、こっち来て』
〈ザザッ〉
皇后の隣に、黒髪を後ろに結ったキアナ・ダルトン・ウィルセン皇女が座った。
『アスが言ってたお嫁さんの話、覚えてる?』
『どっか、国政が傾いた隣国に、いるんだとか言ってたやつ?』
『サイフィスに居たのよ』
『うそだぁ~』
『ホント、彼女が、そのお嫁さんなんだって』
皇女のハイグレーのように見えるが、薄い桃色の瞳が向けられ、リリアンナは、ニコッと笑った。
「初めまして。リリアンナと申します。リリと呼んで下さい」
『キアナです。キアと呼んで下さい』
ジーッとリリアンナを見つめてから、皇女は、皇后の腕を引っ張った。
『ねぇ、ママ、ホントなの?ホントに、リリちゃんが、お義兄のお嫁さん?』
『らしいわよ?』
『…やったーー!!』
〈ガタガタガタン!ザザッ〉
皇女が、皇后に抱きつくと同時に、映像が乱れた。
「おい!キア!暴れんなよ!」
『ごめんごめん』
映像が戻ると、皇女は、キラキラと、瞳を輝かせた。
『リリちゃん、いくつ?』
「十歳になりました」
『年齢も近い…お義兄サイコー!』
「お前の為じゃねぇから」
『なんでもいいよ。リリちゃんは、お菓子好き?』
「えぇ。好きですよ?」
『じゃ、これ、よかったら食べて?私が作ったの』
通信鏡が光を放つと、焼き立てのクッキーが現れた。
「お前さ~」
〈サクッ〉
「…美味しい~」
クッキーを見つめて、キラキラと、瞳を輝かせながら、リリアンナが、皇女に視線を向けると、アスベルトは、目元を手で覆い、大きなため息をついた。
『でしょでしょ?今日のは、上手く出来たんだよ~』
「これ、木苺?」
『そう。ハナバナのエッセンスとモニラのエッセンスを数滴入れたけど、いい感じでしょ?』
「凄くいい。私もできるかな?」
『リリちゃんなら、すぐ出来るわよ。刺繍も、紐編みも、すぐに出来たんだから』
『そうなの?』
『リリちゃん、ホントに器用で飲み込みが早いのよ。見て、これ』
『…リボンに小花が刺繍してある。凄い』
『ね?紐編みも、ちょっと教えたらこれよ?』
『上手…ねぇ、これ貰ってもいい?』
「えぇ。どうぞ」
『やった!今度、私が作ったらあげるね?』
『そうだ。今度、みんなで一緒に作りましょうか?』
『賛成!リリちゃんは、いつ、ウィルセンに来るの?』
『後で、通面鏡を送ることにしたから』
「…アス、これ、どうするの?」
アスベルトが、テーブルに突っ伏して、頭を抱えると、アルベル公爵とモーガンは、苦笑いを浮かべた。
「こうなったら、もう、どうしようもない」
「僕、そろそろ、本当に帰らないと、まずいんだけど」
「僕だって帰りたいよ。アルベル公、止めてよ」
「こうも矢継ぎ早に話されると、流石に、私でも割り込めない」
「父親でしょうが。娘を止めるのも、親の仕事」
「今のリリを止められるとでも?」
三人が視線を向けても、リリアンナは、映像の皇后と皇女を相手に、キラキラと、瞳を輝かせながら笑っていた。
「どうにかならない?」
「仕方ない。父上に頼んでみるか」
〈カチ…ザザッザーッ〉
『…どうした?』
眼鏡を掛けた皇帝が映ると、アスベルトは、頭を掻いた。
「父上、ちょっと、母上達を止めてくれない?」
『何した』
「キアまで、母上と一緒になっちゃって。お喋りが止まらないんだよ」
『なるほどな』
「それに、母上が、リリに通信鏡の使い方教えたらしくて」
『それで、侍女達が走り回ってたのか』
「もう、僕らじゃ、どうにもならないんだよ」
『仕方ないな。ちょっと待ってろ』
〈ザザッ…ザー…パッチン〉
「すぐに父上が止めてくれると思うから、少し待ってて」
「陛下には、感謝してもしきれない」
「だね。これで帰れるね」
「そうとも言い切れないんだよねぇ」
「なんで?」
『ベラ、いつまで…これは、一体』
『パパ!見て見て!リリちゃんから貰ったの』
『紐編みか…上手く出来てるな』
『あと、これも、リリちゃんの手作りよ?』
『そうか。上手いもんだ。ところで、ベラ、そろそろ』
『パパ、ひど~い。リリちゃん、初めて作ったんだよ?』
『それは』
『キア、ドルは、こうゆうのに興味ないから、仕方ないのよ』
『そうゆう訳じゃ』
『確かにね。私が、一生懸命作ったクッキーも、美味いな。しか言わないもんね』
『それに、私があげたハンカチも、良いねってしか言わなかったのよ?』
『ひど~い。リリちゃんは?どう思う?』
「一生懸命作ったなら、少しは、褒めて欲しいかな」
『ほら~。ちゃんと褒めきゃダメなんだよ?』
『だから、ちゃんと褒めて』
『なんでも、軽くハイハイって感じなのが、イヤなのよ。ねぇ?』
「…皇帝でも、敵わないらしいね」
「仕方ないんだよ。アルベル公なら分かるでしょ」
「痛い程に」
〈サクッ〉
「…あ…美味い…」
モーガンが呟くと、アスベルトは、苦笑いを浮かべながら、ヒョイっと、クッキーを摘んだ。
「なんだかんだ言って、キアの作るお菓子って、美味いんだよね」
〈サクッ〉
『当たり前でしょ?愛情込めて作ってるんだから』
「お前の愛情より、リリの愛情が欲しい」
『アスも、まだまだねぇ。女の愛情が欲しかったら、望みを叶えないと』
『そうだよ。早く、リリちゃんと会わせてよ』
『早く会いたいなら、そろそろお開き』
『私、リリちゃんと喋ったの少しだけなんだけど』
「また話せば良いだけでしょ」
『お義兄は、すぐ側に居るんだからいいじゃん』
『そうよ。なんなら、この通信鏡、リリちゃんにあげてもいいのよ?』
『ベラ、そんなホイホイと』
『そしたら、リリちゃんと、いつでも話せるね?』
「あのさ、一応、通信鏡も、貴重な」
『パパも、お義兄も、ケチだよね~』
『そうね~。私達は、リリちゃんと仲良くしたいのに。通信鏡一つで、文句ばっ』
『あーーもう!アス、その通信鏡は、リリにくれてやれ。あとで、新しいの出してやるから』
「分かった」
「…いいの?」
「仕方ないよ。僕のお古だけど、それで、リリがいいならあげるよ」
「ありがとう」
嬉しそうに通信鏡を見つめるリリアンナを見て、三人は、諦めたように、小さく微笑んだ。
『それと、通面鏡も、お願いね?』
『あれは、そんな簡単に』
『そう。リリちゃんが、頑張って、アルベル公に』
『だーーーもう!アス!』
「持って来たのを設置し直せばいい?」
『すまんな。リリ、とりあえず、しばらくは、アスのお古で我慢してくれ。その内、新しいのを用意して送る』
『やったね。早く会いたいね』
「私も。早く会いたい」
リリアンナの細めた瞳が、キラキラと輝くと、アスベルトは、小さなため息をついた。
「…お嬢様、風も冷たくなってまいりましたので、こちらをどうぞ」
メイドが、リリアンナの肩にブランケットを掛けると、皇女は、瞳を大きく開いた。
『リリちゃん、外にいたの?』
「本日は、お庭のガゼボにて、皆様と、お茶会でしたので」
リリアンナの後ろに侍女が立つと、皇女と皇后は、口元に手を当てた。
『あらやだ。早く言ってくれれば、良かったのにぃ』
『ごめんね?部屋だと思ってたから、つい』
「二人に感謝だね」
リリアンナの後ろで、メイドと侍女が、ニコッと笑うと、モーガンは、皇女に視線を向けた。
「…明るくて可愛い子だね」
「でしょ?」
「でも、ちょっと大変そう」
