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【第三章】HEAVEN'S DOOR
13.愛が自分を変える
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不破の舞台は開演が近づいて思わぬトラブルに見舞われた。
会計を担当していた劇団員が劇場に収めるはずだった金を持ったまま行方をくらましたのだ。
不破たちは金策に走り回ったが、必要な額には足りなかった。
「ちくしょう!なんでこんなことになるんだよっ!」
家に帰ってきた不破の口からこぼれた悲痛な叫びに真理は心を痛めた。
「…それで、あといくら足りないの」
「…2百万」
「2百万……」
真理は少し考えて、不破の肩を抱いた。
「大丈夫だよ。オレが、なんとかする」
「なんとかって…なに言ってんの、そんな大金どうすんだよ」
「店のオーナーに頼んで、給料前借りするよ」
「そんなに貸してくれるのか?」
真理は不破の半信半疑の口調に安心した。
芸能界しか知らない不破、世間知らずでよかった。
「どうせ、尊の舞台が成功したら報酬も入るんだろ。そしたら返せるし、大丈夫だって」
***
その夜、店に出勤する前に真理は馨に電話をして会いたいと云った。
「珍しいね、真理が電話くれるなんて」
忙しいのか、かなり遅い時間になって馨は来てくれた。
「ごめん、呼び出したりして」
「なにかあったの」
「頼みがあるんだ…」
歯切れの悪い真理に馨は根気よく、耳を傾ける。
「不破が舞台に出ることになったんだけど、資金が足りなくて…劇場が借りられないんだよ。だから…」
「いくら?」
「……二百万」
馨にとっては、驚くような金額ではなかった。
用意するのは簡単だ。
「いいよ。ちょっと待って」
馨は携帯電話を出して、どこかに2本の電話をかけた。
「用意できたから、仕事が終わったら取りに来て。ここに」
テーブルの上のメモ用紙に、左手でホテルの名前と部屋番号を記して真理に渡す。
「じゃあ、待ってるね」
「馨…」
席を立った馨を、真理は呼びとめる。
馨は肩越しに振り向いて寂しそうに笑った。
「そういう意味、じゃないのかな。違う?」
真理は首を振る。
馨は真理の目論見を正確に当てた。
金の代償に抱かれてもいいと、真理は言外で言っていた。
***
指定されたホテルは馨の生活レベルを語るように、一流ホテルのスィートルームだった。
気後れしながら部屋に入ると馨はソファーに腰掛けてバスローブ姿でワインを飲んでいた。
「これ、2百万の小切手」
テーブルの上の紙切れを指差して言う。
「ありがとう」
「お礼なんていいよ。時間ないんでしょう。服、脱いで」
「馨……」
「君からはじめたゲームだ。今更逃げたりしないよね」
馨の前で一枚ずつ、自分で服を脱ぐ。
全裸になると、「痩せたね」と、馨が怒ったような顔で言った。
「さあ、気持ち良くしてくれるんでしょう」
言われて、馨の足元に跪く。
馨のバスローブを広げ、股間のものに、顔を寄せた。
よく知っているペニス、何度も咥えたことのあるペニスを舌を使って大きくする。
充分硬くなると、口の中に入れて、吸いながら首を動かした。
馨の指は真理の髪をすく。
態度とは裏腹に優しい指先だった。
真理の口の中に一度精を放ったあと、馨は真理の手を引いてベッドに連れていった。
言葉では意地の悪いことを言いながら、ベッドの中では以前と変わらない思いやりのある抱き方で、馨は真理を抱いた。
足の指から馨を受け入れる秘所まで、馨の舌で愛された。
真理がいくら声を我慢しようとしても、真理の身体のことは多分本人以上に知っている馨の指や舌に翻弄されて、思いのままに喘がされた。
不思議と、不破に対する後ろめたさは感じなかった。
皮肉なことに、不貞を隠しながら馨と関係していたときよりも、深く快感を覚えることが出来た。
馨に抱かれながら、また自分は変わったと真理は思う。
いつも愛が自分を変えてゆく。
けれどもう流されているわけじゃない。
自分で選んで、望んで、変わったのだ。
きちんと服を着て手で皺を伸ばしながら、テーブルの上の小切手を手に持つ。
これで不破が役者の仕事が出来ると思うと、真理は自分のしたことをほんの少しも後悔する気にはなれなかった。
不破のためならなんでも、どんなことでも出来る。
今でもその気持ちに変わりはない。
「君は残酷だ。不破のために、オレに抱かれるなんて」
背後でそう声をかけられて、ベッドの中の馨にもう一度歩み寄る。
「馨、ありがとう」
微笑してそう言うと、真理は屈んで馨に触れるだけのキスをした。
「……真理、君、変わったね」
前髪をかきあげる真理を、別人を見るような目で見て馨は言う。
真理は変わった。
自分と一緒にいるときはこんなに強くなかった。
今の真理には少しも迷いがなくて、直向きで強い。
一緒に仕事をしていたときの強さを取り戻したように。
逆境の愛が、真理を変えたのだろうか。
真理が不破のために手首を切ってそれを救った自分は、真理を守ることでどんどん弱い人間にしてしまったのかもしれない。
