2 / 11
#2
しおりを挟む
モヤモヤとしたまま、日々を過ごしていたが、ある日の休日。
博文がバイトに行き、鷹志も出掛け、文太は休日出勤で、屋敷には久孝だけが残っていた。
部屋に籠っていても、時間を持て余す久孝は、屋敷をフラフラしていた。
そんな久孝は、葉菜が、書斎と呼ばれ、ただ本が詰め込まれている部屋を掃除してるのを見付けた。
乱雑に置かれた本の埃を落とし、整頓して、棚に仕舞い、床を掃き、窓ガラスまで拭き始めた。
そんな葉菜の背中を見つめ、久孝は、何とも言えない気持ちになった。
こんなにも、良く働き、健気な葉菜が、鷹志に酷く扱われなきゃならない。
そんな思いが、久孝を動かしていた。
「ハ~ナちゃん」
本心を隠し、明るい声で、ニコニコする久孝を見て、葉菜は、驚いたような気まずいような顔をした。
「何してるの?」
葉菜が、持っていた雑巾を見せると、久孝は、側にあったホウキを手にした。
「一人じゃ大変でしょ。俺も手伝うよ」
久孝の手から、ホウキを奪い、激しく首を振った 菜を見て、久孝は、その姿に意地悪したくなった。
「どうして?別に良いじゃん」
最初は、苦笑いして、首を振っていたが、しつこい久孝に、葉菜の表情が、困り顔になり、眉尻が下げられた。
その表情で、久孝は、泣かせてみたいという衝動に襲われた。
「そういえばさ。葉菜ちゃんって、掃除好きなの?」
久孝が、それを誤魔化す様に、頬を赤らめながら、ポリポリと掻いて、ニッコリ笑って見せると、葉菜は、小さく微笑んで頷いた。
その微笑みが、懐かしくも感じる。
その頬が、ピンク色になり、恥ずかしいような照れてるよな、葉菜の姿で、更に、強い衝動に襲われた。
久孝は、ただ葉菜を見つめた。
葉菜が、小さく一礼して、背中を向けると、久孝は、後ろから抱き締め、その首筋に鼻を埋めた。
突然の事で、一瞬、動きを止めた葉菜が、久孝を振り払おうと暴れ、その手を叩き落とした。
「葉菜ちゃん」
自分の行動に驚き、視線を向けると、葉菜の瞳が、涙の膜で、キラキラと輝き、今にも泣き出しそうで、久孝の衝動が爆発した。
その手を掴み、窓辺に着かせ、向かい合う様な形で、久孝は、震える葉菜を閉じ込めた。
瞳に映る自分を見つめ、久孝は、涙が溜まる瞳に肩が震えた。
「俺もして。親父みたいに」
その瞳が大きくなり、久孝は、震える葉菜の唇に噛み付いた。
隙間から侵入する舌から、逃れる様に、葉菜は、顔を反らすと、露になった首筋に久孝の鼻が埋めまれ、押さえていた手が、背中を撫で上げた。
「葉菜」
吐息が掛かる程、耳に唇を近付け、鷹志と違い、優しく暖かな声で、名前を囁かれた瞬間、震える葉菜の肩が、大きく動いた。
「可愛いよ。葉菜」
必死に引き離そうと、小さな葉菜の手が、久孝のシャツを掴むが、大きな背中にしがみついてる様にしかならない。
久孝は、葉菜のスカートを捲り上げた。
噛んで声を殺す唇に唇を重ね、露になった太ももを撫でると、葉菜の背中が丸まる。
頬が赤らみ、肩で息をする葉菜を見つめ、久孝の思考は無となり、背中の手を無理に離し、窓枠に着かせた。
膝を着き、捲れたスカートから、侵入した久孝は、葉菜の太ももを舌で撫でた。
甘い痺れで、吐息と小さな声が漏れ、葉菜は、太ももに吸い付く久孝を蹴り飛ばした。
尻餅を着き、茶色の前髪を揺らし、久孝が、視線を上げると、葉菜の瞳から、大粒の涙が流れ、その頬を濡らしていた。
「ごめ…」
その姿で、我を取り戻し、久孝が、手を伸ばすと、葉菜は、逃げる様に、書斎から走り去った。