「それな。うるさいけど、ちゃんと節度は弁えるほうだから」
「これで?」
「ごめん。うそ。正直、ずっと一緒だと疲れる」
「でも、楽しいでしょ?」
「まぁね」
「そうゆうの羨ましいなぁ」
「いる?」
「ちょっと考える」
〈ザザッ〉
『娘はやらんぞ!』
巨大な皇帝の映像が現れ、アスベルトとモーガンが、ビクッと肩を揺らすと、辺りに明るい笑い声が響いた。
『ちょっとパパ!私の婚期遠ざけないでよ!』
『だが、サイフィスは、今』
『それとこれとは話が別よ!私が結婚できなかったらパパのせいね!』
『それは』
「…アルベル公の寛大さが、身に沁みるよ」
アルベル公爵が、ニコッと笑って、カップを傾けると、皇帝は、我に返ったように、ハッと、大きく息を吐いた。
『アルベル公、愚息が、色々と申し訳ない』
「いえ。お気になさらず。ただ、私も親ですので、それなりの抵抗はしますが、宜しいですか?」
『大いに結構。アルベル公が気の済むまでやってくれ』
「ありがとうございます」
アルベル公爵が、ニコッと微笑むのを見て、アスベルトは、ゴクッと喉を鳴らしながら、唾を飲み込んだ。
「
皆様、そろそろ、お時間でございます。これにて、お開きとさせて頂きたいと思いますが、いかがでしょうか?」
リリアンナの後ろで、執事が、ニコッと笑うと、皇后と皇女も、ニコッと笑った。
『そうね。リリちゃん、今日は楽しかったわ。ありがとう』
『今度は、いっぱい、お話しましょうね?またね~』
「はい。また今度」
手を振る二人に、リリアンナも手を振り返すと、スーッと映像が消え、通信鏡から光が消えた。
〈パチン〉
「ありがとう。アス」
「どういたしまして」
通信鏡を胸に抱いて、嬉しそうに微笑んだリリアンナを見つめて、アスベルトが、髪に触れようとすると、アルベル公爵が、大きな咳払いをした。
「リリ、二人も、お帰りにるから、見送りしようか」
「そうね」
アルベル公爵が立ち上がると、リリアンナは、スッと立ち上がり、その手を自然と繋いだ。
「さぁ、行きましょうか」
アルベル公爵が視線を向けて、得意げな顔をすると、アスベルトは、行き場を失った手に拳を作り、悔しそうに下を向いた。
「アス、我慢、我慢」
「ん、ん。頑張れ、僕」
モーガンに、ポンポンと、背中を軽く叩かれ、歯を食いしばりながら、アスベルトも、立ち上がり、馬車に向かった。
「今日は楽しかったよ。リリアンナは?」
「私も。とても楽しかったです。アスは?」
「僕も。なんやかんやで楽しかったよ」
アスベルトが、ニカッと笑うと、モーガンとリリアンナも、ニコッと笑った。
そんな三人を見つめて、アルベル公爵や執事、侍女やメイド達も、穏やかに微笑んだ。
「今度は、ウィルセンの花園にでも行く?それなりに広いから、あの二人が一緒でも大丈夫だろうし」
「二人って、ローデンとデュラベルのこと?」
「そう」
「二人が一緒だと、僕が疲れるからイヤだ」
「…ガン、変わり過ぎじゃない?」
「これが、本当の僕なの」
胸を張って得意げに、ニカッと笑うモーガンに、リリアンナとアスベルトが、クスッと笑うと、周りからも、クスクスと笑い声が溢れた。
「まぁいいや。それじゃ、また今度ね?準備出来たら、また来るよ」
「そしたら、僕も呼んでね?」
「どうかな」
「アスが呼ばないなら、私が呼ぶので」
「え~、せっかくのデートが」
「僕がいれば、アルベル公も、簡単に許してくれるよ?」
「その時は頼むよ」
「任せて。じゃね。リリアンナ」
「またね。リリ」
「二人とも、またね」
馬車に乗り込み、ニコッと笑うリリアンナが手を振ると、二人も手を振った。
「…アスの恋路は、前途多難だね」
「仕方ないさ。男の最大の敵は、父親らしいからな」
「分かる気がする。アルベル公も、ドルト陛下も、一筋縄ではいかない感じする」
「それを超えて、好きな子と結ばれるってのも、いいんじゃない?」
「確かにね。ところで、キアナ皇女って、養女だよね?」
「そうだよ?もうないけど、ヴァリンパって小国の公爵子息と叔母上の子」
「ヴァリンパって、薬師と聖者の?」
「そう」
「なるほど…ヴァリンパの公爵子息とルアンダの公爵令嬢の子…母上に話しても問題ないか…」
「お。本気?」
指で唇を撫でていたモーガンが、真っ赤になって、視線を泳がせると、アスベルトは、嬉しそうに瞳を細めた。
「お互い、助け合って頑張ろうな?」
「ありがとう…まずは、エルテル公を味方しようか」
「だね。だけど、タラス公のほうが、色々、聞いてくれそうだよね?」
「なら、アスはタラス公、僕はエルテル公で、どうかな?」
「よし。それでいこう」
二人は、しっかりと握手を交わして、力強く頷き合った。
「ところで、ガンって、魔法使える?」
「少しなら」
「剣は?」
「ちょっと」
視線を泳がせながら、ポリポリと、頬を掻いたモーガンを見て、アスベルトは、額に触れた。
「ガン、先に、そっちだわ」
「だよね~」
「運動苦手?」
「いや?そんな苦手でもないんだけど」
「…なんかあった?」
アスベルトが、ジーッと見つめると、モーガンは、困ったように、鼻から、フーっと息を吐き出した。
「アスって、凄いよね」
「何が?」
「ちょっと話しただけで、色んなことが分かるでしょ?」
「色んなって、ただ直感みたいなもんだから、何かあったとしか分かんないし」
「それでも、分かるんだから凄いよ。どうしたら、そんな風にできるの?」
「色んな人と話す。身分とか、仕事とか、性別も年齢も関係なく、とにかく、沢山の人と話してみる。そしたら、なんとなく、こうゆうときは、何かあるなって分かるようになるよ」
「アスは、どんな人達と話したの?」
「メイド、侍女、執事、庭師、料理人、騎士、魔法使い、薬師、調香師、絵師。とりあえず、その辺にいる人達と話したね」
「よく、陛下や殿下に怒られなかったね?」
「なんで?」
「なんでって、僕は、使用人と話すと、父上や母上に怒られてたから」
「あ~なるほど。威厳の為ってとこかな?」
「そう。王族としての威厳」
「まず、威厳の使い方が違うね。父上と神殿のこと話したとき、どうだった?」
「あれは凄いね。自然と膝着いちゃったよ」
「あれが本当の威厳。リリや僕と話してるときは?」
「普通に、カッコいいなぁって」
「でしょ?それに、僕だって、アルベル公の執事と話してたし、母上だって、侍女と話してたでしょ?」
「…そっか。要は、何かをしようとするときに、きちんとできればいいんだね?」
「そう。例えば、僕が、お茶会でやったことは、序列を乱そうとしたやつを皇太子が否めた。つまり、皇太子としての地位を使って、公爵令嬢を陥れた令嬢を諌める為に、親である候爵を引っ張り出したんだよ」
「そこで、国王は、皇太子を抑えることで、周りの貴族達に王としての威厳を見せた」
「まぁ、僕だけを抑えた状態だから、貴族達からすれば、自分達は、国王に守られてるって思うだろうけど」
「…自国の貴族を抑えるなら、アスだけじゃなく、リリアンナを馬鹿にした候爵令嬢達の親にも、圧を加えないといけなかった」
モーガンが、唇を撫でていた指を止めて、視線を向けると、アスベルトは、ニヤッと片頬を引き上げて笑った。
「やればできるじゃん」
「…ねぇ、アス、明日って時間ある?」
「明日?まぁ、あるにはあるけど」
「じゃ、迎えに行くから、ちょっと付き合ってよ」
「どこに?」
「それは、明日のお楽しみで」
モーガンがニコッと笑い、アスベルトが、不思議そうに首を傾げると、馬車が停まった。
「じゃ、また明日ね」
「あ、あぁ。じゃね」
手を振りながら、モーガンが、城内に走って行くのを見送り、馬車は、離宮に向けて走り出した。
「お帰りなさいませ。モーガン王子殿下」
「父上は?」
「国王陛下でしたら、書斎にいらっしゃいます」
頭を下げる執事を横目に、真っ直ぐ自室に向かっていたが、モーガンは、向きを変えて、書斎に足を向けて、立ち止まった。
「…いつも、ありがとう。これからも、よろしくね」
執事は、一瞬、驚いたように、瞳を大きく開いたが、優しく細めて、書斎に向かったモーガンの背中に頭を下げた。
〈コンコン〉
「誰だ」
「モーガンです。国王陛下」
「あぁ。入りなさい」
〈ガチャ、パタン〉
モーガンが中に入ると、国王は、机に向かって、書類を広げていた。
「国王陛下。お話したいことがあります」
「なんだ」
「リリアンナとの婚約を考え直して頂けませんか」
「何故だ」
「確かに、公爵令嬢との婚約は、王家にとって、有益だと思いますが、現在、公爵以下の貴族、特に、ターサナ候爵達に怪しい動きがあります。今、リリアンナの婚約が広まれば、サイフィス国の中心核である、三大公爵の勢力が傾く可能性があります」
「だから、婚約を考え直せと?」
「はい。一時的に、婚約を保留とすれば、ターサナ候爵他、様々な貴族達が行動を起こすでしょう」
「それを利用して、画策している貴族達を一掃するつもりか?」
「はい。そうすれば、サイフィス国は」
「モーガン、国とは、貴族が居なければ成り立たぬのだ。一掃すれば、それこそ、均衡が崩れ、我ら王家は」
「ウィルセン帝国、キアナ皇女との縁談と、変えることはできませんか」
国王の片眉が、ピクッと動くのを見つめ、モーガンは、グッと唇に力を入れた。
「キアナ皇女との縁談が出れば、帝国と友好関係であると、隣国に示すこともでき、王家としても、貴族達の画策を一掃しても、威厳を保つことができます」
「皇女を通して、帝国が、サイフィスに介入する可能」
「介入前に条約を結べれば、サイフィスの国政が、揺るがされることはないはずです」
「条約を結べなければ、介入されるやも」
「婚約状態であれば、深くは、介入できないはずです。更に、婚約状態を続けていれば、ウィルセンとの繋がりが保たれ、隣国の侵略や侵入も阻止できます」
黙った国王が、顎を撫でるのを見つめ、モーガンは、拳を握っていた手に力を入れた。
「…分かった。但し、リリアンナとの婚約を保留とするだけだ。その後は、ウィルセンの出方を見てから決めるとする」
「ありがとうございます」
「話は、それだけか?」
「はい」
「ならば、部屋に戻りなさい」
「はい。失礼致します」
〈ガチャパタン〉
自室に向かって歩きながら、モーガンは、小さく、ガッツポーズをすると、満たされたように、晴れやかな顔で、離宮がある方に視線を向けた。
〈…ウォーン〉
離宮での食事を終えてから、通面鏡を通り抜け、自室に戻ったアスベルトは、机に向かい、書類を確認し始めた。
〈バタン!〉
「お義兄!」
「っ!キーアー!ノックしろ!」
机に額を付け、胸を触れたアスベルトが、勢い良く、起き上がりながら振り向くと、皇女が、扉の前で、腰に手を当てて、仁王立ちしていた。
「そんなことより、リリちゃんのこと、ちゃんとやってくれるんだよね?」
「やるよ。やるから、あっち」
「いつやってくれるの?私、早くリリちゃんと会いたいんだけど」
「分かったから、あっち行ってろよ。仕事中」
「キアを邪険に扱ったら、リリちゃんに嫌われるわよ?」
扉に寄り掛かる皇后に、アスベルトは、大きなため息をついた。
「リリちゃん、年の近い友達居ないんでしょ?キアと仲良くしたそうだったもの」
「私も、リリちゃんと仲良くなりたいし、一緒に、お菓子作ったり、紐編みしたり、刺繍したりしたい」
「リリちゃん、お花が好きらしいから、庭園でピクニックも良いわね」
「楽しそう。ねぇ、お義兄~」
「わーったよ!この仕事終わったら、すぐ設置するから」
「いつ?いつ終わんの?」
「お前が、邪魔しなきゃ、ニ、三日で終わるよ」
「そしたら、五日後で良いんじゃない?」
「そうだね。んじゃ、お義兄、リリちゃんにも、それで約束しとくね~」
「はぁ!?おま!待て!キアナ!」
〈バタン〉
〈ゴン〉
机に額を打ち付けたアスベルトを見て、皇后は、クスクス笑った。
「遅れたら、きっと、リリちゃんも、残念がるわね?未来のお嫁さんの為に頑張るのよ?アス」
「母上!そんな」
〈パタン〉
「…だぁーーーー!!もう!!」
アスベルトは、頭を掻きむしりながら、絶叫するように声を出すと、書類を睨み付けた。
「っとにもう!!」
机に向かって、書類を確認しながら、頭を掻くアスベルトの背中を扉の隙間から見て、皇后と皇女は、クククッと喉を鳴らすように、小さく笑って、それぞれ自室に戻った。
〈…ウォーン〉
外が明るくなり始め、アスベルトは、フラフラと通面鏡を通り、離宮に戻ると、ベットに倒れ込んだ。
〈コンコン〉
「アス~。迎えに来たよ~」
〈…ガチャ〉
「アス?」
モーガンが、ヒョコッと顔を出すと、アスベルトは、静かに瞳を閉じた。
「ガン、少しだけ、寝かせて、僕、死ぬ」
瞳を閉じたまま、ボソボソと呟くアスベルトに近付き、ベットの横に屈むと、モーガンは、その顔を覗き込んだ。
「徹夜?」
アスベルトが、黙って、コクコクと頷くと、モーガンは、苦笑いを浮かべた。
「分かった」
アスベルトが、スースーッと静かな寝息を発て始めたのを見つめて、モーガンは、優しく瞳を細めた。
「…おやすみ」
モーガンが、開けっ放しのカーテンを締めようと、静かに、窓に向かったが、途中で立ち止まった。
「…でっか」
ベットと同じくらいの鏡を見上げて、モーガンが呟くと、上の方にある赤い石が、チカチカと点滅し始めた。
「…アス。アス、起きて。アス!」
「ん~…もうちょっと…」
「鏡が光って」
〈…ウォーン〉
モーガンが、急いで、アスを揺すり起こすと、白髪混じりの男性が、鏡から抜け出てきた。
「坊っちゃん、お時間でござ」
頭を下げて、顔を上げた男性とモーガンの視線がぶつかり合い、互いに、ピタッっと動きを止めた。
「…坊っちゃんに、何か」
「ロム、やめろ」
男性に、手のひらを見せながら、ムクッと起き上がったアスベルトが、乱暴に頭を掻いた。
「彼はモーガン。サイフィスの王子で、僕の友人だ。ガン、彼は、皇室に仕える執事だから、怖がらなくてもいいよ」
「して?そのご友人様が、何用で?」
「その…僕…」
「出掛ける約束してたんだ。てか、坊っちゃんって呼ばないで。もう、そんな年じゃないんだから」
アスベルトが、ベットから降りると、モーガンは、ベットに座って、二人の様子を見つめた。
「私共にとって、坊っちゃんは、いくつになっても、坊っちゃんでございます」
〈バシャ…バシャ〉
アスベルトが顔を洗うと、執事が、タオルを差し出した。
「…一体、いくつになったら、やめてくれんの?」
