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Another story1 湯桃咲 編
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みなさん、こんにちは。湯桃咲と申します。女性です。
ひょんなことから後輩の女の子を好きになり、あっけなく振られてしまいました。彼女には長い付き合いの親友がいて、なんと九年間も相思相愛だったことに気づけなかったそうです。いや、好きだったことを忘れてたんだっけな? お互いに気持ちを表に出さないよう、約束していたとかなんとか。もうよくわかんないです。
彼女たちは今、とっても幸せそう。教室や廊下で見かけるたび、いつもべたべた、いちゃいちゃしてる。二人は気づいていないっぽいけど、どうやら恋人関係にあるらしいという話は既に学校中で流れています。それでも、二人の関係をけなしたり茶化したりするような言葉は一つも聞きません。ひとえに時代の流れでしょうか。女の子が好きだってこと、私も公表しちゃっていいかもしれないですね。
これからどうしましょうか。実際、ちょっと傷心気味なのです。
廊下で見かけたその二人を、つい追いかけ回してしまうくらいには。
彼女たちは今、人気のない渡り廊下にいます。お昼休みも終わりかけで、ちょうど教室に戻るところなのでしょう。
やまとちゃんは急に立ち止まって、望ちゃんに迫っています。
「ダメだよ大和、こんなところじゃ……」
「いつも散々べたべたしてくるくせに、こういうことは嫌なの? かわいい」
二人はちゅーをします。角から私が覗き見ていることも気づかずに。
「んっ……」
並べて見てみると、その体格の違いはよくわかります。やっぱりやまとちゃんの体は、女の子にしては結構がっちりしてる。唇を引き寄せるその腕の力に、望ちゃんも抵抗できていない。その華奢な腰にも手が回り、しっかりとホールドされている。やまとちゃんがやめる意志を持たない限り、このちゅーは終わらない。
手汗が滲む。思わず唾を飲む。あの花火の日から私は、ちょっとおかしなことになっている。
やまとちゃんがキスしてるところを見ると、異様に興奮してしまう。
他にも二人が手を繋いでいるところだったり、髪の毛を櫛で梳き合う些細な日常の一コマだったり。見かける度、体の内側でなにかがうずく。二人のイチャつきをもっと見せてほしいと、私の心がとどろき叫ぶ。あたまおかしい。そんなのはとっくに自分で気づいているけれど、湧き出てくる本能にはどうしたって逆らえない。
普通、好きだった人が他の人と幸せになっているところを見たら、悲しくなっちゃうものなんだと思う。実際、私もちょっとはそうなりました。
けれど、やっぱりきっかけは、あの日のあれを目撃してしまったこと。花火の下で光って見えた下着姿のやまとちゃんに、その下に敷かれていた身を委ねたような望ちゃん。思い出す度、未だに内側がきゅんとなる。そのもんもんとした気持ちを解消するために、また彼女たちを追いかけるようになる悪循環。そろそろ矯正しないとヤバい。それはわかっている。
……けど、べつに今じゃなくていいよね?
思わず下着に手を入れそうになる。しかし背後から聞こえてきた話し声ではっとして、私はようやく冷静になった。
先生だ。それと、一人の女子生徒。並んで話しながらこちらへ近づいてくる。このままだと、彼らは間違いなくやまとちゃんたちのいる渡り廊下を通るだろう。もしあんな熱烈なキスを学校内で白昼堂々やっているのがバレたらどうなる? 停学? それで済むならいいけれど、済む気がしない。私をこんなに興奮させる二人のことだから、きっと先生の頭すらおかしくさせるに違いない。
というか、普通に怒られるよね、これ。
私は反射的に動いた。やまとちゃんたちへ大袈裟に手を振りながら、声を上げる。
「ひ、ひさしぶり~、やまとちゃ~~~ん!!」
特段久しぶりでもないけれど、なぜかそういう言葉が出た。彼女たちは突然のことに体をビクつかせ、私の方を見る。
「さ、さきせんぱい?」
やまとちゃんは、きょとんとした顔で私を見ている。
「次の日曜にさ、ちょうど相談したいことがあって! 空いてたらでいいんだけど、話聞いてくれないかな~、なんて……」
適当に話を広げているうちに、先生と一人の生徒は私たちの横を通り過ぎていく。これで一安心だ。ふう、と私は息を吐き、会話を作ることをやめる。
「……もしかして、見てました?」
やまとちゃんは言う。
私は視線を逸らし、ごまかしながら。
「……てへ」
そう取り繕う。
望ちゃんの気は膨れ上がり、収まらないようだった。
「最低!」
そう私に言い捨て、自身の胸を隠す。
「ちょっと望、ぜんぶ私が悪いんだから……」
やまとちゃんは言って、私に向かってお辞儀をする。「すみません先輩、助けてくれてありがとうございます」
私が覗きをしたのは事実なわけだし、そこまでしなくたっていいのに。心が痛んだ。
「それで、相談したいことって……」
「あー、うん。別に日曜を使う必要もないんだけどさ」
先生の目を逃れるために即興で会話を作った私だけれど、その内容は完全に嘘というわけではない。かねてから二人に相談したいことは、確かに私の中にあった。
私は一呼吸置いて言う。
「こ、恋人って、どうやったらできるかな?」
私がどもりながら言ったのがいけなかったのか。望ちゃんは私を鋭く睨みながら、やまとちゃんの腕を強く抱きしめる。
「ち、ちがうちがう! やまとちゃんを狙ってるわけじゃないから、安心して!」
「……本当に?」
「ほんとほんと!」
「ふーん……」
望ちゃんの顔は、未だ懐疑的。でも、仕方ないよね。ちょっと前までやまとちゃんを取り合ってた者同士なわけだし、責められないよ。
「私も望以外恋人ってできたことないですし、偉そうな口は聞けないんですけど。でも、どうして急に?」
「だってさー。私も、ちょっとさみしくて」
やまとちゃんの言葉に返す。やまとちゃんが望ちゃんと結ばれて、恋のライバルっぽく傷心したのは事実。二人の関係はいつまでも続いてほしいと願っているけれど、なんてったってさみしい。二人を見て興奮している自分自身を見ていると、相当ヤバい奴だと思えてむなしくなってくる。
望ちゃんはやまとちゃんの後ろに隠れながら、なにやらぶつくさと言う。
「私には見える。大和が優しすぎるせいで、ちょっとくらいならいいかなって寂しさに付き合ってたはずがいつの間にかずるずる服まで脱がされてて、私の顔が過って抵抗しようかとも迷うけど目の前の寂しそうな顔のリアリティに想像の私は結局勝てなくて、始まってしまったことに対して真剣には向き合えないけど、体は快感に正直で、いつしか私のことも忘れてその豊満な肉体にずるずると取り込まれていく未来……いやだーーー!! 想像してるだけで泣けてきたよーーー!!!」
「ば、馬鹿なこと言わないで!」
謎のやり取りに、私は苦笑いする。やまとちゃんははっとして私を見る。
「す、すみません。えーっと、さみしいっていうのは。友だちと遊ぶとか、親となにかするとかじゃ発散できないものなんですか?」
「なんかちがうよねぇ。この原理は、ちょっと言葉じゃ説明しづらいんだけど」
恋ってなんなのだろう。どうして女の子はさみしくなってしまうのだろう。実際、言葉で表すのは難しい。
やまとちゃんはさらに言う。
「正直なところ、男の子でも女の子でも、咲先輩ならすぐできそうな気がしますけど」
「うーん、無闇やたらにってのもちょっとねぇ。わがままなのはわかってるんだけど、二人を見てるとロマンスを求めたくなってくるんだよ……わかる?」
「なんとなく」
会話を続けていると、今度は望ちゃんが反応する。やまとちゃんの背中から、私を覗き込むようにして言う。
「あの人でいいじゃん。小夜先輩」
「小夜ちゃん?」
確かに、彼女ならば赤の他人ではない。友だちから恋人になったというロマンスも、一応作れはする。
「望、適当言ってない? 会話終わらせたいのが見え見え」
「早く授業の準備したいだけだもーん」
二人が会話をしているうちに、私は考えた。望ちゃんが出してくれた意見を元にした、最高の案。
私はこう見えてもちょっとだけ頭がいい。定期テストでは中学から学年一位しか取ったことがないし、この前の中間テストだってそうだった。そのちょっとだけ勉強ができる、ちょっとだけ出来の良い頭がひねり出してくれたその案は、実に私の欲求に基づいている。
「いや。意外とありかも」
「え?」
「ちょっと、お願いしてみるね!」
「ま、まじですか!?」
やまとちゃんの驚く声を背中に聞きながら、私は教室へと戻っていく。まさか本気で捉えられるとは思っていなかったのか、望ちゃんもきょとんとした顔で私を見送っていた。
ひょんなことから後輩の女の子を好きになり、あっけなく振られてしまいました。彼女には長い付き合いの親友がいて、なんと九年間も相思相愛だったことに気づけなかったそうです。いや、好きだったことを忘れてたんだっけな? お互いに気持ちを表に出さないよう、約束していたとかなんとか。もうよくわかんないです。
彼女たちは今、とっても幸せそう。教室や廊下で見かけるたび、いつもべたべた、いちゃいちゃしてる。二人は気づいていないっぽいけど、どうやら恋人関係にあるらしいという話は既に学校中で流れています。それでも、二人の関係をけなしたり茶化したりするような言葉は一つも聞きません。ひとえに時代の流れでしょうか。女の子が好きだってこと、私も公表しちゃっていいかもしれないですね。
これからどうしましょうか。実際、ちょっと傷心気味なのです。
廊下で見かけたその二人を、つい追いかけ回してしまうくらいには。
彼女たちは今、人気のない渡り廊下にいます。お昼休みも終わりかけで、ちょうど教室に戻るところなのでしょう。
やまとちゃんは急に立ち止まって、望ちゃんに迫っています。
「ダメだよ大和、こんなところじゃ……」
「いつも散々べたべたしてくるくせに、こういうことは嫌なの? かわいい」
二人はちゅーをします。角から私が覗き見ていることも気づかずに。
「んっ……」
並べて見てみると、その体格の違いはよくわかります。やっぱりやまとちゃんの体は、女の子にしては結構がっちりしてる。唇を引き寄せるその腕の力に、望ちゃんも抵抗できていない。その華奢な腰にも手が回り、しっかりとホールドされている。やまとちゃんがやめる意志を持たない限り、このちゅーは終わらない。
手汗が滲む。思わず唾を飲む。あの花火の日から私は、ちょっとおかしなことになっている。
やまとちゃんがキスしてるところを見ると、異様に興奮してしまう。
他にも二人が手を繋いでいるところだったり、髪の毛を櫛で梳き合う些細な日常の一コマだったり。見かける度、体の内側でなにかがうずく。二人のイチャつきをもっと見せてほしいと、私の心がとどろき叫ぶ。あたまおかしい。そんなのはとっくに自分で気づいているけれど、湧き出てくる本能にはどうしたって逆らえない。
普通、好きだった人が他の人と幸せになっているところを見たら、悲しくなっちゃうものなんだと思う。実際、私もちょっとはそうなりました。
けれど、やっぱりきっかけは、あの日のあれを目撃してしまったこと。花火の下で光って見えた下着姿のやまとちゃんに、その下に敷かれていた身を委ねたような望ちゃん。思い出す度、未だに内側がきゅんとなる。そのもんもんとした気持ちを解消するために、また彼女たちを追いかけるようになる悪循環。そろそろ矯正しないとヤバい。それはわかっている。
……けど、べつに今じゃなくていいよね?
