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第五章≪甘い生活≫
3.バースデー
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夏休み、わたしは学校に補習に通った。
期末テストも受けさせてもらえて、未来ちゃんと翔平と一緒に卒業出来そうで、ほっとした。
将来の目標も決まって、補習の合間に、専門学校の見学にも通った。
兄が、わたしの18歳の誕生日会をしてくれた。
お父さんとお母さんのいない誕生日は、はじめてで、そんなわたしを慰めてくれるためだと思う。
長谷川さんに、お料理を作ってもらって、ケーキは自分で作った。
苺は旬じゃないので、冷凍マンゴーを使って、マンゴーレアチーズタルトを作った。
上に生クリームとラズベリー、ブルーベリーを乗せて、艶やかな黄色のマンゴーレアチーズに、白とベリーの赤、青の色合いが映えて、綺麗に出来た。
未来ちゃんには「自分の誕生日に自分でケーキを焼くなんて」と笑われたけど、でも、わたしの誕生日を祝ってくれる、わたしの大好きな人たちに、食べてもらいたかった。
未来ちゃんを兄のマンションに呼んだのは、はじめてだった。
未来ちゃんは目を丸くしていた。
わたしもはじめてここに来たときは、そんな顔をしたと思う。
未来ちゃんと翔平に、ジュディスを紹介して、二人ともすぐにジュディスを好きになった。
みんながそれぞれ、プレゼントをくれた。
未来ちゃんは、可愛い動物型のクッキー型を。
翔平は、紅茶のセット。
ジュディスはメイク道具。
そして、兄はうさぎのぬいぐるみ。
ジュディスは「奏ったら、花音はもう18歳よ。大人の女性に、なんなの、このチョイスは!いい加減に、妹がもう子供じゃないって、認めなさい」って、ちょっと本気で怒った。
「ジュディス、いいの。わたし、嬉しいよ」
わたしは、焦ってジュディスに言った。
だって、兄がわたしを子供扱いしていないってことは、わたしが一番良くわかっている。
夜、わたしたちがしていることを、誰も、知らない。
「みんなも、ありがとう。わたし、嬉しい」
大好きな人たちに18歳を祝ってもらえて、本当に嬉しかった。
お父さん、お母さん、わたしはひとりぼっちじゃないから、安心してね。
食事の後、兄と翔平はゲームをしてる。
ジュディスはそれを見ていた。
わたしと未来ちゃんは、長谷川さんを手伝って、一緒に後片付けをしていた。
長谷川さんがゴミ出しのために部屋を出ると、お皿を洗浄機から出しながら、未来ちゃんが言った。
「ねえ、花音。ジュディスってお兄様の恋人?」
「え?違うと思うよ」
「ほんと?じゃあ、わたし、立候補しようかなあ」
「え、ええっ?!」
「もし、わたしがお兄様と付き合って、結婚したら、わたし、花音のお姉さん、になるね」
それは未来ちゃんの軽口だった。
なのにわたしは、リアクション出来なかった。
頭が真っ白になって、未来ちゃんから受け取ったお皿を持ったまま固まってしまった。
「ちょ、ちょっと、花音!大丈夫?冗談だからね?」
「冗談…?」
「もう、花音ったら、ヤバいよ。ブラコンだよ、それ」
「ブラコン…?」
「まあ、あんな素敵なお兄様がいたら、仕方ないか。でも覚悟しておいたほうがいいよ。お兄様、絶対モテるだろうし、すぐ恋人出来るって。それが、わたしだったらなあ~」
「未来ちゃん、冗談じゃなかったの?!」
「じょ、冗談だよ、もう、花音、顔が怖いよ」
長谷川さんが戻ってきて、その話はそこまでだったけど、それからわたしは、未来ちゃんが兄と話をしているだけで、落ち着かない気持ちになった。
兄と話すときの未来ちゃんは、目がきらきらして、頬がピンク色になって、普段よりも女の子らしくて、可愛いと思う。
冗談、なんかじゃなくて、未来ちゃんは兄のことを本気で好きなのかもしれない。
ジュディスだけじゃなくて、未来ちゃんにまで嫉妬するなんて、わたしはなんて心が狭い女だろう。
でも、わたしは羨ましかった。
堂々と、兄のことを好き、と口に出来る未来ちゃんが、羨ましかったのだ。
だってわたしには、言えない。
兄が好きだって、誰にも言えない。
楽しかった誕生日会が、最後はちょっと残念だった。
みんなを玄関で見送ったあと、兄が、後ろからわたしを緩く抱きしめた。
「お兄ちゃん…?」
「花音、18歳おめでとう」
兄は、わたしの目の前で、右手を開いた。
兄のてのひらに、すごく綺麗な銀の指輪が乗っていた。
「綺麗…」
「これが、本当のプレゼントだよ。うさぎはフェイクだ」
耳元で囁いて、兄はわたしの左手の薬指に、その指輪をはめた。
「なんで?ぴったり!」
「花音が寝てるとき、こっそり測ったんだ」
「ありがとう、お兄ちゃん。嬉しい。わたし、嬉しい」
