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【第三章】HEAVEN'S DOOR
4.ふたりの男
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不破から話があると電話を受けた馨はホテルのバーを指定した。
話の内容には予想がついていたので「真理と別れてくれないか」と言う前置きのないストレートな切り出しには苦笑しただけだった。
「それは出来ない」
「どうして」
「愚問だ。オレは真理を愛してる」
「真理が愛してるのはオレだ」
「すごい自信だな。不破は昔からそうだった」
声に怒りはなく、どこか過去を懐かしむような口調で馨は言う。
「いつか、おまえがそう言うんじゃないかと思っていた。だから、とっくの昔に答えは用意していたんだ。真理は渡さない、誰にも」
感情を表に出さない馨の声に、余裕を見せつけられているようで不破の方が苛立った。
「あいつには、今のあいつには、おまえよりオレが必要なんだ。まだ記憶、戻らないんだろ?馨、おまえといたら真理はずっと記憶を失ったままだぜ」
「いつから医者になったんだ」
唇の端を歪めて馨は皮肉な笑みを漏らす。
「そのうち、思い出すよ。今まで通り、暮らしていれば…」
「じゃあ、なぜあいつはオレのことだけ思い出したんだ?オレに救いを求めてる。そうじゃないのか」
「それは、自分に都合のいい解釈だ。それに、オレたちには過去の記憶なんて必要ない。仮に、真理の記憶が戻らなくても、オレは構わない」
切り札のように使ったその台詞を、不破は激しく詰った。
「おまえに必要なくても、あいつには必要なんだよ!記憶を失ったまま生きていくのがどんなに心細いか、わかるか?そうやっておまえは、あいつの記憶を閉じ込めて、自分だけのものにしておくつもりかよ。それで満足か、馨」
馨ははっとした。
不破の言うことは悲しいほど的を射ていた。
確かに、記憶を失ってからの真理は、いつもどこか不安そうな顔をしている。
笑顔を見せても、その笑顔は一瞬で消え、何かを探すように焦点の合わない視線で宙を見つめたりする。
ため息を吐いている姿も、何度か見た。
思い出せない自分自身に苛立ったように、唇を噛みしめていることもあった。
過去がないまま、現在を生きることはそんなにも難しいことなのだろうかと、真理を見ていて可哀想になることはあった。
「そんなおまえに、真理を幸福にすることは出来ない」
真実をつきつける不破の声が馨を追いつめる。
「いや、資格はないぜ、馨」
「おまえなら、出来るのか」
挑発するような馨の声は、そのときすでに自分の負けを認めていた。
「出来る。真理の記憶を取り戻して、そして必ず幸福にしてみせる」
揺るぎなく自身に満ちた声は、馨の自尊心を負かした。
「……考えさせてくれ」
馨はグラスの中のウィスキーを飲みほして答えた。
「真理の気持ちを、確かめたい。少し時間をくれないか」
「ああ、わかった」
話の内容には予想がついていたので「真理と別れてくれないか」と言う前置きのないストレートな切り出しには苦笑しただけだった。
「それは出来ない」
「どうして」
「愚問だ。オレは真理を愛してる」
「真理が愛してるのはオレだ」
「すごい自信だな。不破は昔からそうだった」
声に怒りはなく、どこか過去を懐かしむような口調で馨は言う。
「いつか、おまえがそう言うんじゃないかと思っていた。だから、とっくの昔に答えは用意していたんだ。真理は渡さない、誰にも」
感情を表に出さない馨の声に、余裕を見せつけられているようで不破の方が苛立った。
「あいつには、今のあいつには、おまえよりオレが必要なんだ。まだ記憶、戻らないんだろ?馨、おまえといたら真理はずっと記憶を失ったままだぜ」
「いつから医者になったんだ」
唇の端を歪めて馨は皮肉な笑みを漏らす。
「そのうち、思い出すよ。今まで通り、暮らしていれば…」
「じゃあ、なぜあいつはオレのことだけ思い出したんだ?オレに救いを求めてる。そうじゃないのか」
「それは、自分に都合のいい解釈だ。それに、オレたちには過去の記憶なんて必要ない。仮に、真理の記憶が戻らなくても、オレは構わない」
切り札のように使ったその台詞を、不破は激しく詰った。
「おまえに必要なくても、あいつには必要なんだよ!記憶を失ったまま生きていくのがどんなに心細いか、わかるか?そうやっておまえは、あいつの記憶を閉じ込めて、自分だけのものにしておくつもりかよ。それで満足か、馨」
馨ははっとした。
不破の言うことは悲しいほど的を射ていた。
確かに、記憶を失ってからの真理は、いつもどこか不安そうな顔をしている。
笑顔を見せても、その笑顔は一瞬で消え、何かを探すように焦点の合わない視線で宙を見つめたりする。
ため息を吐いている姿も、何度か見た。
思い出せない自分自身に苛立ったように、唇を噛みしめていることもあった。
過去がないまま、現在を生きることはそんなにも難しいことなのだろうかと、真理を見ていて可哀想になることはあった。
「そんなおまえに、真理を幸福にすることは出来ない」
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「いや、資格はないぜ、馨」
「おまえなら、出来るのか」
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「出来る。真理の記憶を取り戻して、そして必ず幸福にしてみせる」
揺るぎなく自身に満ちた声は、馨の自尊心を負かした。
「……考えさせてくれ」
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「真理の気持ちを、確かめたい。少し時間をくれないか」
「ああ、わかった」
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