「そうですねぇ。坊っちゃんに、お子様が、お生まれになれば。でございますかね」
「…は?僕、結婚しても坊っちゃんって呼ばれんの?」
「ドルト様も、坊っちゃんが、お生まれになるまで、坊っちゃんでしたからね」
「父上も?」
「さようでございます。坊っちゃんが、お生まれになった時、ドルト様は、それはそれは、喜ばれておりました」
「なんとなく分かるかも…ガン?どうした?」
顔を拭きながら、鏡越しに、ニコニコと笑っているモーガンを見つめて、アスベルトは、不思議そうに首を傾げた。
「なんかいいなぁって」
「どこが。王室にだって、古くからいる使用人くらい、いるでしょ?」
「いるよ?でも、みんな、黙々と仕事をするだけで、父上の話なんてしないよ」
「それは、お寂しゅうございますね」
「そう、だね…凄く寂しい」
モーガンが寂しそうに、瞳を細めるのを見つめて、執事とアスベルトは、悲しそうに瞳を細めた。
「でも、お茶会の時に、エルテル公から、ちょっとだけ、話を聞いたんだ。父上と、三大公爵は、僕とローデンとデュラベルみたいだったって」
ニコッと笑ったモーガンを見て、二人も、優しく瞳を細めて、ニコッと笑った。
「とりあえず、公爵達の力を借りて、神殿や神官を調べることになったんだ」
「あ~だから、タラス公も呼び出したのか。これから、大変だね」
「そうだね…婚約のこと、僕から父上に伝えてみるよ」
「本当!?」
キラキラと瞳を輝かせて、パーっと明るい笑顔を浮かべて、アスベルトが、顔を近付けると、モーガンは、苦笑いを浮かべながら、一歩後ろに下がった。
「ただ、破棄できるかは分からないよ?父上も母上も、リリアンナが、好きみたいだから」
「それなら仕方ないか。とりあえず、婚約式は、延期になるでしょ?」
「そうだね。ありがと」
嬉しそうに微笑むモーガンに、アスベルトも、瞳を細めて、優しく微笑むと、その肩に腕を回した。
「ところで、アルベル公は?」
「アルベル公なら、リリアンナの所だよ」
皇后と楽しそうに話してるリリアンナの向かいに座り、ニコニコと笑ってるアルベル公爵を肩越しに、チラッと見てから、アスベルトは、モーガンに顔を寄せた。
「あのさ、アルベル公って、何が好きとか分かる?」
「さぁ?」
頬をポリポリと掻きながら、モーガンが、困ったように笑うと、アスベルトは、乱暴に頭を掻いた。
「だよね。あの人、掴みどころがなくて、正直、なんにも分かんないんだよねぇ」
「それなら、二人に聞くほうが、いいんじゃないかな?」
モーガンが手で促すと、アスベルトは、目の前で、息子を抱える二人に視線を向けた。
「三人は、幼少期からの仲だから、二人の方が、僕よりも知ってるだろうし。それに、エルテル公は、こう見えても、女性の好みも熟知してるから」
「そうなの?」
「恋愛や女の事なら、キースに聞けば、大体は、なんとかなる。俺も、シューベルスも、その辺の事は、からっきしで、キース頼みだったからな」
「ご享受、お願いします」
アスベルトが頭を下げると、エルテル公爵は、フンと鼻を鳴らした。
「タダでは、教えられないね。とりあえず、殿下の知ってる帝国式魔法術、その魔法具の設計構成、帝国が所有している魔法具の詳細、それらを全て話してくれるなら、教えてもいいが」
「…それだけ?」
パチパチと、何度も瞬きをして、コテンと、不思議そうに、首を傾げたアスベルトを見て、エルテル公爵は、瞳を大きく開いた。
「本当に、それだけでいいの?」
「まぁ、とりあえずは。だが、無理にとは」
「無理でもなければ、普通に、全部開示出来るけど?」
エルテル公爵が、ポカンと、口を半開きにして固まると、アスベルトは、モーガンに視線を向けた。
「サイフィスでは、エルテル公が、言ってたことは、全て、国王の許可がないと、開示できないんだよ」
「そうなんだ。そうなると、開示するにも、手続きや選考なんかもあるんだね?」
「そう。エルテル公は、国王の許可が出た情報を開示するときに、書類選考や文章制作する大臣職に就いてるんだ」
「なるほどね」
「ついでに、タラス公は、サイフィスの五つある騎士団の全てをまとめる統括職で、アルベル公は、この国の宰相職なんだよ」
「あ…なんか、アルベル公に、バレた理由が分かった」
「皇太子殿下の本性なら、すぐに気付いてたよ」
「…タラス公も?」
表情も変えず、首を傾げたエルテル公爵から、アスベルトが、視線を移すと、タラス公爵は、困ったように、ニカッと笑った。
「悪いな。仕事柄、色んな奴見てきたからさ」
「そんな…上手くできてたと思ったのに」
「大丈夫だよ。父上は、どうか分からないけど、母上達は騙せてるから」
「僕の狙いはそこじゃないの!」
悔しそうに、地団駄を踏むアスベルトを見て、モーガンは、一瞬、驚いたように、瞳を大きく開いたが、ケタケタと、大きな声で笑った。
「本当の殿下は、凄く素直なんだね」
「まぁね」
ニカッと笑うアスベルトを見つめ、モーガンは、寂しそうに、瞳を細めながら、小さく微笑んだ。
「いつか、リリアンナのように、僕も、愛称で呼べたらいいな」
「別に、呼んでいいよ」
モーガンが、パチパチと、何度も瞬きをすると、アスベルトは、大きなため息をついた。
「ウィルセンだと、みんなして、僕のこと、坊っちゃんって呼ぶんだよ。それに比べたら、愛称で、呼ばれたほうが、まだいいよ」
「その年で坊っちゃん」
「ちと、キツイな」
「でしょ?やめろって言ってんのに、聞いてくれないし」
「でも、愛されてる感じがするね。僕なんか、ずっと、王子か殿下って呼ばれてるし」
「親は、愛称で呼んでくれるでしょ?」
「さぁ?記憶の中では、呼ばれたことないかな」
「まるで他人だね。二人は?流石に、屋敷だと呼ぶでしょ?」
「この国じゃ、男親は、ほとんど愛称を呼ばないし、男児になると、母親が、小さい時に使うくらいで、ある程度になったら、呼ばれねぇよ」
「そっか。だから、アルベル公も、リリのこと、愛称じゃなかったんだ…てか、モーガン殿下の愛称って、なに?」
「確か、ガンだったと思うけど」
「なら、これからは、ガンって呼ぶよ」
ニカッと笑ったアスベルトを見つめて、モーガンは、キラキラと瞳を輝かせた。
「ありがとう。アス」
互いに、ニコッと笑うのを見て、二人は、安心したように微笑んだ。
「んじゃ、俺らは、そろそろ、お暇するぞ。このバカ息子の事もあるからさ」
「モーガン殿下は、どうしますか?」
「僕は、もう少し居るよ。アスの義妹も見てみたいから」
「あまり、遅くならない内に、お帰り下さいね?」
「分かってるよ。ありがとう」
アスベルトとモーガンが、笑いながら、ガゼボに向かうのを見送り、エルテル公爵とタラス公爵は、それぞれ、ローデンとデュラベルを抱えたまま、馬車に向かった。
「あの年で、ありゃ相当だな」
「あぁ。かなりの修練を積んでるようだね。出来れば、敵に回したくない」
「あのまんま、仲良くやってくれんなら、万々歳なんだけどなぁ」
「それには、この子らをなんとかしなければ」
「それな。一番の問題が、自分の子供だなんて、なんだかぁ」
「仕方ないことさ」
「だな。んじゃ、またな」
「あぁ。気を付けて」
それぞれの馬車に乗り込み、ガタガタと揺られながら、公爵達は、屋敷に向かった。