項垂れ、自己嫌悪に陥った久孝は、床を殴って立ち上がり、自室に戻ると、備え付けのシャワールームで、冷水を浴びた。
葉菜にした事は、鷹志と同じだと思えた久孝は、そんな自分を治めようとしていたが、体は、素直であり、欲望に従順だ。
久孝のペニスは、大きく反り返り、その先端から体液が漏れていた。
悔しく思いながらも、葉菜を思い浮かべ、その感触を思い出しながら、オナニーをして射精した。
だが、一回で治まらず、その後、久孝は、シャワーを浴びながら、葉菜とのセックスを想像し、文太達が帰るまで浸っていた。
それから、久孝は、葉菜を避けるようになり、偶然でも、顔を合わせると、さっさと、自室に戻るようになった。
その異変に、博文が、聞いてみても、久孝は、顔を真っ赤にして、逃げてしまう。
そんな日々の中で、葉菜が、リネン室の蛍光灯を取り替えようとしているのを見付けた。
「何してるんですか」
急に声を掛けられ、驚いた拍子に、椅子が倒れそうになり、葉菜が、バランスを崩すと、博文は、慌てて、その体を抱き止めた。
「大丈夫ですか?」
支えられながら、苦笑いする葉菜に、博文の頬が、薄ピンク色に染まった。
「切れたんですか?」
頷いた葉菜を見て、蛍光灯を見上げると、博文は、椅子に乗った。
「新しいの貰えますか?」
博文に蛍光灯を取り替えてもらい、葉菜は、深々と頭を下げてから、嬉しそうに微笑んだ。
葉菜の嬉しそうな顔が、小さな子供の様で、博文の頬も緩んだ。
「女性が取り替えるのは、危ないですから、誰かに頼んだ方が良いですよ?」
視線を反らしながら、葉菜が、小さく頷くのを見つめた。
「どうして、喋らないんですか?」
視線を上げ、困ったように、視線を泳がせた葉菜を見つめ、博文は、手を差し出した。
「喋れないなら、筆談でも良いんじゃないですか?」
首を振り、椅子を片付け、使い終わった蛍光灯を持って、リネン室から出て行った。
葉菜は、何かを隠してる。
それから、博文は、時間があれば、葉菜を観察する様になった。
「今度は、何してるんですか?」
リネン室の床を這うようにしている姿を見付け、博文が、声を掛けると、葉菜は、下から見上げ、困った顔をした。
「何か探してるんですか?」
コクンと頷き、また、探し始めた葉菜を見つめ、その姿が、あまりにも哀しそうで、博文は、膝を着いた。
「何を探してるんですか?」
床に絵を描いて、葉菜は、顎に指を添えて、考えてる様な博文を見上げた。
「もしかして…ネックレスですか?」
瞳を輝かせ、何度も頷く姿に、博文は、クスクス笑ってしまい、葉菜は、視線を伏せた。
「すみません。探しましょうか」
静かな部屋に布の擦れる音を響かせ、二人で、床を這うように探し始めた。
「久孝じゃないけど、さっきは、可愛らしいなと思ったら、笑えてしまって。気分を悪くさせてしまって、すみませんでした」
後ろで聞こえてた音が止み、博文が、そっと視線を向けると、葉菜は、動きを止め、目を細めて、手元を見つめていた。
その姿で、葉菜と久孝の間で、何かあったのだと気付いたが、博文は、何も聞かずにいた。
二人が、探し物を再開し、小一時間くらい探し続け、シーツの間や掃除用具の中まで見てみたが、それらしき物は見付からなかった。
落ち込んで、ベットに腰掛けた葉菜の肩に手を置いた。
「必ず見付かりますから。もしかしたら、別の所で落としたのかもしれないですよ?」
淋しそうに微笑む葉菜の様子で、それが、本当に大切なのだと思い、博文は、葉菜の前に片膝を着いた。
