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Another story1 湯桃咲 編
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そうして私は、放課後に吹奏楽部室へと向かう。小夜ちゃんの部室入りはいつも早い。まさに全国一位を取る部活の部長をその身で体現している。部員たちの中でも、なんだかひときわ堂々として輝いているように見える。髪型のせいもあるのかな? 蛍光灯の明かりを反射する綺麗な黒髪ロング。私は高校に入ってからずっと金色に染めているけれど、ああいうスタイルも憧れる。でも私は彼女みたいにクールな雰囲気を醸し出せないから、結局合わないような気もするけれど。
既に部室入りしている他の部員たちが楽器を出し始めている中、申し訳ないとは思ったけれど、一分でも話せればいい。そういう思いで、私は小夜ちゃんを呼び出す。
「恋人の練習か?」
もろもろの説明をしたのち、小夜ちゃんは私に聞き返す。
「うん! 小夜ちゃんにやってほしいんだけど、お願いできる?」
「そういうことは、男の子にお願いした方が良いんじゃないか?」
「もうっ。多様性の時代なんだから、性別なんて関係ないの! それに、小夜ちゃんならぴったり。背も高くてかっこいいし」
「まあ、悪い気はしないが」
小夜ちゃんは照れ隠しをするように、その顎に手を当てて考える。
「今年は最後のコンクールがあるのでな。遊んでるわけにもいかんのだ」
「でも、休みがまったくないわけじゃないでしょ?」
「うむ。週に一度は必ず休日を設けるようにしている」
「お願い! お金はぜんぶ私が出すから、今度デートさせて!」
こんなことを頼めるのは、今のところ彼女しかいない。同じ学年で私の女の子好きを知っている唯一の人間で、イズニーや勉強会を共にした仲間だ。
私が拝むように手を合わせひたすら祈っていると、彼女はとうとう折れてくれる。
「まあ、そこまで言うなら……」
「ありがとうー!」
その手を握りしめ、お礼をいう。忙しい時期の貴重な時間を借りるのだから、絶対にがっかりはさせない。
それにその表情を見ていると、彼女も嫌々というわけではなさそうだし。もしかすると、本当に恋人同士になっちゃうかも?
なんて冗談を思い浮かべながら、私はるんるんでイラスト部の部室に向かった。経過を報告して、恋愛の先輩であるやまとちゃんにアドバイスをもらおう。お返しに、勉強やイラストについての質問ならなんだって答えてあげる、と思いながら。
休日を迎えて。
私と小夜ちゃんは、駅前で待ち合わせをした。前にイズニーのときにも使った、私たちの通う高校の最寄り駅。この辺じゃ一番都会だし、私と小夜ちゃんの実家は駅からお互いに逆方向を行くので、なおさら都合が良い。
彼女は前と同じく、集合時間ぴったりに駅併設のコンビニ前へとやってくる。
「お待たせ」
そして、驚かされる。その服装は、イズニーにみんなで行ったときとまったく同じ。白Tシャツに短パンで、おしゃれの欠片も見えない。制服を着ているときの彼女はキリッとしていてクールな雰囲気が満載なのに、これではあまりにもったいない。
「小夜ちゃん、十八歳にもなってまだそんな格好なの? もうせーじんだよ、せーじん!」
「む。今まで遊ぶ相手もいなかったのだから、仕方ないだろう。それに私はまだ十七歳……」
「早く行こ! これじゃもったいないよ!」
私は彼女の手を引き、早急に電車へと乗り込む。確かに最近はどんどん暑くなってきて薄着したい気持ちもわかるけれど、彼女へ向けられる視線はもっと羨望のそれでなければならない。服装ひとつでその視線が変わってしまうだなんて、仲間の私には許せない。
私たちは電車を乗り継ぎ、さらに都心の方へとやってくる。最初に寄るのは、昔母がよく連れて行ってくれた有名なアパレルショップ。今はクラスの友だちとしか来ないけれど、謙虚で威張らない、しかし安すぎないファッションを母は裕福に育った私に年月をかけて教えてくれた。
