45 / 48
【番外編】楽園の果実(3P編)
【4】
しおりを挟む
都会の夜景は天上の星よりも眩い。
甘いカクテルと窓から見える足下の煌きに酔ったように、目の端を染めて真理は横に座った馨に微笑みかけた。
「綺麗だな。馨はどうしてこんな店を知ってるの」
馨に連れられて来た、都心の高層ホテルのラウンジバー。
出かけようと言われたときは面倒がった真理だったが、静かで眺めのいい高級な店ですっかり寛いでいる。
「この前仕事の打ち合わせで、連れて来てもらったんだ。その時から今度は真理と一緒に来たいと思っていた」
いつでも君のことを考えている。
馨の微笑みには、そんな言葉が含まれている。
「でも、窓の外の夜景より、真理の方がよほど綺麗だよ」
髪に触れながら、目を細めて馨が言った。
「なに、言って…」
「その服も髪型も、すごく、似合う」
今夜の真理は、出かける前に、馨自身がコーディネイトした、光沢のある臙脂色の絹のシャツにシルバーのジャケットを着ている。
髪も、馨がセットした。
愛する者を自分好みの装いにする、それは馨の密かな楽しみだった。
「脱がせるのが惜しいね」
「馨!」
恥ずかしそうに俯いて、自分の髪を撫でる馨の手を払う。
馨はシャイな真理に苦笑して、耳元に顔を寄せ「そろそろ部屋に行こう」と囁いた。
飲みはじめてから少しして、「今夜はこのホテルに部屋をとってるから、泊まっていこう」と言われた。
珍しいとは思ったが、特に不審だとは思わなかった。
馨の後をついてエレベーターに乗り、数階下に降りた。
毛足の長い絨毯は靴音を消す。
確信のある迷いのない足取りで廊下を進む馨のあとを黙ってついていくと、馨が部屋の前で立ち止まった。
てっきりポケットからカードキイを出すのかと思っていたら、馨は部屋のドアをノックした。
「馨!なにしてるんだよ」
驚いて小さく叫ぶと、すぐに部屋のドアが内側から開く。
「遅せえ」
そう言ってそこに立っていたのは、真理のもう一人の恋人、不破尊だった。
***
「これ、どういうこと」
部屋の中に入った真理は、不破と馨の顔を交互に見て、説明を求める。
目尻の少し上がった大きな瞳が、騙されたことに憤っていた。
「や、オレたちって、二人でおまえのこと共有してるだろ。オレも馨も、気になるんだよ。自分以外に真理が抱かれるとき、どんな表情してんのかとか、さ。嫉妬、っていうの?やっぱ、あるから。それってさ、知らないからだと思うんだ。オレは、馨に抱かれている真理を知らない。馨はオレに抱かれるおまえを知らない。知っていれば、無闇に嫉妬しなくてすむんじゃないか。だからいっぺん、一緒に寝てみたらどうか…って」
「ふざけるな!」
「君に黙っていたことは謝るよ、真理、ごめん。だけど、わかって欲しいな、オレたちの気持ちも」
「馨……」
そう言われると、真理には言葉を返せない。
自分を共有させてしまっているのは自分の優柔不断が招いていることなのだ。
けれど。
ちらっと、開いた寝室の扉から見える大きなダブルベッドを見て、怖じ気づく。
三人で愛し合うなんて、そんな大胆で恥知らずな真似は出来ない。
拒絶しようとすると、背後から肩を抱かれた。
「不破?」
「真理、おまえは何も考えなくていいんだ。オレたちに任せて。そして、オレたちを、許して」
許して?
不破がどうしてそんなことを言うのか真理には理解出来ない。
不破にも馨にも罪はない。
自分だけに、それはあるのだ。
「真理…」
前からは馨が近づいてきて、戸惑っている真理の顔を両手で挟み、唇を重ねてきた。
驚いて避けようとしたが、背後から不破に身体を抱かれていて身動きが出来ない。
不破の腕に包まれたまま、馨に唇を弄られる。
無理強いされているのに等しいのに、唇に触れる馨の唇も舌もいつも通りに優しくて、つい状況を忘れて受け入れてしまう。
舌が口内に入ってきて絡まると、もう真理は抗うことが出来ない。
「…はっ…ん…ふぅ…」
背後から抱いている不破の手はジャケットの下に潜り、シャツの上から真理の身体を撫でる。
そうしながら、不破は真理の髪や耳朶に口づけた。
唇と身体と耳朶を一度に愛されて、今まで覚えのない感覚に真理の身体は戸惑いながらも確実に熱を高めていく。
濃厚になった馨とのキスの合間に、唇から漏れる短い呼吸には艶が滲んでいた。
そしてそんな真理の反応が、不破と馨を煽る。
「すげえ、今夜の真理、色っぽい……」
不破が耳の中に言葉を吹き込む。
「ねえ、抱いてもいい?オレと馨で、おまえのこと抱いても……」
頷くしかなかった。
こんな状況ではもう自分たちは引き返せない。
知らない世界に、踏み込むしかない。
甘いカクテルと窓から見える足下の煌きに酔ったように、目の端を染めて真理は横に座った馨に微笑みかけた。
「綺麗だな。馨はどうしてこんな店を知ってるの」
馨に連れられて来た、都心の高層ホテルのラウンジバー。
出かけようと言われたときは面倒がった真理だったが、静かで眺めのいい高級な店ですっかり寛いでいる。
「この前仕事の打ち合わせで、連れて来てもらったんだ。その時から今度は真理と一緒に来たいと思っていた」
いつでも君のことを考えている。
馨の微笑みには、そんな言葉が含まれている。
「でも、窓の外の夜景より、真理の方がよほど綺麗だよ」