「僕から羽鳥さんに聞いてみますから。そんなに落ち込まないで下さい」
不安そうな葉菜が、本当に嬉しそうにニッコリ笑い、頭を下げると、その鼻に頭突きをしてしまった。
博文が、両手で鼻を押さえて、背中を丸め、葉菜は、慌てて、その肩に触れて、顔を覗き込んだ。
瞳が輝き、今にも泣きそうな葉菜を見つめ、博文は、頬を赤らめて、視線を反らした。
「ダイジョブですから」
博文の手から血が溢れ、滴り落ちるのを見て、葉菜は、何処かに行ってしまった。
博文は、鼻血を止めようと、床に寝転がって、目を閉じた。
タオルや氷枕を持って戻ると、博文は床で寝ていた。
葉菜は、起こさないように、静かに近付き、顔を隠している手をどけ、蒸しタオルで、血で汚れた顔を綺麗に拭いた。
頭をなるべく揺らさない様に、静かに持ち上げ、乾いたタオルを床に敷き、そっと下ろした。
そのままでは、頭が痛くなってしまう。
そう思った葉菜の優しさだった。
「ん…あ。寝てしまいましたか。すみません」
栗色の前髪を整えていると、目を覚ました博文が、急いで起き上がろうとしたが、葉菜が、その肩に触れて、首を振り、心配そうに鼻を指差した。
「もう大丈夫ですよ」
それでも、首を振って、見つめる葉菜の表情が、博文は懐かしく思えた。
少しだけ、自分の話をしたくなり、フ~と息を吐き出し、目元を隠すようにして、子供の頃を思い出した。
「元々、鼻血が出やすい体質みたいで、子供の頃は、もっと酷かったんですよ。ちょっと甘い物を食べ過ぎただけで、流れたくらい。あの頃は、本当に母に迷惑ばかり掛けてました」
弱々しく微笑むと、葉菜は、淋しそうに目を細め、視線を反らした。
「そう考えると、本当に嫌な子供だったと思うんです。泣き虫なくせに、いつも、久孝と…」
自傷気味に話す博文の目元に、濡れタオルが乗せられ、その冷たさに驚いたが、鼻の痛みが和らぎ、暑くなっていた目元が冷え、次第に、気持ちが落ち着いた。
「気持ち良いですね」
そんな博文の手のひらに、葉菜が、そっと指を乗せた。
【そんな事ありません】
手のひらに書かれた言葉に驚き、博文が、口を開くと、葉菜は、慌てて言葉を続けた。
【話さないで】
博文は、声を発する事をやめ、静かに口を閉じて、手のひらに集中した。
【親は、特に母親は、どんな事でも、メイワクだと、思っていません。むしろ、それが幸せだと思っています。だから、自分を傷付けないで下さい。大切な人の大事なモノを壊さないで下さい。私に出来る事ならば、お手伝いさせて頂きますから】
博文が聞きたかった事が、葉菜から伝えられ、ずっと、胸の奥につっかえていた物が、スーッと溶けていく。
「…そういえば、子供の頃は、鼻血を出すと、母が膝枕してくれたんですよ」
それだけで、博文が、何を言いたいか分かった葉菜は、手を離し、博文の頭を自分の太ももに乗せた。
「ありがとう」
葉菜の優しさに触れ、博文は、口元に笑みを携え、30分程、ゆっくりと眠っていた。
「本当にありがとう。久々に良く寝れたよ」
ゆっくり体を起こし、頭を掻きながら、視線を向けると、本当に嬉しそうに、ニッコリ笑う葉菜の背中に、大きな純白の翼が見えた気がした。
「…天使…」
葉菜が不思議そうに首を傾げ、我を取り戻した博文の頬が、恥ずかしさで真っ赤になった。
それを見られないように、リネン室から見えない所まで走った。
壁に背中を着けたまま、滑るように座り、荒くなった呼吸を必死に整えた。
「フ~~…よし」
通常モードに戻った博文は、遼を探して歩き、見付けると、葉菜のネックレスの事を説明して、自室に戻った。