思わず下着に手を入れそうになる。しかし背後から聞こえてきた話し声ではっとして、私はようやく冷静になった。
先生だ。それと、一人の女子生徒。並んで話しながらこちらへ近づいてくる。このままだと、彼らは間違いなくやまとちゃんたちのいる渡り廊下を通るだろう。もしあんな熱烈なキスを学校内で白昼堂々やっているのがバレたらどうなる? 停学? それで済むならいいけれど、済む気がしない。私をこんなに興奮させる二人のことだから、きっと先生の頭すらおかしくさせるに違いない。
というか、普通に怒られるよね、これ。
私は反射的に動いた。やまとちゃんたちへ大袈裟に手を振りながら、声を上げる。
「ひ、ひさしぶり~、やまとちゃ~~~ん!!」
特段久しぶりでもないけれど、なぜかそういう言葉が出た。彼女たちは突然のことに体をビクつかせ、私の方を見る。
「さ、さきせんぱい?」
やまとちゃんは、きょとんとした顔で私を見ている。
「次の日曜にさ、ちょうど相談したいことがあって! 空いてたらでいいんだけど、話聞いてくれないかな~、なんて……」
適当に話を広げているうちに、先生と一人の生徒は私たちの横を通り過ぎていく。これで一安心だ。ふう、と私は息を吐き、会話を作ることをやめる。
「……もしかして、見てました?」
やまとちゃんは言う。
私は視線を逸らし、ごまかしながら。
「……てへ」
そう取り繕う。
望ちゃんの気は膨れ上がり、収まらないようだった。
「最低!」
そう私に言い捨て、自身の胸を隠す。
「ちょっと望、ぜんぶ私が悪いんだから……」
やまとちゃんは言って、私に向かってお辞儀をする。「すみません先輩、助けてくれてありがとうございます」
私が覗きをしたのは事実なわけだし、そこまでしなくたっていいのに。心が痛んだ。
「それで、相談したいことって……」
「あー、うん。別に日曜を使う必要もないんだけどさ」
先生の目を逃れるために即興で会話を作った私だけれど、その内容は完全に嘘というわけではない。かねてから二人に相談したいことは、確かに私の中にあった。
私は一呼吸置いて言う。
「こ、恋人って、どうやったらできるかな?」
私がどもりながら言ったのがいけなかったのか。望ちゃんは私を鋭く睨みながら、やまとちゃんの腕を強く抱きしめる。
「ち、ちがうちがう! やまとちゃんを狙ってるわけじゃないから、安心して!」
「……本当に?」
「ほんとほんと!」
「ふーん……」
望ちゃんの顔は、未だ懐疑的。でも、仕方ないよね。ちょっと前までやまとちゃんを取り合ってた者同士なわけだし、責められないよ。
「私も望以外恋人ってできたことないですし、偉そうな口は聞けないんですけど。でも、どうして急に?」
「だってさー。私も、ちょっとさみしくて」
やまとちゃんの言葉に返す。やまとちゃんが望ちゃんと結ばれて、恋のライバルっぽく傷心したのは事実。二人の関係はいつまでも続いてほしいと願っているけれど、なんてったってさみしい。二人を見て興奮している自分自身を見ていると、相当ヤバい奴だと思えてむなしくなってくる。
望ちゃんはやまとちゃんの後ろに隠れながら、なにやらぶつくさと言う。
「私には見える。大和が優しすぎるせいで、ちょっとくらいならいいかなって寂しさに付き合ってたはずがいつの間にかずるずる服まで脱がされてて、私の顔が過って抵抗しようかとも迷うけど目の前の寂しそうな顔のリアリティに想像の私は結局勝てなくて、始まってしまったことに対して真剣には向き合えないけど、体は快感に正直で、いつしか私のことも忘れてその豊満な肉体にずるずると取り込まれていく未来……いやだーーー!! 想像してるだけで泣けてきたよーーー!!!」
「ば、馬鹿なこと言わないで!」
謎のやり取りに、私は苦笑いする。やまとちゃんははっとして私を見る。
「す、すみません。えーっと、さみしいっていうのは。友だちと遊ぶとか、親となにかするとかじゃ発散できないものなんですか?」
「なんかちがうよねぇ。この原理は、ちょっと言葉じゃ説明しづらいんだけど」
恋ってなんなのだろう。どうして女の子はさみしくなってしまうのだろう。実際、言葉で表すのは難しい。
やまとちゃんはさらに言う。
「正直なところ、男の子でも女の子でも、咲先輩ならすぐできそうな気がしますけど」
「うーん、無闇やたらにってのもちょっとねぇ。わがままなのはわかってるんだけど、二人を見てるとロマンスを求めたくなってくるんだよ……わかる?」
「なんとなく」
会話を続けていると、今度は望ちゃんが反応する。やまとちゃんの背中から、私を覗き込むようにして言う。
「あの人でいいじゃん。小夜先輩」
「小夜ちゃん?」
確かに、彼女ならば赤の他人ではない。友だちから恋人になったというロマンスも、一応作れはする。
「望、適当言ってない? 会話終わらせたいのが見え見え」
「早く授業の準備したいだけだもーん」
二人が会話をしているうちに、私は考えた。望ちゃんが出してくれた意見を元にした、最高の案。
私はこう見えてもちょっとだけ頭がいい。定期テストでは中学から学年一位しか取ったことがないし、この前の中間テストだってそうだった。そのちょっとだけ勉強ができる、ちょっとだけ出来の良い頭がひねり出してくれたその案は、実に私の欲求に基づいている。
「いや。意外とありかも」
「え?」
「ちょっと、お願いしてみるね!」
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