けれど、真理の不破への愛は、これほどに真理を強くしている。
完敗だと、馨ははじめて自分の敗北を認めた。
会計を担当していた劇団員が劇場に収めるはずだった金を持ったまま行方をくらましたのだ。
不破たちは金策に走り回ったが、必要な額には足りなかった。
「ちくしょう!なんでこんなことになるんだよっ!」
家に帰ってきた不破の口からこぼれた悲痛な叫びに真理は心を痛めた。
「…それで、あといくら足りないの」
「…2百万」
「2百万……」
真理は少し考えて、不破の肩を抱いた。
「大丈夫だよ。オレが、なんとかする」
「なんとかって…なに言ってんの、そんな大金どうすんだよ」
「店のオーナーに頼んで、給料前借りするよ」
「そんなに貸してくれるのか?」
真理は不破の半信半疑の口調に安心した。
芸能界しか知らない不破、世間知らずでよかった。
「どうせ、尊の舞台が成功したら報酬も入るんだろ。そしたら返せるし、大丈夫だって」
***
その夜、店に出勤する前に真理は馨に電話をして会いたいと云った。
「珍しいね、真理が電話くれるなんて」
忙しいのか、かなり遅い時間になって馨は来てくれた。
「ごめん、呼び出したりして」
「なにかあったの」
「頼みがあるんだ…」
歯切れの悪い真理に馨は根気よく、耳を傾ける。
「不破が舞台に出ることになったんだけど、資金が足りなくて…劇場が借りられないんだよ。だから…」
「いくら?」
「……二百万」
馨にとっては、驚くような金額ではなかった。
用意するのは簡単だ。
「いいよ。ちょっと待って」
馨は携帯電話を出して、どこかに2本の電話をかけた。
「用意できたから、仕事が終わったら取りに来て。ここに」
テーブルの上のメモ用紙に、左手でホテルの名前と部屋番号を記して真理に渡す。
「じゃあ、待ってるね」
「馨…」
席を立った馨を、真理は呼びとめる。
馨は肩越しに振り向いて寂しそうに笑った。
「そういう意味、じゃないのかな。違う?」
真理は首を振る。
馨は真理の目論見を正確に当てた。
金の代償に抱かれてもいいと、真理は言外で言っていた。
***
指定されたホテルは馨の生活レベルを語るように、一流ホテルのスィートルームだった。
気後れしながら部屋に入ると馨はソファーに腰掛けてバスローブ姿でワインを飲んでいた。
「これ、2百万の小切手」
テーブルの上の紙切れを指差して言う。
「ありがとう」
「お礼なんていいよ。時間ないんでしょう。服、脱いで」
「馨……」
「君からはじめたゲームだ。今更逃げたりしないよね」
馨の前で一枚ずつ、自分で服を脱ぐ。
全裸になると、「痩せたね」と、馨が怒ったような顔で言った。
「さあ、気持ち良くしてくれるんでしょう」
言われて、馨の足元に跪く。
馨のバスローブを広げ、股間のものに、顔を寄せた。
よく知っているペニス、何度も咥えたことのあるペニスを舌を使って大きくする。
充分硬くなると、口の中に入れて、吸いながら首を動かした。
馨の指は真理の髪をすく。
態度とは裏腹に優しい指先だった。
真理の口の中に一度精を放ったあと、馨は真理の手を引いてベッドに連れていった。
言葉では意地の悪いことを言いながら、ベッドの中では以前と変わらない思いやりのある抱き方で、馨は真理を抱いた。
足の指から馨を受け入れる秘所まで、馨の舌で愛された。
真理がいくら声を我慢しようとしても、真理の身体のことは多分本人以上に知っている馨の指や舌に翻弄されて、思いのままに喘がされた。
不思議と、不破に対する後ろめたさは感じなかった。
皮肉なことに、不貞を隠しながら馨と関係していたときよりも、深く快感を覚えることが出来た。
馨に抱かれながら、また自分は変わったと真理は思う。
いつも愛が自分を変えてゆく。
けれどもう流されているわけじゃない。
自分で選んで、望んで、変わったのだ。
きちんと服を着て手で皺を伸ばしながら、テーブルの上の小切手を手に持つ。
これで不破が役者の仕事が出来ると思うと、真理は自分のしたことをほんの少しも後悔する気にはなれなかった。
不破のためならなんでも、どんなことでも出来る。
今でもその気持ちに変わりはない。
「君は残酷だ。不破のために、オレに抱かれるなんて」
背後でそう声をかけられて、ベッドの中の馨にもう一度歩み寄る。
「馨、ありがとう」
微笑してそう言うと、真理は屈んで馨に触れるだけのキスをした。
「……真理、君、変わったね」
前髪をかきあげる真理を、別人を見るような目で見て馨は言う。
真理は変わった。
自分と一緒にいるときはこんなに強くなかった。
今の真理には少しも迷いがなくて、直向きで強い。
一緒に仕事をしていたときの強さを取り戻したように。
逆境の愛が、真理を変えたのだろうか。
真理が不破のために手首を切ってそれを救った自分は、真理を守ることでどんどん弱い人間にしてしまったのかもしれない。
けれど、真理の不破への愛は、これほどに真理を強くしている。
完敗だと、馨ははじめて自分の敗北を認めた。
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