絵具の匂いがする博文の部屋には、沢山のキャンバスに、綺麗な風景が描かれていた。
しかし、その中の一つ、青や赤の絵具が、グチャグチャに、塗り付けられたキャンバスがあった。
その前に立ち、キャンバスを手に取り、白い布に包んで、クローゼットの奥に仕舞い、スケッチブックに、さっき見た葉菜の笑顔や泣きそうな顔を描き始めた。
何処かで見たような葉菜の表情を思い出し、夢中になって、絵を描いていると、日が暮れていて、博文は、部屋の電気を点けてからも、夕食になるまで描き続けた。
それから、鷹志がいない間だけ、博文は、葉菜に声を掛ける事が増えた。
葉菜が困っている時は、その隣には、博文がいるようになった。
それから、数日後。
「博兄。前に借りたCD、もっかいって、文兄?何してんの」
部屋の扉を開けると、文太と博文が、何かの書類を広げて、話をしてるところだった。
「経過報告だ」
久孝に渡された書類には、葉菜の家族構成が、事細かく書かれていた。
「葉菜ちゃんのお父さんって、ウチの社員なんだ」
「それで思い出したんだが、前任の部長が藤崎葉瑠さんって方だった」
「それって、葉菜ちゃんのお父さん?なんで、辞めたんだろ」
「いや。10年前、亡くなった」
葉菜の父親は、10年前、交通事故で亡くなっていた。
「じゃ、お母さんと二人?」
「そうみたいだが、入院中のようだ」
大黒柱を失い、必死に働いていた母親は、5年前に体を壊し、入院してしまっていた。
「5年前って…母さんが出てったのと同じ…」
「時期的にも同じ様な時期でな。もしかしたら、母さんと何か関係があるのかもしれない」
そこで、文太は、遼に母親達の事も、調べてもらう様に言い、博文と話し合いをしていた。
「俺だけ除け者」
「またなんか、やらかすかもしれないからな」
久孝の顔が真っ赤になり、口をパクパクさせて、驚くと、博文が、大きな溜め息をついた。
「やっぱりか。何したんだ」
「何って…知ってんじゃ…」
「なんかあったとしか知らない。葉菜さんに聞いても、首振って、哀しい顔するだけだから」
葉菜の顔が過り、久孝は、拳を小さく震わせ、自分のした事を二人に話した。
「そうか」
博文も文太も、それを責める事をしなかった。
久孝にとって、それが、何よりも辛い。
“お前も同じだろ"
“何やってんだ"
“無責任"
自分でさえ、そう思っているのを誰にも何も言われず、責められないのが、更に、惨めな気分になる。
「俺さ…あんな風に言ってたのに…何やってん…」
「自分責めるくらい、出来る事やったのか?」
言われてる意味が、理解できず、久孝は、首を傾げて、博文を見つめていた。
「彼女は、喋れないんだから。出来る事してやらないと、男として駄目だと思うぞ」
葉菜は、何かが原因で、他人と話す事が出来ない。
それは、誰かを呼ぶ事も、誰かに助けを求める事も、何も出来ない。
最初は、肩を叩くなり、相手に触れれば良いが、その後、相手に意思を伝える事が出来ない。
だから、葉菜は、何でも自分でする。
でも、今は、葉菜を観察し、その行動で、ある程度の予測で、意思を汲み取る事が出来る博文が、それを周囲に伝えたり、伝えられない事は、博文が手伝って、少しだけ、サポートしてるような形になっている。
「彼女は、前みたいに接して欲しいみたいだぞ?」
久孝の瞳が、大きく揺れ、今にも走り出そうとしたが、博文に手首を掴まれた。
「もうすぐ、父さんが帰って来る」
誰かと接触してたのを知れば、その晩、葉菜の体に痣が増えた。
