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高梨美沙都
【4】初めてのデート
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江梨子のご主人の遊佐和也さんは、困ったような顔をしていた。
「江梨子が、無茶なこと言って、本当に申し訳ありません」
「もう、やめてください。うちの夫も、乗り気のようだったから」
はじめての、セカンドパートナーとの月に一度のデートの日。
わたしたちは、綺麗に盛り付けられたフランス料理の前菜を前にお互いにどうしていいかわからず、戸惑っていた。
テーブルの上には小さな泡を立てるスパークリングワインもある。
あまりお酒が得意ではない、と言ったら遊佐さんが飲みやすいと選んでくれたワインだ。
こんなかしこまったお店で男性と二人きりで食事をするなんて、弘樹と付き合いはじめたばかりの頃以来で、弘樹以外の男性と二人きりの食事ははじめてだった。
夫も今頃、どこかで江梨子と会っているはずだ。
そのことは、考えないようにしようと思った。
「高梨さんは、小さいお子さんがいらっしゃるとか。今日は大丈夫だったんですか」
「ええ、父と母に預けてます。もう父も定年で家にいますので、暇を持て余していて、喜んで預かってくれるんです。仕事のときも、保育園ではなく、両親に見てもらっているんです」
「そうですか。それは心強いですね」
「遊佐さんは、お子さんは?」
「まだ、です。欲しいとは思っているんですけどね」
なんだか、デートというよりまるっきり世間話をするご近所さん、のようだ。
「結婚してから、妻以外の女性とデートするのははじめてで、緊張してしまって。すみません」
遊佐さんは、こめかみをかきながら、照れくさそうに言った。
その様子は優しさの滲み出るような、人の良さを感じた。
姿が良いというわけではないけれど、親しみやすさ、親近感を覚える人だと思った。
メインの肉料理、仔牛のステーキを食べる頃には、わたしの緊張は解けていた。
「これ、とても美味しいです。わたし、お料理はあんまり得意じゃなくて」
「そうなんですか。そうは見えませんね。江梨子はああ見えて、料理は得意なんですよ」
他人に妻のことを素直に褒められるところも、好感が持てた。
「遊佐さんは、江梨子とはどこで知り合ったんですか」
遊佐さんは、華やかな江梨子とはタイプの違う人間のように見えた。
「会社の同僚の紹介です」
「失礼ですが、江梨子と結婚した理由はなんですか」
不躾な質問にも、遊佐さんは嫌な顔をせず、答えてくれる。
「恥ずかしながら、一目惚れです。もちろん、わたしなんかは彼女には釣り合わないとわかっていたんですが、なぜか交際を了解してくれて、結婚することも出来ました。運が良かったんですね」
正直な人、遊佐さんをそう思った。
「高梨さんは、ご主人とは高校時代の同級生だったんですよね?その頃から付き合っていたんですか?初恋は実らないと言いますが、実ったクチですか」
「いいえ、とんでもないです。高校生の頃は、わたしなんて、弘樹に近づくことさえ出来ませんでした」
「ああ、ご主人、イケメンですからね。さぞ、モテたでしょう」
「ええ。サッカー部のエースで、憧れる子は多かったです」
わたしも、弘樹に憧れる沢山の女の子の内の一人だった。
初恋、というのは間違いではないかもしれない。
けれどあの頃、弘樹の目にはわたしなんて、映ってもいなかった。
だから、どうして弘樹がわたしと付き合おうと言ってくれたのか、結婚しようと言ってくれたのか、わたしはいまだにわからない。
目の前に座っている、遊佐さんと同じだ。
ふと、目が合って、わたしたちは結婚相手に対して同じような想いを持っていることを相手の目の中に確認したように感じた。
なぜだか、胸の中がざわついた。
「江梨子が、無茶なこと言って、本当に申し訳ありません」
「もう、やめてください。うちの夫も、乗り気のようだったから」
はじめての、セカンドパートナーとの月に一度のデートの日。
わたしたちは、綺麗に盛り付けられたフランス料理の前菜を前にお互いにどうしていいかわからず、戸惑っていた。
テーブルの上には小さな泡を立てるスパークリングワインもある。
あまりお酒が得意ではない、と言ったら遊佐さんが飲みやすいと選んでくれたワインだ。
こんなかしこまったお店で男性と二人きりで食事をするなんて、弘樹と付き合いはじめたばかりの頃以来で、弘樹以外の男性と二人きりの食事ははじめてだった。
夫も今頃、どこかで江梨子と会っているはずだ。
そのことは、考えないようにしようと思った。
「高梨さんは、小さいお子さんがいらっしゃるとか。今日は大丈夫だったんですか」
「ええ、父と母に預けてます。もう父も定年で家にいますので、暇を持て余していて、喜んで預かってくれるんです。仕事のときも、保育園ではなく、両親に見てもらっているんです」
「そうですか。それは心強いですね」
「遊佐さんは、お子さんは?」
「まだ、です。欲しいとは思っているんですけどね」
なんだか、デートというよりまるっきり世間話をするご近所さん、のようだ。
「結婚してから、妻以外の女性とデートするのははじめてで、緊張してしまって。すみません」
遊佐さんは、こめかみをかきながら、照れくさそうに言った。
その様子は優しさの滲み出るような、人の良さを感じた。
姿が良いというわけではないけれど、親しみやすさ、親近感を覚える人だと思った。
メインの肉料理、仔牛のステーキを食べる頃には、わたしの緊張は解けていた。
「これ、とても美味しいです。わたし、お料理はあんまり得意じゃなくて」
「そうなんですか。そうは見えませんね。江梨子はああ見えて、料理は得意なんですよ」
他人に妻のことを素直に褒められるところも、好感が持てた。
「遊佐さんは、江梨子とはどこで知り合ったんですか」
遊佐さんは、華やかな江梨子とはタイプの違う人間のように見えた。
「会社の同僚の紹介です」
「失礼ですが、江梨子と結婚した理由はなんですか」
不躾な質問にも、遊佐さんは嫌な顔をせず、答えてくれる。
「恥ずかしながら、一目惚れです。もちろん、わたしなんかは彼女には釣り合わないとわかっていたんですが、なぜか交際を了解してくれて、結婚することも出来ました。運が良かったんですね」
正直な人、遊佐さんをそう思った。
「高梨さんは、ご主人とは高校時代の同級生だったんですよね?その頃から付き合っていたんですか?初恋は実らないと言いますが、実ったクチですか」
「いいえ、とんでもないです。高校生の頃は、わたしなんて、弘樹に近づくことさえ出来ませんでした」
「ああ、ご主人、イケメンですからね。さぞ、モテたでしょう」
「ええ。サッカー部のエースで、憧れる子は多かったです」
わたしも、弘樹に憧れる沢山の女の子の内の一人だった。
初恋、というのは間違いではないかもしれない。
けれどあの頃、弘樹の目にはわたしなんて、映ってもいなかった。
だから、どうして弘樹がわたしと付き合おうと言ってくれたのか、結婚しようと言ってくれたのか、わたしはいまだにわからない。
目の前に座っている、遊佐さんと同じだ。
ふと、目が合って、わたしたちは結婚相手に対して同じような想いを持っていることを相手の目の中に確認したように感じた。
なぜだか、胸の中がざわついた。
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