私と黄金竜の国

すみれ

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二人の時を始めたい

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執務室の中では宰相がうなっていた。
「陛下、考えは変わられないですか。」

「ああ、アレクセイが戻ってきたら王位を譲る準備に入る。アレクセイには、すでに連絡してある。
私は、もう十分長い時を竜王で過ごした。」
マリコと二人で残りの時間を過ごしたい、それだけだ。
「アレクセイはまだ100歳にもなっていない、竜としてみれば子供の年齢だ。
マリコの人間としての血が早く大人の身体にしただけだ、それはジョシュアもシンシアもだ。
頼むぞシモン、アレクセイを助けてやってくれ。」
ギルバートにとって、宰相のシモンは生まれた時から知っている、気心知れた臣下である。

もうギルバートの頭の中では、マリコを連れて旅に出ようという思いしかない、きっと喜ぶだろう。
マリコが喜ぶかどうかはわからないが、ギルバートは楽しいに違いない。

王に成る前の若い頃に行った土地、風景は変わっただろう、どれほど変わったろうか。
自分の執政は国の隅々まで届いていたろうか、知りたい。
土地土地の珍しい食べ物にマリコはびっくりしたり、喜ぶだろう。
マリコに民族衣装を着せるのもいいな、きっと似合うに違いない。
マリコ、マリコ、マリコ、マリコ、マリコ・・・・・



「それで?」
番の反応は冷たい。
うざいギルバートと二人でずーーーーと旅行、きっと更にうざくなる。

ギルバートの執務がなくなれば、ずっと側にいるという事だ、想像するだけでげんなりする。
サラリーマン夫が定年退職すると毎日が日曜になり、ヒマを持て余して妻の後を付いていきたがる『わしも』族だ。

ギルバートに友達はいないのか、いない。
ギルバートの趣味は、マリコ観察。
ギルバートの好きなものは、マリコ。

うわぁぁ!
マリコは頭をかかえた、今まで自分は恵まれていた、自由時間が多少あったのだ。
ギルバートのことは嫌いではない、好きだ。だが、ギルバートの愛情は重すぎる。

「私も長い時間生きてきて、もう余生はマリコと二人で静かに暮らしたい。」
え!?
そう言えばマリコと出会った時にすでに3000歳超えだった。もしかして、寿命を悟ったからこんなこと言うのかも。
「どこか身体の調子が悪いの?」
マリコがガバッとギルバートに抱きつくと、へら~と笑いながら嬉しそうにギルバートが答える。
「全然。」

ギルバートがマリコに蹴り飛ばされた。
「今、ここが痛くなった。」
マリコに蹴られたところを指さして、かまってとギルバートが言う。
「竜のクセに痛い振りなんてしないの!」
そうだった、このジジイは毎晩マリコを好き放題していて元気すぎるエロジジイだった。
おかげで血色も良く、肌も艶々、イケメン100%である。



「きっと寂しいのよ、貴女にかまってもらいたいのよ。」
マリコの相談相手は鏡だ、マリコも友達がいない。

「鏡のクセにわかるの?」
「伊達に長生きしている訳じゃないわ。もう数えきれない程の人生を映してきたもの。」
「そんなもの?」
「考えてごらんなさい。3000年独身よ、もう番はいないと諦めていたわ、本人も周りも。
そこに登場したのがマリコよ!
すぐにアレクセイが生まれて幸せいっぱい、次にジョシュアにシンシア。
竜で3人も子供に恵まれるってありえないのよ、奇跡よ!」
ふ~ん、と聞いているマリコの存在こそが奇跡だと鏡は思う。

「幸せいっぱいの竜王様はさらに幸せを望んだのよ、マリコと二人きりの時間がなかったことを思い出したのよ。すぐに子供ができたものねー。」
「そっか、そう言えば新婚時代ってあったようななかったような。
妊婦生活だったからね、気を付けることばっかで。」
そういう意味では私も寂しいかも、とマリコも思う。
子供がいるのは幸せだけど欲張っちゃうよね。



夜のしじまにヴァイオリンの音色が流れる。
マリコが奏でているのだ、観客はギルバート一人、盛大な拍手をしている。

「ギルバートは旅で何をしたいの?」
マリコの問いにギルバートが見惚れるような笑顔をした。
「街を見て歩きたいな、マリコと手をつないで。」
マリコがギルバートの前に手を差し出した。
「庭に散歩に行こう。
暗くて危ないから手をつないで連れて行って。」
ね、とマリコが言うとギルバートも手を差し出し、マリコの手を取り指をからめてつなぐ。
「ギルバートと手をつなぐと温かいね、好きよ。」
ギルバートはマリコの言葉に打ちのめされ、理性は崩壊した、今ここでマリコが強請ねだれば世界征服でも叶うだろう。




遠い旅の地の宿ではアレクセイとシンシアがベッドに座って話している。
豪華な宿を避けて旅をしている二人の泊る宿にはソファなどない。

「お父様の事どうするの?」
「どうするも、僕達が戻らなければどうする事もできないだろう?」
シンシアがアレクセイに抱きつく。
「いつかは竜王位を継ぐさ、それは今ではない。
まだまだシンシアと旅を楽しみたいからね。」
アレクセイがシンシアの髪をなでながら呟くのをシンシアが聞いている。

「お兄様大好き!!」
「僕もだよ。
父上はまだ後200~300年は大丈夫だろう。」
ニヤリとアレクセイが笑う。
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