博文がバイトに行き、鷹志も出掛け、文太は休日出勤で、屋敷には久孝だけが残っていた。
部屋に籠っていても、時間を持て余す久孝は、屋敷をフラフラしていた。
そんな久孝は、葉菜が、書斎と呼ばれ、ただ本が詰め込まれている部屋を掃除してるのを見付けた。
乱雑に置かれた本の埃を落とし、整頓して、棚に仕舞い、床を掃き、窓ガラスまで拭き始めた。
そんな葉菜の背中を見つめ、久孝は、何とも言えない気持ちになった。
こんなにも、良く働き、健気な葉菜が、鷹志に酷く扱われなきゃならない。
そんな思いが、久孝を動かしていた。
「ハ~ナちゃん」
本心を隠し、明るい声で、ニコニコする久孝を見て、葉菜は、驚いたような気まずいような顔をした。
「何してるの?」
葉菜が、持っていた雑巾を見せると、久孝は、側にあったホウキを手にした。
「一人じゃ大変でしょ。俺も手伝うよ」
久孝の手から、ホウキを奪い、激しく首を振った 菜を見て、久孝は、その姿に意地悪したくなった。
「どうして?別に良いじゃん」
最初は、苦笑いして、首を振っていたが、しつこい久孝に、葉菜の表情が、困り顔になり、眉尻が下げられた。
その表情で、久孝は、泣かせてみたいという衝動に襲われた。
「そういえばさ。葉菜ちゃんって、掃除好きなの?」
久孝が、それを誤魔化す様に、頬を赤らめながら、ポリポリと掻いて、ニッコリ笑って見せると、葉菜は、小さく微笑んで頷いた。
その微笑みが、懐かしくも感じる。
その頬が、ピンク色になり、恥ずかしいような照れてるよな、葉菜の姿で、更に、強い衝動に襲われた。
久孝は、ただ葉菜を見つめた。
葉菜が、小さく一礼して、背中を向けると、久孝は、後ろから抱き締め、その首筋に鼻を埋めた。
突然の事で、一瞬、動きを止めた葉菜が、久孝を振り払おうと暴れ、その手を叩き落とした。
「葉菜ちゃん」
自分の行動に驚き、視線を向けると、葉菜の瞳が、涙の膜で、キラキラと輝き、今にも泣き出しそうで、久孝の衝動が爆発した。
その手を掴み、窓辺に着かせ、向かい合う様な形で、久孝は、震える葉菜を閉じ込めた。
瞳に映る自分を見つめ、久孝は、涙が溜まる瞳に肩が震えた。
「俺もして。親父みたいに」
その瞳が大きくなり、久孝は、震える葉菜の唇に噛み付いた。
隙間から侵入する舌から、逃れる様に、葉菜は、顔を反らすと、露になった首筋に久孝の鼻が埋めまれ、押さえていた手が、背中を撫で上げた。
「葉菜」
吐息が掛かる程、耳に唇を近付け、鷹志と違い、優しく暖かな声で、名前を囁かれた瞬間、震える葉菜の肩が、大きく動いた。
「可愛いよ。葉菜」
必死に引き離そうと、小さな葉菜の手が、久孝のシャツを掴むが、大きな背中にしがみついてる様にしかならない。
久孝は、葉菜のスカートを捲り上げた。
噛んで声を殺す唇に唇を重ね、露になった太ももを撫でると、葉菜の背中が丸まる。
頬が赤らみ、肩で息をする葉菜を見つめ、久孝の思考は無となり、背中の手を無理に離し、窓枠に着かせた。
膝を着き、捲れたスカートから、侵入した久孝は、葉菜の太ももを舌で撫でた。
甘い痺れで、吐息と小さな声が漏れ、葉菜は、太ももに吸い付く久孝を蹴り飛ばした。
尻餅を着き、茶色の前髪を揺らし、久孝が、視線を上げると、葉菜の瞳から、大粒の涙が流れ、その頬を濡らしていた。
「ごめ…」
その姿で、我を取り戻し、久孝が、手を伸ばすと、葉菜は、逃げる様に、書斎から走り去った。
項垂れ、自己嫌悪に陥った久孝は、床を殴って立ち上がり、自室に戻ると、備え付けのシャワールームで、冷水を浴びた。
