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第六章≪秘密≫
1.不審な男
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季節は秋から、冬になっていた。
わたしは高校を卒業したあとに通うパテェシエの専門学校を決めて、試験を受けて合格した。
兄と暮らす日々は幸せ過ぎて、あっというまに過ぎていくようだった。
冬休みの平日、兄が仕事で不在だったので、ジュディスにお買い物に付き合ってもらい、お洒落なカフェでランチをして、楽しい気分で一緒にマンションに帰ってエントランスに入ったとき。
オートロックの玄関の内側から、男の人が出てきた。
都会のタワーマンションだから、住んでる人の顔は殆ど知らないけど、その男の人はなんだか変、だった。
派手な柄物のシャツに、シワの目立つズボン、無精髭や、手入れがされていないように見えるぼさぼさの髪。
この場にいることがあまりに不自然だったから、わたしもジュディスも、その人を、じっと見てしまったんだと思う。
その人は、わたしを見て、ジュディスを見て、もう一度、わたしを見た。
すれ違うとき、
「もしかして、結野花音さん?」
と、言った。
「えっ?」
驚いて振り返えると、その人はニヤニヤ笑った。
「まだガキだけど、確かに、いい女だな」
「ちょっと!失礼よ、あなた。何者なの?!」
ジュディスがすごい剣幕で怒鳴るように言った。
その人は「ふん」と、鼻で笑って、去っていった。
「花音、まさか、知り合いじゃないわよね?」
わたしはぶんぶん首を振った。
「どうしてあなたの名前、知ってるのかしら」
わからない。
わからないけど、わたしはなんだかとても、嫌な気持ちになった。
***
兄が仕事から帰って来ると、ジュディスはエントランスですれ違った男の人のことを、兄に話した。
兄の表情は見る見る強張って、わたしはそっと、ため息を吐いた。
「花音!」
「はい!」
兄はわたしの側に来て、両肩に手を置いて、顔を覗きこむように言った。
「なにかされなかったか?触られてない?」
「なにもされてないわ。大丈夫」
「本当に?」
わたしは頷いて答えながら、ジュディスのことを気にしていた。
「なんてことなの!奏!あなたは病気よ。シスターコンプレックスだわ」
ほら、ね。
心配した通りになった。
わたしたちの関係を秘密に出来ないのは、わたしよりも、兄の方かもしれない。
そう思ったら、変だけど、ちょっとおかしくなった。
「花音、当分、外出は控えろ。どこか行きたいところがあるなら、オレが一緒に行くから」
兄はジュディスの言ったことなんて聞こえなかったように、そう言った。
「奏、心配する気持ちはわかるけど、外出禁止なんてあんまりだわ。花音はもう子供じゃないのよ」
ジュディスが憤慨したように言った。
「いいの、ジュディス。わたしも気味が悪いから、お兄ちゃんの言う通りにするわ」
兄を見つめるわたしの表情は、もしかしたら、うっとりしていたのかもしれない。
ジュディスは大きなため息を吐いて、「もう、あなたたちって、世界で一番スイートな、バカップルみたいよ」と、呆れたように言った。
世界で一番スイートなバカップル。
そう言われて、嬉しく思ってしまうなんて、わたしは恋に浮かれているのかもしれない。
わたしは高校を卒業したあとに通うパテェシエの専門学校を決めて、試験を受けて合格した。
兄と暮らす日々は幸せ過ぎて、あっというまに過ぎていくようだった。
冬休みの平日、兄が仕事で不在だったので、ジュディスにお買い物に付き合ってもらい、お洒落なカフェでランチをして、楽しい気分で一緒にマンションに帰ってエントランスに入ったとき。
オートロックの玄関の内側から、男の人が出てきた。
都会のタワーマンションだから、住んでる人の顔は殆ど知らないけど、その男の人はなんだか変、だった。
派手な柄物のシャツに、シワの目立つズボン、無精髭や、手入れがされていないように見えるぼさぼさの髪。
この場にいることがあまりに不自然だったから、わたしもジュディスも、その人を、じっと見てしまったんだと思う。
その人は、わたしを見て、ジュディスを見て、もう一度、わたしを見た。
すれ違うとき、
「もしかして、結野花音さん?」
と、言った。
「えっ?」
驚いて振り返えると、その人はニヤニヤ笑った。
「まだガキだけど、確かに、いい女だな」
「ちょっと!失礼よ、あなた。何者なの?!」
ジュディスがすごい剣幕で怒鳴るように言った。
その人は「ふん」と、鼻で笑って、去っていった。
「花音、まさか、知り合いじゃないわよね?」
わたしはぶんぶん首を振った。
「どうしてあなたの名前、知ってるのかしら」
わからない。
わからないけど、わたしはなんだかとても、嫌な気持ちになった。
***
兄が仕事から帰って来ると、ジュディスはエントランスですれ違った男の人のことを、兄に話した。
兄の表情は見る見る強張って、わたしはそっと、ため息を吐いた。
「花音!」
「はい!」
兄はわたしの側に来て、両肩に手を置いて、顔を覗きこむように言った。
「なにかされなかったか?触られてない?」
「なにもされてないわ。大丈夫」
「本当に?」
わたしは頷いて答えながら、ジュディスのことを気にしていた。
「なんてことなの!奏!あなたは病気よ。シスターコンプレックスだわ」
ほら、ね。
心配した通りになった。
わたしたちの関係を秘密に出来ないのは、わたしよりも、兄の方かもしれない。
そう思ったら、変だけど、ちょっとおかしくなった。
「花音、当分、外出は控えろ。どこか行きたいところがあるなら、オレが一緒に行くから」
兄はジュディスの言ったことなんて聞こえなかったように、そう言った。
「奏、心配する気持ちはわかるけど、外出禁止なんてあんまりだわ。花音はもう子供じゃないのよ」
ジュディスが憤慨したように言った。
「いいの、ジュディス。わたしも気味が悪いから、お兄ちゃんの言う通りにするわ」
兄を見つめるわたしの表情は、もしかしたら、うっとりしていたのかもしれない。
ジュディスは大きなため息を吐いて、「もう、あなたたちって、世界で一番スイートな、バカップルみたいよ」と、呆れたように言った。
世界で一番スイートなバカップル。
そう言われて、嬉しく思ってしまうなんて、わたしは恋に浮かれているのかもしれない。
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