『一番右側の紐で、他の紐をまとめるようにクルッとして、下から輪っかみたいになってる隙間に紐を入れて、詰めるようにして引いて。そうそう。そしたら、同じように、ずっと編んでいくのよ。上手ね』
「…これは、どうゆう状況?」
カップや皿に混ざり、色鮮やかな紐や鉱石、小瓶や小さな蓋付きの容器、更には、シルクやレース、リボンや刺繍セットなど、様々な物が散乱していた。
「殿下の母君のおかげだよ」
疲れたように額に触れ、アルベル公爵が、皇后に視線を向けると、アスベルトは、大きなため息をついた。
「母上。これは、一体、どうゆうこと?」
『あら。もう戻ったの?早かったのね』
「アス、おかえりなさい」
パーっと明るい笑顔を向けたリリアンナに、アスベルトは、眉間にシワを寄せながら、目尻を下げて、怒ったような、困ったような、複雑な顔をした。
「この通信鏡って、すごいのね?小さな物なら、すぐ相手に届くなんて」
「魔力が使えればね。教えてなかったよね?」
「お義母さんに、教えてもらったの」
「そう。ちゃんと送れた?」
「リボンやコサージュなら、送れるようになったわ」
〈チョキン〉
紐編みを作り上げると、リリアンナは、通信鏡の上に置いて、包むように触れた。
スーッと光を放つと、通信鏡の中に、出来上がった紐編みが吸い込まれ、静かに光が消えた。
「どうです?」
『リリちゃん、凄く上手よ。これなら、贈り物にしても、恥ずかしくないわよ』
「やった」
『ちょっと、教えただけなのに。ホント凄いわね』
「ありがとうございます」
リリアンナが、嬉しそうに笑ってるのを見て、アルベル公爵は、眉尻を下げながらも、嬉しそうに微笑んだ。
「リリ、そろそろ、終わりにしないかい?」
『そうね。そろそろ、暗くなるものね』
「…まだ、やりたいです」
「リリアンナ、アスも、そろそろ、離宮に戻らないと、色々と問題になっちゃうから」
プクッと頬を膨らませて、唇を尖らせたリリアンナを見て、モーガンも、ポリポリと、頬を掻きながら、困ったような、嬉しいような微笑みを浮かべた。
「リリ、覚醒したばかりの魔力で、何回も、通信鏡に物を通してたら、明日が辛くなるよ?」
「どうして?」
「覚醒したばかりの魔力は、とても不安定なんだ。何回も使ってたら、体に負担が掛かるんだよ」
『アス、リリちゃんを甘くみない方がいいわよ?魔力、かなり安定してるから』
「…確かに」
ジーッと見つめ、納得したようだが、不思議そうに首を傾げたアスベルトに、リリアンナは、不安そうでありながら、安心したような、複雑な顔で、首を傾げた。
「本当?」
「本当だよ?さっきまで、かなり乱れてたのに…何かしたの?」
「アスが教えてくれたみたいに、手じゃなくて、足元から、拾って、回して、流してっしてみたの」
リリアンナが、嬉しそうに、瞳を細めて、優しい微笑みを浮かべると、アスベルトと皇后は、驚いて、瞳を大きく開いた。
「そしたら、ずっと、体があったかくて、羽が生えたみたいに、軽くなって、なんだか、元気になったの。だから、もっと色んなこと、教えてほしいなって。もっと、色んなことしたいって、思ったの」
リリアンナが、花が咲いたような笑顔を見せると、アスベルトは、薄っすらと、頬を赤くしながら、困ったように微笑んだ。
「リリは、本当に凄いね」
『ホントね。リリちゃんなら、通面鏡も使えるかもしれないわね』
リリアンナが首を傾げると、皇后は、ニコッと笑った。
『通面鏡を使えたら、好きな時に、好きなだけ、ウィルセンに来れるわよぉ?』
リリアンナの瞳が、一段とキラキラと輝き、三人は、視線を合わせて、小さく微笑みながら、フッと、鼻で小さなため息をついた。
「母上。それは、アルベル公の了承も必要でしょ?」
『大丈夫よ。リリちゃんのお願いなら、アルベル公爵だって、断れないでしょ』
「パパ」
リリアンナが、キラキラと輝く瞳で、真っ直ぐ見つめると、アルベル公爵は、両手を上げて、苦笑いを浮かべた。
「リリの好きにしなさい」
「ありがとう!パパ大好き!」
胸の前で指を組み、本当に嬉しそうに笑うリリアンナを見て、アルベル公爵は、ほんのり頬を赤くして、小さく頷いた。
『リリちゃんが欲しいなら、送ってあげるわよ?』
「欲しいです」
『いいわよぉん。後で、アスの所に送るから、頃合いを見て設置してあげてね?』
「分かったよ。ところで、通面鏡って、結構大きいけど、置けそうな場所ある?」
リリアンナが首を傾げると、アスベルトは、座りながら、眉尻を下げて、困ったように微笑んだ。
「姿見よりも大きいんだ。公爵とリリが、並んでも大丈夫なくらいあるかな。実寸が知りたいなら、今、僕が使わせてもらってる離宮にもあるから、見に来る?」
「いつの間に?」
「持って来たんだ」
「あ~だから、あんな大荷物だったんだね?」
「そう。城だったら、どうしようかなって、ちょっと悩んだけど、離宮に通されたから、普通に使ってるよ」
「…もしかして、行き来してる?」
「そうだけど?」
モーガンとアルベル公爵が、一瞬、キョトンと、間の抜けた顔をしたが、ハハハと、同時に、声を出して笑った。
「なるほどね」
「余程、リリに会いたかったようだな」
リリアンナと視線を合わせて、アスベルトが首を傾げると、二人は、ふぅ~と息を吐き出してから、静かに微笑んだ。
「アルベル公、出来れば、力を貸して欲しいんだけど」
「出来る限り、ご協力しますが、こればかりは、殿下が、どうにかしなくて頂かないと、私だけでは、なんともなりませんよ」
「そうだね…できるかな?」
「今から弱気になっていては、出来ることも出来なくなりますよ」
「そうだね。ありがとう、アルベル公」
「いえ。申し訳ございません、モーガン殿下」
視線を合わせて、クククッと、小さく笑う二人を見て、アスベルトとリリアンナは、首を傾げた。
『…ママ~?クッキー焼いてみたんだけど。あれ?パパは?』
『今、調べ物中よ。そうだ。キア、ちょっと、こっち来て』
〈ザザッ〉
皇后の隣に、黒髪を後ろに結ったキアナ・ダルトン・ウィルセン皇女が座った。
『アスが言ってたお嫁さんの話、覚えてる?』
『どっか、国政が傾いた隣国に、いるんだとか言ってたやつ?』
『サイフィスに居たのよ』
『うそだぁ~』
『ホント、彼女が、そのお嫁さんなんだって』
皇女のハイグレーのように見えるが、薄い桃色の瞳が向けられ、リリアンナは、ニコッと笑った。
「初めまして。リリアンナと申します。リリと呼んで下さい」
『キアナです。キアと呼んで下さい』
ジーッとリリアンナを見つめてから、皇女は、皇后の腕を引っ張った。
『ねぇ、ママ、ホントなの?ホントに、リリちゃんが、お義兄のお嫁さん?』
『らしいわよ?』
『…やったーー!!』
〈ガタガタガタン!ザザッ〉
皇女が、皇后に抱きつくと同時に、映像が乱れた。
「おい!キア!暴れんなよ!」
『ごめんごめん』
映像が戻ると、皇女は、キラキラと、瞳を輝かせた。
『リリちゃん、いくつ?』
「十歳になりました」
『年齢も近い…お義兄サイコー!』
「お前の為じゃねぇから」
『なんでもいいよ。リリちゃんは、お菓子好き?』
「えぇ。好きですよ?」
『じゃ、これ、よかったら食べて?私が作ったの』
通信鏡が光を放つと、焼き立てのクッキーが現れた。
