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関脇の対決
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女性の竜が重職に就くことはほとんどない。
繁殖期には番の雄竜によって、1ヶ月軟禁されることもあり、その間、休める職場となると限られてくる。
番が見つかるまで働くというのがほとんどである。
番に夢見てまじめで清楚な竜も多くいるが、番が見つかると拘束されるから、番が見つかるまで楽しい恋愛というのが雌竜には少なくない。
過去ギルバートに後宮があったように、雄竜も番が見つかるまでの遊びと割りきっているものも多い。
番のいない竜の中で特に見目麗しいのは、アレクセイとジョシュアである。
竜にとっては100歳ぐらいで成体となるが、二人は人間の血が入っているせいで成長が早く、すでに成体となっている。
番のいない雌竜達が狙わないはずがなく、二人は番を探す年齢にはまだ遠いということで人気が高い。
アレクセイはシンシアというガードが張り付いていたが、ジョシュアはフリーである。
アレクセイが影のある美貌に対し、ジョシュアは万人受けする好青年タイプだ。
「ジョシュア様、こちらに届いた書簡を置いておきます。」
侍女が書簡を置いても立ち去ろうとしない。
「何か?」
「他にご用事はありませんか?」
侍女の魂胆はみえみえである、それにひっかかるようなジョシュアでない。
「明日のおやつはババロアがいいと、厨房に伝えてくれ。結果の報告はいらない。
今日はもうこの部屋に来なくていい。
お茶も自分達でするから。」
指示を出したのは関脇だ、侍女を追い出しにかかっている。
関脇はプリプリと機嫌の悪さを全面に出してジョシュアにへばりついた。大柄なジョシュアに大きな艶々テカテカのダンゴムシがくっついているようだ。
侍女が出て行った後にジョシュアが関脇の頭をなでる。
「バカだね、あんなのにひっかからないよ。
一人になると思ったのかい。」
関脇が寂しがり屋なのはわかっているジョシュアは関脇を抱き締めた。長い時間を一人で過ごして手にいれた家族なのだ、関脇が固執するのもわかる。
はるか昔、石の卵から孵化したのは谷の中、周りには誰もいなかった。
親竜は、石の卵を棄てたようだった。竜の卵は親が温めなくとも孵化できる。
関脇にとって、昔の自分は何を食べていたのかも覚えていない。
ガリガリの体は常に飢えていた。
黒い髪は延び放題、今のように艶などなく、川で水浴びをするのが精一杯だった。
近寄らなくても解るほどの尋常でない魔力はさらに人を遠ざけた。名もなく、呼んでくれる人もいなかった。
だから、少し優しくされると直ぐ好きになった、かまって欲しくて望みは何でも魔力で叶えた。
そしていつも裏切られた記憶。
「大丈夫だよ、関脇。
僕はずっと側にいるから、どんな関脇も大好きだよ。」
ジョシュアもシンシアも王家の歴史の中で石の卵から生まれた破壊竜の事は習った。
だが、それだけだ、関脇が話した事以外はわからない。
わかるのは、関脇が何かに脅えていて寂しがりということだけ。
「兄上、大好き。」
「僕もだよ、関脇。」
妹のシンシアは兄のアレクセイにべったりだったので、ジョシュアにとっても関脇は特別に可愛い。
痩せる為の魔法をつかわないトレーニングも不満を言うこともなく頑張っている、褒美をあげようと思っていたところだ。
「ずいぶん痩せたね、そろそろ飛ぶ訓練を始めようか?
