犬に生まれ変わった魔王は勇者を倒したい

ビーグル犬のポン太

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嫌な女

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カレン・フォルトネラーを迎えた侯爵夫婦と爺は、中庭の離れに入った。

「ロイ! ロイー!?」

お嬢が俺を探しているが、草むらに忍び、庭に同化したビーグル犬を見つけようとしても無駄だ。

ひょいと抱きかかえられた。

「ロイ! もうこんなところに隠れて」

お……お嬢!? やるな!

「ふふふ! どこにいても尻尾の先が白いからすぐにわかるよ。可愛いねぇ、しっぽ」

ガーン!

隠密には不向きな身体だったのか。

俺はもがいて、お嬢の手から逃れる。そして離れを真剣な顔で見て、それからお嬢を見た。

「ここにいたいの?」
「ピーピー……」
「……じゃ、わたしもいるぅ」

しかたないか。

お嬢は俺の背中を撫でながら、草むらに座る。その横で、俺は伏せて意識を離れに集中させた。

会話が先ほどから聞こえてきていたが、集中したことでよく聞こえる。

内容も理解できる。

「じゃから、推薦はする。ただ、エドワードを探してくれんか? おぬしならば各国の協力も得られるだろう?」
「先生……だから彼は逃げ出したのよ。魔王を前にして。残念だけど事実なの」
「そうだとしても……探して、見つけ出してほしいのだ。あいつの帰りを待つ老いた母親がいる。死んだのか、生きているのか、教えてやりたい」
「父上、逃げ出したの者のことはもういいではありませんか」
「よくない。そもそもわしはあいつが恐くて逃げ出すようには思えん。なにか事情があったのだと思う。あいつはわしよりも魔法が強く、剣技も冴えていた。カレンもよく知っているだろう?」
「先生……わかったわ。では、新年祭を終えてから捜索隊を送ることにします」
「感謝する」

それからしばらくして、カレン・フォルトネラーが離れから出てきて、侯爵夫婦の案内で玄関へと向かう。

俺は記憶をたどり、あの戦いにこの女はいなかったことを確認した。

なにかある。

しかたない。爺、邪魔をするなよ?

思考掌握シーフアンドスキャン

『ったく、めんどくさい』
『あいつが見つかったら、私が勇者じゃないことばれるじゃない』
『だいたい、あいつが悪いのよ』
『魔王を私が倒したことにしてってお願いしても嫌だというし。大金を払うからって言ってあげたのに断りやがって! 貧乏人のくせに!』
『エヴェロム大迷宮の牢獄で死んでいてくれないかしら』
『適当に捜索隊をだして、費用はくそ爺に払わしてやる』

最悪な女だ。

『まぁ……でもこれで私も王太子の結婚相手に推薦してもらえるわ。超絶イケメンのアルフレッド様の隣を歩くのは私……想像しただけで感激しちゃう』
『もっとチヤホヤされたい! 勇者でお妃! 完璧じゃない? 貴族のご令嬢たちを見下せるわ』

野心があるな。

それは悪いことじゃないぞ。

だが、自分が選ばれるものという前提なのはすごい自信だなと感心できる。性格はひんまがってるが、頭は単純なのかもしれない。

ともかくここは、本当のことを話させるか。

俺は真実告白シャザイカイケンの魔法を発動しようとしたが、ひょいと持ち上げられた。

「犬ころ、駄目だ」

爺、どうして邪魔をする?

「あとで書斎に来い。頭の中を読んだな? 教えろ」

おい!

命令するな!

俺たちは対等の仲間だろ!?

頼めよ!

「あー! お祖父様、そんな持ち方したらロイがかわいそう」
「ん? 犬は首のところをこうして持つんじゃないのか?」
「それって猫じゃない?」

お嬢、猫もこの持たれ方は嫌だと思うぞ。

俺はこのあと、お嬢と散歩に出かけ、帰宅してから爺の書斎に入った。

「で、カレンの頭の中、何を考えていた?」

俺は紙に書き出す。

『めんどくさい』
『エドワードはエヴェロム大迷宮の牢獄にいる』
『自分が魔王を倒したことにしてくれと頼んだが断られた』
『エドワードが帰ってきたら、勇者だと嘘をついたことがばれる』
『エドワードには死んで欲しい』
『捜索隊は出すフリをする』
『王太子と結婚したい』

爺がうなった。

「あいつめ……やはり嘘を。だが、どうして勇者になりたがった? 名家の生まれで名声など飽きるほどだろうに」

そこまではわからん。

しかし……そのエド君が、俺を倒した勇者ということになる。

爺、俺は勇者を倒したいのだが……

俺は紙に書く。

『俺の仲間を人質にとり、盾に使う戦法で俺を倒したのがエドワードなら、俺は同胞の仇、俺の雪辱をはらすために、エドワードを倒すがいいな?』
「……そんな卑怯な戦法をエドワードがとるとは思えんが?」
『殺された俺がいうのだ。間違いない』
「しかし死ぬ間際に転生を成功させるとはな。さすが龍族の天才と噂になっただけのことはある……」
『だろう? だが、転生した先の生き物までは指定できなかった』
「……犬とは気の毒にな」
『わかってくれるか!』

さすが一の仲間だ!

「ともかくエドワードが無事に帰ってからだ。話はそれからだ。行くぞ」
『どこへ?』
「エヴェロム島だ。すぐに行くぞ」
『あの女に勘づかれたら面倒だ。推薦状を書いておけば時間稼ぎになる』
「……お前、利口だな」

当たり前だろ!

俺は今でこそタレ耳の黒と茶の艶々の毛並みが可愛いビーグル犬だが、正体は魔王様だぞ!!

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