店の中で小夜ちゃんを連れ回して、いくつか服を重ね合わせてみる。カジュアルな方が好みかもしれないとも思って、今の服装によく似たTシャツもいくつか合わせてみた。私の好みもあるけれど、その中でも桃色のそれにはやはり注目してしまう。実際に小夜ちゃんの体に合わせてみると、思った以上によく似合った。髪にカールを巻かせて、サングラスにブラウンのロングスカートなんて合わせたら、色の相性も良くていっそうおしゃれになるかもしれない。
「かわいー! 小夜ちゃんどう思う? こういう色好き?」
「うーむ、よくわからん」
小夜ちゃんは言うけれど、きっと私の目は間違っていない。今日使うぶんのお金は、いちおう私がネット上にイラストを上げて自分で稼いだもの。生活はまだ親に頼っているから本当の意味で自分のお金とは言えないけれど、こういうときに使う分にはきっと許される。
そういう気概で、私は小夜ちゃんに買ってあげる服を次々に選んでいく。
「これは? ちょっと派手すぎるかな。小夜ちゃんはシックな感じで、クール系に染めた方が似合うと思うんだよね。どう思う?」
「う、うむ……」
私が服を合わせるたび、小夜ちゃんはなんだか恥ずかしそうにする。もしかすると、申し訳ないとかも思っているのかもしれない。付き合わせているのは私なわけだし、なにも遠慮する必要ないのに。
店を出るときに小夜ちゃんは、既に新たなコーデに生まれ変わっていた。今日は冒険の意味もかねて試しに髪型をアップに結び、青と水色の爽やかなワンピースを着せてみた。
可愛い。超カワイイ。例えるなら、まるでイズニープリンセスみたい。普段トレーニングをしていてスタイル抜群だからこそ、腰のくびれがはっきりと表れるこのワンピースがなんとも映えている。
街を歩くあいだ、小夜ちゃんはずっとそわそわしている。自身を表す服の方向性がいきなり百八十度も変わったのだから、無理もない。
私たちは買った荷物を時間制のコインロッカーへと入れる。ここの荷物は、執事の人たちが後で回収しに来てくれる手はずになっている。
「次、どんどん行こう!」
私は小夜ちゃんの手首をつかんで、つい小走りで連れ回してしまう。
「湯桃、動きにくいぞ、この服……せめて靴ぐらいは、前のに戻せないか?」
「そーゆーもんだよ、女の子の服ってのは!」
せっかくこんなに可愛いのに、すぐ着替えるだなんてもったいない。せめて次のデート地まではこのままでいてもらわないと。
なにより、恥ずかしがってる小夜ちゃんはすごく新鮮だし。ちょっと可愛そうなところもあるけれど、小夜ちゃんなら許してくれるだろうっていう信用もあった。
そして、やっぱり初デートに欠かせないのは、遊園地だよね!
既に部室入りしている他の部員たちが楽器を出し始めている中、申し訳ないとは思ったけれど、一分でも話せればいい。そういう思いで、私は小夜ちゃんを呼び出す。
「恋人の練習か?」
もろもろの説明をしたのち、小夜ちゃんは私に聞き返す。
「うん! 小夜ちゃんにやってほしいんだけど、お願いできる?」
「そういうことは、男の子にお願いした方が良いんじゃないか?」
「もうっ。多様性の時代なんだから、性別なんて関係ないの! それに、小夜ちゃんならぴったり。背も高くてかっこいいし」
「まあ、悪い気はしないが」
小夜ちゃんは照れ隠しをするように、その顎に手を当てて考える。
「今年は最後のコンクールがあるのでな。遊んでるわけにもいかんのだ」
「でも、休みがまったくないわけじゃないでしょ?」
「うむ。週に一度は必ず休日を設けるようにしている」
「お願い! お金はぜんぶ私が出すから、今度デートさせて!」
こんなことを頼めるのは、今のところ彼女しかいない。同じ学年で私の女の子好きを知っている唯一の人間で、イズニーや勉強会を共にした仲間だ。
私が拝むように手を合わせひたすら祈っていると、彼女はとうとう折れてくれる。
「まあ、そこまで言うなら……」
「ありがとうー!」
その手を握りしめ、お礼をいう。忙しい時期の貴重な時間を借りるのだから、絶対にがっかりはさせない。
それにその表情を見ていると、彼女も嫌々というわけではなさそうだし。もしかすると、本当に恋人同士になっちゃうかも?