魔法の力でなく、自分の力で飛べるようになったら一緒に郊外に出かけよう。
魔法で身体を浮かせるのではなく、自分の翼で風をきるのは気持ちいいぞ。」
関脇の頭をグリグリなでながら、ジョシュアが笑う。
「母上に料理を教えてもらって、俺、ランチボックスを作る!」
「関脇の弁当か、楽しみだな。」
ジョシュアは宰相補佐官として宰相の元で執務を勉強中である、アレクセイの代になれば宰相か大臣として支える為でもある。そのあいまに関脇の訓練を見ているのだ。
執務室に女性の声が響いている、ジョシュア目当ての女官達が集まっているらしい。
「ジョシュア様、後で部屋に来てくださいまし。」
随分堂々と誘う女官もいるもんだ、とジョシュアは思っているが、それに他の女官も負けてはいない。
「あら、貴女ご自分のお顔を見て言いなさいよ。」
そう言った女官はふくよかな胸を押しつけて来る。
アレクセイなら、冷やかにイヤミの一つでも言って追い払うのだろうが、ジョシュアにはそれが出来ない。
穏やかに引き取ってもらおうと思うから、余計に女官達が図々しくなる。
「うわーーん!!」
突然響くのは関脇の鳴き声である、どうやらジョシュアにお昼ご飯を運んで来たらしい。
ドン!と体当たりで関脇が泣きながらジョシュアに抱きつく。
「兄上は僕のだ!」
破壊竜は欲しい者を手に入れる為に、業火ではなく泣き落としを覚えたらしい。
女官達も子供を泣かせて居ずらい、直ぐにいなくなった。
「関脇、ありがとう助かったよ。」
ジョシュアがそう言うと関脇がヒクヒク泣きながら顔をあげた。
どうやらシンシアのように、わかってやっている訳ではないらしい。
「兄上~~~!」
しがみつく関脇は可愛い、ジョシュアは苦笑いをするばかりである。
「お昼を持って来てくれたんだね、一緒に食べよう。」
うんうん、と頭を盾に振って関脇が運んできたワゴンに向かう。まだ、涙が止まらないらしく泣き声で料理の説明をしだした。
「一緒に食べると更に美味しいね。」
ジョシュアの言葉に関脇が自慢したいのだろう。
「俺も作るの手伝ったんだぜ。」
「だから美味しいんだね。」
昔は破壊竜と呼ばれたが、今は泣き虫の末っ子である。
繁殖期には番の雄竜によって、1ヶ月軟禁されることもあり、その間、休める職場となると限られてくる。
番が見つかるまで働くというのがほとんどである。
番に夢見てまじめで清楚な竜も多くいるが、番が見つかると拘束されるから、番が見つかるまで楽しい恋愛というのが雌竜には少なくない。
過去ギルバートに後宮があったように、雄竜も番が見つかるまでの遊びと割りきっているものも多い。
番のいない竜の中で特に見目麗しいのは、アレクセイとジョシュアである。
竜にとっては100歳ぐらいで成体となるが、二人は人間の血が入っているせいで成長が早く、すでに成体となっている。
番のいない雌竜達が狙わないはずがなく、二人は番を探す年齢にはまだ遠いということで人気が高い。
アレクセイはシンシアというガードが張り付いていたが、ジョシュアはフリーである。
アレクセイが影のある美貌に対し、ジョシュアは万人受けする好青年タイプだ。
「ジョシュア様、こちらに届いた書簡を置いておきます。」
侍女が書簡を置いても立ち去ろうとしない。
「何か?」
「他にご用事はありませんか?」
侍女の魂胆はみえみえである、それにひっかかるようなジョシュアでない。
「明日のおやつはババロアがいいと、厨房に伝えてくれ。結果の報告はいらない。
今日はもうこの部屋に来なくていい。
お茶も自分達でするから。」
指示を出したのは関脇だ、侍女を追い出しにかかっている。
関脇はプリプリと機嫌の悪さを全面に出してジョシュアにへばりついた。大柄なジョシュアに大きな艶々テカテカのダンゴムシがくっついているようだ。
侍女が出て行った後にジョシュアが関脇の頭をなでる。