「お前さ~」
〈サクッ〉
「…美味しい~」
クッキーを見つめて、キラキラと、瞳を輝かせながら、リリアンナが、皇女に視線を向けると、アスベルトは、目元を手で覆い、大きなため息をついた。
『でしょでしょ?今日のは、上手く出来たんだよ~』
「これ、木苺?」
『そう。ハナバナのエッセンスとモニラのエッセンスを数滴入れたけど、いい感じでしょ?』
「凄くいい。私もできるかな?」
『リリちゃんなら、すぐ出来るわよ。刺繍も、紐編みも、すぐに出来たんだから』
『そうなの?』
『リリちゃん、ホントに器用で飲み込みが早いのよ。見て、これ』
『…リボンに小花が刺繍してある。凄い』
『ね?紐編みも、ちょっと教えたらこれよ?』
『上手…ねぇ、これ貰ってもいい?』
「えぇ。どうぞ」
『やった!今度、私が作ったらあげるね?』
『そうだ。今度、みんなで一緒に作りましょうか?』
『賛成!リリちゃんは、いつ、ウィルセンに来るの?』
『後で、通面鏡を送ることにしたから』
「…アス、これ、どうするの?」
アスベルトが、テーブルに突っ伏して、頭を抱えると、アルベル公爵とモーガンは、苦笑いを浮かべた。
「こうなったら、もう、どうしようもない」
「僕、そろそろ、本当に帰らないと、まずいんだけど」
「僕だって帰りたいよ。アルベル公、止めてよ」
「こうも矢継ぎ早に話されると、流石に、私でも割り込めない」
「父親でしょうが。娘を止めるのも、親の仕事」
「今のリリを止められるとでも?」
三人が視線を向けても、リリアンナは、映像の皇后と皇女を相手に、キラキラと、瞳を輝かせながら笑っていた。
「どうにかならない?」
「仕方ない。父上に頼んでみるか」
〈カチ…ザザッザーッ〉
『…どうした?』
眼鏡を掛けた皇帝が映ると、アスベルトは、頭を掻いた。
「父上、ちょっと、母上達を止めてくれない?」
『何した』
「キアまで、母上と一緒になっちゃって。お喋りが止まらないんだよ」
『なるほどな』
「それに、母上が、リリに通信鏡の使い方教えたらしくて」
『それで、侍女達が走り回ってたのか』
「もう、僕らじゃ、どうにもならないんだよ」
『仕方ないな。ちょっと待ってろ』
〈ザザッ…ザー…パッチン〉
「すぐに父上が止めてくれると思うから、少し待ってて」
「陛下には、感謝してもしきれない」
「だね。これで帰れるね」
「そうとも言い切れないんだよねぇ」
「なんで?」
『ベラ、いつまで…これは、一体』
『パパ!見て見て!リリちゃんから貰ったの』
『紐編みか…上手く出来てるな』
『あと、これも、リリちゃんの手作りよ?』
『そうか。上手いもんだ。ところで、ベラ、そろそろ』
『パパ、ひど~い。リリちゃん、初めて作ったんだよ?』
『それは』
『キア、ドルは、こうゆうのに興味ないから、仕方ないのよ』
『そうゆう訳じゃ』
『確かにね。私が、一生懸命作ったクッキーも、美味いな。しか言わないもんね』
『それに、私があげたハンカチも、良いねってしか言わなかったのよ?』
『ひど~い。リリちゃんは?どう思う?』
「一生懸命作ったなら、少しは、褒めて欲しいかな」
『ほら~。ちゃんと褒めきゃダメなんだよ?』
『だから、ちゃんと褒めて』
『なんでも、軽くハイハイって感じなのが、イヤなのよ。ねぇ?』
「…皇帝でも、敵わないらしいね」
「仕方ないんだよ。アルベル公なら分かるでしょ」
「痛い程に」
〈サクッ〉
「…あ…美味い…」
モーガンが呟くと、アスベルトは、苦笑いを浮かべながら、ヒョイっと、クッキーを摘んだ。
「なんだかんだ言って、キアの作るお菓子って、美味いんだよね」
〈サクッ〉
『当たり前でしょ?愛情込めて作ってるんだから』
「お前の愛情より、リリの愛情が欲しい」
『アスも、まだまだねぇ。女の愛情が欲しかったら、望みを叶えないと』
『そうだよ。早く、リリちゃんと会わせてよ』
『早く会いたいなら、そろそろお開き』
『私、リリちゃんと喋ったの少しだけなんだけど』
「また話せば良いだけでしょ」
『お義兄は、すぐ側に居るんだからいいじゃん』
『そうよ。なんなら、この通信鏡、リリちゃんにあげてもいいのよ?』
『ベラ、そんなホイホイと』
『そしたら、リリちゃんと、いつでも話せるね?』
「あのさ、一応、通信鏡も、貴重な」
『パパも、お義兄も、ケチだよね~』
『そうね~。私達は、リリちゃんと仲良くしたいのに。通信鏡一つで、文句ばっ』
『あーーもう!アス、その通信鏡は、リリにくれてやれ。あとで、新しいの出してやるから』
「分かった」
「…いいの?」
「仕方ないよ。僕のお古だけど、それで、リリがいいならあげるよ」
「ありがとう」
嬉しそうに通信鏡を見つめるリリアンナを見て、三人は、諦めたように、小さく微笑んだ。
『それと、通面鏡も、お願いね?』
『あれは、そんな簡単に』
『そう。リリちゃんが、頑張って、アルベル公に』
『だーーーもう!アス!』
「持って来たのを設置し直せばいい?」
『すまんな。リリ、とりあえず、しばらくは、アスのお古で我慢してくれ。その内、新しいのを用意して送る』
『やったね。早く会いたいね』
「私も。早く会いたい」
リリアンナの細めた瞳が、キラキラと輝くと、アスベルトは、小さなため息をついた。
「…お嬢様、風も冷たくなってまいりましたので、こちらをどうぞ」
メイドが、リリアンナの肩にブランケットを掛けると、皇女は、瞳を大きく開いた。
『リリちゃん、外にいたの?』
「本日は、お庭のガゼボにて、皆様と、お茶会でしたので」
リリアンナの後ろに侍女が立つと、皇女と皇后は、口元に手を当てた。
『あらやだ。早く言ってくれれば、良かったのにぃ』
『ごめんね?部屋だと思ってたから、つい』
「二人に感謝だね」
リリアンナの後ろで、メイドと侍女が、ニコッと笑うと、モーガンは、皇女に視線を向けた。
「…明るくて可愛い子だね」
「でしょ?」
「でも、ちょっと大変そう」
「それな。うるさいけど、ちゃんと節度は弁えるほうだから」
「これで?」
「ごめん。うそ。正直、ずっと一緒だと疲れる」
「でも、楽しいでしょ?」
「まぁね」
「そうゆうの羨ましいなぁ」
「いる?」
「ちょっと考える」
〈ザザッ〉
『娘はやらんぞ!』
巨大な皇帝の映像が現れ、アスベルトとモーガンが、ビクッと肩を揺らすと、辺りに明るい笑い声が響いた。
『ちょっとパパ!私の婚期遠ざけないでよ!』
『だが、サイフィスは、今』
『それとこれとは話が別よ!私が結婚できなかったらパパのせいね!』
『それは』
「…アルベル公の寛大さが、身に沁みるよ」
アルベル公爵が、ニコッと笑って、カップを傾けると、皇帝は、我に返ったように、ハッと、大きく息を吐いた。
『アルベル公、愚息が、色々と申し訳ない』
「いえ。お気になさらず。ただ、私も親ですので、それなりの抵抗はしますが、宜しいですか?」
『大いに結構。アルベル公が気の済むまでやってくれ』
「ありがとうございます」
アルベル公爵が、ニコッと微笑むのを見て、アスベルトは、ゴクッと喉を鳴らしながら、唾を飲み込んだ。
「
皆様、そろそろ、お時間でございます。これにて、お開きとさせて頂きたいと思いますが、いかがでしょうか?」
リリアンナの後ろで、執事が、ニコッと笑うと、皇后と皇女も、ニコッと笑った。
『そうね。リリちゃん、今日は楽しかったわ。ありがとう』
『今度は、いっぱい、お話しましょうね?またね~』
「はい。また今度」
手を振る二人に、リリアンナも手を振り返すと、スーッと映像が消え、通信鏡から光が消えた。
〈パチン〉
「ありがとう。アス」
「どういたしまして」
通信鏡を胸に抱いて、嬉しそうに微笑んだリリアンナを見つめて、アスベルトが、髪に触れようとすると、アルベル公爵が、大きな咳払いをした。
「リリ、二人も、お帰りにるから、見送りしようか」
「そうね」
アルベル公爵が立ち上がると、リリアンナは、スッと立ち上がり、その手を自然と繋いだ。
「さぁ、行きましょうか」
アルベル公爵が視線を向けて、得意げな顔をすると、アスベルトは、行き場を失った手に拳を作り、悔しそうに下を向いた。
「アス、我慢、我慢」
「ん、ん。頑張れ、僕」
モーガンに、ポンポンと、背中を軽く叩かれ、歯を食いしばりながら、アスベルトも、立ち上がり、馬車に向かった。
「今日は楽しかったよ。リリアンナは?」
「私も。とても楽しかったです。アスは?」
「僕も。なんやかんやで楽しかったよ」
アスベルトが、ニカッと笑うと、モーガンとリリアンナも、ニコッと笑った。
そんな三人を見つめて、アルベル公爵や執事、侍女やメイド達も、穏やかに微笑んだ。
「今度は、ウィルセンの花園にでも行く?それなりに広いから、あの二人が一緒でも大丈夫だろうし」
「二人って、ローデンとデュラベルのこと?」
「そう」
「二人が一緒だと、僕が疲れるからイヤだ」
「…ガン、変わり過ぎじゃない?」
「これが、本当の僕なの」
胸を張って得意げに、ニカッと笑うモーガンに、リリアンナとアスベルトが、クスッと笑うと、周りからも、クスクスと笑い声が溢れた。
「まぁいいや。それじゃ、また今度ね?準備出来たら、また来るよ」
「そしたら、僕も呼んでね?」
「どうかな」
「アスが呼ばないなら、私が呼ぶので」
「え~、せっかくのデートが」
「僕がいれば、アルベル公も、簡単に許してくれるよ?」
「その時は頼むよ」
「任せて。じゃね。リリアンナ」
「またね。リリ」
「二人とも、またね」
馬車に乗り込み、ニコッと笑うリリアンナが手を振ると、二人も手を振った。
「…アスの恋路は、前途多難だね」
「仕方ないさ。男の最大の敵は、父親らしいからな」
「分かる気がする。アルベル公も、ドルト陛下も、一筋縄ではいかない感じする」
「それを超えて、好きな子と結ばれるってのも、いいんじゃない?」
「確かにね。ところで、キアナ皇女って、養女だよね?」
「そうだよ?もうないけど、ヴァリンパって小国の公爵子息と叔母上の子」
「ヴァリンパって、薬師と聖者の?」
「そう」
「なるほど…ヴァリンパの公爵子息とルアンダの公爵令嬢の子…母上に話しても問題ないか…」
「お。本気?」
指で唇を撫でていたモーガンが、真っ赤になって、視線を泳がせると、アスベルトは、嬉しそうに瞳を細めた。
「お互い、助け合って頑張ろうな?」
「ありがとう…まずは、エルテル公を味方しようか」
「だね。だけど、タラス公のほうが、色々、聞いてくれそうだよね?」
「なら、アスはタラス公、僕はエルテル公で、どうかな?」
「よし。それでいこう」
二人は、しっかりと握手を交わして、力強く頷き合った。
「ところで、ガンって、魔法使える?」
「少しなら」
「剣は?」
「ちょっと」
視線を泳がせながら、ポリポリと、頬を掻いたモーガンを見て、アスベルトは、額に触れた。
「ガン、先に、そっちだわ」
「だよね~」
「運動苦手?」
「いや?そんな苦手でもないんだけど」
「…なんかあった?」
アスベルトが、ジーッと見つめると、モーガンは、困ったように、鼻から、フーっと息を吐き出した。
「アスって、凄いよね」
「何が?」
「ちょっと話しただけで、色んなことが分かるでしょ?」
「色んなって、ただ直感みたいなもんだから、何かあったとしか分かんないし」
「それでも、分かるんだから凄いよ。どうしたら、そんな風にできるの?」
「色んな人と話す。身分とか、仕事とか、性別も年齢も関係なく、とにかく、沢山の人と話してみる。そしたら、なんとなく、こうゆうときは、何かあるなって分かるようになるよ」
「アスは、どんな人達と話したの?」
「メイド、侍女、執事、庭師、料理人、騎士、魔法使い、薬師、調香師、絵師。とりあえず、その辺にいる人達と話したね」
「よく、陛下や殿下に怒られなかったね?」
「なんで?」
「なんでって、僕は、使用人と話すと、父上や母上に怒られてたから」
「あ~なるほど。威厳の為ってとこかな?」
「そう。王族としての威厳」
「まず、威厳の使い方が違うね。父上と神殿のこと話したとき、どうだった?」
「あれは凄いね。自然と膝着いちゃったよ」
「あれが本当の威厳。リリや僕と話してるときは?」
「普通に、カッコいいなぁって」
「でしょ?それに、僕だって、アルベル公の執事と話してたし、母上だって、侍女と話してたでしょ?」
「…そっか。要は、何かをしようとするときに、きちんとできればいいんだね?」
「そう。例えば、僕が、お茶会でやったことは、序列を乱そうとしたやつを皇太子が否めた。つまり、皇太子としての地位を使って、公爵令嬢を陥れた令嬢を諌める為に、親である候爵を引っ張り出したんだよ」
「そこで、国王は、皇太子を抑えることで、周りの貴族達に王としての威厳を見せた」
「まぁ、僕だけを抑えた状態だから、貴族達からすれば、自分達は、国王に守られてるって思うだろうけど」
「…自国の貴族を抑えるなら、アスだけじゃなく、リリアンナを馬鹿にした候爵令嬢達の親にも、圧を加えないといけなかった」
モーガンが、唇を撫でていた指を止めて、視線を向けると、アスベルトは、ニヤッと片頬を引き上げて笑った。
「やればできるじゃん」
「…ねぇ、アス、明日って時間ある?」
「明日?まぁ、あるにはあるけど」
「じゃ、迎えに行くから、ちょっと付き合ってよ」
「どこに?」
「それは、明日のお楽しみで」
モーガンがニコッと笑い、アスベルトが、不思議そうに首を傾げると、馬車が停まった。
「じゃ、また明日ね」
「あ、あぁ。じゃね」
手を振りながら、モーガンが、城内に走って行くのを見送り、馬車は、離宮に向けて走り出した。
「お帰りなさいませ。モーガン王子殿下」
「父上は?」
「国王陛下でしたら、書斎にいらっしゃいます」
頭を下げる執事を横目に、真っ直ぐ自室に向かっていたが、モーガンは、向きを変えて、書斎に足を向けて、立ち止まった。
「…いつも、ありがとう。これからも、よろしくね」
執事は、一瞬、驚いたように、瞳を大きく開いたが、優しく細めて、書斎に向かったモーガンの背中に頭を下げた。
〈コンコン〉
「誰だ」
「モーガンです。国王陛下」
「あぁ。入りなさい」
〈ガチャ、パタン〉
モーガンが中に入ると、国王は、机に向かって、書類を広げていた。
「国王陛下。お話したいことがあります」
「なんだ」
「リリアンナとの婚約を考え直して頂けませんか」
「何故だ」