葉菜にした事は、鷹志と同じだと思えた久孝は、そんな自分を治めようとしていたが、体は、素直であり、欲望に従順だ。
久孝のペニスは、大きく反り返り、その先端から体液が漏れていた。
悔しく思いながらも、葉菜を思い浮かべ、その感触を思い出しながら、オナニーをして射精した。
だが、一回で治まらず、その後、久孝は、シャワーを浴びながら、葉菜とのセックスを想像し、文太達が帰るまで浸っていた。
それから、久孝は、葉菜を避けるようになり、偶然でも、顔を合わせると、さっさと、自室に戻るようになった。
その異変に、博文が、聞いてみても、久孝は、顔を真っ赤にして、逃げてしまう。
そんな日々の中で、葉菜が、リネン室の蛍光灯を取り替えようとしているのを見付けた。
「何してるんですか」
急に声を掛けられ、驚いた拍子に、椅子が倒れそうになり、葉菜が、バランスを崩すと、博文は、慌てて、その体を抱き止めた。
「大丈夫ですか?」
支えられながら、苦笑いする葉菜に、博文の頬が、薄ピンク色に染まった。
「切れたんですか?」
頷いた葉菜を見て、蛍光灯を見上げると、博文は、椅子に乗った。
「新しいの貰えますか?」
博文に蛍光灯を取り替えてもらい、葉菜は、深々と頭を下げてから、嬉しそうに微笑んだ。
葉菜の嬉しそうな顔が、小さな子供の様で、博文の頬も緩んだ。
「女性が取り替えるのは、危ないですから、誰かに頼んだ方が良いですよ?」
視線を反らしながら、葉菜が、小さく頷くのを見つめた。
「どうして、喋らないんですか?」
視線を上げ、困ったように、視線を泳がせた葉菜を見つめ、博文は、手を差し出した。
「喋れないなら、筆談でも良いんじゃないですか?」
首を振り、椅子を片付け、使い終わった蛍光灯を持って、リネン室から出て行った。
葉菜は、何かを隠してる。
それから、博文は、時間があれば、葉菜を観察する様になった。
「今度は、何してるんですか?」
リネン室の床を這うようにしている姿を見付け、博文が、声を掛けると、葉菜は、下から見上げ、困った顔をした。
「何か探してるんですか?」
コクンと頷き、また、探し始めた葉菜を見つめ、その姿が、あまりにも哀しそうで、博文は、膝を着いた。
「何を探してるんですか?」
床に絵を描いて、葉菜は、顎に指を添えて、考えてる様な博文を見上げた。
「もしかして…ネックレスですか?」
瞳を輝かせ、何度も頷く姿に、博文は、クスクス笑ってしまい、葉菜は、視線を伏せた。
「すみません。探しましょうか」
静かな部屋に布の擦れる音を響かせ、二人で、床を這うように探し始めた。
「久孝じゃないけど、さっきは、可愛らしいなと思ったら、笑えてしまって。気分を悪くさせてしまって、すみませんでした」
後ろで聞こえてた音が止み、博文が、そっと視線を向けると、葉菜は、動きを止め、目を細めて、手元を見つめていた。
その姿で、葉菜と久孝の間で、何かあったのだと気付いたが、博文は、何も聞かずにいた。
二人が、探し物を再開し、小一時間くらい探し続け、シーツの間や掃除用具の中まで見てみたが、それらしき物は見付からなかった。
落ち込んで、ベットに腰掛けた葉菜の肩に手を置いた。
「必ず見付かりますから。もしかしたら、別の所で落としたのかもしれないですよ?」
淋しそうに微笑む葉菜の様子で、それが、本当に大切なのだと思い、博文は、葉菜の前に片膝を着いた。
「僕から羽鳥さんに聞いてみますから。そんなに落ち込まないで下さい」
不安そうな葉菜が、本当に嬉しそうにニッコリ笑い、頭を下げると、その鼻に頭突きをしてしまった。
博文が、両手で鼻を押さえて、背中を丸め、葉菜は、慌てて、その肩に触れて、顔を覗き込んだ。
瞳が輝き、今にも泣きそうな葉菜を見つめ、博文は、頬を赤らめて、視線を反らした。
「ダイジョブですから」
博文の手から血が溢れ、滴り落ちるのを見て、葉菜は、何処かに行ってしまった。
博文は、鼻血を止めようと、床に寝転がって、目を閉じた。
タオルや氷枕を持って戻ると、博文は床で寝ていた。
葉菜は、起こさないように、静かに近付き、顔を隠している手をどけ、蒸しタオルで、血で汚れた顔を綺麗に拭いた。
頭をなるべく揺らさない様に、静かに持ち上げ、乾いたタオルを床に敷き、そっと下ろした。
そのままでは、頭が痛くなってしまう。
そう思った葉菜の優しさだった。
「ん…あ。寝てしまいましたか。すみません」
栗色の前髪を整えていると、目を覚ました博文が、急いで起き上がろうとしたが、葉菜が、その肩に触れて、首を振り、心配そうに鼻を指差した。
「もう大丈夫ですよ」
それでも、首を振って、見つめる葉菜の表情が、博文は懐かしく思えた。
少しだけ、自分の話をしたくなり、フ~と息を吐き出し、目元を隠すようにして、子供の頃を思い出した。
「元々、鼻血が出やすい体質みたいで、子供の頃は、もっと酷かったんですよ。ちょっと甘い物を食べ過ぎただけで、流れたくらい。あの頃は、本当に母に迷惑ばかり掛けてました」
弱々しく微笑むと、葉菜は、淋しそうに目を細め、視線を反らした。
「そう考えると、本当に嫌な子供だったと思うんです。泣き虫なくせに、いつも、久孝と…」
自傷気味に話す博文の目元に、濡れタオルが乗せられ、その冷たさに驚いたが、鼻の痛みが和らぎ、暑くなっていた目元が冷え、次第に、気持ちが落ち着いた。
「気持ち良いですね」
そんな博文の手のひらに、葉菜が、そっと指を乗せた。
【そんな事ありません】
手のひらに書かれた言葉に驚き、博文が、口を開くと、葉菜は、慌てて言葉を続けた。
【話さないで】
博文は、声を発する事をやめ、静かに口を閉じて、手のひらに集中した。
【親は、特に母親は、どんな事でも、メイワクだと、思っていません。むしろ、それが幸せだと思っています。だから、自分を傷付けないで下さい。大切な人の大事なモノを壊さないで下さい。私に出来る事ならば、お手伝いさせて頂きますから】
博文が聞きたかった事が、葉菜から伝えられ、ずっと、胸の奥につっかえていた物が、スーッと溶けていく。
「…そういえば、子供の頃は、鼻血を出すと、母が膝枕してくれたんですよ」
それだけで、博文が、何を言いたいか分かった葉菜は、手を離し、博文の頭を自分の太ももに乗せた。
「ありがとう」
葉菜の優しさに触れ、博文は、口元に笑みを携え、30分程、ゆっくりと眠っていた。
「本当にありがとう。久々に良く寝れたよ」
ゆっくり体を起こし、頭を掻きながら、視線を向けると、本当に嬉しそうに、ニッコリ笑う葉菜の背中に、大きな純白の翼が見えた気がした。
「…天使…」
葉菜が不思議そうに首を傾げ、我を取り戻した博文の頬が、恥ずかしさで真っ赤になった。
それを見られないように、リネン室から見えない所まで走った。
壁に背中を着けたまま、滑るように座り、荒くなった呼吸を必死に整えた。
「フ~~…よし」
通常モードに戻った博文は、遼を探して歩き、見付けると、葉菜のネックレスの事を説明して、自室に戻った。
絵具の匂いがする博文の部屋には、沢山のキャンバスに、綺麗な風景が描かれていた。
しかし、その中の一つ、青や赤の絵具が、グチャグチャに、塗り付けられたキャンバスがあった。
その前に立ち、キャンバスを手に取り、白い布に包んで、クローゼットの奥に仕舞い、スケッチブックに、さっき見た葉菜の笑顔や泣きそうな顔を描き始めた。
何処かで見たような葉菜の表情を思い出し、夢中になって、絵を描いていると、日が暮れていて、博文は、部屋の電気を点けてからも、夕食になるまで描き続けた。
それから、鷹志がいない間だけ、博文は、葉菜に声を掛ける事が増えた。
葉菜が困っている時は、その隣には、博文がいるようになった。
それから、数日後。
「博兄。前に借りたCD、もっかいって、文兄?何してんの」
部屋の扉を開けると、文太と博文が、何かの書類を広げて、話をしてるところだった。
「経過報告だ」
久孝に渡された書類には、葉菜の家族構成が、事細かく書かれていた。
「葉菜ちゃんのお父さんって、ウチの社員なんだ」
「それで思い出したんだが、前任の部長が藤崎葉瑠さんって方だった」
「それって、葉菜ちゃんのお父さん?なんで、辞めたんだろ」
「いや。10年前、亡くなった」
葉菜の父親は、10年前、交通事故で亡くなっていた。
「じゃ、お母さんと二人?」
「そうみたいだが、入院中のようだ」
大黒柱を失い、必死に働いていた母親は、5年前に体を壊し、入院してしまっていた。
「5年前って…母さんが出てったのと同じ…」
「時期的にも同じ様な時期でな。もしかしたら、母さんと何か関係があるのかもしれない」
そこで、文太は、遼に母親達の事も、調べてもらう様に言い、博文と話し合いをしていた。
「俺だけ除け者」
「またなんか、やらかすかもしれないからな」
久孝の顔が真っ赤になり、口をパクパクさせて、驚くと、博文が、大きな溜め息をついた。
「やっぱりか。何したんだ」
「何って…知ってんじゃ…」
「なんかあったとしか知らない。葉菜さんに聞いても、首振って、哀しい顔するだけだから」
葉菜の顔が過り、久孝は、拳を小さく震わせ、自分のした事を二人に話した。
「そうか」
博文も文太も、それを責める事をしなかった。
久孝にとって、それが、何よりも辛い。
“お前も同じだろ"
“何やってんだ"
“無責任"
自分でさえ、そう思っているのを誰にも何も言われず、責められないのが、更に、惨めな気分になる。
「俺さ…あんな風に言ってたのに…何やってん…」
「自分責めるくらい、出来る事やったのか?」
言われてる意味が、理解できず、久孝は、首を傾げて、博文を見つめていた。
「彼女は、喋れないんだから。出来る事してやらないと、男として駄目だと思うぞ」
葉菜は、何かが原因で、他人と話す事が出来ない。
それは、誰かを呼ぶ事も、誰かに助けを求める事も、何も出来ない。
最初は、肩を叩くなり、相手に触れれば良いが、その後、相手に意思を伝える事が出来ない。
だから、葉菜は、何でも自分でする。
でも、今は、葉菜を観察し、その行動で、ある程度の予測で、意思を汲み取る事が出来る博文が、それを周囲に伝えたり、伝えられない事は、博文が手伝って、少しだけ、サポートしてるような形になっている。
「彼女は、前みたいに接して欲しいみたいだぞ?」
久孝の瞳が、大きく揺れ、今にも走り出そうとしたが、博文に手首を掴まれた。
「もうすぐ、父さんが帰って来る」
誰かと接触してたのを知れば、その晩、葉菜の体に痣が増えた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる