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【番外編】恋の運命(大学生編)
7.喧嘩のすえ
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久しぶりの雅治とのデートは天気だけは申し分のない、秋晴れに恵まれた日曜日だった。
家まで迎えに来てくれた雅治の新車で高速に乗ったときは最高の気分だった晶は、高速を降りたときにはむっつりと黙りこんでいた。
雅治の車が納車されたのが2週間前で、助手席に乗るのが自分が最初ではない、と知ったからだ。
雅治が馬鹿正直に「大学の友達を乗せた」、と言ったことが晶のカンに触った。
それがヨシオカマナミのことに違いない、と思ったのだ。
車内の重い空気とは不似合いな軽快な洋楽がカーステレオから流れている。
車は真っ直ぐ伸びた海岸線を走っていて、窓からは秋の海が煌めいて見えていた。
雅治から顔を背けるように窓の外ばかり見ていた晶は、それでも時々、チラっと雅治の横顔を盗み見る。
その度に胸に軽い痛みを感じた。
喧嘩をしたとき、自分から折れることはほとんどない晶だったが、胸の痛みに負けて、自分から雅治に話かけた。
「雅治…。来週の連休に覚んちの別荘に行く件だけどさ、行きも一緒に行ける?それとも向こうで合流する?」
運転中の雅治は前を向いたまま「ごめん」と言った。
「ごめん?」
「それだけど、オレ、行けなくなったんだ」
「マジで?!なんでだよ?!」
晶は叫んだ。
久しぶりに泊まりがけて一緒にいられることを、楽しみにしていたのだ。
「ゼミの教授の講演会を手伝う用事が出来たんだ。晶は、覚たちと行ってきていいよ」
雅治はトンチンカンな気を遣う。
晶がその旅行を楽しみにしていたのは、雅治と一緒に行けるからだ。
雅治がいかないのでは、旅行自体に意味がない。
けれど晶は素直にそう言うことは出来なかった。
代わりに、別の問題を引き合いにだした。
「いいよって、ほんとに、いいのかよ。オレが、他の男と泊まりがけの旅行しても」
「他の男って、覚たちだろ。構わないよ」
同性を恋愛の対象にしている晶の場合、同性の友人は必ず友人という範疇に納まるわけではない。
友人が友人以上の関係に変わる可能性はいつだってあるのに、雅治は嫉妬さえしない。
覚が随分前から自分を口説いていることにも気づいていないのかと、腹が立つ。
「ふーん。雅治はオレと覚の間には、エロいことはおきないって考えてるのか。オレって案外信用されてるんだな。それとも、どうでもいいか、どっち」
「拗ねるなよ。どうでもいいなんて思ってない。オレは、晶を縛りたくないだけだよ。晶は自分の好きなヤツと、好きなことをすればいい」
「へえ、セックスでも?」
雅治は呆れたように、顔を顰めて、投やりともとれる口調で言った。
「晶が他の男としたいなら、オレには止める権利はない」
「ああそうか。雅治の気持ちはよくわかった。車止めろよ。オレ、歩いて帰る!」
車は急ブレーキで止まった。
怒っている雅治の顔を見ないようにして助手席から降り、ドアを思い切り閉めて、晶は急速に暮れはじめている薄暗い知らない道を歩き出した。
しばらくして雅治の運転する車は晶を追い抜いて、真っ直ぐな道を走り去った。
晶は車のテールランプが見えなくなるまで呆然とその場に立ち尽くした。
「ちくしょう、あのやろー。ホントに置いていきやがった」
雅治の前では意地を張ったが、まさか本当に置いていかれるとは思ってなくて、情けなくて、泣きたくなった。
しかし、めそめそと呑気に泣いていられる場合ではない。
なにしろ今自分が立っている場所さえわからないのだ。
海沿いの道だから遭難することはないのが救いだが、最寄り駅までの行き方も距離もわからない。
そういえば金だって持ってない。
ポケットには小銭があるだけだ。
幸い、携帯だけは持っていた。
誰かに迎えに来させよう。
それしかない。
一番はじめに頭に浮かんだ覚の番号をアドレス帳から探していると、着信音が鳴った。
液晶画面には「伊勢谷」と表示が出ている。
同時に充電が残り少ないことに気づいた。
「あの伊勢谷さん、オレ、今ピンチなんだ。千葉のどっか知らないところに置いてかれて。しかも携帯の電池がなくなりそうで」
早口でそう言うと伊勢谷は、「なんだって。オレが迎えにいってやろうか」と言う。
「でも悪いし…ここがどこかもわからないし」
「見えるところにファミレスとかホテルとか、時間を潰せるところはないか」
「ファミレスはなさそ…あ、ホテルなら見える。でもラブホかな、あれ…」
ちゃちなテーマパークのお城の塔のような屋根を見ながら晶は答えた。
「この際ラブホでもいい。中に入って、住所がわかったら電話してくれ。ホテルの電話を使っていいから」