「バカだね、あんなのにひっかからないよ。
一人になると思ったのかい。」
関脇が寂しがり屋なのはわかっているジョシュアは関脇を抱き締めた。長い時間を一人で過ごして手にいれた家族なのだ、関脇が固執するのもわかる。
はるか昔、石の卵から孵化したのは谷の中、周りには誰もいなかった。
親竜は、石の卵を棄てたようだった。竜の卵は親が温めなくとも孵化できる。
関脇にとって、昔の自分は何を食べていたのかも覚えていない。
ガリガリの体は常に飢えていた。
黒い髪は延び放題、今のように艶などなく、川で水浴びをするのが精一杯だった。
近寄らなくても解るほどの尋常でない魔力はさらに人を遠ざけた。名もなく、呼んでくれる人もいなかった。
だから、少し優しくされると直ぐ好きになった、かまって欲しくて望みは何でも魔力で叶えた。
そしていつも裏切られた記憶。
「大丈夫だよ、関脇。
僕はずっと側にいるから、どんな関脇も大好きだよ。」
ジョシュアもシンシアも王家の歴史の中で石の卵から生まれた破壊竜の事は習った。
だが、それだけだ、関脇が話した事以外はわからない。
わかるのは、関脇が何かに脅えていて寂しがりということだけ。
「兄上、大好き。」
「僕もだよ、関脇。」
妹のシンシアは兄のアレクセイにべったりだったので、ジョシュアにとっても関脇は特別に可愛い。
痩せる為の魔法をつかわないトレーニングも不満を言うこともなく頑張っている、褒美をあげようと思っていたところだ。
「ずいぶん痩せたね、そろそろ飛ぶ訓練を始めようか?
魔法の力でなく、自分の力で飛べるようになったら一緒に郊外に出かけよう。
魔法で身体を浮かせるのではなく、自分の翼で風をきるのは気持ちいいぞ。」
関脇の頭をグリグリなでながら、ジョシュアが笑う。
「母上に料理を教えてもらって、俺、ランチボックスを作る!」
「関脇の弁当か、楽しみだな。」
ジョシュアは宰相補佐官として宰相の元で執務を勉強中である、アレクセイの代になれば宰相か大臣として支える為でもある。そのあいまに関脇の訓練を見ているのだ。
執務室に女性の声が響いている、ジョシュア目当ての女官達が集まっているらしい。
「ジョシュア様、後で部屋に来てくださいまし。」
随分堂々と誘う女官もいるもんだ、とジョシュアは思っているが、それに他の女官も負けてはいない。
「あら、貴女ご自分のお顔を見て言いなさいよ。」
そう言った女官はふくよかな胸を押しつけて来る。
アレクセイなら、冷やかにイヤミの一つでも言って追い払うのだろうが、ジョシュアにはそれが出来ない。
穏やかに引き取ってもらおうと思うから、余計に女官達が図々しくなる。
「うわーーん!!」
突然響くのは関脇の鳴き声である、どうやらジョシュアにお昼ご飯を運んで来たらしい。
ドン!と体当たりで関脇が泣きながらジョシュアに抱きつく。
「兄上は僕のだ!」
破壊竜は欲しい者を手に入れる為に、業火ではなく泣き落としを覚えたらしい。
女官達も子供を泣かせて居ずらい、直ぐにいなくなった。
「関脇、ありがとう助かったよ。」
ジョシュアがそう言うと関脇がヒクヒク泣きながら顔をあげた。
どうやらシンシアのように、わかってやっている訳ではないらしい。
「兄上~~~!」
しがみつく関脇は可愛い、ジョシュアは苦笑いをするばかりである。
「お昼を持って来てくれたんだね、一緒に食べよう。」
うんうん、と頭を盾に振って関脇が運んできたワゴンに向かう。まだ、涙が止まらないらしく泣き声で料理の説明をしだした。
「一緒に食べると更に美味しいね。」
ジョシュアの言葉に関脇が自慢したいのだろう。
「俺も作るの手伝ったんだぜ。」
「だから美味しいんだね。」
昔は破壊竜と呼ばれたが、今は泣き虫の末っ子である。
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