なんて冗談を思い浮かべながら、私はるんるんでイラスト部の部室に向かった。経過を報告して、恋愛の先輩であるやまとちゃんにアドバイスをもらおう。お返しに、勉強やイラストについての質問ならなんだって答えてあげる、と思いながら。
休日を迎えて。
私と小夜ちゃんは、駅前で待ち合わせをした。前にイズニーのときにも使った、私たちの通う高校の最寄り駅。この辺じゃ一番都会だし、私と小夜ちゃんの実家は駅からお互いに逆方向を行くので、なおさら都合が良い。
彼女は前と同じく、集合時間ぴったりに駅併設のコンビニ前へとやってくる。
「お待たせ」
そして、驚かされる。その服装は、イズニーにみんなで行ったときとまったく同じ。白Tシャツに短パンで、おしゃれの欠片も見えない。制服を着ているときの彼女はキリッとしていてクールな雰囲気が満載なのに、これではあまりにもったいない。
「小夜ちゃん、十八歳にもなってまだそんな格好なの? もうせーじんだよ、せーじん!」
「む。今まで遊ぶ相手もいなかったのだから、仕方ないだろう。それに私はまだ十七歳……」
「早く行こ! これじゃもったいないよ!」
私は彼女の手を引き、早急に電車へと乗り込む。確かに最近はどんどん暑くなってきて薄着したい気持ちもわかるけれど、彼女へ向けられる視線はもっと羨望のそれでなければならない。服装ひとつでその視線が変わってしまうだなんて、仲間の私には許せない。
私たちは電車を乗り継ぎ、さらに都心の方へとやってくる。最初に寄るのは、昔母がよく連れて行ってくれた有名なアパレルショップ。今はクラスの友だちとしか来ないけれど、謙虚で威張らない、しかし安すぎないファッションを母は裕福に育った私に年月をかけて教えてくれた。
店の中で小夜ちゃんを連れ回して、いくつか服を重ね合わせてみる。カジュアルな方が好みかもしれないとも思って、今の服装によく似たTシャツもいくつか合わせてみた。私の好みもあるけれど、その中でも桃色のそれにはやはり注目してしまう。実際に小夜ちゃんの体に合わせてみると、思った以上によく似合った。髪にカールを巻かせて、サングラスにブラウンのロングスカートなんて合わせたら、色の相性も良くていっそうおしゃれになるかもしれない。
「かわいー! 小夜ちゃんどう思う? こういう色好き?」
「うーむ、よくわからん」
小夜ちゃんは言うけれど、きっと私の目は間違っていない。今日使うぶんのお金は、いちおう私がネット上にイラストを上げて自分で稼いだもの。生活はまだ親に頼っているから本当の意味で自分のお金とは言えないけれど、こういうときに使う分にはきっと許される。
そういう気概で、私は小夜ちゃんに買ってあげる服を次々に選んでいく。
「これは? ちょっと派手すぎるかな。小夜ちゃんはシックな感じで、クール系に染めた方が似合うと思うんだよね。どう思う?」
「う、うむ……」
私が服を合わせるたび、小夜ちゃんはなんだか恥ずかしそうにする。もしかすると、申し訳ないとかも思っているのかもしれない。付き合わせているのは私なわけだし、なにも遠慮する必要ないのに。
店を出るときに小夜ちゃんは、既に新たなコーデに生まれ変わっていた。今日は冒険の意味もかねて試しに髪型をアップに結び、青と水色の爽やかなワンピースを着せてみた。
可愛い。超カワイイ。例えるなら、まるでイズニープリンセスみたい。普段トレーニングをしていてスタイル抜群だからこそ、腰のくびれがはっきりと表れるこのワンピースがなんとも映えている。
街を歩くあいだ、小夜ちゃんはずっとそわそわしている。自身を表す服の方向性がいきなり百八十度も変わったのだから、無理もない。
私たちは買った荷物を時間制のコインロッカーへと入れる。ここの荷物は、執事の人たちが後で回収しに来てくれる手はずになっている。
「次、どんどん行こう!」
私は小夜ちゃんの手首をつかんで、つい小走りで連れ回してしまう。
「湯桃、動きにくいぞ、この服……せめて靴ぐらいは、前のに戻せないか?」
「そーゆーもんだよ、女の子の服ってのは!」
せっかくこんなに可愛いのに、すぐ着替えるだなんてもったいない。せめて次のデート地まではこのままでいてもらわないと。
なにより、恥ずかしがってる小夜ちゃんはすごく新鮮だし。ちょっと可愛そうなところもあるけれど、小夜ちゃんなら許してくれるだろうっていう信用もあった。
そして、やっぱり初デートに欠かせないのは、遊園地だよね!
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