電池残量を気にしてくれたのか、了解の返事をする前に通話が切られた。
覚に頼むつもりだったが、伊勢谷が来てくれるならそれでもいいかと思った。
正直、気が滅入っていてもうどうにでもなれという捨て鉢な気分だった。
家まで迎えに来てくれた雅治の新車で高速に乗ったときは最高の気分だった晶は、高速を降りたときにはむっつりと黙りこんでいた。
雅治の車が納車されたのが2週間前で、助手席に乗るのが自分が最初ではない、と知ったからだ。
雅治が馬鹿正直に「大学の友達を乗せた」、と言ったことが晶のカンに触った。
それがヨシオカマナミのことに違いない、と思ったのだ。
車内の重い空気とは不似合いな軽快な洋楽がカーステレオから流れている。
車は真っ直ぐ伸びた海岸線を走っていて、窓からは秋の海が煌めいて見えていた。
雅治から顔を背けるように窓の外ばかり見ていた晶は、それでも時々、チラっと雅治の横顔を盗み見る。
その度に胸に軽い痛みを感じた。
喧嘩をしたとき、自分から折れることはほとんどない晶だったが、胸の痛みに負けて、自分から雅治に話かけた。
「雅治…。来週の連休に覚んちの別荘に行く件だけどさ、行きも一緒に行ける?それとも向こうで合流する?」
運転中の雅治は前を向いたまま「ごめん」と言った。
「ごめん?」
「それだけど、オレ、行けなくなったんだ」
「マジで?!なんでだよ?!」
晶は叫んだ。
久しぶりに泊まりがけて一緒にいられることを、楽しみにしていたのだ。
「ゼミの教授の講演会を手伝う用事が出来たんだ。晶は、覚たちと行ってきていいよ」
雅治はトンチンカンな気を遣う。
晶がその旅行を楽しみにしていたのは、雅治と一緒に行けるからだ。
雅治がいかないのでは、旅行自体に意味がない。
けれど晶は素直にそう言うことは出来なかった。
代わりに、別の問題を引き合いにだした。
「いいよって、ほんとに、いいのかよ。オレが、他の男と泊まりがけの旅行しても」
「他の男って、覚たちだろ。構わないよ」
同性を恋愛の対象にしている晶の場合、同性の友人は必ず友人という範疇に納まるわけではない。
友人が友人以上の関係に変わる可能性はいつだってあるのに、雅治は嫉妬さえしない。
覚が随分前から自分を口説いていることにも気づいていないのかと、腹が立つ。
「ふーん。雅治はオレと覚の間には、エロいことはおきないって考えてるのか。オレって案外信用されてるんだな。それとも、どうでもいいか、どっち」
「拗ねるなよ。どうでもいいなんて思ってない。オレは、晶を縛りたくないだけだよ。晶は自分の好きなヤツと、好きなことをすればいい」
「へえ、セックスでも?」
雅治は呆れたように、顔を顰めて、投やりともとれる口調で言った。
「晶が他の男としたいなら、オレには止める権利はない」
「ああそうか。雅治の気持ちはよくわかった。車止めろよ。オレ、歩いて帰る!」
車は急ブレーキで止まった。
怒っている雅治の顔を見ないようにして助手席から降り、ドアを思い切り閉めて、晶は急速に暮れはじめている薄暗い知らない道を歩き出した。
しばらくして雅治の運転する車は晶を追い抜いて、真っ直ぐな道を走り去った。
晶は車のテールランプが見えなくなるまで呆然とその場に立ち尽くした。
「ちくしょう、あのやろー。ホントに置いていきやがった」
雅治の前では意地を張ったが、まさか本当に置いていかれるとは思ってなくて、情けなくて、泣きたくなった。
しかし、めそめそと呑気に泣いていられる場合ではない。
なにしろ今自分が立っている場所さえわからないのだ。
海沿いの道だから遭難することはないのが救いだが、最寄り駅までの行き方も距離もわからない。
そういえば金だって持ってない。
ポケットには小銭があるだけだ。
幸い、携帯だけは持っていた。
誰かに迎えに来させよう。
それしかない。
一番はじめに頭に浮かんだ覚の番号をアドレス帳から探していると、着信音が鳴った。
液晶画面には「伊勢谷」と表示が出ている。
同時に充電が残り少ないことに気づいた。
「あの伊勢谷さん、オレ、今ピンチなんだ。千葉のどっか知らないところに置いてかれて。しかも携帯の電池がなくなりそうで」
早口でそう言うと伊勢谷は、「なんだって。オレが迎えにいってやろうか」と言う。
「でも悪いし…ここがどこかもわからないし」
「見えるところにファミレスとかホテルとか、時間を潰せるところはないか」
「ファミレスはなさそ…あ、ホテルなら見える。でもラブホかな、あれ…」
ちゃちなテーマパークのお城の塔のような屋根を見ながら晶は答えた。
「この際ラブホでもいい。中に入って、住所がわかったら電話してくれ。ホテルの電話を使っていいから」
電池残量を気にしてくれたのか、了解の返事をする前に通話が切られた。
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