カラダの恋人

フジキフジコ

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ヒミツの恋人【第一部】

22.久しぶりの

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夏休みに入ると、オレも紺野も途端に忙しくなった。
教師が休みが多くて楽な仕事だなんて思ったのは大きな間違いだった。
研修と称する地方への出張が集中して用意され、しかも一週間泊まりなんてスケジュールもあって、部活の合宿で不在にしていた紺野とは8月の半ばまですれ違いが続いた。

結局、紺野とはあれ以来、ゆっくり話をしてなくて、言おうと思っていた決心も未だ果たせていない。
考えてみたら、今頃になって「好きだ」なんて言うのはとてつもなく恥ずかしい。
じゃあ、今まではなんだったんだって。

紺野とはずっと…シテなかった。
すれ違っていたせいもあるけど、何日かは二人とも部屋にいた日もあったのに。
気がついたら、一緒に暮らしはじめてからこんなに長く紺野に触れなかったことはなかったってくらい、触れ合っていない。
正直言ってオレは悶々としていた。

でも一週間ぶりに会った今夜はきっと、紺野の方からモーションをかけてくると期待…じゃない、思っていた。
それなのに紺野は風呂からあがると、先に風呂から出てダイニングテーブルで水を飲んでいたオレに「あれ、トモ、まだ起きてるの?疲れてるだろ、早く寝た方がいいよ」なんて言って、さっさと自分の部屋に引っ込もうとする。

「紺野!」
オレは咄嗟に紺野を引き止めた。
「なに?」
普通に聞かれて、もう言葉が出ない。
なんて言えばいいんだよ。
「しよう」とか「やろう」とか…「抱いて」とか?
言えるワケない、そんなこと。
「な、なんでもない」
「そ?おやすみ」
紺野が部屋のドアを閉めると、心まで拒絶された気がした。

ちくしょう、バカヤロー。
なんで、なんで、オレがこんな気持ちにならないといけないんだよ。

これ以上、なにかを考えて不安になるのは耐えられなかった。
意を決して、オレは紺野の部屋のドアを叩いて、返事を確認する前にドアを開けた。

「トモ?どうした」
紺野はベッドの上で横になって、雑誌を読んでいた。
どうした、と聞かれて「好きです」とは言えない。
何も言えないまま、オレはドアの前で硬直してしまった。

「トモ?」
挙動不審なオレに、もう一度紺野が声をかける。
それでもオレは動けず、何も言えず、紺野の顔を見ることさえ出来ず、立ちすくんでいた。
きっとものすごく顔が赤くなっている。
ドキドキしてワケがわからなくて、いっそ、泣き出したい気分。

「トモ、こっち来て」
紺野が身じろぐ気配がした。
そろそろと顔を上げると横になっていた紺野は起き上がって、ベッドに腰掛けていた。
他の選択肢はなく、オレは言われるとおりに紺野に近づいた。
前に立つと紺野はオレの手を握った。

「なんか、言いたいことがある?」
オレは頷いた。
「聞くよ。なに?」
「い…言えない」
紺野は呆れたように目を丸くして「言いたいことがあるのに、言えないんだ」と言って笑った。

「じゃあ、いい。言いたくなったら言って。取り合えず…」
そう言うと、握っていた手を引き寄せられ、後ろ向きに腕の中に囲まれた。
「久しぶりに、する?」
後ろから耳元で、言われた。
顔を見なくてすんで、よかった。
なぜだか恥ずかしくてたまらない。

紺野の手はもうオレの身体を撫ではじめ、熱い舌が耳朶や肩を這う。
「…こ…ん、の…」
オレはランニングシャツの上から乳首を弄る紺野の指先を見ていた。
両手で左右それぞれの突起を抓まれて、布越しなのにたまらなくムズムズする。
人差し指が突起を転がして押し潰す。
遊ばれているような動作に「いやだ」と言って身体を捩ると、紺野の右手は降下して、オレの太腿を自分の太腿の上に跨がせて脚を大きく開かされたあと、短パンの上からやんわりと撫でられた。
そうされてオレのものはいきなり硬くなった。

「すごい、もうこんなになってる。トモ、溜まってた?」
当たり前だっ、誰のせいだよ。
「ね、一人で抜かなかったの?自分でシテない?」
「…して…ねーよっ……んっ」
「ホントに?オレは、自分で慰めてたよ。トモのエロい顔、想像してオナってた」
耳元でそう言われてどんどん身体が熱くなる。
オナニーのオカズにされていたと聞かされてまるで悦んでいるみたいでカッコ悪いけど、勝手に反応するカラダに文句は言えない。

「自分で、ここを、こんなふうにね、擦ってた」
言いながら、短パンのゴムの中に手を入れて、下着ごと短パンを少しだけずり下げてオレのナニを外に出す。
すっかり勃起したそれを、紺野は口で言ってる通り、自分で扱いているみたいに右手で握ってシェイクした。
「あっ…こ、んの…」
「どうして欲しい?トモのシテ欲しいことはなんでもしてあげる。ここ、どうして欲しい?」
「…いやっ…だ…」
どうして欲しいかなんて、言えるはずがない。
だいたい今さら聞かなくてもわかるだろ!
いつもみたいにシテ欲しいだけなのに、今夜の紺野は意地悪だ。

「ねえ、トモ、言ってよ。身体の方が正直だよ。ほら、我慢出来ないのが、出てる」
自分でもわかる。
先端が濡れている。
滲み出て、こぼれて、紺野の指を湿らす。
「滑りがよくなった」
「…んっ…いいっ…こ、んの…気持ち、いっ…」
もう何も考えたくない。
この気持ちいい感覚だけに集中したい。
「紺野…」
オレは顔を横に向けて、喉を逸らして意地悪なことばかり言う紺野の唇に自分の唇を近付けた。
こうすれば、何をして欲しいかわかるだろ?

「…トモ……」
唇に熱い吐息。
オレを呼ぶ紺野の甘い息。
「キス、して」
1秒だって待てなくて、思わず自分でも予想外のセリフを吐いてしまった。
重なってきた紺野の唇を貪る。
邪魔な理性のネジが1本づつ外れていく。

じっとしていられなくて、身体を捻って紺野の首に腕を回して抱き合って口づけながら、ベッドに倒れこんだ。
呼吸のために離れてはすぐにまた唇と唇を重ね、忙しいキスの合間に縺れるように服を脱がしあった。
全裸になって、お互いのペニスを口で愛撫しあう。
奥まで咥え、舌を使って表面を舐め、先端を吸う。
下半身の濡れて温かく締めつけられる感触は何度経験してもたまらない。
いつのまにかオレたちはフェラのテクニックを身につけた。
教師も教科書もなくても、気持ち良くなって欲しい、と思えば誰でも身につく技術かもしれない。
だけど、コレをする度に、こんな恥ずかしいことは本当に好きな相手でなければ出来ないと思う。

つまりオレは、自分が紺野を好きなことなんか、本当はずっと前から自覚していたんだ。
「あ…ッ、紺野、も…やめ…て…。出るッ、…うっ」
先端ばかりを集中的に強く吸うようにされて先に根を上げた。
「出して。見たい、トモがアレ出すとこ」
「ば、ばかっ」
一人で先にイクのはイヤなのに、オレの弱いところを知りつくしている紺野に先端の割れ目を舌先と同時に指で弄られて、我慢出来ずに放ってしまった。
「あっ、紺野!」
繁殖以外の目的の射精。
なぜ、オレたちはこんなことをしてまで"出したい"んだろう。
そして相手に出させたい。
紺野にアレを出させたい。
自分の中で受け止めても、孕めるワケでもないのに。

「いっぱい、出たね」
仰向けに寝て、はぁはぁと肩で息をするオレの唇にチュッと軽く口づけて言う。
自分だけ余裕があるような口ぶりが癪に触る。
「…おまえも出せよ。……ただし、オレの中にな」
オレは言ってやった。
「トモ?」
紺野は不意をつかれたような驚いた目で真上からオレを見下ろした。
「紺野」
今しかなかった。
手を伸ばして、誰よりも綺麗な男の顔に触れ、オレは言った。
「おまえが好きだ」

ムカつくことに、オレの一世一代のその告白には紺野は少しも驚かなかった。
極上の笑みを見せて「とっくに、知ってた」と言った。
自信過剰な男には叶わない。
だけどオレは嬉しかった。
気持ちが届いていたことが、嬉しかったんだ。


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