お妃さま誕生物語

すみれ

文字の大きさ
上 下
13 / 96
本編

革命軍会議

しおりを挟む
「この国の気候は、穀物栽培に向いている。
貴族達から取り上げた領地を区画整備すれば、生産性の高い農地を作りあげられる。
問題は管理者だ、商会から借り受けたい。」
革命軍の首謀者であるアクセン伯爵は資料を出しながら説明する。
「それは、商会の属国になるという意味だぞ、アクセン伯はわかっているか?」
「わかっている、そうなれば商会はこの国を潰さない。
この国には有能な人材が圧倒的に足りないし、当面の資金が必要だ、それも国を支えるほどの。」
王宮だった城の一室では、革命軍とマクレンジー商会の議論が続いている。

革命軍幹部と、資金と武器提供したマクレンジー商会との会合は問題やまずみである。
革命前に国の機構や体制、配置リストは作成してあるが、現実はそれだけではすまない。


黙って聞いていたリヒトール・マクレンジーが初めて声をだした。
「資金回収までに時間が、かかりすぎる。」
何の説明も質問もない、底冷えするような声だ。


その時、ドアノックの後にカイザル将軍とシュバルツが入ってきた。
アクセン伯爵とカイザル将軍は革命軍の双翼であり、血の涙を流しながら王の首をとったのだ。
そうせねばならないほど、この国は死にかけていた。
重税に次ぐ重税でに街も農村部も立ち回らず、王や貴族達はかえりみようともしない、
国民が餓えて死んでいっているのに。

王家に忠誠を誓う貴族として生まれたのに王家を裏切る、例えどんなに程度の低い人間でも、王は王だ。
リヒトール・マクレンジーに出会わなければ革命軍に身を落とさなかっただろう、とエミリオ・アクセンは思い出していた。
別の道を選んでいた、あの日、俺の子供を身ごもったカレンが殺されてから。
彼は情による判断がないぶん、正しい、が、方法を選ばない。


「街で噂の聖女を連れてきました。」
街の教会で女子供に文字や計算を教えてるという、気にはなっていたが、今は リヒトールがいる、間が悪い。ここは秘密会議だ、そんな者連れてくるな。
革命後に リヒトールに女をあてがおうとした侯爵はその場で首を切られた、聖女であっても懐柔かいじゅうはできないだろう、大層美しいとの話だが。
伯爵の一瞬の躊躇ちゅうちょの間に、護衛らしき数人を引き連れた聖女と呼ばれる女が入ってきた。
被っていたフードをおろすと、その姿に目を見張る、けぶるシルバープラチナの髪、完璧な配置の顔、立ち居振舞いも まさに姫君そのもの。


「お話し中に、お邪魔して申し訳ありません。」
聖女は名前を名乗らない、リヒトールから冷気がするようだ、
恐ろしくって、後ろに座っているリヒトールを振り返れない。
「貴族のご令嬢を何名かお借りしたいの、先生として。
平民の子供達に慣れるいい機会ですし、古くてもいいので本もたくさん欲しいと思いまして。貴族の館にはありますでしょ。」
聖女には、リヒトールが見えてないのだろうか、やはり頭お花畑のご令嬢だったか。
彼の雰囲気に恐れおののくか、財力権力に媚びへつらう女をたくさん見てきた。見た目がいいが、無表情で笑う事などない。
だがしかし、貴族の令嬢を使う、いい案だ、思いもしなかった。

「許可しよう。」
リヒトールの声に振り返る、目には何の光もない、無表情だが、つむいだ言葉に信じられない。

「鎖が必要だな。」
リヒトールの言葉の意味がわからない。
「私、革命軍の幹部会議ときいて、いろいろ考えてきましたのに。他にも布地なども欲しいの。」
「許可しよう、それ以外の全ても許可しよう。」
リヒトールの言葉に、エミリオは我が耳を疑う。