左手の薬指できらきら光る指輪、本当に嬉しかった。
でも、これは誰にも見せらない。
人前では、出来ないよね。
期末テストも受けさせてもらえて、未来ちゃんと翔平と一緒に卒業出来そうで、ほっとした。
将来の目標も決まって、補習の合間に、専門学校の見学にも通った。
兄が、わたしの18歳の誕生日会をしてくれた。
お父さんとお母さんのいない誕生日は、はじめてで、そんなわたしを慰めてくれるためだと思う。
長谷川さんに、お料理を作ってもらって、ケーキは自分で作った。
苺は旬じゃないので、冷凍マンゴーを使って、マンゴーレアチーズタルトを作った。
上に生クリームとラズベリー、ブルーベリーを乗せて、艶やかな黄色のマンゴーレアチーズに、白とベリーの赤、青の色合いが映えて、綺麗に出来た。
未来ちゃんには「自分の誕生日に自分でケーキを焼くなんて」と笑われたけど、でも、わたしの誕生日を祝ってくれる、わたしの大好きな人たちに、食べてもらいたかった。
未来ちゃんを兄のマンションに呼んだのは、はじめてだった。
未来ちゃんは目を丸くしていた。
わたしもはじめてここに来たときは、そんな顔をしたと思う。
未来ちゃんと翔平に、ジュディスを紹介して、二人ともすぐにジュディスを好きになった。
みんながそれぞれ、プレゼントをくれた。
未来ちゃんは、可愛い動物型のクッキー型を。
翔平は、紅茶のセット。
ジュディスはメイク道具。
そして、兄はうさぎのぬいぐるみ。
ジュディスは「奏ったら、花音はもう18歳よ。大人の女性に、なんなの、このチョイスは!いい加減に、妹がもう子供じゃないって、認めなさい」って、ちょっと本気で怒った。
「ジュディス、いいの。わたし、嬉しいよ」
わたしは、焦ってジュディスに言った。
だって、兄がわたしを子供扱いしていないってことは、わたしが一番良くわかっている。
夜、わたしたちがしていることを、誰も、知らない。
「みんなも、ありがとう。わたし、嬉しい」
大好きな人たちに18歳を祝ってもらえて、本当に嬉しかった。
お父さん、お母さん、わたしはひとりぼっちじゃないから、安心してね。
食事の後、兄と翔平はゲームをしてる。
ジュディスはそれを見ていた。
わたしと未来ちゃんは、長谷川さんを手伝って、一緒に後片付けをしていた。
長谷川さんがゴミ出しのために部屋を出ると、お皿を洗浄機から出しながら、未来ちゃんが言った。
「ねえ、花音。ジュディスってお兄様の恋人?」
「え?違うと思うよ」
「ほんと?じゃあ、わたし、立候補しようかなあ」
「え、ええっ?!」
「もし、わたしがお兄様と付き合って、結婚したら、わたし、花音のお姉さん、になるね」
それは未来ちゃんの軽口だった。
なのにわたしは、リアクション出来なかった。
頭が真っ白になって、未来ちゃんから受け取ったお皿を持ったまま固まってしまった。
「ちょ、ちょっと、花音!大丈夫?冗談だからね?」
「冗談…?」
「もう、花音ったら、ヤバいよ。ブラコンだよ、それ」
「ブラコン…?」
「まあ、あんな素敵なお兄様がいたら、仕方ないか。でも覚悟しておいたほうがいいよ。お兄様、絶対モテるだろうし、すぐ恋人出来るって。それが、わたしだったらなあ~」
「未来ちゃん、冗談じゃなかったの?!」
「じょ、冗談だよ、もう、花音、顔が怖いよ」
長谷川さんが戻ってきて、その話はそこまでだったけど、それからわたしは、未来ちゃんが兄と話をしているだけで、落ち着かない気持ちになった。
兄と話すときの未来ちゃんは、目がきらきらして、頬がピンク色になって、普段よりも女の子らしくて、可愛いと思う。
冗談、なんかじゃなくて、未来ちゃんは兄のことを本気で好きなのかもしれない。
ジュディスだけじゃなくて、未来ちゃんにまで嫉妬するなんて、わたしはなんて心が狭い女だろう。
でも、わたしは羨ましかった。
堂々と、兄のことを好き、と口に出来る未来ちゃんが、羨ましかったのだ。
だってわたしには、言えない。
兄が好きだって、誰にも言えない。
楽しかった誕生日会が、最後はちょっと残念だった。
みんなを玄関で見送ったあと、兄が、後ろからわたしを緩く抱きしめた。
「お兄ちゃん…?」
「花音、18歳おめでとう」
兄は、わたしの目の前で、右手を開いた。
兄のてのひらに、すごく綺麗な銀の指輪が乗っていた。
「綺麗…」
「これが、本当のプレゼントだよ。うさぎはフェイクだ」
耳元で囁いて、兄はわたしの左手の薬指に、その指輪をはめた。
「なんで?ぴったり!」
「花音が寝てるとき、こっそり測ったんだ」
「ありがとう、お兄ちゃん。嬉しい。わたし、嬉しい」
左手の薬指できらきら光る指輪、本当に嬉しかった。
でも、これは誰にも見せらない。
人前では、出来ないよね。
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