HEAVENーヘヴンー

フジキフジコ

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【第三章】HEAVEN'S DOOR

8.新しい生活

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真新しいベッドに横たわりながら、真理はこれからはじまる二人だけの生活のことを考えた。

「真理、ごめんな」
ふいに口を開き、自分の不甲斐なさを嘲笑う不破に真理は黙って頭を振った。
不破が悪いわけではない。
不破をこうさせた原因は紛れもなく自分にある。
容赦のないマスコミの攻撃に外に出ることもままならず、家の中で見るテレビからの情報で真理はぼんやりと自分たちの立場を認識していた。

「オレは、いいんだ。それより不破、仕事は大丈夫なの」
事務所から解雇された不破に、仕事はあるのだろうか。
真理の心配はそのことだけだった。
俳優の仕事は不破には天職だと真理は思っている。
過去のことはわからなくても、演じているときの不破は輝いているし、不破も俳優という仕事を誇りにしていることを知っている。

「心配しなくてもいいよ。いい機会だからさ、しばらく二人でゆっくりしようか。新婚旅行って言っても、今海外に行くのは無理そうだから、そうだ温泉でも行く?真理好きだろ、温泉とか」
こんなに追いつめられた状況なのに、幸福そうに笑う不破に真理もつられたように笑う。
「温泉、好きかも。一緒に行ったことって、あった?」
「ないない!全然ないよ。だってほら、オレたち付き合ってるときも極秘だったし。あ、そうだ。いっぺんさあ、おまえ、オレに黙って大輔と歩と3人で温泉行ったんだよ。そんでオレが怒って…」
不破は「覚えてない」と言ってクスクス笑う真理を抱きしめてくすぐった。
「ギブギブ!」
息が出来なくなるほど笑ったあと、不破に抱きしめられたまま呼吸を整える。
この腕の中が、これから自分の生きていく場所なのだとあらためて思う。
不安がないと言ったら嘘になる。
けれど、もう戻る道はない。

「なに、考えてる?」
不破の唇が額に触れ、それから頬を辿るように唇に到達した。
「真理…」
いままでにはなかったような、優しく甘いくちづけに戸惑いながら、真理は瞼を閉じた。

「尊」
不破はやっとおとずれたこのときを急ぐつもりはないようで、パジャマの上からゆっくり真理の身体を撫でる。
「やっとオレのものになったね。もう、絶対に、離さないから」

囁きながらパジャマのボタンを外すその手つきにも感じる自分が恥ずかしくて、真理は目を閉じる。
不破の手は真理の薄い胸を這い、突起で止まった。
愛撫に慣れた真理のそこは軽く触れられただけでも硬く立ちあがる。

「真理、ここ、たってる」
「やだ」
恥ずかしいことを指摘しながら指で捏ねられて、真理は不破の首に腕を回してぎゅっとしがみついた。
「真理、そんなにしがみつかれたら、もっといいことしてやれないよ」
真理の手をやんわりと離して、顔を覗きこむようにして不破は言う。

「ね、指で触られるよりもっと気持ちいいこと、して欲しいでしょ」
「バカ…」
睦言のように甘く詰って、真理は不破の顔に指を伸ばして触れた。
端整で奇麗で、そして凛として男らしい顔だ。
迷うことのない真っ直ぐな瞳はいつもとても澄んでいる。
記憶がなくても、この顔を見ていると胸が苦しいほど高鳴る。
そして、なぜだか、泣きたくなる。
やはり自分はこの男をどうしようもなく愛しているのだろうと思う。

「真理……」
濡れた視線が絡む。
言葉なんて本当は必要ない。
どうしたいか、どうされたいかは互いによく知っていた。

真理の指が触れている不破の顔がゆっくり真理の胸に降りた。
「……ああっ」
乳首にキスされて、こうされたいと望んだ通りの快感に甘い声が洩れる。
「不破……」
もっと、とねだるように、真理の指は不破の髪に絡まってそこで感じていることを伝える。
胸の突起を吸いながら、不破の手は真理の太腿を滑り、両脚を割った。
すでに反応してる真理自身には触れようとせず、その手は何度も何度も柔らかな内腿だけを撫でる。

「…や、だ…なんで…」
「だって、なんかもったいなくて。今まで時間に追われるように、おまえを抱いてたろ。だから、ゆっくり愛したいんだ」
「でも…触って、欲し…」
「可愛いこと言うなよ。オレだって、我慢してるのに」

確かに、太ももに不破の昂ぶりが当たっている。
それは硬くて熱くて、先の方はもう湿っていた。
意識すると真理はそわそわしてしまう。
今すぐ手を伸ばして不破のそれに触れたい。
指を絡めて、扱いて、白い液を出させたい。
口に含んで味わいたい。
身の内に飲み込んで、強く擦ってもらいたい。
ぐちゃぐちゃに溶け合いたい。
不破と、ひとつになりたい。
欲しくて欲しくて、大人しくしていられない。

「我慢しなくていい、不破、抱いて。激しく、して…」
「真理!」
誘うように腰をくねらせ、押しつけてくる真理の誘惑に負けて、不破は、性急な動作で真理の両脚を自分の肩に乗せ、真理の中心に顔を埋めた。

「あんっ!尊…そんなこと…んっ…」
舌で唾液を塗りたくるように裏側を舐め、先端を唇で噛む。
全体を口の中に入れ、きつく吸い上げる。
真理の腰は不破の与える刺激に戦慄くように痙攣した。
「いっ…あっ…あぁ!あああん…いいっ!尊!」
やがて不破を受け入れる場所にも熱く濡れた舌が押し付けられて、真理はなにも考えられなくなった。
空っぽな頭で、脚を突っ張らせ、尻を押し付けるように愛撫をねだる。

何も考えることはない、逃げ込めば応えてくれる腕の中で悦びを感じ、不破の名前を呼ぶだけでいい。
身体中で感じればいい。
愛されていることを、もう誰にも恥じることはないのだから。

その瞬間に幸せだと、真理は思った。

真理の限界を感じとると、不破は真理の表情を見守りながら、ゆっくりとその身体の中に入っていった。

「あんっ!…尊のが…入ってくる…」
不破を受け入れたことを喜ぶ身体が、待ち侘びていたように動きはじめた。
「凄い…今日の真理の中、いつもより熱い…オレのを、締めつけて、絡みついてくるみたい…」
言葉にも感じ、さらに淫らに真理の腰が揺れる。

「ああ、いい…締まる…、ん、気持ちいい、最高、真理…」
不破もそれに応え、二人は激しく腰を使いながら絶頂に昇りつめていった。
「尊…、奥に…出して…尊の、奥にいっぱい、欲しい。…オレを…満たして」
「出すよ、おまえの中に。オレので、いっぱいにしてやるから」

淫らになればなるほど、お互いがお互いのものだと確認出来るというように、一晩中、抱きあい、卑猥な言葉を囁きあって、何度も尽きない欲望を放った。
「愛してる」と数え切れないほど言葉にしながら。


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