「バカにしてますね、私が欲しいのは意見です。これでは、必要なものでも必要なものと見てもらえません。」
リヒトールに逆らうなんてやめておけ、どんな恐い人間か知らないだろう、何かの気まぐれで許可がでただけでもありえないことなんだぞ。
「それに革命軍の許可が必要なのです。私では、この国の責任はとれませんから、貴族のご令嬢には抵抗されると思いますし。」
「抵抗して役にたたなければ、処分すればよい、貴族の時代は終わったのだから。」
「彼女達が平民に教育をすることで、他の貴族にも時代の代わりを思い知るでしょう。平民の教育水準があがることで、仕事の効率もあがりますし、死亡率も下がりますわ。
貴方が 革命軍のトップですね、どうでしょう、私の考えは。」
こっちに話を振るのは、やめてくれ、リヒトールの視線を感じる。
リヒトールは聖女の話をろくに聞いてないのに、会話になってる、すごいぞ聖女。

「私はおねだりをしてるのではありません。要求をしているのです。不当なものでないか、確認するのが必要かと。」
「おねだりにしか聞こえないね、何でも望めばいい。」
こんなリヒトールは見たことがない。
リヒトールの瞳の奥に光が反射している、まるでプラチナブロンドを映すように。
聖女の髪はときどき、薄いピンク色に染まる、光の加減でそう見えるらしい。

「この国の子供達は、今餓えてます、飢えを満たすためにどん欲です、恵まれた環境の子供よりも短い時間で教育をほどこすことができるでしょう。
そして、この国には、貴族の令嬢があまってる、結婚相手になりそうな貴族男性はかなり粛清しゅくせいされたようですし、廉価でやとうことができるでしょう。
昨年は不作の年ではありませんでした、王宮の食料庫を解放すれば、子供達が使えるようになるまでの1~2カ月をしのげるはず。
革命の褒章として令嬢方を下賜かししようとしてたのなら、彼らに令嬢方の護衛もさせれば、意気もあがるし、街の治安にもなるのでは。」
この聖女、ここまで考えてたか、恐れ入った。見かけにだまされた、聖女ではなく宰相だ。
「令嬢の選択をお願いします。」
聖女に、リヒトールが答える。
「宝を生み出せそうだ。農地管理をたたき込む人を用意する。
種まきの時期までに育て上げろ、1ケ月だ。アクセン伯、3日で農地整備の見取り図を作れ、その後は税制改革に入る。使える役人のリストはあるか?」

「鎖はいらないわ、放し飼いでも夕方には戻るもの。おかえりなさい。」
「私の出張の間のことは聞いている、この国の人間と接触を許した覚えはない、無茶しないでくれ。
教育は革命軍の仕事だ、危険すぎる。」
「いつまでも続けないで、ご令嬢達に任せるつもりよ。
好きな人と一緒にいられる幸せを知ったわ。ご令嬢達もいきなり嫁がされるより、その人を知ることができると思うの。吊り橋効果を狙うわ。」
なんだこの会話、革命軍の面々が唖然としている。

リヒトールと言えば、どんな貴族の令嬢も一度遊んで金を握らせて終わる、娼婦も姫君も同じ扱い、性欲処理でしかないのを見てきた、彼とは7年ほどの付き合いだ。
この国の姫もいたよな、
「つまらない」と言って夜中に姫の寝所から出て来たのを警備兵に見られてる。
姫の方が、リヒトールを忘れられず、マクレンジー商会に押し掛けたと聞いた、リヒトールには会えず、側近にまわされたらしい、普通の女の手におえる男じゃない。
それでも 姫の醜聞を表立てず、ないことにされたのをみんなが知っている。マクレンジー商会を怒らせた姫の嫁ぎ先は難しい、もうこの世にいないが。


「愛しい妻の願いはなんでもかなえるさ。キスはくれないのかね。」
愛しい妻ーーーーー!?
革命前の会合では何もなかったぞ。

目の前で、おかえりなさいのキスだと、目玉が落ちるかと思った。
リヒトール・マクレンジーだぞ!
聖女を抱きしめながら、リヒトールが口を開いた。


「妻はさる国の姫君でね、さらってきた。国が血眼になって探してる、
聖女は仕方ないが、この会議での妻の情報がでるなんて事はないと思っているよ。」
わかっているな、とばかりにリヒトールが念を押してくる。
やめてくれ、革命の収拾で大変なんだ、恐ろしいものを持ち込まないでくれ。
しおりを挟む

処理中です...