「確かに、公爵令嬢との婚約は、王家にとって、有益だと思いますが、現在、公爵以下の貴族、特に、ターサナ候爵達に怪しい動きがあります。今、リリアンナの婚約が広まれば、サイフィス国の中心核である、三大公爵の勢力が傾く可能性があります」
「だから、婚約を考え直せと?」
「はい。一時的に、婚約を保留とすれば、ターサナ候爵他、様々な貴族達が行動を起こすでしょう」
「それを利用して、画策している貴族達を一掃するつもりか?」
「はい。そうすれば、サイフィス国は」
「モーガン、国とは、貴族が居なければ成り立たぬのだ。一掃すれば、それこそ、均衡が崩れ、我ら王家は」
「ウィルセン帝国、キアナ皇女との縁談と、変えることはできませんか」
国王の片眉が、ピクッと動くのを見つめ、モーガンは、グッと唇に力を入れた。
「キアナ皇女との縁談が出れば、帝国と友好関係であると、隣国に示すこともでき、王家としても、貴族達の画策を一掃しても、威厳を保つことができます」
「皇女を通して、帝国が、サイフィスに介入する可能」
「介入前に条約を結べれば、サイフィスの国政が、揺るがされることはないはずです」
「条約を結べなければ、介入されるやも」
「婚約状態であれば、深くは、介入できないはずです。更に、婚約状態を続けていれば、ウィルセンとの繋がりが保たれ、隣国の侵略や侵入も阻止できます」
黙った国王が、顎を撫でるのを見つめ、モーガンは、拳を握っていた手に力を入れた。
「…分かった。但し、リリアンナとの婚約を保留とするだけだ。その後は、ウィルセンの出方を見てから決めるとする」
「ありがとうございます」
「話は、それだけか?」
「はい」
「ならば、部屋に戻りなさい」
「はい。失礼致します」
〈ガチャパタン〉
自室に向かって歩きながら、モーガンは、小さく、ガッツポーズをすると、満たされたように、晴れやかな顔で、離宮がある方に視線を向けた。
〈…ウォーン〉
離宮での食事を終えてから、通面鏡を通り抜け、自室に戻ったアスベルトは、机に向かい、書類を確認し始めた。
〈バタン!〉
「お義兄!」
「っ!キーアー!ノックしろ!」
机に額を付け、胸を触れたアスベルトが、勢い良く、起き上がりながら振り向くと、皇女が、扉の前で、腰に手を当てて、仁王立ちしていた。
「そんなことより、リリちゃんのこと、ちゃんとやってくれるんだよね?」
「やるよ。やるから、あっち」
「いつやってくれるの?私、早くリリちゃんと会いたいんだけど」
「分かったから、あっち行ってろよ。仕事中」
「キアを邪険に扱ったら、リリちゃんに嫌われるわよ?」
扉に寄り掛かる皇后に、アスベルトは、大きなため息をついた。
「リリちゃん、年の近い友達居ないんでしょ?キアと仲良くしたそうだったもの」
「私も、リリちゃんと仲良くなりたいし、一緒に、お菓子作ったり、紐編みしたり、刺繍したりしたい」
「リリちゃん、お花が好きらしいから、庭園でピクニックも良いわね」
「楽しそう。ねぇ、お義兄~」
「わーったよ!この仕事終わったら、すぐ設置するから」
「いつ?いつ終わんの?」
「お前が、邪魔しなきゃ、ニ、三日で終わるよ」
「そしたら、五日後で良いんじゃない?」
「そうだね。んじゃ、お義兄、リリちゃんにも、それで約束しとくね~」
「はぁ!?おま!待て!キアナ!」
〈バタン〉
〈ゴン〉
机に額を打ち付けたアスベルトを見て、皇后は、クスクス笑った。
「遅れたら、きっと、リリちゃんも、残念がるわね?未来のお嫁さんの為に頑張るのよ?アス」
「母上!そんな」
〈パタン〉
「…だぁーーーー!!もう!!」
アスベルトは、頭を掻きむしりながら、絶叫するように声を出すと、書類を睨み付けた。
「っとにもう!!」
机に向かって、書類を確認しながら、頭を掻くアスベルトの背中を扉の隙間から見て、皇后と皇女は、クククッと喉を鳴らすように、小さく笑って、それぞれ自室に戻った。
〈…ウォーン〉
外が明るくなり始め、アスベルトは、フラフラと通面鏡を通り、離宮に戻ると、ベットに倒れ込んだ。
〈コンコン〉
「アス~。迎えに来たよ~」
〈…ガチャ〉
「アス?」
モーガンが、ヒョコッと顔を出すと、アスベルトは、静かに瞳を閉じた。
「ガン、少しだけ、寝かせて、僕、死ぬ」
瞳を閉じたまま、ボソボソと呟くアスベルトに近付き、ベットの横に屈むと、モーガンは、その顔を覗き込んだ。
「徹夜?」
アスベルトが、黙って、コクコクと頷くと、モーガンは、苦笑いを浮かべた。
「分かった」
アスベルトが、スースーッと静かな寝息を発て始めたのを見つめて、モーガンは、優しく瞳を細めた。
「…おやすみ」
モーガンが、開けっ放しのカーテンを締めようと、静かに、窓に向かったが、途中で立ち止まった。
「…でっか」
ベットと同じくらいの鏡を見上げて、モーガンが呟くと、上の方にある赤い石が、チカチカと点滅し始めた。
「…アス。アス、起きて。アス!」
「ん~…もうちょっと…」
「鏡が光って」
〈…ウォーン〉
モーガンが、急いで、アスを揺すり起こすと、白髪混じりの男性が、鏡から抜け出てきた。
「坊っちゃん、お時間でござ」
頭を下げて、顔を上げた男性とモーガンの視線がぶつかり合い、互いに、ピタッっと動きを止めた。
「…坊っちゃんに、何か」
「ロム、やめろ」
男性に、手のひらを見せながら、ムクッと起き上がったアスベルトが、乱暴に頭を掻いた。
「彼はモーガン。サイフィスの王子で、僕の友人だ。ガン、彼は、皇室に仕える執事だから、怖がらなくてもいいよ」
「して?そのご友人様が、何用で?」
「その…僕…」
「出掛ける約束してたんだ。てか、坊っちゃんって呼ばないで。もう、そんな年じゃないんだから」
アスベルトが、ベットから降りると、モーガンは、ベットに座って、二人の様子を見つめた。
「私共にとって、坊っちゃんは、いくつになっても、坊っちゃんでございます」
〈バシャ…バシャ〉
アスベルトが顔を洗うと、執事が、タオルを差し出した。
「…一体、いくつになったら、やめてくれんの?」
「そうですねぇ。坊っちゃんに、お子様が、お生まれになれば。でございますかね」
「…は?僕、結婚しても坊っちゃんって呼ばれんの?」
「ドルト様も、坊っちゃんが、お生まれになるまで、坊っちゃんでしたからね」
「父上も?」
「さようでございます。坊っちゃんが、お生まれになった時、ドルト様は、それはそれは、喜ばれておりました」
「なんとなく分かるかも…ガン?どうした?」
顔を拭きながら、鏡越しに、ニコニコと笑っているモーガンを見つめて、アスベルトは、不思議そうに首を傾げた。
「なんかいいなぁって」
「どこが。王室にだって、古くからいる使用人くらい、いるでしょ?」
「いるよ?でも、みんな、黙々と仕事をするだけで、父上の話なんてしないよ」
「それは、お寂しゅうございますね」
「そう、だね…凄く寂しい」
モーガンが寂しそうに、瞳を細めるのを見つめて、執事とアスベルトは、悲しそうに瞳を細めた。
「でも、お茶会の時に、エルテル公から、ちょっとだけ、話を聞いたんだ。父上と、三大公爵は、僕とローデンとデュラベルみたいだったって」
ニコッと笑ったモーガンを見て、二人も、優しく瞳を細めて、ニコッと笑った。
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