髪に触れながら、目を細めて馨が言った。
「なに、言って…」
「その服も髪型も、すごく、似合う」
今夜の真理は、出かける前に、馨自身がコーディネイトした、光沢のある臙脂色の絹のシャツにシルバーのジャケットを着ている。
髪も、馨がセットした。
愛する者を自分好みの装いにする、それは馨の密かな楽しみだった。
「脱がせるのが惜しいね」
「馨!」
恥ずかしそうに俯いて、自分の髪を撫でる馨の手を払う。
馨はシャイな真理に苦笑して、耳元に顔を寄せ「そろそろ部屋に行こう」と囁いた。
飲みはじめてから少しして、「今夜はこのホテルに部屋をとってるから、泊まっていこう」と言われた。
珍しいとは思ったが、特に不審だとは思わなかった。
馨の後をついてエレベーターに乗り、数階下に降りた。
毛足の長い絨毯は靴音を消す。
確信のある迷いのない足取りで廊下を進む馨のあとを黙ってついていくと、馨が部屋の前で立ち止まった。
てっきりポケットからカードキイを出すのかと思っていたら、馨は部屋のドアをノックした。
「馨!なにしてるんだよ」
驚いて小さく叫ぶと、すぐに部屋のドアが内側から開く。
「遅せえ」
そう言ってそこに立っていたのは、真理のもう一人の恋人、不破尊だった。
***
「これ、どういうこと」
部屋の中に入った真理は、不破と馨の顔を交互に見て、説明を求める。
目尻の少し上がった大きな瞳が、騙されたことに憤っていた。
「や、オレたちって、二人でおまえのこと共有してるだろ。オレも馨も、気になるんだよ。自分以外に真理が抱かれるとき、どんな表情してんのかとか、さ。嫉妬、っていうの?やっぱ、あるから。それってさ、知らないからだと思うんだ。オレは、馨に抱かれている真理を知らない。馨はオレに抱かれるおまえを知らない。知っていれば、無闇に嫉妬しなくてすむんじゃないか。だからいっぺん、一緒に寝てみたらどうか…って」
「ふざけるな!」
「君に黙っていたことは謝るよ、真理、ごめん。だけど、わかって欲しいな、オレたちの気持ちも」
「馨……」
そう言われると、真理には言葉を返せない。
自分を共有させてしまっているのは自分の優柔不断が招いていることなのだ。
けれど。
ちらっと、開いた寝室の扉から見える大きなダブルベッドを見て、怖じ気づく。
三人で愛し合うなんて、そんな大胆で恥知らずな真似は出来ない。
拒絶しようとすると、背後から肩を抱かれた。
「不破?」
「真理、おまえは何も考えなくていいんだ。オレたちに任せて。そして、オレたちを、許して」
許して?
不破がどうしてそんなことを言うのか真理には理解出来ない。
不破にも馨にも罪はない。
自分だけに、それはあるのだ。
「真理…」
前からは馨が近づいてきて、戸惑っている真理の顔を両手で挟み、唇を重ねてきた。
驚いて避けようとしたが、背後から不破に身体を抱かれていて身動きが出来ない。
不破の腕に包まれたまま、馨に唇を弄られる。
無理強いされているのに等しいのに、唇に触れる馨の唇も舌もいつも通りに優しくて、つい状況を忘れて受け入れてしまう。
舌が口内に入ってきて絡まると、もう真理は抗うことが出来ない。
「…はっ…ん…ふぅ…」
背後から抱いている不破の手はジャケットの下に潜り、シャツの上から真理の身体を撫でる。
そうしながら、不破は真理の髪や耳朶に口づけた。
唇と身体と耳朶を一度に愛されて、今まで覚えのない感覚に真理の身体は戸惑いながらも確実に熱を高めていく。
濃厚になった馨とのキスの合間に、唇から漏れる短い呼吸には艶が滲んでいた。
そしてそんな真理の反応が、不破と馨を煽る。
「すげえ、今夜の真理、色っぽい……」
不破が耳の中に言葉を吹き込む。
「ねえ、抱いてもいい?オレと馨で、おまえのこと抱いても……」
頷くしかなかった。
こんな状況ではもう自分たちは引き返せない。
知らない世界に、踏み込むしかない。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?
monteri
BL
CM制作会社の新入社員、藤白純太は入社1ヶ月で教育係の先輩が過労で倒れたため、特別なクライアントの担当を引き継ぐことになる。
そのクライアントは、女子禁制ミーハー厳禁の芸能事務所だった。
主人公の無知で純なところに、翻弄されたり、骨抜きにされるイケメン社長と、何も知らない純太がドキドキするお話です。
※今回の表紙はAI生成です
※小説家になろうにも公開してます
僕の恋人は、超イケメン!!
八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
聖者の愛はお前だけのもの
いちみりヒビキ
BL
スパダリ聖者とツンデレ王子の王道イチャラブファンタジー。
<あらすじ>
ツンデレ王子”ユリウス”の元に、希少な男性聖者”レオンハルト”がやってきた。
ユリウスは、魔法が使えないレオンハルトを偽聖者と罵るが、心の中ではレオンハルトのことが気になって仕方ない。
意地悪なのにとても優しいレオンハルト。そして、圧倒的な拳の破壊力で、数々の難題を解決していく姿に、ユリウスは惹かれ、次第に心を許していく……。
全年齢対象。
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる