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【第三章】HEAVEN'S DOOR
14.予兆
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不破が久し振りに出演した舞台は、公演の度に口コミで観客が増え、千秋楽の日には立ち見客で狭い劇場はいっぱいになった。
『不破尊』が久し振りに聴衆の前に出るという話題性もあったが、舞台自体も、そして不破の役者としての力量も十二分に評価された。
真理も最後の公演を一番後ろの席で観た。
不破にとっては小さ過ぎる劇場で派手な装置もない地味な舞台だった。
けれど、そんなことを感じさせない演技力と存在感に圧倒されて、観終わったときは涙で顔中が濡れていた。
いつまでも鳴り止まない拍手の中で、真理は一緒にグループを組んでいたときのことを思い出していた。
まだROSYがブレイクする前、ちょうどこれくらいの小さなステージで、不破と、夢を語り合ったこと。
いつか日本で一番大きなステージに立ちたいと。
一度は叶ったその夢は、すぐに破れた。
でもきっと不破はまた昔のように、いや、それ以上の高みに昇るだろう。
そう確信して、安心した。
不破はもう大丈夫。
もしも、自分が側にいられなくなっても。
***
「ねえ、真理。もう夜の仕事、行かなくてもいいんじゃないか」
「だけどほら、前借した給料の分は働かないと…」
不破の復帰は『不破尊完全復活』とマスコミでも話題になったが、相変わらずテレビや映画の仕事の話はなかった。
それでも次の舞台も決まり、このまま順調にいけば真理が仕事に出ることはないと不破が思うくらいにはなっていた。
「じゃあそれ、返したら辞める?」
「うん、そうだな」
曖昧に返事をして、真理はそそくさと部屋を出る。
実は少し前から店にはあまり行っていない。
夕方から夜は不破に内緒で、店の側にある、小さな診療所に通っていた。
貧血が酷く、夜は病院で点滴を打っていたのだ。
「もうこれ以上普通の生活は無理ですよ。ご家族の方に言って、すぐ大きな病院に入院して検査を受けなさい」
診療所の医師には何度もそう言われたが、検査ならもう受けていた。
これから自分がしなくてはいけないこともわかっている。
ただ決心がつかないだけだ。
診療所に行ったあとで久しぶりに店に顔を出すと馨が来ていた。
「真理、最近ずっと休んでるんだって。どうしたの。調子悪いんでしょう、顔色が良くない」
そう言われて、真理は何かを伝えたいような瞳でじっと馨を見つめる。
「馨…」
思いつめた表情に、馨の顔も曇る。
嫌な予感に心がざわついた。
「助けてくれる?」
「真理?」
「オレのこと、助けて」
馨に向かって近づこうと一歩を踏み出したとき、真理の身体は力が抜けたように傾いた。
「真理!」
駆け寄って支えるように抱きかかえた真理の身体はひどく軽い。
馨は不吉な予兆に捕らわれながら、腕の中の青白い真理の顔を覗きこんだ。
『不破尊』が久し振りに聴衆の前に出るという話題性もあったが、舞台自体も、そして不破の役者としての力量も十二分に評価された。
真理も最後の公演を一番後ろの席で観た。
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けれど、そんなことを感じさせない演技力と存在感に圧倒されて、観終わったときは涙で顔中が濡れていた。
いつまでも鳴り止まない拍手の中で、真理は一緒にグループを組んでいたときのことを思い出していた。
まだROSYがブレイクする前、ちょうどこれくらいの小さなステージで、不破と、夢を語り合ったこと。
いつか日本で一番大きなステージに立ちたいと。
一度は叶ったその夢は、すぐに破れた。
でもきっと不破はまた昔のように、いや、それ以上の高みに昇るだろう。
そう確信して、安心した。
不破はもう大丈夫。
もしも、自分が側にいられなくなっても。
***
「ねえ、真理。もう夜の仕事、行かなくてもいいんじゃないか」
「だけどほら、前借した給料の分は働かないと…」
不破の復帰は『不破尊完全復活』とマスコミでも話題になったが、相変わらずテレビや映画の仕事の話はなかった。
それでも次の舞台も決まり、このまま順調にいけば真理が仕事に出ることはないと不破が思うくらいにはなっていた。
「じゃあそれ、返したら辞める?」
「うん、そうだな」
曖昧に返事をして、真理はそそくさと部屋を出る。
実は少し前から店にはあまり行っていない。
夕方から夜は不破に内緒で、店の側にある、小さな診療所に通っていた。
貧血が酷く、夜は病院で点滴を打っていたのだ。
「もうこれ以上普通の生活は無理ですよ。ご家族の方に言って、すぐ大きな病院に入院して検査を受けなさい」
診療所の医師には何度もそう言われたが、検査ならもう受けていた。
これから自分がしなくてはいけないこともわかっている。
ただ決心がつかないだけだ。
診療所に行ったあとで久しぶりに店に顔を出すと馨が来ていた。
「真理、最近ずっと休んでるんだって。どうしたの。調子悪いんでしょう、顔色が良くない」
そう言われて、真理は何かを伝えたいような瞳でじっと馨を見つめる。
「馨…」
思いつめた表情に、馨の顔も曇る。
嫌な予感に心がざわついた。
「助けてくれる?」
「真理?」
「オレのこと、助けて」
馨に向かって近づこうと一歩を踏み出したとき、真理の身体は力が抜けたように傾いた。
「真理!」
駆け寄って支えるように抱きかかえた真理の身体はひどく軽い。
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