20 / 79
21 桜並木の攻防
しおりを挟む
「ところで、いつの間に瞬くんと仲良しになったの? 」
夏目と別れて直ぐに里香さんが不思議そうに訊いた。
「ハハハ、昨日からかな」
「でも良かった。夏休み前に会った時に、瞬くんに腹を立てたんじゃないかなって思っていて。瞬くんて、なんて言うか……」
「あいつは、怒らせ名人だからね」
「そう、それ! そうなの! 」
二人で大笑いした。里香さん曰く、夏目 瞬という男は長く付き合っていると凄くいい奴だと解るのだが、ハッキリ物事を言う性格から大抵初対面で大概の人間に嫌われてしまうのだそうだ。
何とも言えない人をイラつかせてしまう雰囲気を漂わせ、特に初対面の男からは絶対と言っていいほど嫌われるそうだ。
そんな、怒らせ名人夏目に俺が少しも腹を立てずに接している事が、里香さんにとっては信じられないくらいの驚き、なのだそうだ。実際初対面の時は俺も腸が煮えくり返った思いをしたのだが。
それから昨日、夏目を空手部の連中から助けた事に関して何故か里香さんからもお礼を言われた。
「そもそもあいつ、なんで空手部の連中なんかと揉めたか知ってる? 」
俺が訊ねると里香さんは少し困った顔をした後、答えてくれた。
昨日の空手部員たちと夏目の因縁は夏休みに起こったそうだ。
里香さんや夏目の通う大和大学と、昨日の空手部の連中の通う神奈関大学との部活や文化サークルの交流会が今年の夏休みに開かれた。そこで里香さんと夏目は天体観測部のメンバーとして出席したそうだ。
神奈関空手部の主将が交流会で里香さんの事を気に入り、打ち上げの飲み会の席で空手部主将に気に入られた里香さんが、執拗に言い寄られ、一緒にいた夏目名人がガツンと一言ではなく、ボロクソに扱き下ろしたそうだ。
それまでの空手部員たちの態度は横柄だったらしく、周りのみんなは喜びその場は大いに盛り上がり、大勢の前で罵詈雑言を浴びた空手部主将は激しい羞恥と憤怒で昏倒したそうだ。
本来ならその場で夏目はボコボコにされてもおかしくはない筈だったが主将の失神でそれどころではなくなったそうだ。
空手部の主将が里香さんの事を気に入ったという事を、自分で話すのが恥ずかしいのか少し言葉を濁しながら教えてくれた。俺は夏目名人に初めて感心と感謝をした。良く里香さんを守った、良くやったと。
それから俺達は里香さんのアパートへの通り道である桜並木の川沿いを歩き始めた。この一本道で俺は初めて里香さんに会ったんだなあと感慨深い気持ちになった。
暫く一本道が続く中、前方に大きな男二人組が歩いて来るのが見えた。先程のくろいタンクトップを着た大男程ではないが、一般の成人男性よりは明らかに大きな二人組だ。まず間違いなくさっきの男の仲間だろう。隣で歩く里香さんに緊張が走るのが分かった。
彼女をその場に留まらせ、俺独りで二人組の方向に歩いて行った。一人は天国と地獄で気絶を、そしてもう一人には地獄の痛みで身動きでき無くした後、尋問しようと決めた。
一分間の業を準備して前方の二人組が無関係だった場合、今日一日なにも出来ないで終わってしまう。回数制限の業を使った場合、上手くいけば二回分の矛を使うだけで済むだろう。
歩きながら色々考えを整理しながらも、二人組の男たちから目を逸らさず観察を続けた。短髪で金髪の一人は不適な笑みを浮かべ俺の事を挑発するような目つきでこちらを見ている。黒髪で長髪のもう一人は俺を威嚇するように睨んでいる。
二人とも俺より少し背が高い程度だが、中身の方はギッシリ実の詰まった厳つい身体つきをしている。Tシャツの上からでも十分判る程の日々トレーニングをつんだ身体つきは、そこに存在するだけで他人を威圧する。
二人は俺の少し手前で立ち止まり、長髪マッチョが、金髪に「おいっ」と一声かけた。
俺も歩くのをやめ立ち止まった。声をかけられた金髪は「はいっ」と返事をしてから俺の目の前にやって来た。
「あのさあ、きみ、悪いんだけど、俺たち、きみの彼女にちょっと用事があって、暫くどっかに行っててくれないかな」
金髪短髪はニコニコと笑顔で言った。
更にこの男は俺が断るとは微塵も思ってはいない様子で、余裕たっぷりに俺の顔にグッと金髪頭のデカい顔を近づけてきて「ねっ、お願い」とニヤついた。
この二人は、こちらが逆らえばいきなり猛獣に変身する事は簡単に予想が出来た。そしてあっという間に俺を血祭りにするつもりだろう。
俺は予定通り、天国と地獄を目の前の男のわき腹に当て、男が呻き声と共に地面に崩れ落ちる前に、素早く長髪の男に近づき、そして懐に潜りこんだ。
長髪の男は自分の仲間が倒れる前に、俺が向かって来る事など予想していなかったのか、それとも単純に油断していただけだったのか、男は構えるでもなく、避けるでもなくあっさり、俺の地獄の拳で地面に沈んだ。瞬間、悲痛な叫び声を上げた。
「あーっ!」
大声で叫んだ後、蹲りながら呻いている長髪を見下ろし、俺は「何が、あーっだよ」と吐き捨てた。俺は盾を一切使わなくて済んだ事に運が良かったと感じていた。
痛みと恐怖で動けなくなっている長髪男の傍で少し屈み「彼女にどんな用件だ? 」と訊ねた。
男は俺の言葉が耳に入っていない。まだ呻いたまま蹲っている。
「なあ、おい、俺の話聞いてるか? 」
「ふうううん、ううむうん」
男はまだ情けない声で呻いている。
「おい、もう、そろそろいいだろ? そこまで痛かったか? 」
地獄を喰らった事の無い俺は、どのくらいの痛みがあるのか見当もつかず、そしてこいつの執拗な痛がりようを見て段々怖くなってきた。俺ならこんな事、絶対にされたくない。
永遠に痛がり続ける男を見て途方に暮れたが、面倒になり天国で気絶させてしまおうと考えた。
夏目と別れて直ぐに里香さんが不思議そうに訊いた。
「ハハハ、昨日からかな」
「でも良かった。夏休み前に会った時に、瞬くんに腹を立てたんじゃないかなって思っていて。瞬くんて、なんて言うか……」
「あいつは、怒らせ名人だからね」
「そう、それ! そうなの! 」
二人で大笑いした。里香さん曰く、夏目 瞬という男は長く付き合っていると凄くいい奴だと解るのだが、ハッキリ物事を言う性格から大抵初対面で大概の人間に嫌われてしまうのだそうだ。
何とも言えない人をイラつかせてしまう雰囲気を漂わせ、特に初対面の男からは絶対と言っていいほど嫌われるそうだ。
そんな、怒らせ名人夏目に俺が少しも腹を立てずに接している事が、里香さんにとっては信じられないくらいの驚き、なのだそうだ。実際初対面の時は俺も腸が煮えくり返った思いをしたのだが。
それから昨日、夏目を空手部の連中から助けた事に関して何故か里香さんからもお礼を言われた。
「そもそもあいつ、なんで空手部の連中なんかと揉めたか知ってる? 」
俺が訊ねると里香さんは少し困った顔をした後、答えてくれた。
昨日の空手部員たちと夏目の因縁は夏休みに起こったそうだ。
里香さんや夏目の通う大和大学と、昨日の空手部の連中の通う神奈関大学との部活や文化サークルの交流会が今年の夏休みに開かれた。そこで里香さんと夏目は天体観測部のメンバーとして出席したそうだ。
神奈関空手部の主将が交流会で里香さんの事を気に入り、打ち上げの飲み会の席で空手部主将に気に入られた里香さんが、執拗に言い寄られ、一緒にいた夏目名人がガツンと一言ではなく、ボロクソに扱き下ろしたそうだ。
それまでの空手部員たちの態度は横柄だったらしく、周りのみんなは喜びその場は大いに盛り上がり、大勢の前で罵詈雑言を浴びた空手部主将は激しい羞恥と憤怒で昏倒したそうだ。
本来ならその場で夏目はボコボコにされてもおかしくはない筈だったが主将の失神でそれどころではなくなったそうだ。
空手部の主将が里香さんの事を気に入ったという事を、自分で話すのが恥ずかしいのか少し言葉を濁しながら教えてくれた。俺は夏目名人に初めて感心と感謝をした。良く里香さんを守った、良くやったと。
それから俺達は里香さんのアパートへの通り道である桜並木の川沿いを歩き始めた。この一本道で俺は初めて里香さんに会ったんだなあと感慨深い気持ちになった。
暫く一本道が続く中、前方に大きな男二人組が歩いて来るのが見えた。先程のくろいタンクトップを着た大男程ではないが、一般の成人男性よりは明らかに大きな二人組だ。まず間違いなくさっきの男の仲間だろう。隣で歩く里香さんに緊張が走るのが分かった。
彼女をその場に留まらせ、俺独りで二人組の方向に歩いて行った。一人は天国と地獄で気絶を、そしてもう一人には地獄の痛みで身動きでき無くした後、尋問しようと決めた。
