日月物語~亡国公妃の美しき末路について~

芽吹鹿

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06帝都脱出

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 男はルキウス・ジークラントと名乗った。私に服を着せ、横抱きにして、じっとしてろと命じてくる。私は当初何が起きているかわからなかった。

「恥をかかせた、許せ。あのようにしなければ貴族が満足しないのだ」

 一方的な言葉を受ける。私の戸惑いにも構わず、男は宮殿のなかを我が物顔でずかずか歩いていく。まるで敬う主などいないかのように。そして夜の闇が広がった外に出たかと思うと、私は荘厳な馬車のなかに放り投げられた。

「待ってろ。皇帝陛下に話をつけてくる」

 はじめ私は、この男こそが黒幕である皇帝なのかと警戒していた。だがどうやら違ったらしい。
 私は身を震わせながら、この馬車でどこに行くつもりなのかと思考を巡らせた。監獄、処刑場、断頭台。浮かんでくる場所はどこも物騒極まりない。頭のなかは冷静ではない。

 少しの時間を車内で待つと、男と侍女が戻ってくる。せわしなさそうに私の隣には女が座った。男はどうやら馬車には乗りこまず、単騎で移動を進めるらしかった。

「エヴァ、公爵夫人の口もとを解いてやれ」

「承知しました」

 おもむろに後頭部に手を差し込まれ、そして解錠の音を聞く。私を苦しめていた口枷が外された瞬間だった。私はむせながら、自分の舌と唇が解放されたことを喜んだ。

 すぐに舌を噛みちぎろうとした。だがやめた。隣のエヴァの監視があって、思いっきりやれるかわからない。馬車の外では強そうな男も控えていることだ。下手に自暴自棄な姿を見せようものなら、また身体を縛られそうだった。

「手荒なことをしてすみませんでした。声は出せますか?」

「……は…………はい」

「よかった、安心してくださいラルカ様。我々はあなたの味方です」

 そう言われて落ち着けるほど、私は純情な人間じゃない。

「食べ物と水を用意しています。所領にたどり着くまでに、ゆっくり体に取り入れてください」

 ごとんと目の前に積まれたのは、山のような食料だった。
 柔らかい腰かけと、車輪の小刻みな揺れを感じている。窓のすき間からは涼しい風が入りこんでくる。正直にいうとそれらは非常に心地よいものだった。

 眠い。とにかく睡魔が頂点に達している。戦場で気を失ってから一睡もしていないのだ。私は快い環境が災いしているのか、睡眠をとりたくて人前でありながら意識が朦朧となっていた。積まれた食事なんて見向きもせず、女性の話に耳を傾けることもできなかった。

「ちょっ……と」

「わかりました。心行くまでお休みになってください」

 察しがよく、エヴァは掛け布団を手渡してくれる。私はひたすらに水を飲んだあとで、布をかぶって両目を閉じた。そうして半刻もしないうちに私は深すぎる眠りの旅に誘われていくのだった。
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