一分間の業を準備して前方の二人組が無関係だった場合、今日一日なにも出来ないで終わってしまう。回数制限の業を使った場合、上手くいけば二回分の矛を使うだけで済むだろう。
歩きながら色々考えを整理しながらも、二人組の男たちから目を逸らさず観察を続けた。短髪で金髪の一人は不適な笑みを浮かべ俺の事を挑発するような目つきでこちらを見ている。黒髪で長髪のもう一人は俺を威嚇するように睨んでいる。
二人とも俺より少し背が高い程度だが、中身の方はギッシリ実の詰まった厳つい身体つきをしている。Tシャツの上からでも十分判る程の日々トレーニングをつんだ身体つきは、そこに存在するだけで他人を威圧する。
二人は俺の少し手前で立ち止まり、長髪マッチョが、金髪に「おいっ」と一声かけた。
俺も歩くのをやめ立ち止まった。声をかけられた金髪は「はいっ」と返事をしてから俺の目の前にやって来た。
「あのさあ、きみ、悪いんだけど、俺たち、きみの彼女にちょっと用事があって、暫くどっかに行っててくれないかな」
金髪短髪はニコニコと笑顔で言った。
更にこの男は俺が断るとは微塵も思ってはいない様子で、余裕たっぷりに俺の顔にグッと金髪頭のデカい顔を近づけてきて「ねっ、お願い」とニヤついた。
この二人は、こちらが逆らえばいきなり猛獣に変身する事は簡単に予想が出来た。そしてあっという間に俺を血祭りにするつもりだろう。
俺は予定通り、天国と地獄を目の前の男のわき腹に当て、男が呻き声と共に地面に崩れ落ちる前に、素早く長髪の男に近づき、そして懐に潜りこんだ。
長髪の男は自分の仲間が倒れる前に、俺が向かって来る事など予想していなかったのか、それとも単純に油断していただけだったのか、男は構えるでもなく、避けるでもなくあっさり、俺の地獄の拳で地面に沈んだ。瞬間、悲痛な叫び声を上げた。
「あーっ!」
大声で叫んだ後、蹲りながら呻いている長髪を見下ろし、俺は「何が、あーっだよ」と吐き捨てた。俺は盾を一切使わなくて済んだ事に運が良かったと感じていた。
痛みと恐怖で動けなくなっている長髪男の傍で少し屈み「彼女にどんな用件だ? 」と訊ねた。
男は俺の言葉が耳に入っていない。まだ呻いたまま蹲っている。
「なあ、おい、俺の話聞いてるか? 」
「ふうううん、ううむうん」
男はまだ情けない声で呻いている。
「おい、もう、そろそろいいだろ? そこまで痛かったか? 」
地獄を喰らった事の無い俺は、どのくらいの痛みがあるのか見当もつかず、そしてこいつの執拗な痛がりようを見て段々怖くなってきた。俺ならこんな事、絶対にされたくない。
永遠に痛がり続ける男を見て途方に暮れたが、面倒になり天国で気絶させてしまおうと考えた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
神木さんちのお兄ちゃん!
雪桜 あやめ
キャラ文芸
✨ キャラ文芸ランキング週間・月間1位&累計250万pt突破、ありがとうございます!
神木家の双子の妹弟・華と蓮には"絶世の美男子"と言われるほどの金髪碧眼な『兄』がいる。
美人でカッコよくて、その上優しいお兄ちゃんは、常にみんなの人気者!
だけど、そんな兄には、何故か彼女がいなかった。
幼い頃に母を亡くし、いつも母親代わりだったお兄ちゃん。もしかして、お兄ちゃんが彼女が作らないのは自分達のせい?!
そう思った華と蓮は、兄のためにも自立することを決意する。
だけど、このお兄ちゃん。実は、家族しか愛せない超拗らせた兄だった!
これは、モテまくってるくせに家族しか愛せない美人すぎるお兄ちゃんと、兄離れしたいけど、なかなか出来ない双子の妹弟が繰り広げる、甘くて優しくて、ちょっぴり切ない愛と絆のハートフルラブ(家族愛)コメディ。
果たして、家族しか愛せないお兄ちゃんに、恋人ができる日はくるのか?
これは、美人すぎるお兄ちゃんがいる神木一家の、波乱万丈な日々を綴った物語である。
***
イラストは、全て自作です。
カクヨムにて、先行連載中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる